64の世界
興味を持っていただきありがとうございます。
読んでいただいている中でもしかしたら気分の良くない言葉とか表現が出てくるかもしれません。
ご了承ください。
楽しんで読んでいただければ幸いです。
~開幕~
始まりは緩やかに、半ばは右も左もわからぬほど激しく、終わりは唐突にあっけなく。
先ほど始まりの合図が鳴り響き、だらだらと人が移動し始める。これから始まる戦争を、見届けるかのような鳥の軍勢。この度の争いはいつ終わるのか。それは誰にもわからなかったが、誰しもが早く終わることを望んでいた。
・ある前線兵士のぼやき・
あぁ、くそっ。俺は所詮使い捨てのコマにしか過ぎなかったってことを改めて思い出させやがる。所詮は切り込み隊。突っ込ませて相手の様子をみる。上はそういう風に考えてら。この戦争の配置を見たときに俺は、指揮官様が無能だとみたね。横一列に伸びた戦線。仲良しこよしってかよ。・・・くそったれ。斜め後ろで仲間がやられた。俺たちは歩兵だ。じりじりと前へとは進むが狩られるときは一瞬だ。くそ。くそ。敵陣深くまで行ければまだ事情は変わってくるのに。罵詈雑言を吐きながらなおも前進。ふと、視界に影が見えた。ん、遠くに見える、、、あれは、、、この男の意識はここまでだった。
・ある騎士のつぶやき・
私は誇り高きもの、自分の信念に付き従い行動するのみ。いつだってそうだった。でも今回は少し事情が違う。この度の戦争。前線の歩兵の使い方と言い陣形の取り方と言い、はっきりいって指揮官は無能だ。戦場で敵前逃亡は軍法会議での処罰が下る。そんな不名誉なことはできない。と言いたいが、本当にひどい。今も歩兵が前に進んだが斜め横から弓を引かれて退場していった。犬死だ。そんな屈辱的な命を受けるぐらいなら私はこのまま自分の意志で突っ込んでいきたいものだ。しかし、私の騎士道に反する行為である、、、どうするか決めかねていたところに敵が現れた。おそらく同じ階級、同じ強さぐらいだろう。私は気持ちが高ぶった。この騎士と全身全霊を込めて戦おう。そのあとはもうどうなってもいい。私は勇ましく剣を抜き、前へ出ようとしたが、目の前の敵に止められる。いやらしい顔をしてそいつは持っている剣である方向を指す。私の大切な親友だ。。。相手のにたりと笑った意味が分かった。今、私が動くと、親友も、これからの戦況も悪くなる。。。大きく深呼吸をして、目をつぶった。
・ある僧正の嘆き・
あぁ、、、ぁぁ、、、愕然とした。僕が油断していなければ、敵に気づいていれば、、、こんなことには。目の前で討ち取られた友がゆっくりと体を傾けていく。倒れる。倒れる。どさっという音を聞き、現実に戻された。そもそもなぜこの戦争に僧みたいな非戦闘員が参加しているのか、この戦争が文字通りの最終戦争であるからであって、勝てば生き、負ければ死亡の総力戦だからだ。だから普段は参加することがない僧まで駆り出されてしまって、このざまである。友の首をはねたやつは憎たらしい笑みを浮かべている。僕はこの時初めて敵に憎悪した。仇を打ってくれ、、、友の亡骸がそう言っているような気がした。敵をやれ、敵をやれ。体中に怒りと悲しみが巡る。無我夢中で相手に食らいつき、何度も殺されそうになりながら、薄皮を切られながらも打ち倒した。はぁはぁと息を整える。僕は真っ黒なこん棒を手に持ち、すぐ近くに横たわる憎き仇が転がっているのを確認して、、、笑った。仇打ってやったよ。もうすぐに逝くから、、、また、一緒に飲みたいな。そう願いながら走り抜ける騎馬兵に巻き込まれ、ばらばらと砕け散った。
・ある騎馬兵の憂い・
