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一都六県が幼稚園児  作者: アセロラC
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第二話 うみ・プール・おんせん

サリー先生と園児たちの授業シリーズ。今回は、汗をかいたサリー先生が汗を流すのに最適な場所について、関東の名所を案内してもらいます。

「今日も暑いですね。先生のブラウスは汗で肌にベットリと張り付いています(~_~;)。こんなときは、温泉に入りたーい! プールでも、海でも何でもいい! 液体の中で汗を流したい!!ということで、今日の授業は、みんなが『汗を流したいなら、俺んとこ来い!』と言えるおすすめの三か所を教えてください」と小池サリー先生がみんなに質問をした。

「はーい」と園児たちが返事をした。

「はい、よくおへんじができました」


「それではトップバッターは、ホットな土地なのにいつもクールに決めている群馬県くんです」

「あっしのユニフォームは、暑くても寒くても黒いマントに三度笠。風呂にへぇりてぇなら、うちだぜ」

 群馬県くんは右手の親指をあごの方に向けて言った。

「かっこいい! そんな群馬県くんのおすすめの場所はどこですか?」とサリー先生は尋ねる。

「草津温泉、伊香保温泉、四万温泉」と群馬県くんは間髪入れずに答える。

 サリー先生は質問した。

「ところで先生は毎回思うんだけど、群馬県くんの答えはすらっと出てくるよね。もしかして特別なスキルを持ってるの?」

 群馬県くんは誇らしげに言った。

「俺がそんなにすごいのは、あたり前田のクラッ……」

 すかさずクラスで一番の優等生、栃木県ちゃんがツッコミを入れる。

「前田製菓の関東の工場は宇都宮にあるのよ。カルビーも」

(「俺が全部言い終わらないうちに! くっ……栃木県ちゃんめ!」)っと内心思う群馬県くん。

「いま、先生には『くっ……栃木県ちゃんめ!』と聞こえましたよ」

「あ、あっしにはなんの話だかさっぱりでぇ(^_^;)」としらばっくれた。さらにサリー先生は突っ込む。

「さあ、先生とみんなに群馬県くんの強さの秘密を教えてください!」

 群馬県くんは開き直ったように答える。

「しかたない。それは憲法前文と『上毛かるた』を丸暗記しているからさ」

「おぉ」一都六県クラスはどよめいた。

「先生は噂に聞いたことがあるけど、『上毛かるた』ってそんなにすごいの」

「昔は『でる単』、『でる熟』と『基本英文700選』に加えて『上毛かるた』を丸暗記すれば、共通一次の英語で190点台、京大の英文解釈でも点を落とさないと言われたらしい」

「マジで?\(@o@;)/」と先生は仰天した。

 しかし「共通一次」という言葉に誰も反応しなかった。ここでは当たり前の言葉なのか?

「じゃ『上毛かるた』をやってない俺たちはどうするんだよ!」と茨城県ちゃんは食ってかかった。

「代わりに『原の英標』がいいって話も聞いたが、『思考訓練』を暗記しようとまですると変態だ。もっとも昭和の話だがな」

 一同が「ほぉー」っとあっけにとられたようだった。

 すると、茨城県くんが情けない声を出した。

「き、『基礎英文精講』で筑波大受かりますか?」

 群馬県くんは毅然とした態度で答えた。

「反射的にどっかの厨房みたいなレスをするな、このカッパ野郎!」

 この群馬県くんに対して、

「なんだと、アメダスの位置をずるしていたくせに」と反撃する茨城県くん。しかし、

「それは俺・群馬県と関係ナッシング。ずる林は埼玉県の一部だ」と意外な発言をした。

「えぇ? 館林はグンマーでないの?」と千葉県ちゃんが驚くと、

「たしかに、館林はヤマト運輸で埼玉県内の大宮の配送区域になっている」と埼玉県くんが呟いた。

「館林は熊谷県だったこともあったけど、栃木県だったこともあるし、日通の配達区域は佐野と同じ栃木県になっているってウィキペたんが言ってた」と栃木県ちゃんが言い、今度は神奈川県ちゃんまでが、

