第20話:イレギュラー
「アナザーズ」のキャラになる契約をした杉山満は、借金が完済されたかどうか確認するために電話をする。その裏で、金融会社の松永・竹原は満を確保するべく動いていた。手がかりを得た二人は、満を探すべく策を練る。
松永たちも非現実な現実をつきつけられて少し戸惑っています。
「妙な情報だと?」
「ええ。きのう、”消えた完済人”の情報を洗い出していたんです。債権者を見失った後のことについてです。そのなかで一例だけ、生きて完済人が現れたケースがあったんです。」
「なんだと? 全員死体じゃなかったのか?」話が違ってきたことに不快感を示す竹原。
「それだけじゃありません。そいつが見つかったのが、その前に見つかった袋小路だっていうんです。」松永は興奮気味に話す。
「訳がわからないぞ。どういうことだ? 詳しく話せ。」竹原は困惑気味だ。
松永の話は次の通りだった。
その話は、ある裏金融の奥本から聞いた情報だ。
奥本は上条という債務者を追っていた。”消えた完済人”のパターンそのままに、袋小路で見失った。数日後、上条の口座から返済用の口座に借金と利子が全額振り込まれ、奥本の会社は完済を確認した。奥本も”消えた完済人”のことは聞いていて、もう生きては現れないと思っていた。ところがその日のうちに、上条から、”完済できたか確認して欲しい”と電話が来た。
奥本は、完済の旨を伝えたうえで、報酬をやるから一度会わないかと交渉した。しかし上条は拒否した。上条はわずかな可能性に賭けて袋小路付近を部下に見張らせていた。さらに数日後、奥本の部下が、上条が最後に消えた袋小路にもたれかかっているところを偶然発見した。上条は全身打撲と切り傷で瀕死の重傷だった。奥本は部下に指示して救急車で病院に搬送させたが、上条は搬送中に息絶えた。
「結果的に完済人が死んだことに変わりはありませんが、明らかに特異なケースです。」一気に話したため、松永の息は切れていた。鼻に入って咳込まないように慎重にお茶を飲み、喉をうるおす。
「普段から生きて袋小路に現れていたということはないか?」竹原の指摘に松永が反論する。
「俺の推測ですが、それはないでしょう。今回のケースなら上条にとってはリスクが高すぎます。俺たち債権者にとっては袋小路が唯一の手がかりなんです。完済したとはいえ、捕まる可能性の高い場所に自分からのこのこ現れるとは思えませんよ。」
「なるほど……たしかにそうだな。」竹原は松永の話に理解を示していた。だが、策が見当たらない。「で、どうするんだ?」と松永に聞き返す。
「もしこのケースと同じことが起きたら、説得するんです。社に来て質問に答えてくれれば報酬を出すと。今回支払った額と今まで利子として受け取った額、担保を全部返した上で、債権は放棄します。」債権放棄という言葉に竹原が反応する。
「待った待った。債権を放棄するってことか? そりゃ、俺もするのか?」
「お願いします。竹原さんの分は俺が出します。斉田のおやじさんには俺から話をつけますから。」
「いや……」少し迷う竹原。
「いや……だめだ。それじゃ俺の気がすまない。もし食いついてきたら、懸賞金の分け前を変えよう。3:7だったが4:6にしよう。」
「ありがとうございます。でも本当に大丈夫ですよ。前と変わらず、俺がこの件で欲しいのは金じゃないですからね。」
松永はあくまでも”消えた完済人”の謎を解いたことで発生する「力」を欲している。そのためなら金を使おうと考えていた。とはいえ、松永にとって百万単位の投資は正直痛い。結局、竹原が自社分を支払ってくれるという案をのむことにした。
「竹原さん。正直、債務が消えたのにその分を返すといって杉山が食いついてくるかは疑問です。ですから、一種の賭けだと思ってください。」
竹原は、最後のチャンスだと認識し、気を引き締めた。竹原が松永を認めるのは大胆な発想と行動力、そして残酷さだ。
「わかった。それじゃあ、互いに部下に申し合わせておこう。少し電話させてくれ。」
そういって竹原は携帯電話を取り出し、どこかに電話をかけた。松永は社長室を出て、部下に指示をかけた。
完済が確認できたとき、杉山満から電話があったとき、すぐに(松永・竹原に)連絡をするようにと。
なんとか現実を受け入れた二人。
次回で、杉山・松永・竹原の時間が合流します。
ところで、いつの間にか20話に到達してしまいました。遅くてもあと10話位で終了の予定です。今しばらくおつきあいください。
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(2009/04/30 すみません。残り最大5話と書きましたが、話のスピードを考慮して、10話に訂正します。)