見ていられない。今も目の前で一人の僧が跳ね飛ばされた。初めから一部始終見ていた。怒りに身を任せた彼の攻撃はこの戦争への悲しみを感じられた。おそらく、さきに敵の手に倒れたものと近しい間柄であったのだろう。私は馬に鞭を入れて王の近くへと走った。このような戦局では攻めることなどできない。これ以上の王の無謀な作戦を止めるため。無用な犬死を防ぐためにひたすら駆け巡る。途中、幾人かの敵の雑兵をなぎ倒し進む。進む。王の陣営が見えた。守りの兵も少なくなり徐々に小さくなっていく本陣。こんなにまで、そこまでして、、、この戦争にそれだけの意味はあるのかと、、、そのときキラッと視界の端で光る何かをとらえた。感覚が警報をならす。このままでは王が危ない。こんな無能な王でも、わが国には大切な王なのだ。変わりはいない。馬にさらに鞭を入れると私は王の前に飛び出した。刹那、、、私にはそれがなにかわからなかった。ただ馬に乗っていたはずの私が落ちていく。落ちていく途中で馬に乗っている私の下半身が見えた。あぁ、、、明日は旦那の誕生日だったのにな。。。切られたことよりもそれを祝ってやれないことを悔やんだ。
・原因の王の嘲り・
目の前で騎馬兵が真っ二つに切られた。身を挺して守ったことは誉めてやろう。ただそれしか役に立たなかったくず兵だ。目の前にはあの憎き敵国の将軍だ。そもそも、今回の戦争は向こうが悪い。我に恥をかかせ、鼻で笑いおったのだ、だから剣を抜いた。戦争を口にした。一国の王が公衆の前でその意思を表してしまったらもう引くことはできない。それこそ恥の上塗りだ。そうやって抜き差しならない状況に持ってかれたのかもしれないと気付いていたのかもしれないが、抑えられなかった。それほどまでに頭に来ていた。王は自ら命令を下していた。突撃せよ、撃破せよ、打ち破って見せよ。戦争経験どころか軍事的知識もないのに兵を進めた。そして次々に積みあがる味方の死屍累々になおも激昂し、自国の兵を嘲笑ったのだ。こんなにも弱いだなんて思ってもみなかった。この戦争の負けは我のせいではない。兵が弱かったからだと自分自身をなぐさめた。そろそろ限界かと思い、一度退こうとしていたところにかの将軍が現れる。そして今、自分を取り巻く守りの兵の一人さえも将軍に打ち取られた。「最後に言い残す言葉は無いか。」と重く深い声が聞こえた。我は鼻で笑った「たいして面白くもない生であったな。」将軍は剣を持つ両の手に力をいれた。
・黒の王の回想・
あれは愉快だった。およそ3か月前、あの無能な王を自国に招いた。宴をするから来いと。あの王は小国の王で国力も弱い、自国を守る力もないが故に外交で他国とつながりを持ち続けないとならないのだ。一方こちらは周辺諸国の中では飛びぬけている。断るはずもない。案の定、二つ返事だ。浅はかな王。これから食い物にしてやろう。小国なんぞ今更加えても特に意味もないが最近はめっきり愉快なことが無くて困る。あの国で遊ぼう。黒の王はいやらしい笑みを浮かべて準備した。
最大規模の宴を催した。友好と親和のための宴とでも適当に銘打って酒だ食い物だと勧めた。初めはやや硬かったがこちらの対応に気を緩めたのか少しばかり笑みを浮かべてきた。もうそろそろか、、、黒の王は手をたたいた。酒宴にはよくあることだが色を用意した。心行くまで楽しんでくれと。にやにやと卑しい笑みを浮かべながら、女が出てくるのを待った。
無能の王は唖然としていた。黒の王は笑いが止まらなかった。用意した女は無能の王の村の娘。それがあられもない姿で躍らされている。目の焦点があっていない。当然だ、薬でおかしくしてある。この宴が終われば用積みだ。使うだけ使って捨てるだけ、、、無能の王は声を押し殺して「この女たちは?」と聞いてきた。黒の王はそれは満面の笑みを浮かべて「つい最近、奴隷商から買ったのだよ。どれ、幾人か譲ってあげようか、友好の証として。」といい。嗤った。無能の王は下を向き、手を白くなるまで握り続ける。突如、嬌声が上がる。黒の王はやれやれと言った表情でその先を見る。側近の将軍が息猛々しく一人の女に馬乗りになった。。。その女は無能の王が小さいころに町で一緒に遊び、学んだ仲間であった。地方の子爵に嫁いだと聞いていたがこのような場所でこのような形で会うとは、、、無能の王は席を蹴るように立ち、涙に濡らした顔を向け、剣を抜いた。黒の王はしめしめ予定通りと言う顔をした。両国の大臣、宰相もいるこの場所で一度抜いた剣はもう引っ込められない。
・黒の将軍の悔恨・
