くっころ
それから予定通り、ボールを借りてから池たちのところに戻り、しばしビーチバレーもどきをして遊んでいると、絶望した表情の朝倉と、気まずそうな顔をしている甲斐が現れた。
……俺は察した。
この様子だと、ナンパは失敗したのだろう。
俺は朝倉の隣で、彼の肩を優しく叩いた。
「いや、友木先輩。これは……」
「お願いだ、甲斐! ……何も言ってくれるな」
甲斐がフォローをしようと俺に何か言おうとしたのだが、それを突っぱねる朝倉。
よっぽど堪えたんだろう。俺はしばらくの間、朝倉には優しく接しようと心に決めた。
甲斐はと言えば、複雑な表情を浮かべていた。
もしかしたら、自分ばかりがモテまくって、朝倉に申し訳ないと思っているのかもしれない。
そんな負い目を感じる必要はないはずだが、こいつは優しい奴だな。
そんな風に思っていると……、
「あ、お兄さんだー!」
「さっきは遊んでくれてありがとねー!」
「また連絡するから、遊ぼうねー」
と、そんな声が聞こえた。
朝倉が、びくりと肩を跳ねさせた。
そして、恐る恐る振り返る。
なんだ? もしかして、ナンパには成功していたのか?
それならばなぜ、こんな絶望に打ちひしがれた表情をしているのか?
そう思い俺も、彼の視線につられて、その先を見る。
華奢な体躯に、可愛らしい水着を身に着けた4人の女子……というか。
どう見ても10歳前後の女児が、そこにはいた。
「え……朝倉?」
「知らない子たちだなもしかして俺のことをからかってるのか?」
俺の問いかけに、朝倉はこちらに視線を合わせないまま早口でそう答えるが、
「えへへ、それじゃバイバーイ、よしとくーん!」
思いっきり朝倉の名前が呼ばれていた。
「おい、善人」
「何も言うな、友木……っ!」
悔しそうな表情を浮かべ、朝倉は声を振り絞って言った。
……やっちゃったな、こいつ。
そう思いつつ。
朝倉のことだから、別に狙って彼女らをナンパしたわけではないのだろう。何かあったに違いない。
俺はそう察して、もう一度、彼の肩を優しく叩いた。
「ビーチバレー、やってるんだ。朝倉、良かったらトスの仕方を教えてくれよ」
俺の言葉に、彼は顔を上げる。
それから、「すまねぇっ……」と、目の端から一筋の涙を零す朝倉。
俺は無言のまま応じ、それから池たちのところに戻ろうとして……。
「え、朝倉先輩。……小学生をナンパしたんですか?」
「それって……大丈夫なのかな?」
「……見損ないました、朝倉さん」
軽蔑の眼差しを向ける女子陣。
特に、竜宮の向ける視線は鋭かった。
膝を地面につき、朝倉は悔し気に呟く。
「くっ……殺せ」
――まさか朝倉の口から「くっころ」を聞くことになるなんて、思わなかったなぁ。
俺はもう一度彼の肩を優しく叩きながら、他人事のようにそう思うことしかできなかった。






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