第一話 さいきょうのとうけん
サリー先生と園児たちの授業シリーズ。今回は、関東にある名所の定番みやげである「木刀」から話を始めて、意外な「最強の刀剣」について考えます。
ここは広域行政業務組合・公立関八州幼稚園。一都六県を血も涙もない競争地獄の中で鍛え上げ、明日の広域自治体を担う超エリートを育てようとする過激な教育機関である。
今、通称カンパチ幼稚園で園児たちが厳しい授業を受けている。
担任の先生は小池サリー。永遠の二十四歳。
トゲのあるムチで園児たちをビッシビシと叩き上げ、「転落した地の底から、血の海を越えて這い上がれ、餓鬼どもよ」と叱咤するかのような姿は、人生を児童教育に捧げた修羅のようであった。
しかし先生の過去こそ傷だらけ……というのはさておいて、今日も、サリー先生の児童教育への情熱を甘い声色で包み込んだカマトトぶりっ子ロックンロールな声が聞こえてきた!
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「いいですか、関東一都六県のみんな! 今日の授業では、みんなの地域に聖なる刀剣があるかどうかを考えてもらって、一番強そうなのを決めます」
七人の園児はとってもいいおへんじをした。
「はーい」
「それでは先生がヒントを出しますよ。たいていの刀は観光地にあります。観光地といったら山が思いつきます。山について考えてみてくださいね。みんな、いいかな?」
「はーい」と再び大きな声が聞こえた。
「とってもいいおへんじができました。それじゃ、まず群馬県くんからいってみましょうか?」
やさぐれているが、空っ風にさらされたほっぺが赤い児童がぶっきらぼうに答える。
「へっ、簡単さ。赤城山の木刀」
「今回も瞬殺でしたね。もしかして地元の方ですか」
それに剃り込みを入れた児童の茨城県くんがすかさず突っ込む。
「先生、それ知らない人多いぜ。したらばの鉄道板を見ている人は限られてっぺ!」
「茨城県くんは、よく知ってるのね。先生は感心しましたよ」
「昔は常連がいて面白かったけどな。『しゃんばら』とかも」
「昔っていつのことよ。茨城県くんは五歳児でしょ?」
「そうでした」と頭を搔く茨城県くん。
サリー先生は続けた。
「次に栃木県ちゃんの名刀は?」
この中で一番優等生っぽいかわいい女の子が栃木県ちゃんだ。
「日光白根山の木刀です」
「ご名答! 栃木県ちゃんはいつでもいいお答えができますね」
「はい、ありがとうございますm(_ _)m」と、まるで80年代アイドルの受け答えだ。
「次に茨城県くんは?」
一番危険な香りの漂う珍走団のメンバーと思しき児童が茨城県くんだ。
「筑波山の木刀」
ガムを噛ながらかったるそうに答える姿はサマになっている。これは決して短期間では身につかない。ところがその答えを聞いて、サリー先生が自分の過去のことを話し始めた。
「筑波山、懐かしいわね。昔、先生が当時付き合ってた男の人と筑波山に行った時、演台を開いている人が『鏡を見せると四六のガマの脂汗がたらーり。それを腕に塗ってこの刀で切ってみると、ほーらこの通り、全然血が出ない』ってやってるのを思い出しちゃった。その時の刀にはっきりと『筑波山』ってゴム印が押してあったわ」
「その彼氏とは、なんで別れたんだ?」と茨城県くんが尋ねる。
「だからね、あたしはあの人に騙されてたのよ。奥さんと別れて必ず君と結婚するからって……」
ここで話をぶった切って群馬県くんが止めに入った。
「よくある話だと言い切ってしまってはあまりに酷かもしれやせんが、いまは授業なので、先生の不倫の話はこの辺でやめておくんなさい」
しかし、最もおとなしくて引っ込み思案な埼玉県ちゃんが、意外にも発言した。
「いや、それから先が気になる」
まさかの児童の言葉に我に返ったサリー先生は、授業中だったことを思い出した。