「たしかに数年前まで、大和市の中央林間から館林行の東急田園都市線、半蔵門線直通の電車が走っておりましたわね」と言った。そこへ、

「いい加減にしなさい! ローカルすぎて、知らない人には全然わからないでしょ!」とサリー先生がさえぎった。

「ともかく群馬県くんは『上毛かるた』を暗記していて、ローカルな話題に強いということね」とサリー先生が言うと、 

「『己を知れば百戦あやうからず』って言うからな。幼稚園児ならまずは、『日本国憲法の前文』で国家と個人の関係についての理念を身につけ、『上毛かるた』で地域のことを押さえておいて損はないぜ」と、群馬県くんは胸を張った。

「カッコいい」と栃木県ちゃんが言った。

「イエェェェ(^o^)v」と茨城県くんに向かってピース群馬県くん。それを見て茨城県くんは面白くなさそうだった。


「それでは、次に栃木県ちゃん。先生におすすめの汗を流せるステキなできる場所はありますか?」

 栃木県ちゃんのような優等生は、受け答えがはっきりしていて爽やかだった。

「はい。鬼怒川温泉、那須塩原温泉、井頭いがしら一万人プールです」

「一万人プールって初耳だけど?」

真岡もおかにあります」

「みんな知ってる?」とサリー先生が尋ねてもクラスの中から積極的な反応はな買った。しかし茨城県くんと埼玉県くんが微妙に手を上げようとしたことにサリー先生は気づかなかった。

「栃木県ちゃん、そこって有名なの?」

「県内では知らない人はいないくらい有名ですし、近隣の県から訪れる人も多いです。水の面積が一人一平米として、一万人分あるというので一万人プール。ウォータースライダーが長過ぎて、滑り降りる途中で不安になるくらいヤバい。栃木県は海がない内陸の県なので、とにかく大きいのを作ったってウワサです」

 一都六県クラスはしーんとなった。

「へぇー(・ω・)、先生は知りませんでした。次に茨城県くんはどうかな?」

 茨城県くんは自信なさげに答えた。

「うちは正直言って温かいのは微妙だけど、大洗、阿字ヶ浦、霞ヶ浦かな」

「海ならともかく、沼で泳ぐとか、俺らはお前のようなカッパじゃねえんだぞ」と机に足を投げ出した群馬県くんが言った。

「沼じゃねえ。琵琶湖に次ぐ国内第二位の面積を誇る湖だ。海も湖もねえお前は黙ってろ!」と怒鳴る茨城県くん。そこへ千葉県くんが、

「常磐ハワイアンセンターは?」と尋ねる。

「それは福島県いわき市にある。よくまちがえられる」と茨城県くん。そこへ神奈川県ちゃんが発言した。

「わたくしは大洗で泳いだことはございませんが、以前『戦車道』の全国大会で遠征したことがございましたわ」

「えっ? 神奈川県ちゃん、それマジなの(・_・?」

 神奈川県ちゃんは、瞳の中にピアノの鍵盤を光らせながらこう言った。

「わたくしの家には、自家用戦車が用意してございます。もちろん演習可能なフィールドもございます」

(「園児たちがどこに住んでいるかは、教員である私でも知らされていない。しかし、自家用戦車を持っているとか、火力演習ができるとか、いったい神奈川県ちゃんの家庭環境はどうなっているのだろう」)と疑問しか出てこないサリー先生だった。そこへヲタの入った埼玉県くんが質問した。

「……神奈川県ちゃんはどんな戦車を持ってるの?」

(「この子たちは当たり前のように思っているかもしれないけど、自家用戦車を持っている幼稚園児って異常なことなのよ。そんな園児を私が教えるなんて……怖いわ。児童教育の現場って、なんて恐ろしいところなの」)と内心おびえるサリー先生。

「わたくしが所有しておりますのはチェコスロヴァキア製T-34-85。比較的入手しやすい量産型ですわ」とあっさり答えている。

「あぁ、1956年のハンガリー動乱なんかで使われた後期のタイプね。チェコのT-34はたしかに大量生産されてるね」と当たり前のように言っている。

(「神奈川県ちゃんの言う民間人が入手しやすい『戦車』ってどういう意味よ。埼玉県くんは『ハンガリー動乱』とか軽く言ってるし……(-_-;)」)

