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一都六県が幼稚園児  作者: アセロラC
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第八話 みんなのまちのほうしゃせん その1

サリー先生と園児たちの授業シリーズ。今回は「放射線」ですが、放射性物質ではなくて、都心から「放射状に伸びた道路」について触れます。二回シリーズの前半です。

 今日も「永遠の二十四歳」サリー先生が一都六県年長組のクラスに入ってきた。

「こんにちわ」

「こんにちわ」

「はい、みんな、とってもいいお返事ができました。今日は道路のお話をしましょうね」

「先生、今日は放射性物質についてじゃないんですか?」

「どうしてそう思ったの、茨城県くん」

 茨城県くんはツッパリ(現名でヤンキー)が入っているが、人なつっこい性格で、クラスの中でよく発言する五歳の園児だ。

「だってサブタイトルが『ほうしゃせん』ってあるから。俺のとこを通っている常磐道沿線には、そこだけ放射線量の高い『ホットスポット』という場所が他の地域より多いって言わたことがあって、心配してるんだよ。東海村や大洗にも原子力関連の施設があるし」

「今日の『ほうしゃせん』は、東京から放射状に伸びている道路のことを意味します。茨城県くんの言っているのはα線やγ線などの放射性物質から放出される放射線のことです。それについてはこれからの授業で扱うかどうか不明ですが、今日の主題ではありません。ついでなので、茨城県くんは、江戸時代に整備されたという『五街道』を言ってください」

「南から『の』の字のように時計回りに、東海道、甲州街道、中山道、日光街道、奥州街道です」

「とってもよくできました。この五つの街道は江戸から放射状に出ているよね。現在はもっとたくさんの道路が伸びていると思います。それでは思いつくだけ言ってみよう。南から時計回りに、まずは神奈川県ちゃん」

 神奈川県ちゃんは大金持ちのお嬢様で、自家用戦車を保有しているとかテレビで有名になったタクティカルチームを抱えていると言われている後妻……じゃなかった、五歳児だ。

「ごきげんよう。首都高湾岸線、横羽線、国道1号線、国道15号線、中原街道、第三京浜、246(にーよんろく、国道246号線)と東名高速などでございます」

「東京都内では、国道1号線のことを『二国にこく』、国道15号線のことを『一国いちこく』っていうのよね」

「神奈川県内では、国道1号線のことを『国一こくいち』と申します。15号線は15号です」

「地域によって同じ国道でも呼び方が変わるのよね」

「国道1号線をどう呼ぶかが東京都民と神奈川県民を識別する試金石になるかもしれませんわね」

 ここで普段は無口でオタが入っている埼玉県くんが発言した。ちなみにどういうわけか埼玉県くんの発言は無視されやすい。

「昔々、『ぴったしカンカン』の司会者がやってたニュース番組内のなんとかクイズで、埼玉県民は『与野党』のことを『与野市』があるからって『よのとう』って呼ぶとか言ってたような言ってなかったような、埼玉県に対する偏見を助長するようなことをやっていたような気がしてならない……」

「(先生は埼玉県くんのことを聞いていない)それで先生は思いついたんだけど、国道15号線っていうでしょ。あの数字の呼び方を変えると、『いちごうせん』って読めない?」

「その読み方で進めるなら、もうひとひねりして、国道135号線を9で割ると、15号線になって、『きゅう、いちごうせん』って読めますわね」

「135号線は小田原の消防署のところから始まって相模湾に沿って伊豆半島の東側を進んで下田に至る国道よね。箱根駅伝でよく見るように、箱根から下ってきて、エヴァで最初の使徒マツヤが現れた箱根湯本駅の前からカマボコストレート(「MFゴースト」より)の先の東海道線のガード下を熱海方面に曲がって線路沿いに行くところ」

 無視された埼玉県くんは質問した。

「その使徒の名前はサキエルだと思いますが、中原街道は平塚の中原ってところに向かっていたのでそう名前がついたようですが、どうして平塚街道って言わないのですか」

 それに対して先生はそっけなかった。

「中原に向かっていたからでしょう」

「それなら、品川区内の中原街道に『平塚橋』という交差点や平塚って地名があるのはなぜですか?」

「平塚に向かっていたからでしょう」

 神奈川県ちゃんも絡んできた。

「それをおっしゃるなら、川崎市中原区というのもございまして」

「中原街道が通っていたからでしょう」

 こっぱ役人のようなクソ答弁を繰り返すサリー先生に、埼玉県くんは声を大きくした。

「あんまりいい加減なこと言うなよ! 先生は答えになっていない」

 しかしサリー先生は淡々と言った。

「地名の由来を確定するのは難しいのよ。いろいろな本にいろいろな説が書いてあって、読んだ人がこうなんじゃないかなって推測するくらいしかできないの。名前をつけた関係者がいたりして、もし気を悪くしたりしたらいけないでしょ」

