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埃の被ったゲーム機

 通常版の『アイテムボックスがバグってる!!』とは違い少しシリアスな拙作となっております。実は主人公は同じなので行動はほぼ同じだったりする時があります。


 『アイテムボックスがバグってる!!』を読む方は自分が好きなジャンルの方から読んだ方が楽しめるかもしれません。

 思えば誰もがこの結末を知っていた気がする。平和が仮初めだなんて事は何時も誰かが唄っていた。


「ごちそうさま」


 重い足取りでどんよりと沈んだ空気が蔓延したリビングを抜け出す。両親はチラリと此方を見ただけですぐに元の作業に戻った。五月蝿いくらいのあの光景はここ数年見ていない。


 ほんのりと軋んだ音をたてるフローリングを踏み鳴らし自分の部屋へと戻る。部屋の中の大きな本棚が目に入り懐かしいタイトルが目にはいる。懐かしいなんて言葉は今や悲しみの足しにしかならなかった。


 元々無理な話だったのだろう。核兵器が守る平和なんてのは時限爆弾みたいなものだったんだ。報復に次ぐ報復が今や世界を包んでいる。そりゃ追い詰められたならば誰でも自棄になる。核兵器を使わない筈はなかった。


 日本には未だに核兵器は降ってきていない…いや、そうだ日本という国はもう無いのだった。核兵器を持たない国は僅かな安全を願い核兵器を持っている国に守られるか所持するかの二択を迫られ、日本は後者を選ぼうとした。


 結果として日本はアメリカ様にそんな抵抗の芽を摘まれ日本政府はペットとなった。日本という国としての権利は取り払われアメリカの一部と見なされるようになった。核の雨が降る時代だ、少しでも土地が欲しかったのだろう。


 日本には希望に目を輝かせる人はもういない。細々と飼われているがこれも何時かは途絶えるのだろうか。


 本に被っていた埃を取り払う。読もうという訳ではないが、目についてしまったのだからやってしまおう。どうせ暇ではあるのだし。


 本の埃を粗方払い終え周囲に目を向ける。この際だから少し部屋を綺麗にしようと思った。目に止まったのは学生の頃に遊んでいたVR機器、話題について行く為に当時神ゲーと称されていたゲームとセットで購入した物だ。これも本と同じく埃を被っている。ゲームだなんだと騒げるような元気はない。


 それでも思い出がゲーム機に手を伸ばさせる。少しぐらい現実逃避してしまうか。そう考え機会を頭に被せ電源を入れた。


 視界が黒く光る。カセットは入れたままの筈だから直接ゲームが始まる筈だ。案の定ゲームのオープニングが流れ始め、厳かな神殿や不気味なダンジョンなんかが視界に広がる。オープニングが終わり『はじめから』『つづきから』『オプション』『クリア特典映像』の4つの項目が草原に立ち尽くす自分のアバターの前に並んだ。


 折角だから『はじめから』で遊ぼうと手を伸ばしかけ止まる。そう言えば二週目以降から面白いバグがあるのだった。当時はバグらせてからが本番という言葉が当然の様に使われていたくらいだ。神ゲーと呼ばれる要因でもあった。確かに寝るのを惜しむくらいには楽しかった。


 バグらせ方は確か全ての選択肢にぶつかれば良かったのだと思う。うろ覚えのまま選択肢に体当たりをかました。


 画面が極彩色に変わった。こんな演出は覚えが無かった。驚きに次いで誰かの声が聞こえる。


『チャンスを与えましょう。終わる世界をただ眺めるのは私も悲しい』

 

 憐れむ様な声だった。それでいて抗いようもなく縋り付きたくなってしまう様な声だった。視界が暗転する。


 気付くと麻製の衣服を纏い薄暗い室内に立っていた。肩には小さな鞄が掛かっている。どうやらここはこのゲームの初期位置である遺跡らしい。足元に転がる剥き身の剣を拾い上げて1降り、ゲームならではの軽量の鋼が重く空気を切り裂く音を出した。


 何だか昔プレイした時よりも情報量が多い気がする。ジメジメしたカビた匂いや肌寒さなんて昔は感じられ無かった筈なのだが。


 まさか現実逃避のし過ぎでゲーム世界に飛び込んでしまったのか、と冗談めかしてメニューを確認したがログアウトの文字は消えていなかった。現実は逃がしきってくれる程甘くは無いという事か。