「(何なのよこの餓鬼ども)みんな、ちゃんと名刀を持ってるものね。先生は感心しました。」
「それじゃ次に神奈川県ちゃんは?」
この中で女の子というよりお嬢様とお呼びしたほうがよさそうな神奈川県ちゃんが答えた。
「芦ノ湖の木刀かしら」
縦巻きカールの金髪を華麗に揺らした神奈川県ちゃんが、瞳の中の3つの星を輝かせながら言った。
「芦ノ湖の木刀……ん? 今までのみんなは山だったけど、神奈川県ちゃんだけ湖ね?」とサリー先生は疑問を投げかけた。
「オホホホ。そう思わせておきながら『関八州総鎮守 大山阿夫利神社の木刀』もありますのよ(-ω☆)キラリ」
「すごーい。ひねりをを加えたマサ斎藤のバックドロップのような回答に、先生は神奈川県ちゃんに脱帽です☆彡」
「じゃ次に東京都くんは?」
東京都くんは、ごくふつうのやればできる子だが、その反面かつて流行った「無気力・無関心・無感動」、すなわち「三無主義」の子どもでもある。
「高尾山の木刀」
「そうね。八王子市出身の先生は嬉しいわ。でも、高尾山は八王子で東京23特別区じゃないよね。電話番号も03から始まるわけじゃないし。そもそも『市』だし。23区に聖なる刀はないの?」
「ない」東京都くんはまったく考えていない様子だ。
「スカイツリーの木刀とかは?」
「行ったことないけど、多分ない」
「東京タワーの木刀とかは?」
「行ったことないけど、これもない。だいいち、山じゃないし……」
サリー先生は別の質問をした。
「東京都くんはどうして都内の観光地に行ったことがないの?」
「都民は普通行かない」
「どうして?」
「遠いから」と、当たり前のように言う東京都くん。
「同じ23区内でしょう?」
「足立ナンバーの区域とか、山手線の東側は新幹線に乗る以外は基本行かない」
サリー先生はたしなめた。
「それは差別していない? 治安が悪いとか、平均所得が低いからとか。それでいかないって決めるのは幸せになる機会の損失よ」
しかし東京都くんは突っ込んだ。
「僕はいまサリー先生が言ったような差別をしているわけじゃない。単に家から遠いから」
単純明快な理由だった。逆にサリー先生の偏見がバレてしまったようだが、気を取り直して尋ねる。
「東京都くんは、仏様や仏様にお願いしたくなったら浅草寺じゃなくてどこに行くの?」
「神仏にお願いすることが思いつかない」
相変わらず授業に協力的でない東京都くんだ。
「試験に合格するとか、試合に勝つとか、運動会で一等賞を取るとか、IPO公開時に資産を全力投入した株が爆上げしてほしいとか、普通の人なら願い事ってあるでしょう」
サリー先生は微妙な質問をした。しかし、
「普通の人は、上場時が最高値でまもなく株価が暴落し、その期から赤字決算が連続して、二年後くらいに粉飾決算が明らかになって経営者が逮捕される『上場詐欺』みたいなクソ株を扱わないし。勝負事とかは時の運だけど、まあなるようにしかならないでしょう」
他人事のようにあっさりと答えながら、サリーよりもさらに細かい東京都くん。サリー先生は考え直した。
(「この子は私達の想像を超えるような暴落相場をくぐり抜けてきたのか? 2009年に発生した百年に一度の金融危機と言われたサブプライム危機にはまって損害を出したのか?」)
この先生の考えはおかしい。なぜなら、東京都くんを含め、カンパチ幼稚園のこの年長クラスの園児たちはみんな五歳児だからだ。
しかし東京都くんは、ちょっとだけ付け足した。
「どうしてもっていうのなら、赤坂見附の豊川稲荷かな」
その答えを聞いて、サリー先生は思い出した。それはまだTBSで「ザ・ベストテン」が放送されていた頃、ヒット祈願に来ていた演歌歌手が豊川稲荷から生中継されていたことを。
「あそこって、芸能の神様をお祀りしているところよね、たしか」
「僕と芸能人は関係ないけど」
またしても授業に協力的でない。東京都くん。反抗期なのか?