 鉄道好きの埼玉県くんがボソッと言った。

「今でも批判されるスピードの出ない『狭軌』の採用を決定した役人が、『俺の前でその話をしたらここにいられないようにしてやる』みたいなことを言ってたって噂だし」

「さて、どの道路も面白そうだけど、もっともベタな東名自動車道の話なんかどうなの」と、さっさと話題を変えるサリー先生。

「東名のなんでございましょう?」

「東名はどうしていつも同じところで渋滞するの? ラジオの交通情報からは、大和トンネル、伊勢原バス停、都夫良野つぶらのトンネル、山北バス停って、毎日どれかが渋滞の先頭になっていて、渋滞が解消されても『〇〇の事故の処理は終わりましたが、緊急工事が行われているため〇〇を先頭に〇〇kmの渋滞』とかって、絶対に『側壁とかセンターポールに突っ込んでぶっ壊した』って想像させる事故しかないじゃん」

「トンネルの天井とか側壁の上の方とか、理解に苦しむようなところにタイヤの跡とかありますよね」と、静かに埼玉県くんが言った。

「それって霊の仕業しわざじゃ……」とわざとらしく煽る千葉県ちゃんに、

「そんなことガチで信じてんのは茨城県くんと先生だけだろ。普通、事故に巻き込まれた車の車輪が吹っ飛んだと考えるべきで、それだけ事故が悲惨だったと捉えるべきなんだけど」と半ばバカにしたように東京都くんは言った。

 しかしさっそく予想通りの反応が表れた。

「この世に未練を残して亡くなって、成仏できなかった浮遊霊が悪さしてる以外、考えらんないでしょ?」

「なんで霊現象でねーって言い切れんだよ。この世には科学で割り切れねーこたー、いっくらだってあんだよ」

 サリー先生と茨城県くんを除いた全員が声を揃えて呟いた。

「やっぱり」

 しかしサリー先生と茨城県くんは止まらない。

「もう地縛霊になってるかもしれないのよ!」

「おめーら、祟られても知んねーかんな」

 全く予想を裏切らない二人の発言に笑いをこらえながらも、しかし、神奈川県ちゃんは生まれながらに持つノブレスオブリージュ(貴族の義務)が心を突き動かし、正義の発言をした!

「先生、いい加減にしてください! 今、授業中なんですよ!」

 だが、きかけている先生には通じなかった。

「米軍厚木基地のせいで大和トンネルを掘らなきゃならなかったんでしょ! あの基地の滑走路がなければ、大和トンネルはなかったのよ! こんなところでボッーっと授業受けてないで、あんたの力でなんとかしなさいよ!」

 授業に出席している幼稚園児に授業を受けるなと主張するサリー先生はどうかしていた。

「日米安保条約があって、あの米軍基地は……」と埼玉県くんは言ったが、サリー先生と神奈川県ちゃんは止まらなかった。しかし、先生の発言は「教育を受ける権利」を否定する可能性もあるんだよ、神奈川県ちゃん。

 サリー先生は止まらない。

「それをどうかすればいいじゃないのよ! あの飛行場のせいで、米軍戦闘機が墜落して、住民が死んでんのよ! あの飛行場も基地ごとどうかしちゃえばいいんでしょ!」

「うちのタクティカルフォースがあっても、それは現実的じゃないです!」

「住宅地に落っこちてんのよ?! 現に住人が死んでんのに、現実的じゃないってどういうこと?! 亡くなった方は浮かばれないわよ! えぇ?」

 埼玉県くんがボソッと言った。

「戦闘機部隊が移転するという話ですから……」

「それが抜本的な解決なの? オスプレイ来てるんでしょ? 米軍の基地は依然として残るわけでしょ! そのことが問題なのよ!」

 サリー先生のよき理解者であり、またよき相談役でもある栃木県ちゃんが静かに言った。

「今日の先生は熱過ぎるわ」

 熱の入ったサリー先生に対して、神奈川県ちゃんは続けた。

「先生、もう大和トンネルは出来上がってしまったんです。それに周囲住民に配慮してトンネルの蓋を長めにして、仮に戦闘機が滑走路をオーバーランしたり墜落しても東名への被害が少なくなるように対策をとっているんです。だけどその長い蓋の心理的圧迫感もあって、進入時やトンネル内で速度を落とす車が出て、渋滞が始まってしまうのです」

