第12話:約束の場所へ
謎の女エリスからゲーム"アナザーズ"での仕事を依頼された満。約束の日時まであと1日を切り、いよいよ目的地直前まで到着。
満の話に戻ります。さて、無事にエリスに会えるでしょうか。
満は一時的に眠りについたが、朝までに2度も目が覚めた。
約束の日の当日、朝6時に目が覚めた。身支度はしたが、顔はそのままだ。少しでも顔をごまかすためだ。変装のために度の入っていないメガネをかけ、髪型をちょっといじった。エリスから渡された約束の場所のメモも忘れずに持った。
ホテルでは中二階にある広間で無料の朝食が振舞われている。バターロールにバター、コーヒーやオレンジジュースが振舞われる。
長丁場になることを見越して、バターロール7個とオレンジジュースをたいらげた。チェックアウトの時間になったのでホテルを出た。
約束の場所までは電車で15分、さらに歩いて10分程度のところだ。しかし、電車の中だと身動きが取れない。車内で松永たちに見つかればそれまでだ。この距離を歩こうとすると3時間くらいかかるが、仕方なく歩くことにした。道端なら逃げる余地がある。
この日は曇り空で、太陽は時たま出てくる。辺りに気を配りながらゆっくりと進み、最寄駅に着いたのは16:30を過ぎていた。指定された時間まで1時間程度だ。
駅前は昔ながらの商店街といった趣で、アーケードで覆われた商店街は600mにおよび、数店のシャッターが閉まったままになっている。
人ごみの中で、誰かがついてきている感がしてならない。強迫観念なのか、実際に追われているかどうかはわからない。木を隠すなら森の要領で、商店街を移動しながら時間を潰していた。いささか好戦的な輩が目に付いた。こちらには気づいていないようだ。
松永は竹原とともに満を追っていた。これまでの”消えた完済者”を最後に見失ったケースを検証すると、最初に見失った場所から半径5キロ以内の袋小路で見失うケースが100%だった。最初に満を見失った場所から半径5キロ以内の袋小路に監視カメラをつけた。満が現れたとの連絡が入り、竹原とともに現場に向かった。
時間は17:30になった。満は目的地まで100m程度の位置に近づいていた。すでに松永側も満もお互いに気がついている。
満が商店街の脇道から住宅地に入って10メートルも入らないうちに、松永の部下が歩きながら追いかけてきた。少しずつ詰められ始めている。満は焦り始めていた。エリスとの約束で、目的地に来ても、入口が開いて満が空間に入るまで、誰にも見られてはいけないのだ。
17:40を過ぎた。制限時間が始まった。満はここぞとばかりに脇道に入って走り出した。松永の部下は、その一人が「行け!」と掛け声をあげたところで一斉に走り出した。追っ手をまいたり、逆に突っ込んだりして包囲網を突破した。時間は少しずつ過ぎてゆく。息も絶え絶えになってきたときに、正面に松永が現れた。松永は、笑いながら満に近づいてくる。
「杉山さん、よく逃げてくれたね。手荒なことはしたくない。捕まえても殺しはしないから、おとなしく捕まってくれよ。」満は当然信用しない。
捕まっても死ぬまで働かされるだけだ。瞬間的にそう思い、また駆け出す。満は思い切って松永に突進し、その拍子で奥へと逃げ出した。時間は17:55。あと15分しかない。もう10メートルもないだろうというところで、突然エリスの声が頭の中で響いた。「今のままではゲートを開けられません。袋小路を映すカメラがどこかに仕込まれています。それをどうにかしていただかないと、ゲートを開くわけにはいきません。」
満は焦った。今ちょうど十字路にいる。袋小路に続く道の対面には誰もいない。松永もいない。左右の道は200メートルほどの一本道だ。満は直進できる場所にすでに来ていて、カメラの位置を探っていた。偶然にも、カメラが回転する小さな光が満の目に留まり、その位置を把握できた。
カメラは壁に貼り付けてあって、袋小路を中心に左右に揺れながら監視できるようになっている。満はカメラを蹴飛ばして破壊した。「カメラは確かに破壊されました。さあ、急いでください。もう時間がありません。」満は最後の力を振り絞って全速力で袋小路に向かうが、焦って十字路で足を絡ませて減速してしまった。そこを松永たちに見られ、お互いに目が合ってしまった。満は再び急いで袋小路に駆け込む。同時に、黒いシミのようなものが現れ始め、そこから手が伸びる。
「捕まって!」ふたたびエリスの声がした。満はその手に向かって飛び込み、伸びた腕を両手でがっちりつかんだ。腕は信じられない力でぐいぐいと満を空間に引きずり込む。体全部が入り込み、穴が閉じ始めた。先日この空間に入ったときと同じように、エリスの腕に抱かれた。じっとして、声をださないで、とエリスの小さな声が聞こえる。あと数センチで穴が閉じるというところで、松永と竹原の二人が袋小路にやってきた。ふたりとも袋小路の壁にある黒い点に異常性を感じた。1秒もしないうちにそれが小さくなってきていることに気がついたからだ。黒い点が完全に消える直前に、松永が懐から銃を出す。エリスは大声で「伏せなさい!」と叫び、それと同時に聞いたこともない轟音が響いた。拳銃の弾はこちらの空間に入ってきた。それと同時に、穴は完全に閉じた。
「竹原さん、見ましたか?」「ああ…信じられん。弾が…吸い込まれた。」松永は、一緒に来た竹原という男とともに驚きを隠さなかった。黒い点が小さくなっていることには二人とも気がついて、松永が発砲した。その弾は確かに黒い穴に吸い込まれた。
「竹原さん。警察が来る前に逃げましょう。」発砲音を聞いた誰かが警察に連絡しはずだ。もう長居は無用だ。
「奴は…だめか?」
「ええ…。残念ですが、おそらく。」松永はため息混じりにこたえた。
「あきらめが早いな。」「奴はあの黒いやつの先でしょう。」
「それにしても、なんなんだ? あれは。」
「わかりませんが、あれがすべての鍵であることは確かですよ。」
松永は十字路に向けて歩き出したが、竹原はまだ袋小路を見つめている。何かがおかしいと感じていた。
「竹原さん? いきますよ。」
「松永。ほとぼりがさめたらもう一度調査だ。」やはり、ここに何かあったのだ。竹原は息を呑んだ。
「わかりました。とにかく、警察が来る前に逃げましょう。お前ら、一旦散って、適当に戻ってこい!」
松永、竹原、そして部下たちは散り散りになった。
松永の銃弾は、翌日、袋小路に落ちているのを松永自身が発見した。
警察は松永たちが散会して数分で到着したが、結局何も発見できなかった。
小説っぽく、第三者視点?で書いてみました。えらく文字数を使ってしまいました。
これでも削ったのですが、話の筋に関係ない部分も大事にしたいと思っているので、結果として長くなっています。