「あっそう(「何この餓鬼」)。でもワクワクしない? 青山通りに面してジャニーズ事務所所属タレントや芸能人のちょうちんとかが並んでいるのを見ると」
「べつに。じゃ、ここで先生に教えようか。なぜTBSは豊川稲荷が好きか」
児童が逆に質問してきた。
「(「偉そうに」)それは赤坂にTBSがあって近いからでしょ」
「それもあるけど、もう一つ」
「それ何?」
このあたりから、東京都くんの様子が生き生きとしてきた。
「これは僕の考えだけど、TBSの長寿番組だった『大岡越前』の屋敷に祀られていた稲荷様が豊川稲荷東京別院になったから」 そう言うと東京都くんは、左手を伸ばして赤いスカートに大きなおかっぱのかぶりものをした公共放送のキャラのようなポーズを取った。
「えぇ?」
「大岡越前守忠相を祀った大岡廟もあるよ」
「そうなの? 東京都くんの答えが正解かどうかは別としても、TBSとは意外な関係があるのね」
発言量が増えてきた東京都くんは続けた。
「芸能の神様って弁天様らしいよ。ギター弾いてるから」
「あれはギターじゃなくて琵琶でしょう」
「あのピック、大きいよね」
「それはピックじゃなくて、バチっていうの。それよりも、「最強の刀剣」の問題の方を考えてね。もしかしたらあるかもよ」
サリー先生は、話を本題に戻した。
東京都くんはじっと考え込んだ。
「東京タワー、東京タワー……そうだ、『愛宕山の木刀』とか」
「愛宕山ってマイナーね。いきなり漢字で来られても読みにくいから、先生は読み方を書いておきましたよ」
東京都くんは反論した。
「先生、愛宕山って有名だよ。NHKがラジオの試験放送をしたスタジオは愛宕山で、いまはNHKの放送博物館がある。そこにおみやげの『愛宕山の木刀』が売ってるかも」
サリー先生には通じにくかった。
「微妙ね。売ってない方に10カノッサ(´・ω・`)」と愛宕山をよく知らないサリー先生は適当に受け流していた。
「そうだ! 放送博物館より有名な明治三十三年に作られた鉄道唱歌にあるじゃん。♪きーてき……」
サリー先生は東京都くんの歌を直ちに制止した。
「やめなさい!! 歌の歌詞を紹介するとJASRACにお金を請求されるからね。請求されたら東京都ちゃんが都民の税金で払ってよ」
「じゃ、次の千葉県ちゃんは、どう?」
千葉県ちゃんは、最近なぜか不機嫌になったけど、元は真面目で頭の良い子だった。
「うちは有名で高い山がない」
「あるでしょう、もう一度考えてごらんなさい。東京都くんはよく考えて思いついたわよ。ちゃんとあるから、落ち着いて考えてね」
サリー先生は優しく言った。すると、
「うーん……、そうだ! 実際の山を考えたから思いつかなかったんだ」
千葉県ちゃんは明るく言った。
「えっ? それって?」
サリー先生は驚いた様子だった。
「山は本物の山じゃなくて、お寺のことを指すこともあるよね」
「おぉ」っとクラス一同が声を出した。
「わかった! 成田山新勝寺の木刀」
近頃暗そうだった千葉県ちゃんから明るい声が出てきたのと、意外に優秀な回答が出てきたのにサリー先生は大喜びだった。
「そうよ、それ。成田市は世界最大の宗教都市と主張する学者もいるという成田山不動尊。ね、あったでしょう」
「よく考えれば見つかるね、千葉県ちゃん」と優等生の栃木県ちゃんが慰めるように言った。
「そう。もうだめだと思っても、もう一歩進んで考えることが大切なのよ。諦めたらそこでおしまい。人生と同じなのよ。先生も千葉県ちゃんを見習わなくちゃね」