 神奈川県ちゃんは根回ししているような役人臭さがあった。サリー先生は憮然ぶぜんとした表情で口をひらいた。

「全然納得いかないけど、とりあえず車の進行速度を上げればいいじゃないの」

「そこで、壁面にLEDランプをつけて、矢印が先に進んで見えるようにして、速度低下防止に心理的効果のある工夫をしているのです」

 少し冷静になったサリー先生が言った。

「まあ、あのトンネルは曲がってたり傾斜がついてたりして、普通の運転手ならアクセルを緩めがちよね」

 神奈川県ちゃんは誘導LEDについて説明した。

「あの光る矢印は速度を落とさないための工夫です。ひとりの速度が落ちると、連鎖的に後続の車の速度が落ちていって、ついに渋滞してしまうわけです。ですけど、その最後尾に不注意な運転手とか『オラオラ運転』が追突して事故になると、『あ〜あ、今日は定時に上がれねえじゃん』、『チコちゃん見られねえ』ってがっくり肩を落とす営業もいらっしゃるです」

 少しヤンが入っている千葉県ちゃんが言った。

「午後三時をすぎた頃から、すんごい速度で白いアルトとかADバンとか、灰色のハイエースとかがかっ飛ばしてるわよね。みんな定時で上がりたい営業車でしょ? ダース・ベイダーの仲間みたいな顔が、めっちゃ速いスピードでうちらから遠ざかってくの、超ウケる」

 ギャル語で話す千葉県ちゃんの後、栃木県ちゃんが言った。

「アルトとかミライースって、あんなに速度出して大丈夫なんですか? あのクラスの軽自動車にとってあれほどの速度は想定外で、あまりの風圧にバンパーやサイドミラーとか吹っ飛ぶんじゃないかって心配になるんですけど」

 栃木県ちゃんに遅れて埼玉県くんが言った。

「たしかにアルトの後ろは、そう見えなくもないですね」

 アルトの後姿がダース・ベイダーの仲間の顔に見えるのに同意したのだろうが、発言のテンポが遅れているため、誰も埼玉県くんのことを相手にしなかった。

 千葉県ちゃんはさらに珍車について言った。

「時々、やたら車高を上げた改造ジムニーが爆速で走ってて、お前、罰ゲームにしては命かけすぎだろ、って言いたくなるのがいて」

 群馬県くんが言った。

「新型ジムニーはカッコいいけど、ノーマルでも東名130キロ出せないわ」

 そこで神奈川県ちゃんが正義の一撃を放った。

「あたりまえです。速度超過は禁止されています」


「それでは次は東京都くん」

「どうせ中央道のことだろ」

「甲州街道はどうして整備されたの? 日光は参拝地としても、甲州の地名を冠した道路はマイナーっぽくて疑問が湧くよね」

「京の都に向かうルートは多いほうがいいじゃん」

「甲州街道は信州で中山道と合流するじゃんよ」

「じゃ軍事上の理由から? 江戸が戦乱になったら、将軍様は甲州街道をひた通って千人同心がある八王子に逃げる」

「幕藩体制は将軍様を守るために作られたようなものだし、そのために街道が整備されたとしてもありえなくないわね」

「そう言えば、さっき東名高速で『上は滑走路の延長』っていってたけど、中央高速は『まるで滑走路』なんですね」とつまらなさそうに言った。東京都くんは「無気力、無関心、無感動」の三無主義の人物で、おもしろいことでもつまらなそうに言ってしまうのだ。

 サリー先生にはさっきの熱がまだ残っていた。

「全然面白くないんだけど。自分の国の中にあっても我が物顔で使えない飛行場が横たわってるとか、この国はどうなってるのよ」

 栃木県ちゃんがサリー先生に冷静になるように言った。

「先生、今日は道路の話ですから」

 そう言われて、我に帰るサリー先生。

「そうだったっけ? 脱線ばっかりで忘れてたわ」

「先生の授業でしょ? 先生が忘れてどうするんですか?」

「どうするっていっても、とりあえずそのネタで授業を進めるしかないわよね」

「園児なら『授業を受けさせられている』って受動的なイメージが浮かぶますが、逆に先生が園児に授業を催促されるって、先生にとって受動的ですよね?」

「仕方ないわよね。授業なんだから」

「それを能動的にやってくださいよ」

 今日のサリー先生やキレやすかった。

「園児たちが自ら調べて発表する。それを後押ししてやる気を促したり、論点を掘り下げたり、疑問を投げかけたり、調べるきっかけをつかませたり、様々な生徒への働きかけがあるわけよ。それは園児とふざけているわけじゃないからね。先生とみんなと、この教室というジャングルの中での格闘を通じて、みんなの頭脳に人類発展のためのいしずえを築き、もっと真理に近づこうとするアプローチなんですからね!」