目の前の王は震えていた。俺の殺気に当てられたのかガタガタと鎧を鳴らしている。無様で情けない。年で言えば成人(ここでは15歳を指す)を少し過ぎた頃合いであろうか、まだ戦うと言う事を知らぬ。命を奪い、奪われるというやり取りを、駆け引きを知らぬ。俺は鼻で嗤う。こんな腑抜けをたたき切ったところで血が収まらないなと、そうだ、今夜は女を増やそう。どうせ相手は敵国の女だ何人壊そうが文句は言われまい。
俺は元々奴隷の出だった。黒の王の国に戦争で敗れ、当時子供だった俺は戦争に連れていかれた。戦力としてではない。一部の狂ったやつの慰み物としてだ。地獄のような毎日も心が壊れれば何も感じなくなる。ある時、飼い主が反応が薄いことに腹を立てて俺の首を絞めた。その時、久しぶりに感じた。・・・怖い、死にたくないと。無我夢中で暴れた。そして助かった。横には血だまりと飼い主のなれの果て。手にはどす黒くなった小刀。初めて人を殺した、じゃないと殺されたから。そして、手が震える。恐怖かもしれない、けれどそれ以上に楽しい。気持ちがいいという感情が心を塗りつぶした。きわめて自然で、しかし、歪んだ世界にいるのなら歪めばいいか。その時にそう思ったから歪んだのか、心が壊れたときにはもう手遅れだったのかはわからない。ともかく俺は歪んだ。壊すことに愉悦し、壊れる様に欲情し、壊れた姿に至上の快楽を得るようになった。
もしかしたら、あの時奴隷に堕ちていなければという話はない。過去から未来までは一本道で不可逆的。俺は両手に力を込めてその重たい鋼を振り上げた。幾人にもしてきた動作を同じように、ただ繰り返す。ふぅと息を吐く。そして、俺は大きくひん曲がった口を弓なりにして目の前の物に切りかかった。。。振りかぶろうとした時にとてつもない衝撃を腹に受けた。俺は何のことだかわからなかった。ただ痛い。ぎょろりとした目がさらに大きくなる。血が流れ出る。誰の?俺のだ。なんだこれは、腹が涼しい。穴が開いたらしい。なぜだ。目の前の王をにらむ。。。そうか、隠し玉か、油断したか、ゆっくりと力が抜けていく。崩れ落ちる体はもう支えられない。暗くなっていく世界の中で俺はこう思った。あぁ、、、最後にもう一人ぐらい壊しておくべきだったと。
・二人の前線歩兵(隠密)の絶望・
私たちは密かに歩を進めていた。敵陣深く、さらに深く。この戦争が始まってから敵に見つからないようゆっくり、だが確実に。人の歩み故遅く、時間はかかったがようやくたどり着ける。敵国のバックライン、第8ランクに行け。私たち姉妹に与えられた任務だった。なんのことかわからない。第8ランクに何があるのか、敵陣後方から奇襲でも仕掛けるのだろうかと考えを巡らしてみたが、それ以上の何かは思いつかなかった。最前線の歩兵は道具でしかない。考えずに突き進むしかないと姉は言っていた。さばさばとした姉だ。
じきに成人を迎える姉には婚約の申し込みが多く来ていた。地方の有力者に、都会の貴族。村の中でも美人な姉は私の自慢だ。ただ少し、さばさばしすぎていて、正義感が強くて私のことをかまいすぎる。小さい頃の話だ。私が村の男の子にいじめられているところを見つかり、男の子を撃退し、私はそれから半年ほど外に出るときはいつも姉がついてくる羽目になった。大切にされて嬉しいとは思うが、私は姉自身にも幸せになってもらいたいと思っている。
数か月前のことだ、戦争の話しが出ると姉は私にこう言った。
「このままだとこの国は負ける。そうなるとあなたが不幸になる。それは許せない。だから、戦ってくる。ごめんね。少し離れるけど。。。」
そう聞いたときにはびっくりして言葉が出なかった。姉が戦争で戦う?どういうこと?私は泣きながら反対した。来てる申し込みはどうするの。私じゃなくて、もっと自分を大切にしてよ。「ごめんね。でも私はあなたが一番大切。たった一人の妹だから。。。」申し訳なさそうに言うと読まれてもいない手紙の束を暖炉にぶち込んだ。姉の決意に対して泣きながら姉に言った。
「私も連れてって。」