「それじゃ最後に埼玉県くんは?」
最近引きこもりから幼稚園に戻ってきた埼玉県くんが考え込んでしまった。
「うーん……山は秩父の三峰山とか……でもみんなより地名度が低いかな……」
そこで群馬県くんが吐き捨てるように言った。
「うちより有名な山があるわけなかんべが、埼玉なんかに」
サリー先生は怒った。
「こら!群馬県くん!埼玉県くんは一生懸命考えてるんだから、いじめちゃダメでしょ!」
「はーい……」
すぐにしゅんとなる群馬県くん。
「埼玉県くん、ごめんね。思いついたかな?」
「うーん……」とあいかわらず悩む埼玉県くんに、ツッパリ(死語)の茨城県くんが言った。
「思いつくわけなかっぺ!どうせダサ……」
「こら!茨城県くん!どうして君たち北関東の子は意地悪なの!」
「僕も北関東だよ」とつぶやく埼玉県くん。
「そうね、埼玉県くんも北関東だったわね」
サリー先生の怒りが萎えてしまった。
ここで突然、栃木県ちゃんが声をあげた。
「そうだ、あたし、埼玉県ちゃんの聖剣が思いついた!」
「えぇ? 栃木県ちゃんの方が先に気付いちゃったの?」と、サリー先生が栃木県ちゃんの方を向いた。
「うん。これって今までみんなが言ったのとだいぶ質が違ってて、この授業の流れで言うのは微妙だけど、もしかしたら関東で最強かも……」
関東最強という言葉で、サリー先生は顔色に真剣味が増した。
サリー先生は早口で喋りはじめた。
「関東最強? それを言うとね、東京都くんは言わなかったけど、先生は『草薙の剣』が最強かなと思っていたのよ。だけどよく考えたら、これって皇居にある宮内庁じゃなくて、愛知県の熱田神宮にあるって思い出したの……。それでこれは関東の刀剣じゃないなって思ったのだけど……あれ……先生なんの話してたんだっけ」
しゃべっているうちに、何を言っているのかよくわからなくなる熱血で単純なサリー先生だった。
そこで栃木県ちゃんが答えそうになる。
「埼玉県くんの最強の剣はね、い……」
しかしサリー先生が制止する。
「ダメよ、栃木県ちゃん! いま埼玉県くんが一生懸命考えてるところだから。ごめんね、埼玉県くん」
サリー先生は埼玉県くんの方を向いた。しかし埼玉県くんは、少し拗ねたような、少し諦めたような両方の気持ちの混じった声で呟いた。
「いいよ。どうせ僕は、昔、眼帯の人に特急が県庁所在地に停車しないとか、ネタにされてからかわれていたし……」
サリー先生の脳裏にも、当時アメリカの国旗の模様を眼帯にしていた福岡県出身の男の姿がはっきりと浮かんでいた。しかしここは教育現場だ。園児のやる気を削いではいけない。今は埼玉県くんを慰めるしかなかった。
「いじけないの、埼玉県くん! 特急どころか普通電車も止まらなかった時代は終わったのよ。今はホームを新設して湘南新宿ラインも止まるようになったし、長いこと改造していた駅ナカも充実したし、もう昔の浦和駅じゃないのよ」
慰めているのか、けなしているのか、微妙な発言のサリー先生だった。しかし、
「でも浦和に停めたことで湘新ラインの利用者から顰蹙買ってるし……。待てよ、昔の浦和駅……昔の……昔の埼玉県……そうだ、歴史から考えてみよう!」
埼玉県ちゃんが明るい顔になった。
「そうよ。その調子よ!」
サリー先生も応援した。
埼玉県ちゃんに一筋の光明が見えてきた。人間は明確な目標や方法があると、力を集中しやすいのだ。
「えーと……古墳時代……たしか埼玉古墳群にある稲荷山古墳の鉄剣」
「えー!(@_@;) それって歴史的にめちゃくちゃ資料価値があるのよね」