 人類の発展だの、真理に近づくだの、大仰おおぎょうでベタなサリー先生だった。


「その次は関越道の埼玉県くん」

「関越道をやるんですか、僕? それやっちゃうと群馬県くんの話がなくなるから」

「いいのよ、群馬県くんには、他に道路が……ないわ! じゃ、今日は群馬県くんにはお休みしてもらって、埼玉県くんがやりましょう」

 群馬県くんは教室の中でも三度笠と黒いカッパを着ている、人付き合いの下手な渡世人風の園児だが、彼もまた五歳である。

「いや、俺も適当に話に加わるよ」

 埼玉県くんは遠慮がちに言った。

「関越道といったら、新大宮バイパスも触れなくちゃならないけど……」

「新大宮パイパスは国道17号のバイパスの位置付けだけど、17号っていうと、この間の授業で……」とだんだん声が小さくなるサリー先生に対して、栃木県ちゃんが耳元で囁いた。

「埼玉県くんは、今は大宮の鉄道博物館モードだから大丈夫。北埼玉に関わることを強調したり、その地の物を食べさせたりしなければ……」

 前回の授業では、埼玉県くんがまさかのもう一面を見せてしまった。サリー先生も、栃木県ちゃんも少しびびっているが、博識の栃木県ちゃんの言葉にサリー先生はうなずいた。埼玉県くんは、ぼそぼそっと言った。

「関越道は首都高につながってないんですけど、新大宮バイパスは5号池袋線に直結していて、ちょっと違うんです」

 サリー先生は思わず言ってしまった。

「もともと、グンマーの奥とか新潟とかに行くのに、関越のなかった頃は新大宮バイパスを使っていたような……」

 そこにすかさずツッコミを入れる茨城県くん。先生の年齢ネタが出ると、突っ込まざるを得ないキャラである。

「だから先生は、一体いくつだよ?」

「(茨城県くんの発言を無視して)当時は国道17号をなんとかしなければっていう気持ちがあったのでしょう。でもおもしろいよね、東名高速は東海道の国道1号線から離れて、ほとんど246と並走してて、一方で関越道は、もともと国道254号線のバイパスだった東京川越道路を名称変更して一部にしちゃっていて、中山道の国道17号と離れている。新大宮バイパスの方が17号のバイパスで首都高と直結している」

 群馬県くんが言った。

「東北道も国道4号線とはかなり離れていて、むしろ122号線が道路に沿って走っているけど」

 それに栃木県ちゃんが突っ込んだ。

「群馬県くん東北道や122(ワンツーツー)は鬼門じゃないの?」

 群馬県くんはたじろいだ。

「そ、そんなことないよ。そんなことあるけど……あんま変な微妙なこと言うなよ」

 以前の授業で、群馬県くんは東毛地方のことに触れると体に異変が起こることがわかってしまったのだ。

 埼玉県くんが言った。

「好意的に言えば、どの高速道路も主要国道も都心へのアクセスが分散されていて、一極集中による大渋滞を避けたと言えるかもしれませんが、関越についていえば、首都高から向かうのに、新大宮バイパスで戸田市の美女木びじょぎに行って、そこから西に向かって練馬区の大泉から関越に乗るっていうのは、どう見ても無理がある。美女木は高速道路なのに信号機があるっていうわけのわからないところで」

 サリー先生は鉄道の話も取り上げた。

「箱崎にも信号機があるわね。道路でも鉄道でも『なぜこういう設計にした』とユーザーから疑問が上がるところは、私たちの知らない大人の事情の塊みたいなところもあって、関係者にも実はどうなっているのかはっきりことがあるのよね。たとえ真相を知ったところで、巨大な建造物を前にして無力感が残ると思うの」