「スエズ動乱ではエジプトが独自改造したのが投入されたり、T-34シリーズは世界中で人気のあって、逆に面白みのない戦車ですが、わたくしは気に入っておりますのよ」

 これを聞いて、

「ふふ、昔に比べて工業出荷額も増加して大きく飛躍する大洗港。北関東自動車道が全線開通したいま、群馬、栃木の外港という位置付けだな」と悦に入る茨城県くんだった。

 その会話が続けられている間、全く喋らなかったサリー先生だった。


「次、千葉県ちゃんはどうなの?」

「うちは色々あるんだけど、とりあえず鴨川シーワールド、ディズニーシー、勝浦温泉」

「有名どころばっかりだけど、他に九十九里浜とか養老渓谷とかどうなの?」と先生が言うと、

「この授業での話のネタとしてはいまひとつ」と幼稚園寺らしからぬリアクションをした。

「すると、この中では勝浦温泉がだいぶアレだけど」とサリー先生が疑問を呈すると、

「勝浦温泉は、昔から関東ローカル局でCMを流していて、知っている人は知っていたけど、近頃、舛添さんの一件でブレイクした」と千葉県ちゃんから意外な反応があった。

 サリー先生はまた疑問に思った。

「舛添さんは元東京都知事よ?」

 千葉県ちゃんは答えた。

「公費で家族旅行が浮上したとき、噂になったのがホテル三日月」

「そうだったの。それって勝浦なの! 舛添さんのようなかっこいい方がいらっしゃるなんて、いいところね」

 サリー先生は合点がいったと同時に、今度は勝浦に遊びに行こうと下心が揺れた。

 これに対して栃木県ちゃんが言う。

「関東ローカルっぽいけど、昔からホテル三日月のコマーシャルやってるよね」

 ここに口を挟むのは神奈川県ちゃん。

「舛添先生は、湯河原にもいらしてましたわ」

「別荘があるっていう話だったわね」とサリー先生が答える。

 神奈川県ちゃんは誰も知らない話を始めた。

「舛添先生が、ホームセンターの領収証があると追求された時『ここのホームセンターは文房具が充実して重宝している』みたいなことをおっしゃっておりましたが、確かに文房具は湯河原のハンディーホームセンターで事足りますわ」

「ローカルな話題ね。でも記者会見で言っていたような気もするけど」とサリー先生。

 神奈川県ちゃんの発言に対して、千葉県ちゃんが言う。

「うちに本社のある◯ー○ー◯◯◯ーの文房具コーナーはいまひとつだけどね」

 それに対して神奈川県ちゃんは言う。

「ハンディーは、今や絶滅しかけている藁半紙色の表紙に黄緑の文字の出納帳とかもあって、ロフトとかホームセンターとかで見かけないマニアックなのがございます」

「それって古めの文房具屋の倉庫にしかなさそうな気がする。今の時代なら、会計は弥生とかスプレッドシートとかでのウェブサービスがあるくらいだけど」と栃木県ちゃん。

「そういえばロータス1-2-3とかクラリスワークスっていつのまにかなくなっちゃったね」と埼玉県くんが言うが、神奈川県ちゃんは聞こえないかのように、

「文房具と言ったら辻堂の『事務キチ』も品揃えが豊富で安いですが、改装前のごちゃごちゃした感じがわたくしは好きでしたわ。ときどきカシオの時計を安売りしていたり、飲み物、お菓子が妙に充実していたりして」と言うと、

「浦和にもあるよ、事務キチ」とまた埼玉県くんがボソッと言った。

 ここでサリー先生が静かに言った。

「先生の知らないお店の名前とか出てきていますが、この授業は、先生の汗を流せる施設についてお尋ねしております」

 しかし空気を読まずに東京都くんがさらに言い出した。

「やっぱロフトでいいんじゃない、無難に」

 そこで先生はキレた。

「てめえら、質問と関係ないことばっかり言って、時間を稼ぐな! ここは国会じゃない! 教育現場だ! 海やプールの話をしろ! (# ゜Д゜)ゴラア」

「すみませんm(_ _)m」と一同が言った。


「続いて、東京都くん」

 東京都くんは表情を変えずに答えた。

「いっぱいあるんだけど、とりあえず三多摩はサマーランドと鶴の湯温泉」

「サマーランドは有名よね。生まれた時から私の心のオアシスです。でも、鶴の湯温泉って聞いたことがないけど」

 東京都くんが逆に質問した。

「小河内ダムって知ってる?」

 サリー先生はすらすらっと答えた。

「昔、TBSの『日本沈没』で田所博士が『小河内ダムが決壊して大量の水が一気に流れ出したら、東京は大水害が発生して都市機能が麻痺してしまう」みたいなことを言ってたわね」