私は姉についてきた。足手纏いになることを承知で。最期の時まで姉の近くにいたかった。そう思うと私のほうが姉にしがみついてしまっているのかもしれない。第8ランクまでもう少し、私たち姉妹は走る。息が上がってきた。姉は、私の後ろから見守るようについてきている。あと少し、何があるのかわからないけれど、あと少し、そこにつけば私たちの戦争が終わると信じて、走る。私の視界の右端に黒い影が動いた。それは突然に現れ、一気に迫ってくる一騎の騎馬兵。足がすくみ動けなくなる。声が出なくなる。震える。恐怖に支配され何もできなくなった。馬の上の男がニヤリと嗤い、槍を突き出してくる。、、、ここまでか、目をつぶってしばし、訪れたのは肉を突き破る音と血しぶき。怯えながら目を開けると背中から矛先の出た姉が立っていた。私は絶叫し、視界が揺れた。
・片割れの歩兵(死にゆくもの)の希望・
とっさの出来事だった。あの子が殺されると思ったときにはもう体が反応していた。目の前には黒の甲冑に身を固めた騎馬兵。万が一にも歩兵である私に勝ち目はない。だが、あの子を守って死ぬことはできる。そもそも、これは私の我が儘だった。毎日届く会ったこともない人からのラブレター。大人になるから、嫁がないといけないから、なんてことは知らない。聞きたくない。私はあの子と妹と一緒にいたい。。。私たち姉妹は小さい頃に両親を亡くした。たまたま、良識のある人にもらわれて、運よく奴隷にならなかっただけだった。あの時から私たちは二人だった。寂しいことも苦しいこともたくさんあった。姉あるがゆえにしっかりしないとというプレッシャー。
ある時、姉であろうとする私に妹はこういった。
「おねぇちゃん?むりしちゃだめだょ?」
その言葉で救われた。あの子は覚えていないかもしれないけど、その言葉が無かったらもっと早くにつぶれてしまっていただろう。その言葉がなかったら今日まで生きていなかっただろう。あの子を守りたい。そう思うようになった。この感情が恋なのかどうかはここでは考えない。だって、あの子の笑顔を見れるだけで幸せだったから。
体中が熱い。体から流れ出る血液の量が自分に残された命の少なさを示していた。あぁ、もうあの子の笑った顔が見れないのか、髪を結ってあげられないのか、一緒にお買い物もできないのか、ぐるぐると今までの記憶がよみがえる。走馬燈。最後に一つだけ、力を振り絞ってあの子を守ろう。口からも血が出る。あぁ、これで笑うと怖いかしら。そう思いながら私はお腹に刺さっている槍の柄をしっかりと握ると妹に振り向いた。声にならない声で、最後にとびっきりの笑顔で、
「ねぇ、、、笑って?」
・残された歩兵の変貌・
姉が、、、死んだ。その事実は受け入れられるものではなかった。脳がちかちかとする。今まで姉が見せた顔がフラッシュバックのように思い出す。いや、いやだ、置いていかないで。ずっと前から守ってくれた。私の幸せを気にしてくれていた。なら、私を置いていかないで、ぐらぐらする心が悲鳴を上げる。心が痛い。姉が振り返る。きれいな姉の顔が自分の血で汚れている。そして、いつものように笑いながら、
「 」
もはや音にならない思い。それでも思いは伝わった。私は姉に笑い伝える。「ごめんね。ありがとう。」と。それから、数回の思いを交差させたが姉がそろそろだとばかりに力が抜け、槍にもたれかかる。私は駆け出した。第8ランクに向かって、泣きながら、姉の作ってくれた最後の道を泣きながら、叫びながら。
その様子を見ていた騎馬兵は慌てて追いかけようとするが姉の握りしめた槍が抜けない。もはや死人にこのような力があるとは思えず、黒の甲冑はぎょっとする。思いの強さなんて格好の良いものではない。ただの根性。とでも言いたげに笑みを浮かべている骸。そして、その時は来る。息も絶え絶えに走り抜けてきた。やっとたどり着くバックライン、第8ランク。私たちの終着点で私の到達点。さぁ、着いた。どうすればいいの?なにがあるの?もはや思いは声に出ていた。
