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あざとい可愛い

「それじゃ、俺たちは何をしようか?」


 池が皆に向かって問いかける。

 しかし、何がしたいか、誰も提案しない。


「冬華は海とか結構来そうだけど、海って何しに来るものなんだ?」


 話が進まないと思った俺は、冬華にそう聞いたが、


「私、あんまり海には来たことないんで分からないんですよねー。ナンパとかめっちゃウザそうじゃないですかぁ」


「……なるほど」 


 確かに冬華は美少女だから、そうなってしまうのだろう。

 今だって、通り歩く男たちが冬華……だけでなく、夏奈や竜宮に目を奪われている。

 ……今更だけど。

 俺を除いて、美少女と美男子しかいないな、ここ。

 

「あっ! それじゃ、ビーチバレーとか良いんじゃないかな? ボール、あっちで借りられるみたいだし」


 夏奈は売店の方を指さしてから、そう提案した。

 ビーチバレーか。お約束な感じはするな。

 そう思ってから俺は、ハッとする。


 池……いや。

 春馬と夏奈でビーチバレーとか、はるかなレ〇ーブをするつもりか。

 池のお尻の作画が良くなっても困るぞ。


「ビーチバレーか、良いな、なんだか海っぽいな」


「面白そうですね」


 池と竜宮が好意的な返事をしたが、


「……うっわ、葉咲先輩。ちょーあざとくないですかー?」


 冬華が、呆れたようにそう呟いた。


「え……? あざといって、どういうこと?」


 夏奈が訳が分からないとでも言うように戸惑いを浮かべてから、そう問いかけた。

 はぁ、と冬華が一つ溜め息を吐いてから、答える。


「ボールを追いかけて揺れる胸を、優児先輩に見せつけたいだけでしょ?」


 冬華が夏奈の胸元を、指さしながら言う。

 俺はその指先に一度視線を向け、あまりのボリュームに視線を上げ、その時に丁度夏奈と目が合った。

 咄嗟に胸元を隠そうとしたが、そうはしなかった。

 恥ずかしそうな表情を浮かべつつ上目遣いに俺を見ながら、彼女は言う。


「べ、別に見せつけたいわけじゃないけど。優児君が見たいって言うなら……見ても、良いよ?」


 そう言われて、俺はさっと視線を逸らした。

 冬華がイラついたように俺を見ているのが分かる。

 彼女が何かを言おうとして……。


「痴女……」


 冬華が口を開く前に、竜宮が冷たい声でそう言った。


「た、竜宮さん!? 私痴女じゃないから……って、ちょっと怖いよ……」


 夏奈が竜宮を見て、動揺を浮かべた。

 俺も竜宮を見る。

 彼女の瞳の奥に、暗い光が宿っている。それは、巨乳に対する憎しみと怨念だろう。

 無表情のまま胸元のパレオを指先で弄るその姿は意外と可愛い……わけがない。

 普通に怖かった。


「うんうん、乙女ちゃんの言う通り、痴女ですよね!」


 冬華が嬉しそうに竜宮に言った。彼女に対する好感度がまたしても上がったようだ。

 しかし竜宮は、冬華の胸元と自分の胸元を見比べて、少し落ち込んでいた。

 ……なんだかそれがかわいそうに見えて、俺は夏奈に向かって言う。

 

「悪い、夏奈。俺は意識して見ないようにするけど……周囲の目もあるから。冬華みたいにTシャツを着た方が良いんじゃないか?」


 周囲の男たちの目もそうだが、竜宮の目もある。

 ……流石にそこまでは言えなかったが。


「ゆ、優児君がそう言うなら……。うん、分かった。ちょっとTシャツ取ってくるねー」


 そう言って、夏奈は少しだけ離れた場所に置いている荷物のところまで歩いて行った。

 その背中を見ながら、冬華が俺の手を引いて、急かしたように言う。


「それじゃ先輩、私たちはボールを借りに行きましょう!」


「ん、ああ。そうするか」


 池と竜宮にそのことを伝えると、


「そうか、頼んだぞ」


「お、お願いいたします」


 爽やかな笑顔を浮かべて言う池と、その池を横目でチラリとうかがいながら、照れくさそうに言った竜宮。……二人きりになれて嬉しいんだろうな、分かりやすい。


 それから俺は、冬華とともに売店に向かうのだが……。

 どうしてか道を外れていった。

 デジャブだった。


「いや、冬華。どこに行くんだよ? こっちには、何もないだろ」


 俺がそう問いかけると、冬華は照れくさそうに俺を見てから、プイッと顔を背けてから言う。


「い、良いじゃないですか。ちょっと先輩に聞きたいことがあるんです」


 聞きたいことがあるくらいなら、別にどこでも良いんじゃないか?