「私の想像してたのもそれ」と栃木県ちゃんが言った。
「そう。五、六世紀の鉄剣と言われていて、115文字の漢字が刻まれていて、その彫り目に金が埋められている。しかもこれは最も古い日本語表記らしいよ」
先生は腰を抜かしそうになった。
「ぎょえー!! 栃木県ちゃんの言う通り、関東で最強かもね」
「恐れ入りました」とほかの都県のみんなが素直に頭を下げた。
「それでは、勝利を記念して埼玉県くんにプレゼントしましょう」
いつの間にかレースクイーンレオタードに着替えていたサリー先生が、埼玉県くんの愛車を見た。
「これ、埼玉県くんの?」
サリー先生は疑問を投げかけた。
「そうですが、何か?」
埼玉県くんは当たり前のように答えた。
「ていうか、これ、どこで手に入れたの?」
「御殿場の中古車屋」
確かに御殿場は富士演習場をはじめ、自衛隊の広大な施設がある。「だんちゃーく、いま!……どーん」が見られる総合火力演習、略称「総火演」で有名なのがここだ。
「これ、民間人が乗って、公道走っていいの?」
「別に問題ないですよ。ちゃんと3ナンバーを取得していますし」
確かに大宮ナンバーだった。
「お前、これオリーブドラブに塗った古いパジェロだっぺ。なんの問題もなかっぺした」
茨城県くんが埼玉県くんに言った。
「これは自衛隊の『73式小型トラック』で、廃車になったのをラダーフレームとかエンジンとかをパジェロのに交換してちゃんと走れるように改造した車ですよ」
「そういえば、この自衛隊車、時々常磐道を走ってるな」
オリーブドラブ色は、黒と黄色を一対一で混ぜて作れる簡単な色だ。
この色の車両が公道を走っていることは少ない。だから目立つのだ。この色の車を見たら、一般人は警戒するだろう。自衛隊の車といったらこの色だからだ。
「それじゃ、法的に問題ないってことで、貼るわよ」
サリー先生はボンネットのボンネットに星によく似たステッカーを貼っていた。
この意外な状況に、埼玉県くんは思わずサリー先生に尋ねた。
「先生、このシールは首都高都心環状線のレースで勝利した人が貼る黒い星じゃないの? 昔のジャンプの漫画にあったように」
「よく似てるけど違うのよ。これは高尾山の交通安全お守りステッカーの小さいやつ。紅葉の形だけど、星の形にも見えるでしょう」
当たり前のように言うサリー先生。
「はあ。まあ、見えなくもないですけど」
星の形によく似たオレンジ色のステッカーに「高尾山」の文字が印象的だ。オリーブドラブの車体にオレンジのシール。はっきり言って、みっともない。
東京都くんは言った。
「こういうのって、交通安全のお守りって車の後ろに貼るだろ、普通」
「勝者の証だから、車の前に貼ります。みんなの愛車にこの紅葉が増えるように勉強しなさい!」
コミュニケーション障害気味の埼玉県くんはリアクションに困っていたが、コミュ障でなくても、こんなものを貼られたら誰でも困るだろう。
その前に、なぜ五歳児が車を持っているのか、根本的な疑問はそこじゃないか! なぜ誰も突っ込まない!
「それでは今日の授業はこれまでです。It's all for today. Bye!」とサリー先生は手を振った。
「さようなら!」
疑問は何も解決されなかった……。それでも、園児たちの明るい声が、カンパチ幼稚園の庭から真っ青な空に吸い込まれていった。一日の最高気温で全国のトップを争う熊谷駅前の八木橋百貨店には、今年も大きな気温計が設置された。本格的な夏はもうすぐそこまで迫っていた。