「先生、その番組は相当古いよ。村野武範の日本沈没なんて60歳くらいじゃないと知らないでしょう。本当は何歳なの?」

「Σ(゜Д゜)! ゆ、UHFの再放送で見たことがあったのよ、テレビ埼玉かテレビ神奈川かの……で、その小河内ダムがどうかしたの?」

「この間、埼玉県くんが嫌いな昔眼帯していた人の番組で、江戸時代に作られた全国温泉番付表の東日本の10位だった『武州小河内原温泉』が今の『鶴の湯温泉』」

「小河内ダムの底になったのが小河内原温泉なの?」

「今はポンプで汲み上げている。傷ついた鶴が、傷病治療のために温泉を利用していたのを見つけたのが始まりらしい」

「そうなの。私八王子出身だけど、知らなかった。それじゃもう一つ残った23区のはどうなの?」

「言うんですか?」と東京都くんが困った様子だ。

「どうしたの? 授業なんだから答えなさい」と当然のように命じたサリー先生。

「新宿にある……」

「新宿にあるって京王プラザホテルのプール?」

「そこについても話したいことあるけど、そうじゃなくて」

「そうじゃなくて?」

「例のプール」

「例のプール?」と先生はよくわかっていない受け答えをしたが、ピンときた群馬県くん、茨城県くん、埼玉県くんの男子園児たちが一同が叫んだ。

「Σヽ(`д´;)ノ うおおおお!」

「恐れ入ったか」と東京都くんが立ち上がって両腕を腰に当てて胸を反らせていると、

「恐れ入りました m(_ _)m m(_ _)m m(_ _)m」と男子児童たちが全員頭を下げている。

 何が起こったのかわからない様子だったサリー先生は言った。

「みんな、何をやってるの? 先生には意味がわかりません。でもなんとなく五歳児にはふさわしくない知識に基づいたリアクションというのは想像がつきます。東京都くん、説明してください」

 サリー先生の表情は憮然としていた。

「例のプールとは、かつて俳優の石坂浩二さんが住んでいたと言われるマンションの上階にあるプールで、現在は貸しスタジオになっているところです。そこは伊勢丹とか『アッと驚くモナリザの絵』の広告でおなじみの世界堂の近くの交通の便利なところで、テレビドラマやアイドルビデオの撮影なんかでよく使われています。斜めになった黒枠の窓ガラスやプールの奥にある植木鉢が特徴的な室内プールです」

「それってAVでしょ」と呆れたようにいうサリー先生。

「一般の写真集の撮影でよく使われています」と否定する東京都くん。

「へぇー」とやはり呆れているサリー先生。

「先生もそこで撮影して写真集を出しなよ」と千葉県ちゃんが言うと、

「あたしが写真集のモデルか☆(ゝω・)vキャピ……水着を着て(……もしやるなら、もう少し痩せなくちゃ)……って言っても集英社のグラビアみたいなのは勘弁よ、アハハ。あたしの年を考えてよ、バカ(*´ω`*)」と単純なサリー先生は古臭いリアクションでまんざらでもなさそうだが、悪乗りした茨城県くんが、

「〇〇書房から熟女写真集を出したら!」と言うと、先生は我に返った。

「ふざけるなてめえら! 次は神奈川県ちゃん」

 エースをねらえ! のお蝶夫人のようなカーリーヘアとぱっちりお目目で気品溢れる神奈川県ちゃんが答えた。

「わたくしのところもたくさんございまして、とりあえずこの授業的には、江ノ島海岸、大磯ロングビーチ、湯河原温泉」

「どこも有名なところね。江ノ島は、酔っ払って車内で寝ていたら終点の『片瀬江ノ島』で降ろされて、終電がなくなったから海岸の階段のところで一晩過ごしたことがあったわ」

