第10話:舞子の選択 中篇
杉山満の妻・舞子は、闇金融会社社長の松永からの電話で借金があることと連帯保証人になっていることを知る。その翌朝、満は失踪した。
申し訳ありません。中篇と後篇を間違えましたので、10話を再投稿します。
満が消えて6日ほど経った。松永と名乗る男が、部下の人を連れて我が家にやってきて、私たちを拘束した。松永は名刺をくれた。彼は「松永ファイナンス」の社長だった。松永は、取立てに来たわけではなく、取引をしたいという。電話のときとはうって変わった、おそらくは本来の口調で話し始めた。
「奥さん、旦那をおびきだして、我々に引き渡して欲しい。もし成功すれば、旦那に全額を支払わせ、連帯保証人のあんたに迷惑はかけない。この家も、旦那が借金を支払う前提で残させてもらう。」
「断ったり、結局捕まらなかったら?」
「そのときは、あんたに支払ってもらう。何をしてでもな。娘だっていいぞ。」
私は悩んだ。
提案を断れば、私が債務を引き受けることになり、娘もどうなるかわからない。提案を受け入れれば、(松永の言葉通りなら)満がどうなるかわからない。でも、家と娘、私は救われる。結果、私は提案を受け入れることにした。松永の最後の一言が決め手だった。私と満の生活よりも、娘の生活を優先したのだ。
満から電話が掛かってきた。携帯電話からだ。私は自分の携帯を松永に渡した。GPS機能が使えるかもしれない。
松永からメモで指示を仰ぎながら、満に帰ってきてくれるように彼を説得した。一応帰ってきてくれると言ってはくれた。でも、期待は薄そうだった。
「……どうですか?」松永に聞いた。
「充分だ。場所が特定できた。これから旦那を捕まえに行く。」
松永は顔は笑顔だが目が笑っていない。
「もう一度確認する。あんたたちの生活は保証する。その代わり、完済するまで旦那を働かせるから、会えるのは当分先だ。それでいいな?」
「はい。」舞子ははっきりと、決別の意味を込めて言った。
「よし。お前ら、奴を追うぞ!」そういって、家の中を占拠していた部下達は外に出て行った。1人だけは家の外に張っていた。
3人だけになった家のリビングで、美由となつきとで抱き合った。
「おかあさん。わたしたち、どうなるの? おとうさん、かえってこないの?」美由が消え入りそうな声で聞いてきた。
「……美由、ごめん。おとうさん、帰ってこないかもしれない。でも、お父さんがなんとかしてくれるから。いつもの生活に戻るためなの。我慢してちょうだい。」
私は、ひたすらに娘たちを抱きしめた。ふたりの娘を守るということを自分に言い聞かせた。夫を売ったことを後悔しないように。
中篇は選択を中心にしました。
実際にこんな2択を迫られたら、皆さんどんな判断をくだすでしょうか。
これから、満の時間に追いついていきます。