 背後には外へと通じる階段、前方には長い通路とぼんやりと見える大きな扉。ここは推奨ストーリー通り奥へ行こう。


 ネズミの鳴き声と足音が反響を聞きながら扉へと歩いた。扉は重く剣を利き手ではない左に持ち変えて右手で扉を引く。ゴゴゴと音をたてながら扉は開いた。


 扉を開いた先には銀髪の少女が退屈そうに足をブラつかせ祭壇らしき場所に腰掛けていた。少女は此方に視線を向け態とらしく溜め息をついた。


「人間……そっか…」


 そんな呟きの後にすっと祭壇から降り立ち、左手に黒い空気を圧縮させた様な魔法を溜める。それを見て思い出した。お約束が有るんだった。


 アイテムボックスと呟き指先を少女に向ける。次の瞬間には少女の姿は眼前より消え去った。俺がアイテムボックスへと彼女を収納したのだ。これがバグの正体。


 アイテムボックスなのにアイテム以外のものが入ってしまうというバグだ。彼女みたいなNPCは勿論モンスターだって入れられると認識すれば何だって入ってしまう。一発ネタですぐに飽きるようなバグだと思うかもしれないが色々悪用出来たのであんなにブームになったらしい。


 幼女誘拐が定番なゲーム、よく販売中止にならなかったなと今更ながらに思う。半場用も無くなったので遺跡から脱出する。ジュルリとはしたないヨダレを啜る音がした。


「美味しそうな魔力です!」


 黄色いモフモフとしたこのゲームのマスコットキャラが浮かび近付いてきた。ピンッと立った狼の耳と小さな八重歯が特徴で、語尾にですを付ける事の多い媚びたデザインだ。こういうのが可愛いんだろという開発者の声が聞こえる。


 序盤のナビゲート役かつ旅のお供になってくれるお助けキャラのこのキャラクターの名前はノア。実はこのゲームのラスボスだったりする。目的の為にこうやってプライドを捨てた演技が出来る努力家なラスボスだ。


「人間さん?こんな所で何をしてるです?」


「ちょっと迷子してるんだ。察するに魔力が欲しいんだろ?大きな道に案内してくれるなら魔力をあげるよ。」


 こういう没入感が強いゲームはロールプレイしながら楽しむのが一番だとあの頃は思っていた。久しぶりにやってみると照れ臭い。


「どーんっと、任せるです!私は森の妖精ですからお茶の子サイサイなんです!私の名前はノアって言うです、人間さんのお名前はなんです?」


「ユウキだよ。よろしくねノアちゃん。」


「よろしくなのです!」


 浮遊するラスボス様が着いてくるようにと背を向けるがまだやり残した事がある。


「ちょっと待ってね」


「分かったのです!」


 先ほど実践した通りアイテムボックスは入れられると思えるものなら何でも入る様にバグっている。遺跡には遺跡でしか手に入らないものがある。


 それは遺跡だ。先人の発想は偉大だ。俺という個人のみでは絶対に至らないであろう発想にたどり着き、遺跡を丸ごと回収出来ると動画として世間に教えてくれた。だからこそ今こうして俺も遺跡を丸ごと回収出来るのだ。


「うわわわ!?何が起こったです!?」


「気にしない気にしない。さ、案内よろしくね。」


「えぇ…流石に無理があるです……。」


 此方が何も言わないのを見て諦めたのか今度こそ背を向け森の中へとラスボス様が俺を誘導する。このまま続けるのもいいが明日は農業従事で朝が早い。ログアウトしてしまえばゲームの世界では時間が停止するので待たせ続ける事がない。メニューからログアウトを選択した。


 視界が暗転する。ログアウト成功。久しぶりに据え置き型ゲームをしてしまった。電気だけなら新型発電所のおかげで潤沢なのだから時間の歩き時はゲームをしよう。一時だけ現実を忘れられたという事実は酷く俺を魅了した。


 今日はもう寝よう。自分が現実から逃げている事にほんの少し苛まれながら、もう逃げることしか出来ないと言い訳をしてベッドに潜り込む。終わりの雨が降るこの世界に少しの間別れを告げた。



キャラが何故か暴走しないのですが?

バグですかね?

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