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第25話:仮移行 その3

満は「アナザーズ」のキャラクターになるための"仮移行"を受けている。"仮移行"はこの話で終わりです。


ここまで長々と話を紡ぎだしてまいりました。本編の最終回まであと少しです。もしよかったら、最後まで、おつきあいください。

「……ズ、起きていたら目を開けてください。」

 俺はどうしたのか、何があったのか……。そうだ。カプセルに入って、電磁液を飲まされて、それで、吸い取られ……なにを……あ、ああ、あああっ!

「うわああああぁっ!」叫び声をあげ、寝たままの状態でカッと目を開いた。視界はまだぼやけている。発した声は今までの自分の声ではなく、もっと甲高い声だった。何かの悪夢を見た後のように、動悸が止まらなかった。

 普通は起き上がるところなのだろうが、なぜか起き上がれない。それどころか、手も足も動かない。視界がすこしずつはっきりしてきた。カプセルの上が見える。動悸はだいぶ落ち着いたが、呼吸は少し頻繁だ。そこで、気泡が出ていないことに気がついた。さっきまで水中にいたのだが、どうやら今はそこから出たらしい。カプセルは白い膜が張られていて外がよく見えない。

「ミスズ、目が覚めたようですね。どうですか。気分は。」エリスの声がカプセルに響く。

「よくわからない……」甲高いというよりは、澄んだ声に変わってきた。声はエリスより少し高い。

「仮移行が完了しました。声でお気づきかと思いますが、あなたは先ほど見ていただいたシルエットの体に移行されました。」

 つまりそれは……思ったと同時にエリスがはっきりと口にした。

「あなたは、女の子になりました。」

 とうとうなってしまった。驚きからか声が出なかった。が、なんだか実感がない。認識できるのは声だけで、体の感覚がないからだ。

「首はもう動かせると思います。まず右を見てください。」

 俺は首が左右に振れることを確認したうえで、右に向けた。

 まず目についたのは、水色の袖、肩の膨らみ、白い細線の上着だった。どうやら服を着ているらしい。その上着がエプロンだと、このときは気づかなかった。

右側、カプセルの外にもう一つカプセルが置いてある。そのカプセルは何かの液体で満たされていて、何か大きなものが沈んでいる。

 それは、俺の、正確には俺だった体だ。筋肉質で、毛深い。腹が少し出はじめているし、足は短い。でも、俺の歳にしては締まった体だ。なんだかいとおしい。

「ごらんのように、あなたはあなたの体を離れ、新しい体へ仮移行されました。これから感覚が戻り始めますが、首から下はまだ動かせません。完全に神経が繋がっていないためです。完全移行の準備が整えば、全身が動かせるようになりますので、少し待ってください。」

 エリスが言うように、体の感覚が少しずつ戻り始める。なんだか胸の辺りが拘束されている感覚がある。

 首を左に傾け、正面、もとい天井を見上げ、その首を正面に向かってわずかに傾けた。中心から左右にかけて対称的な丘ができている。今は見ることしか出来ないが、視線の先や見えない部分がどうなっているのかが想像できた。カーッと赤くなるのを感じた。恥ずかしくなって天井に向きなおした。

 5分ほど経って、エリスが話を続けた。

「感覚が戻り始めたようですね。次の段階に移る前に、あなたの新しい名前を告げておきます。あなたの新しい名前は”みすず”です。」

 自分の新しい名前を告げられた。俺の頭の中から、自分の名前にしたかった、初恋の女性の名前を読み取ったようだ。

 俺は……みすず……だ。

「認識していただけてみたいですね。これからはあなたのことを”ミツル”ではなく”みすず”と呼びます。さて、それでは今から、あなたの全身の姿を見てもらいます。これは、今あなたが抱いている感覚を、視覚とあわせて確定させるための必要な段階です。カプセルの上を鏡にしてあなたの姿を映し出しますので、あなた自身の姿を確認してください。しばらくそこで休んでいただいてから、完全移行の処置を行います。」

 頭上の白い部分だんだん透明になっていくと、俺の姿が少しずつ浮かび上がってきた。はっきりと映し出されたその姿に、声を失った。

 肩の少し下まで伸びる黒い髪、二重瞼の眼、小さな鼻と口、透き通るような白い肌。

 首から下は、ふわりとしたワンピースにエプロン姿だった。いわゆるメイド服のようだ。襟は丸襟、襟元には赤いリボンが結ばれている。その下の胸の部分はエプロンで隠れているが、それでもわずかな膨らみが見て取れる。ウエストはその上下に比べて細くなっており、いわゆる”くびれ”ができていた。

 腰から下は大きく幅広になっていて、スカートが膝下まで伸び、布は体の幅以上に広がっている。スカートの下から伸びる細い足は、白いソックスで覆われていた。全体的を見ると、歳はなつきより少し年上に見える。16歳〜17歳くらいだろうか。文字通りの美少女だった。

「ああ……これが……俺……」

 視覚で自分の姿を確認した。声の高さ、胸の感覚、服の肌触り、髪の感覚。すべての感覚がひとつになって俺の中に入ってくる。

 30越したおっさんが半分以下の歳の少女に変わる。いざなってみると、なんだか空恐ろしい。首から下がまだ動かせないが、はっきりと自分が女に、少女になったことを実感した。すると、ピーっという音がカプセルの外から響いてきた。それと同時に、急激な眠気が襲ってきた。

「次に目覚めたとき、完全移行を始めます」というエリスの言葉を最後に、俺は意識を失った。


ついに「みすず」になった満。しかし、これで終わりではありません。

次は完全移行です。


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