 千葉県ちゃんが今日初めての発言をした。

「作った人は言われているよ。首都高を設計した人は運転免許を持っていないんじゃないかって。やっぱり計画段階で住民の意見が十分に反映されなければならないのよ」

 優等生の栃木県ちゃんが言った。

「そうすると、住民って誰のことなのかって問題も浮かび上がるわね。例えば、工業団地を造成した自治体とか、運送会社の地元有力者とかそこに広大な土地を持っている人や工事請け負うの可能性のある建設業者なら新規のインターチェンジ建設に積極的だろうけど、その周辺住民で、学校に通う子どもがいて車の交通量の多いのは危険と思っている家族や、生活はその地域の中で完結していて周囲がうるさいのは困る高齢者や、気管支に病を抱えています、閑静な住宅街ってことで引っ越してきましたとかって、むしろインターの存在を迷惑がる人たちがいたら、利害が対立すると思うの。この人たちこそ、孤立した弱小住民なわけで、インター建設の可否を決めるのに、どちらの意見を聞くのかってことになるわけよ」

 サリー先生は住民の意思反映は困難ではないかと言った。

「地元有力者や巨大ディベロッパーなら行政の中枢に言うことを聞いてくれる仲間がいる訳だけど、子どもを抱えている若い核家族やただの勤め人や独居老人にはそういうコネはなくて、仮に横断的な広がりで反対運動が広まっても、見えないところで行政の中枢の人たちに対して『天下り先は用意してありますから、ぜひこの案を通してください』とか『お前が当選できたのは誰が金を出して票を集めたかわかってんのか、あぁん? わかったらインターの件はわかってるだろうな』、なんてのが横行したら、弱者連合に勝ち目はないと思うの」

 しかし栃木県ちゃんは言う。

「まず、その計画が決まるまでの議会や審議会でのやり取りは透明にすることが大事なのよ。それだけでも、かなりの程度、公正性が担保できると思うの」

 神奈川県ちゃんも言う。

「議事録は存在しません、破棄しました、ですが時間がたったら出てまいりまし、ですが公開時は黒塗りばっかりですとか、決済文書は改ざんしましたが、改ざん前の文書は内部規定によって期間切れで破棄しました、でもメールが残っていましたけど一部です、それで有名政治家から強いゴリ押しがあって名前も出ているのですけど、一切関係ありませんなんて、申し上げているわたくしの方こそ混乱してしまって、何を申し上げているのやら全くわからないような不透明な行政を行なっていてはダメね」

 東京都くんは言った。

「まあ、やっぱり住民の意思が行政に通るようにするには、横断的な運動を盛り上げて、声を上げていかなければならないと思うよ。一般に『参政権』は『投票権』と同等のものと誤解されているというか、みんなあまり深く考えていないかもしれないけど、自分の意思を表明する権利はちゃんとあるんだから。それを行使しないのはもったいなさすぎる」

 栃木県ちゃんは「公正で透明な行政」とプラスアルファについて語った。

「自分の声だけでは小さいと思うかもしれないけど、小さな声を集めて言って、大きな声にすることはできるのよ。役所の役人だって、法律を勉強していて、『公正で透明な行政』って文句くらいはみんな知っているわけだけど。私はそれに『迅速な』って入れたいのよ。国会でも必要のない時間をかけて、のらりくらりと批判をかわしている政治家の発言をみると、『迅速な』対応がどれほど大切なのかってわかると思うけど」

 それを受けて神奈川県ちゃんは「迅速性」が看過されいてる行政の対応について例をあげている。

「現在文書が存在するかを確認中とか言っていながら、全然出てこなくて、何ヶ月かしてから見つかりました、実は外付けハードディスクの中にありましたとか、平気な顔をしているのは国民に対して不誠実極まりない。だって文書検索なんて、『コントロール+F』で簡単にできるわけじゃない。国会の答弁中の時間だってできるわけよ。『迅速さ』を守らない不誠実な行政はもう終わりにするべきなのよ」

 サリー先生は今日の授業をまとめた。

「今日は神奈川県、東京都、埼玉県までしか道路の話が進みませんでした。ですけど、行政と住民のあり方という大事な話はできたと思います。もう時間がきたので、今日はここまでにしようと思います」

    ……………………

 今日も熱すぎるサリー先生の授業は終わった。生活に身近な話題はにはつい熱くなってしまい、レースクイーン水着に着替えて、ご褒美のステッカーを渡すことさえ忘れてしまったサリー先生だった。

 まだまだ勉強だ、一都六県幼稚園児! 現在でも、公正で透明で迅速な行政は不可能ではない。君たちが大人になる日までに、いっそうこの理念が浸透することを期待しよう!

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