「大磯ロングビーチって『ポロリ』発祥の地だろ?」と茨城県くんに対して、

「『ポロリ』は仕込みだろ、ガチだと思ってたのかよプゲラ、常考(死語)」と群馬県くんが言った。

「あんたたちは、まだ五歳児じゃないの、いい加減にしなさい(# ゜Д゜)」とサリー先生の雷が落ちた。

 サリー先生は湯河原温泉に不満があった。

「しかも湯河原ネタはもうやったし」と続けるが、それに対して神奈川県ちゃんは、

「先ほど話題の温泉番付表では、『豆州湯河原』と『相州湯河原』の二箇所がランクインしておりますわ」

「どういうこと?」

「湯河原と熱海は境界が未確定っぽいところがございますが、だいたい千歳川の熱海側が伊豆湯河原と呼ばれております。番付では豆州湯河原の方が上位でして、『万葉の湯』を経営していて豊洲市場周辺開発でコアテナントとして入るかどうかと言われております日本ジャンボーの本社工場がこちらにございます。かわいらしいネコちゃんの絵のタンクローリーで各地に源泉を運んでいらっしゃいます」

 サリー先生は嬉しそうに、

「もしその施設が豊洲にできれば、都内にいながら湯河原の温泉につかれるわけね」

「さようでございますわ」

「ステキじゃない。それじゃ最後に、埼玉県くん」

「西武園、秩父温泉、百観音温泉」

 聞きなれない固有名詞にサリー先生は反応した。

「百観音温泉って?」

「東鷲宮駅から徒歩3分、駅前マンションか百貨店が立地しそうなところに、めちゃくちゃ湧水量の多い温泉があります。久喜駅から無料バスも出ていて、東武沿線の住民も満足。駅のそばでこれだけの大施設は、さすがの熱海もかなわなかんべ、神奈川県ちゃん」

 埼玉県くんが妙に饒舌だった。しかし神奈川県ちゃんは冷静に対応した。

「熱海さんは静岡県ですが、個人的には神奈川県に入れても差し支えありません。東海道線の昼間の普通電車はだいたい一時間に三本は熱海行きですし。熱海さんも湯河原と合併して神奈川県に入りたいとの噂をお聞きしたことがありましたし」


 先生がまとめに入った。

「ということで一都六県みんな出揃いました。それでは優勝は先生が決めます。まず東京都くん」

 先生が東京都くんに向き返った。男子たちがどよめいた。

「『例のプール』だって? 君は最低だ ( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン」

「そんな〜(´;ω;`)」と東京都くんは泣いた。

 サリー先生はみんなに向かった。

「今回の一位は、一万人プールの栃木県ちゃんか、海水でも塩素水でも温泉でも液体ならなんでもまかせろの神奈川県ちゃんかで迷いましたが、今回の一位は神奈川県ちゃんに決定」と言うと、先生は服を脱ぎ出す。中身はレースクイーンレオタードを着ていた。

「せ、先生、その格好で『例のプール』で熟女写真集……」と茨城県くんが情けない声を出したが、

「(この餓鬼の言うことは一切無視して)それでは神奈川県ちゃんに勝者の証を貼ります。これは高尾山の交通安全シールです、神奈川県ちゃんの愛車に貼りましょうね」

「先生、お願いしますわ」と言っている神奈川県ちゃんの乗っている車は、

「青い色のかっこいい車ね。古いフェアレディZ?」

「S30Zと呼んでください。L28エンジンに載せ替えたツインターボ仕様でございます」

「……ナンバーが横浜5368……これってDevil Z ?!!」

「『悪魔のZ』と呼ぶ人もいますが、『今は』私が乗っています」

「えぇ!!(@_@;)」

 まさかこんなところでS30Zに出くわすとは思ってもみなかったサリー先生だった。彼女はこの車のかつての持ち主と浅からぬ因縁があった。

(「あの人は何年か前に亡くなったと聞いたのに……。また私の前に現れたのね……Devil Z……」)

 晴れ渡った真夏の青空のもと、渋谷の街に園児たちの声とサリー先生の追憶が交錯するのだった。

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