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第03話:交渉2

人生をかけた仕事をもちかけられ、動揺する杉山。

とりあえず眠りにつきましたが、話は始まったばかりです。

 …夢を見ていた。

 ヤクザにボコボコにされ、ドラム缶に閉じ込められて海に放り出される夢で、海水が入ってきて息ができなくなったところで目が覚めた。腕時計はなぜか止まっていて時間がわからない。壁の中に入るって時点で普通じゃないから、時計がどうなっていても今さら驚かない。異常事態のはずなのに、不思議なほどあっさり理解できた。

 ベッドから起き上がり、キッチンに戻ると、きのう?の女がいた。女は緑のワンピースで落ち着き払った表情でキッチンで朝食を作っていた。

「おはようございます。どうです? 少しは落ち着きましたか?」

「あ、ああ…」

「朝ごはんにしましょう。パンだけど、我慢してね。コーヒーでいいですか?」

少し待って、食事が出てきた。メニューは、卵焼きが乗ったトーストとコーヒー、プチトマト。ずっと逃げ回っていた何日かに比べれば天地の差のような落ち着いた時間だ。たいらげたあと、女は、コーヒーをもう1杯差し出した。丁寧な口調になっていることなど全然気がつかなかった。

「さて、食事中ですが、きのうの続きを始めます。まずは、あなたの返事が聞かせてください。話の続きを聞く気があるのか、YESかNOか。」

「…YESだ」

 落ち着いて冷静に考えたつもりだ。夢が現実になるかもしれない恐怖もあっただろうが、とにかく話を聞くだけなら損は無い、時間を稼げるのは確かだと考えた。このままでは、またいつか捕まる。少なくともここにいる限りは借金取りに追われることは無いみたいだから、聞くだけ聞いてみようという気になった。パンとプチトマトをときどき口にほおばりながら話を聞く。

「わかりました。話の続きをしましょう。そうそう、私の名前を言っていませんでした。私は"エリス"です。よろしくお願いします。」エリスは間髪入れずに話を続ける。

「仕事の内容は、"アナザーズ(Anothers)"のゲームキャラクターになることです。」

Anothers。数あるオンラインゲームの中のひとつだ。他のゲームにはないリアルな生活感で人気がある。RMT(リアルマネートレード)を採用し、各企業の商品を現実に購入したり、自分が操作するキャラクターに装着したりできる。システムで動いているはずのNPCに多彩な個性を持たせていることで独自性を出している。プレイヤーのことを覚えていたり、同じ内容を2度は喋らなかったり、別々のイベントで同じキャラに話しかけて情報をもらえたりすることもある。その結果、一つの動作でも先の読めないゲームとなったが、そこがゲームの難易度と人気度を上げる結果になっている。「ここにも、あなたがいる」というのは、2年ほど前のキャッチフレーズだ。

 俺はこのゲームにどっぷりハマって、強めの戦士をずっと育てているし、少しだが商売もしている。

食べるスピードは極端に落ち、エリスの話に聞き入っていた。

「繰り返しますが、あなたには、ゲームの1キャラになっていただきます。ゲーム内では、冒険をしても、仕事をしても、歩いているだけでも、部屋にとじこもりきりでも構いません。住む所はゲーム上に用意します。」

「なるほど。いろんなキャラがいると思ったが、アルバイトを雇って動かさせていたのか。」

「鋭いけど、あなたが思っているのとは少し違います。あなたには、キャラそのものになってもらいます。昨日、すべてを捨ててもらうといったのは、体も捨ててもらうということです。あなたは、ゲーム内に住んで、ゲーム内で新しい人生を歩んでもらいます。あなたの体から魂と心だけを抜き出して、デジタルのキャラに挿入することで、あなた自身がキャラクターになれます。私たちの間では"リアル・プレイヤー・キャラ"、略して"RPC"と呼んでいます。」

「そんなことができるのか? 信じられない…。」

「信じられないのは当然ですね。でも信じてもらうしかありません。あなたが今お使いの戦士キャラの能力は、新しい体に引き継ぐこともできます。なお、キャラクターはこちらで用意します。その体は…」

 エリスはそこで一息入れて、とんでもないことを口にした。

「必ず女の子のキャラになるのです。」


…は?


アナザーズは、セカンドライフの進化形をイメージしてもらえればいいと思います。こんなゲームがあったらな、というのがこの話の始まりです。

交渉は次話まで続きます。

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