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第02話:交渉1

結果的に難を逃れた杉山。戸惑いつつ、女の話に耳を傾けます。

 リビングに入って扉を閉めたとき、扉が消えたことには気づかなかった。女は変わらずガス台の前でお湯が沸くのを待っている。俺はテーブルのイスに腰掛けた。そのうち、いつになっても何も言わない女に苛立ちを覚えた。

「お、おい。なんで俺を助けたんだ? お、お前は誰だ? ここはどこだ?」

「あらあら。いきなりそれ? 助けてもらったのに何か言うことはないの?」

 女はあきれた口調で初めて声を発した。俺はすねた表情で言い返す。

「礼でも言ってほしいのか? 助けてくれと言った覚えはないぞ。」

「強がっちゃって。あそこであなたを放り出してもよかったんだけど?」

「う…」言い負かされた。言葉がない。


「とりあえず、少し落ち着いてちょうだい。興奮していたら話にならないから。」

 女はコンロの火を止めて、急須でお茶を淹れて差し出した。ついで、ポットと和菓子も持ってきた。俺は改めて周りを見渡す余裕ができた。緑色のフローリングにわずかに暖房のきいた部屋、他には何の音もしない静寂が支配する部屋。壁の奥にこんな部屋があったのか…。

 お茶を飲んでみる。焦って飲むのが目に見えていたのか、ちょうどいい温度だった。続けて自分でお茶のおかわりを貰った。

「…まずは礼だけ言っておこう。そしてもう一度聞く。なんで俺を助けた? お前は何者だ? ここはどこだ?」

「質問が重なったけど、まあいいわ。まず、あなたを助けた理由。あなたに話があったから。私が何者か。私は交渉人で、あなたに仕事を持ってきた。ここはどこか。ここは秘密の部屋。今はこれ以上言えないけど、今の時点であなたを借金取りに引き渡すつもりはないから安心して。」

「まず、本題に入る前に、あなたのことを確認したいの。間違っていたら教えてちょうだい。もちろん、どうやって調べたかは秘密。あなたは杉山満さん、36歳。岡山にご両親と妹さんがいる。都内に築14年の一軒家に住んでいる。奥さんと娘さん2人の4人暮らし。前職は商社の営業さん。月給は手取りで27万前後だった。闇金融2社から総額で600万借りて、返済額が2000万近くになっている。目的はパチンコと有料のオンラインゲームで、給料だけでは追いつかなくなっていた。成績不振と借金がばれて会社をクビになった。表の消費者金融の借金を、親類や同僚からお金を借りて返した。ローンをどうやって払おうか悩んでいるところを闇金融の借金取りに見つかって逃げていた。家も勝手に抵当に入れた。親類、友人とは無心して以来絶縁状態。どう?」

 女は俺の個人情報を暴露して冷ややかに笑った。

「バカにするために俺を連れ込んだのか? あんたが言ったことに間違いは無い。そんなに借金があるとは思わなかったが。」

「正確には、親類からの借金も含めて2348万円。雪ダルマ式に借金が増えるってやつよ。」

 噂には聞いていたが、ここまでだと思わなかった。俺が納得した表情を浮かべているのを見て、女は「さて、そろそろ本題に入りましょうか?」と、さっきまでの半分からかったような口調から、少しきつさが増したような口調で俺に呼びかけた。俺はお茶と和菓子をほおばって、首を縦に振った。


「端的に言うわね。あなたの借金を肩代わりしてあげる。そのかわり、あなたにはある仕事に就いてもらう。仕事の代金は別に支払われる。」

「断る。」俺はあたりまえのように一蹴した。うまい話には裏があるものだ。

「そんなうまい話、あるわけないだろう。」ダメ押しで付け加えた。女は無視しているのか、話を続ける。

「もちろん、あなたにも代償を支払ってもらう。ひとつは仕事だけど、その仕事の条件として、あなたには、今までの人生すべてを捨ててもらう。資産も、貯金も、家族も、友人も、なにもかも。あなたには新しい人生を送ってもらう。」

「…なんだと!? 」意味がわからない。

「この仕事は人生すべてを捨てられる人じゃないと任せられないの。でも、報酬は高額よ。あなた自身の借金が帳消しになるだけじゃない。親類への借金だって帳消しにしてあげる。そのうえで、あなたには新しい人生が用意される。その人生はあなたしだい。」

「そんな話、信じられると思うか? それに、人生を捨てるなんて、こちらのリスクが高すぎるんじゃないのか?」こちらの代償が大きすぎる。

「すぐには結論が出ないでしょう。とりあえず、今日はおやすみなさい。右のドアのむこうにベッドがあるから使ってちょうだい。ずっと寝てないんでしょう? 起きた頃にまたくるから、そのときに、話の続きをしましょう。受ける気がなければ、あなたを解放してあげる。お菓子も残りをどうぞ。腹が減っては戦ができないからね。じゃあ。」

女は奥のドアに消えていった。


 …静寂が訪れた。とりあえず、出された菓子とお茶をたいらげた。そしたら急に眠くなった。言われたとおりリビングの右側にあるドアを開けると、セミダブルのベッドがあった。寝るところがあるというだけで急に眠気が襲ってきた。ベッドに飛び込み、フトンにもぐりこんだ。いったいあの女は何者だ? 俺に何をさせるつもりだ? …考えるより眠気のほうが勝り、その後は何も考えられなくなった。

ここから説明に入ります。

毎度長くてすみません。

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