魔勇の銘
「魔王、ノストラ。貴様を倒す!」
「勇者、ブレインよ。何故、我々は争っているのだろうな」
それは、魔王城での会話だった。
「俺は、誰も傷つけず、傷つけさせないということを座右の銘にして生きているんだ!」
「それで?」
「貴様は、多くの民を傷つけた!その罪は重いぞ!」
魔王は「ふむ…」と少し考えるそぶりを見せ、少し経ってから口を開いた。
「いつ、私が、人を殺した?傷つけた?」
「ずっとだ!今も、ゴブリンやオークに襲われている人がいるかもしれない!」
「それは、私ではないだろう?」
「でも、貴様が率いているのだ!屁理屈は通用せんぞ!」
このままでは拉致があかないと察した魔王は、勇者に問う。
「では、貴様は今まで魔族を殺したことがないのか?」
「それはあるさ!ただ、人を襲う悪い魔族だ!」
「この魔王城に来るまでの魔族は人を襲っていたか?」
「そ…それは、襲ってはいなかったが、俺のことを襲ってきた!」
「剣を持った人間が自分の家に入ってきたら警戒もするし攻撃もするだろう…勝手に入った貴様が悪い。貴様は罪のない魔族を殺した」
その言葉を突きつけられた勇者が、「う…」とたじろぐ。
「で、でも、貴様の配下が罪のない民を殺していることも事実だ!」
「…では、貴様等人間は、ただ歩いていただけの魔族を、そこで暮らしていただけの魔族を、殺したことはないというのか」
「そ…それは…」
「さらに、魔族を殺せば殺すほど褒められる…我は、人間を殺した魔族を罰しているぞ」
「でも、殺したのは貴様の配下だろう?貴様を殺せば…」
「ならば、我々は魔族を殺した王国の民の主人…国王アルデンでも殺せば良いのか?」
「…ッ、国王は殺させんぞ!」
「貴様が言っていることはそういうことだ」
「あ…」と勇者が声を漏らす。
「な…なら、貴様は何がしたいんだ!」
「貴様はさっき、座右の銘などと言っていたな。我の座右の銘は、誰もが平和に暮らせる世界を作ることだ。人も魔も関係なくな」
「嘘をつくな!魔王が…そんなこと…」
「貴様は魔族を殺したことを誇りだなんだと思っていたようだが、聞かなかったのか?魔族の心からの叫びを。我は人を殺したことはない、貴様とは違う」
魔王がそこまで言ったところで、勇者は「うう…」としか言えなくなっていた。
「はあ…一度、帰って頭を冷やせ。そして、答えを出してこの場所にまたこい」
そう魔王が告げると、勇者はフラフラとした足取りで魔王城を後にした。
「いつまで続くのだ…」
これは、魔王城での会話である。次の、人と魔が隔たりなく暮らせる世界を作るための会話である。そして…
魔王が数百年、何度も、何人もの勇者と交わした会話でもある。
初の短編だったのですが、どうでしょうか。
ぱっと頭に浮かんだありきたりな設定で行き当たりばったりで書いたのでまあ、おかしなところが多いでしょうね…
この小説を面白いと思ってくださった方は、同著者の
ゆめみる少年と前を向く少女 を、是非読んでみてください!