しばし、間があき、やがて、声が頭に鳴り響く。(汝、何を望むか?)この不幸な戦争を終わらせて。(それは互いの王が決めたこと、王をどうにかするしかない。)なら、王を止めて。(我は、直接干渉することはできぬ。しかしならば、力を与えることはできる。絶対的な力を。。。)、、、わかったわ。私に力を与えなさい。姉を殺したものも、この不毛な戦争もすべて壊し尽くすわ。(よかろう。勇敢なる弱きものに強大な力を、クラスチェンジ。)少女が戦鬼となった瞬間、姉の槍を握った力がなくなった。
・目覚めた物と目醒めた者・
私は瞼を開けた。悠久かに思える眠りの中でかすかに聞こえた声、声。その呼びかけに答えたらんとするが、いかんせん、体の自由が利かぬ。まだ、前回の反動が来ているとみる。あぁ、我が君主よ、いまだ健在か。。。すぐそばにはどてっぱらに大穴の開け、使い勝手の悪そうなどでかい刀と一緒に真っ赤な地面に沈む亡骸。そういうことか、君主は勇ましく戦ったか、己の隠し玉を持ってして敵を討ったか。苦悶にゆがみ、脂汗のかいた顔を見る。左肩脱臼と腕の複雑骨折。至近距離からのマグナムクラスの発砲。隠し玉とは自らの左手をつぶし、体内に兵器を埋め込む生物としては外道の処方。それほどまでにしてこの戦に賭けて・・・肩を外し元に戻す。一瞬の苦痛に呻く君主に心を痛めるがそれも治療であるならば仕方がない。我が君主はこういった。
「対価は払う。だから、あとは、よろしく頼む。」
そういうとよほどの緊張、よほどの恐怖、そして疲れ、すべて重なって限界だったのだろう。ばたりと倒れ込むように気を離した。
えぇ、我が君主の望みならば。そう小さく言うと立ち上がる。無機質なフォルムと血の通っていない鋼の肉体。背中に生えた羽。それは自分をコントロールされたシステムだと言うがはっきりとした自我がある。”対広域戦闘プログラム”とそれに呼応する鉛色のオーバーテクノロジー。それらを総称してこう呼ばれていた。殺戮人形クイーンと。そして今それは目覚めた。無能の、いや、白の王の望みを叶えるために、黒の王を討つために、、、
同刻、強烈な怒りと悲しみの果てに第8ランクに至った戦鬼が動く。姉を屠ったものに最期を届けるために、、、溢れてくる力。湧き上がる怒りと悲しみ。目の前の騎馬兵を見やる。ほんの少し前、私はこいつの恐怖し、固まった。今はどうか、、、このような弱きものに費やす時間は惜しい。再度、見る。卑しく嗤っていた口が引きつっている。そして、私は殺した。四肢をもぎ、はらわたを引きずりだし、最後に頭を刎ねた。それはより残虐に相手に恐怖を与えるためにではない。すべては自分に与えられた力を確認するため。しかし、彼女は人をきれいに殺せない。それは力を望んだ時に復讐の思いが強かったからかもしれないが定かではない。のちに、彼女を残虐の戦姫と呼ばれることになる。ここに力あるものが目醒めた瞬間だった。
~激動により題目なし~
ひどく一方的だった。交差する二つの物と者。そのたびに吹っ飛び、ばらばらになる黒い軍勢。戦局は変わった。白の王を追い詰めた将軍が倒れた時に一変した。黒の王を求めて駆け巡り続ける二つ。白と黒の死屍累々を踏み越えてやがてたどり着く結末。黒の本陣には怒号と悲鳴が飛び交い、あちらこちらで腕や頭が空に舞う。その様子を見た黒の王は机の下で頭を抱えた。
・白の王と黒の王・
黒の王は嘆いていた。なぜこうなった、いつからおかしくなったと、あの外道将軍が油断して死んだこと。突如現れた二つの戦力に自軍が太刀打ちできるものがいなかったこと。思い起こせばこの戦争始まった時から黒の王が圧倒的に優位だった。経験、知識、感。すべて白の王よりも勝っていた。にもかかわらずこの様はと悪態をつく。じきにやってくる死神、一騎当千の働きを見せるものがなぜこの戦争の終盤まで姿を見せなかったのか理解できなかった。出し惜しみ?する必要がどこにある。こちらにはそんな戦力はないのに反則じゃないかと喚く。そう、一つは戦争が始まって片時も動くことが無かった。一つは激しい思いの果てに変わった。そんな道具の成り行きの様を黒の王がわかるはずがない。
