第26話:完全移行
【今回に限り、エッチなシーンが出てきます。ご注意を。】
ついに満の処置が終焉を迎えます。
俺が次に目覚めたのは、ベッドの上だった。
寝たまま辺りを見回す。枕と逆側に窓があり、左側にそして全身が映る大きな鏡が1つと、ドアがある。広さは8畳くらいだ。
鏡は壁のほうを向いていて、自分の姿は見られなかった。
とりあえず手足は動かせるが、100%思うようには動かせない。全体的に重く、手を上げるだけでも結構な労力を使う。
なんとか起き上がってベッドの横で座ると、エリスがやってきた。
「エリス……」その表情は今まで見た中で一番悲しそうだった。
「これから、完全移行を行います。」エリスの声は沈んでいた。明らかに辛そうだ。それでいて、自分の仕事に徹しようとする気迫も見て取れた。
「まず、あなたの身体をもう一度よく確認してください。鏡をこちらに向けますね。」そういって、エリスは鏡を俺のほうに向けた。
俺は自分の姿を、みすずになった自分を確認し、そのまま立ち上がり、鏡の前に1歩近づいた。
これが、俺が心の中で描いていたイメージらしい。鏡の中の少女は俺の動作に合わせて動く。笑えば笑う、手なら手、足なら足が動く。
試しに腕を後ろに回して1回転してみた。ワンピースの裾がふわっと広がり、エプロンも回転にあわせて揺れた。が、1回転しないうちに足がもつれた。
「現在、あなたは仮移行の状態でその体を操っています。一部体がうまく機能していないと思います。その体を完全にあなたのものにするために、そして、あなたのこれからの生活をあるべきものにするために、完全移行を行います。担当者が来ますので、その方に従ってください。これが最後ですから、がんばって。」
そういうと、エリスはドアを開けて出て行った。
このあと何をするのか、このときは想像がつかなかった。予想できたはずなのに……。
数分して、「コンコン」とノックの音がしたあと、男が入ってきた。入ってきたのは……俺だった。
正確には、俺……だった体だ。パンツいっちょうという状態だ。
「お、お前は誰だ?」澄んだ声を精一杯低い声で強がってみたが、自分で自分の声を聴いても迫力がないと思った。
「たしかに、その声ですごんでも怖くないな」”俺”が低い声で挑発ぎみに返した。なんなんだこいつは。
「俺か? 俺は、お前さ。」俺だっていうのか? ……そういえば、口に出していないのに、 どうして会話ができてるんだ?
「お前の心を読んでいるんだ。今言っただろ。俺はお前だって。」
「ど、どういうことだ?」
「正確には、お前が体を出る時に残した意識の片割れだ。だから、俺はお前でもある。だからこそ、お前の考えていることがわかるんだ。」
そういって、”俺”は俺の近くに寄ってきて肩に手を乗せた。
「な、なにを……」少し怖くなった。なぜだかわからない。
「これから、完全移行を行う。」どきりとした。
「何をするんだ?」
「俺のすべてをお前に与えるんだ。そうすることで、完全移行が完了する。」
それを聞いたとき、やっと夢の出来事を思い出し、これからの展開が想像できてしまった。
「どうやらわかったようだな。この状態で、男と女だ。やることは1つだ。」
「そ……そんな……いやだ……いやだ!……」俺が戸惑っている間に、”俺”は俺の唇を奪った。
“俺”はまったく落ち着いたそぶりだが、俺のほうは興奮しきりだ。しかし、こんなのは序章に過ぎなかった。
唇を奪われたあと、俺の胸に”俺”の固い腕が伸びる。ほどこうとするが、手がうまく機能しない。いつのまにか部屋が広くなっており、その隅にエリスの姿が見える。エリスはとても悲しそうに俺のほうを見ている。俺を助けるつもりではないとひと目でわかった。自分自身のために、見届けようとしている表情だった。表情は悲しそうだが、目ははっきりこっちを向いていたからだ。
俺は”俺”が望むがままに体を許した。服を脱ぎ、下着を脱ぎ、お互い生まれた姿のまま、抱き合った。
たくましい胸が俺の目の前にあり、顔を埋める。一定のリズムで奏でられる鼓動。男の匂い。なんだか落ち着く。
見上げると”俺”の顔が見える。髭を生やしたダンディな顔立ちだ。鏡で自分の顔を見ていた頃は何にも感じなかったのに。
“俺”は俺の体に本気で触れ始めた。顔、胸、そして……。
その感覚は炎が燃え上がるように、しかし引くこともなく、どんどん高みに上っていく。
俺は”俺”を受け容れる覚悟ができ、それを望むようになっていた。それを知った”俺”は、俺の中へと進入してきた。
これが……。
しばらくそのままの体勢で止まっていた”俺”は動き始め、俺はその動きに合わせて体をのけぞらせた。
俺が作り替えられていく感覚が襲ってくる。俺が俺に抱かれている。俺でなくなる。俺は俺でなくなる。俺は……。
俺はその行為のうちに、うっすらと笑顔をうかべ、泣いていた。それがなぜなのかわからなかったが、とにかく笑顔と涙が続いた。
彼が最後の言葉を言ったのは、お互い腰を浮かせて抱き合っているときだった。
「俺をお前に与える。これが最初で最後だ。」あの夢の通りだ。やっぱり、正夢だったんだ。俺はこの続きを現実として進めた。
彼の腰の動きが一層激しさを増し、ついに、”俺”が俺の中のさらに奥に……注ぎ込まれた。
そのときは1分ほど続いただろうか。その間に彼の姿は少しずつ消え去っていく。その注入が終わった頃、彼の姿は見えなくなっていた。俺はあまりの感覚に体の力が全く入らなくなり、ベッドに倒れこんだ。
彼は俺とひとつになり、俺は、私になった……。
こんにちは。満。そして、さようなら……。
ということで、完全移行の処置が完了しました。
満、みすずはどうなるのでしょうか。
なお、本編はあと4話で終了の予定です。3話はエピローグに充てます。
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