 そう思いつつも、俺は冬華について行く。


「ここら辺なら、良さそうですね」


 着いたのは、人気のない岩陰。

 こんな場所にいても、何もすることはなさそうだが。


「良さそうって言うのは……何がだ?」


 俺の問いかけに、顔を真っ赤にして俯いた冬華。

 何か変なことを聞いただろうか? そう考えたが、答えはないままだ。

 しばらくしてから、冬華は俺をまっすぐに見据え、意を決したような表情を浮かべた。



 

 

 





 それから、勢いよく着ていたTシャツを脱いだ。










「っ! ……な、何してんだ、冬華?」


 俺は見てはいけないと思い、咄嗟に顔を背けてそう言った。

 ……しかし、よく考えたら水着を着ているだけだろうし、別に背ける必要はないな。

 そう思い、少し照れくさい気持ちを抱きながら、改めて冬華を見る。

 

 見ると、シンプルな黒いビキニを身に着けた冬華が恥ずかしそうな表情を浮かべて立っている。

 上気し赤くなった頬と、夏の日差しに照らされるその白い肌に、黒い水着が良く映えていた。


「似合っているな」


 とりあえず、俺は思ったことをそのまま口にした。


「ホントですか?」


 不安そうな表情で、冬華が尋ねてくる。


「ああ。シンプルな水着だからこそ、冬華のスタイルの良さが際立っていて、なんというか。……凄く綺麗だと思う」


 俺の言葉に、一瞬で顔を真っ赤にした冬華。

 ……あ、やばいな。

 思ったことをそのまま言葉にしすぎたせいで、セクハラみたいになっていたか。


「悪い、セクハラだった」


「べ、別にいいですけど……」


 もじもじした様子で、そういう冬華。

 結構気にしていそうな反応だった。

 俺は気まずくなって、質問をした。


「ていうか、なんでTシャツを脱いで、水着姿を俺に見せてきたんだ?」


 そう問いかけると、ぴたりと動きを止めてから冬華が言った。


「せっかく海にまで来たので、恋人の先輩に、私の水着姿を見てもらいたかったんですけど、それって別に変なことじゃないですよね?」


 笑みを浮かべつつも、その瞳は笑っていなかったし、声音も冷たかった。

 何か怒らせるようなことを言ってしまっただろうか?

 と思いつつ、もう一つ浮かんだ疑問を問いかける。


「それなら別に、ここまでくる必要はなかったんじゃないか?」


 今度は、明らかにムッとした表情を冬華は浮かべた。

 それから、視線を俯かせてから、ぼそぼそと小声で答える。


「別に、スタイルに自信がないわけじゃないですけど。もっと前から知ってたら、一昨日アイスを食べたりしなかったし、水着だって先輩と一緒に選びに行きたかったし。……ていうか、下手なグラビアアイドルも裸足で逃げだすあの人の隣で水着姿ってのが、ちょっと無理っていうか」


 冬華は夏奈に比べられたくないようだったが、彼女のスタイルも、かなり良い。

 ……正直俺は、ドキリとさせられた。


 しかし、女心的には、普段からテニスをして絞られているうえに、あの巨乳の持ち主である夏奈の隣で水着姿にはなりたくないとのこと。

 つまり、竜宮が闇堕ちするのも仕方がないということだ。


「……そもそも。先輩以外の人には、見せたくないですし」


 ……あざとい。

 俺を惚れさせることに徹底してるな。

 彼女の言葉に照れくさくなってしまったのを悟られないように、俺は胸の内でそう思い、平静を保つ。

 俺が無言でいると、心配そうに彼女が問いかけてくる。


「先輩に選んでもらうのが一番良かったんですけど、そんな時間もなかったので。……この水着、先輩に気に入ってもらえたら嬉しいんですけど、どうですか?」


 自分の着ている水着を指さす冬華に、俺は答える。


「ああ、良いと思うぞ。さっきも言ったが、すごく似合っている」


 俺の言葉に、冬華は安心したように笑みを浮かべてから言う。


「良かった。先輩、ブラックコーヒーばっかり飲むから、きっと黒色が好きって思ったんですよ」


「それは、浅はかすぎるだろ」


 茶化すように言った冬華に、思わずツッコミを入れる俺。


「そうなんですよ。良く考えたら私、先輩の良いところはたくさん知っていますけど。先輩の好みとか趣味とかって、実はあんまりよく知らないので。……こんな浅はかなことしか、思いつかなかったんです」


 優し気な笑みを浮かべ、冬華は続けて言う。


「だから、これからは。たくさん、先輩のことを知っていきたいです」


 そう言ってから、照れくさいのか頬を赤く染めた彼女が、とても可愛らしく見えた。

 俺はそんな冬華にただ一言「そうか」と返すことしかできなかった。



 ……本当に、冬華はあざとい。



 そう思いつつも、なんだかんだで嬉しいと思い、口元が緩むのは。

 仕方ないことだろう――。



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