黒の王はむごたらしく泣き喚き、暴れ、命を惜しんだ。と、今まで怒号と悲鳴でうるさかった周りから音が消えた。。。静かだ。そしてその時か、黒の王は思った。ゆっくりとただその音だけが聞こえてくる。足音と起動音。二つの音は両方からゆっくりと近づく天幕が引き倒される。立っているものはそのふたつと黒の王だけ。終焉の時。咽び泣きながらそれでも生にすがる王をふたつの物と者は貫き、切り刻みこういった。”チェックメイト”
混濁する意識の中で白の王は自分たちの勝利を理解した。勝てたのだ、誇りを、尊厳を守り我は、小国の王ながら未だ町に震える臣民を守れたのだと。。。そう思いたい。始まりは我の独断でしかない。自国の小さな村が盗賊に襲われた。知っていた。探していた。そこに住んでいた人たちを。あの宴で出会ったのは偶然ではない。黒の王は買ったと言うがあれは嘘だ。既に頭に血が昇っているところに見せられた光景にもはや無意識に剣を抜いていた。それからは地獄のようだった。もともとこの国は主たる戦力を持たない小国。ただ、宰相が外交に長け、周辺の国をうまく調整しているだけの綱渡りの国。故に我は無能の王と罵られることが多い。でもそれは良かった。自国が平和であるなら。無用な戦争が起きないのであれば、それでいいと。小さい国だからこそ、人の生活している顔がよく見えた。我が小さい頃によく遊んだ仲間も一緒に勉強した仲間もみんなのことが大好きだった。戦争を公表し人を募るのには心が痛んだ。人が死ぬ。我が好きな人が大勢死ぬ。我の独断で、、、
白の王は泣いていた。この戦争に勝った。当然負けると思われる戦争に勝ったのだ、そして、見知ったものが多く死んだ。そして、多くのものを苦しめた。王としての責務がこれほどまでに重いものとは思っていなかった。辛い。苦しい。痛い。悲しい。ぐるぐると感情が回る。そこに二つの音が聞こえる。白の王はゆっくりと目を開ける。無表情な人形からは”対価をもらいにきた”と、返り血で真っ赤に染まった少女からは”禍根を断つ”と言われた。白の王は微笑んでいう。「好きにしろ。」
慈愛に満ちた王の首が空に刎ね上がった。
~終幕~
その殺戮人形クイーンと言われている物は一見すると女神のような天使のような姿をしている。また、主の命には絶対に従うようにプログラムされている。そう、付き従う妻のように、、、彼女は過去の大戦の遺物。名の知れぬ技師によってもたらされた圧倒的な力。ただ、動力には人の魂が必要となる。故にもろはのつるぎと小国では伝えられてきた。よほどのことでは使うべきでない。そう言われてきた理由はもう一つ。命令を下したものの命を対価に願うこと。それこそ、この兵器の逸話が世に語られなかった真相でもある。人形が王に近づく。もう、動力がない。絶大な力のために多くの人の魂を必要とし、かつ最後に君主の命をまでも奪い取る。人形は首のない王に寄り添った。その起動音が静かになるまで君主の側でゆっくりと付き従うために。。。
気分は晴れなかった。しかし、天気は良かった。プレイコールが鳴らされて長いような短いような時間も今終わった。目醒めた少女は黒の王を討った。そして白の王も討った。この戦争に勝者はなく、敗者もいない。ただ等しく骸になった。立っているのは少女一人。悲しみと怒りに突き動かされ、ここまできた。姉のいない世界に意味などない。音のなくなった場所で少女は一人涙を流した。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回はチェスを題材に扱ってみました。ちょっと駒の名前と役割が最後の方無茶苦茶だったですけど、、、
一応扱いは殺戮人形さんはまんまクイーン、戦鬼さんもクイーンの扱いです。わかりにくかったと思います。
バックラインは相手陣地の最終、第8ランクは白側から見たときのバックラインの場所と、、、調べているので間違ってたらすいませんです。
今回ちょっと長く書いたのでいろいろ辻褄が合わなかったかもしれませんがご愛嬌で許して下さい。
長くなりましたが、ありがとうございました。