第11話:舞子の選択 後篇
夫・満から借金と連帯保証人のことを告白され、夫に失踪された舞子。舞子は松永から満をおびきだす居力をすることにします。
これから、満の時間に近づいていきます。
最初の電話から何日かが経った。娘たちは学校に通っている。
私は外に出られずにいた。いつ夫が帰ってくるかわからないからだ。日中、松永の部下は毎日かわるがわるやってきて、家に居座る。彼らは特に何をするでもない。いわゆるヤクザのように、あぐらをかいたり、酒を飲んだり、物を壊したりということは一切しない。ソファに座って、1時間ごとに定期連絡を入れている。私は終始監視されていて、夫の帰りに関係なく、一人では外出できない。その代わり、部下の人たちが私の言うとおりの買い物をしてきてくれる。私は協力者という名目で守られているようだ。それをなんとなく認識して、やってくる部下の人に遠慮なく使いを頼む。状況に慣れてきて、終わったらお茶とお菓子くらいは出すようになった。
そんなことが続いたある日、夫から電話が来た。部下はすぐ松永に連絡し、私の携帯で満の位置を確認している。
「もしもし。……舞子か?」
「あなた、なぜ帰ってこないの? 美由もなつきも心配しているよ。」
松永の部下がいるところで、帰ってきて欲しいとせがむ。なんだか滑稽だ。
「すまん。やはり今は帰れない。」
「今どこにいるの?」
「繁華街だ。1時間もかからず帰れる。だが、追っ手がすぐそこまで来ている。」
「帰ってこられそう?」
「いや、今は無理だ。それより、言っておきたいことがある。」
彼は何かを決めているようだった。
「今まで散々迷惑かけてすまなかった。美由となつきにも。ふがいない男ですまない。」
「どうしたの?急にしおらしくなっちゃって」
「いや、こんなときだから言っておきたかった。捕まったらどうなるかわからない。捕まったら、簡単にお前たちには会えないだろうからな。」
正直、彼を売ったのがばれたのかと思った。今更なんだとも思った。
「もし今後会えなかったとしても、お前たちに危害を加えるようなことはさせないから。」
「……期待しないで待ってる。今日はふたりとも学校行ってるから。ふたりのことは心配しないで。」
「そうか。よかった。じゃあ、また。」
電話を切ろうとした彼に、私は話を続けた。まだ満に対する感情が残っていたのだ。
「うん。また。……”また”、でいいのよね? また電話してくれるのよね?」
彼は一息ついて、決意したように「……ああ。もちろんだ。”また”だ。」といって電話を切った。以降、彼からの連絡は、途絶えた。GPSも反応しなくなったそうだ。
うそつき。……でも、それは私もだ。
家に張っていた部下も出ていき、家は私一人になった。
その一人きりの大きな家で、一人で泣いた。後悔なのか、安堵なのか、よくわからないが、とにかく泣いた。泣くのはこれで最後、これからは私ががんばらないと。
満も舞子も未練があるようです。お互い後ろめたさがあるのでしょうね。
次回から、満の話に戻ります。