運命的な出会い
一度池たちと合流をするために、俺たちは移動をする。
その最中に、俺はもう一度二人に向かって問いかける。
「それで、二人はどうしてここにいるんだ? 偶然か?」
「乙女ちゃんに聞いたんですよ」
「竜宮に?」
冬華の回答を聞いて、俺はどうして竜宮が知っているのだろうかと疑問に思った。
「うん。春馬と生徒会室にいるときに聞いたんだって」
「朝倉先輩が声をかけて、男子だけで遊ぼうって話になってたみたいですけど、乙女ちゃんが察したみたいで『不純異性交遊の可能性があります。冬華さんは友木さんのことが心配ではないですか?』ってメッセージがあって、こうして着いてきました」
「ちなみに、私も竜宮さんから『会長と友木さんが道を踏み外さないように、手伝ってくださいませんか?』って連絡がきたの」
「なるほど……」
池も、まさか誘ってもない竜宮が来るとは思わなかっただろう。
だから、場所や時間などを竜宮に教えてしまったのかもしれない。
「先輩が道を踏み外す前に見つけられて良かったです」
「そうだね、優児君はちゃんと反省してよね?」
両隣から、不満そうな声が聞こえた。
俺は別に道を踏み外しそうになった覚えはないのだが、もう一つ疑問が生じた。
「あれ、それじゃ竜宮は今どこにいるんだ?」
俺の言葉に、冬華と夏奈が顔を見合してから苦笑をした。
どうしたのだろうかと思っていると、
「あ、見えました。あそこ、乙女ちゃんいますね」
冬華がそう言って指さした先には、不機嫌そうな表情で仁王立ちをする竜宮と、苦笑を浮かべる池を見つけた。
もう少し近づいていくと、どうやら竜宮が池に向かって説教をしていることが分かった。
「そもそも! 全校生徒の模範となるべき会長ともあろう方が、海で婦女子に軽々しく声をかけるだなんて、言語道断です! 反省をしてください!」
ぷんすか怒っている竜宮。
生徒会副会長として、会長に説教をしている体裁だが……明らかに私情が入り込んでいた。
「乙女ちゃん、朝倉先輩たちがナンパしてた女子大生グループに割り込んで、無理矢理話をつけて引き離したんですよ」
「あの時の竜宮さん、凄かったよね……」
冬華と夏奈がその時の様子を思い返したのか、再び苦笑を浮かべつつ言った。
なるほど、それでさっきまでいた女子大生グループとは離れたところにいるわけだ。
「ああ、悪かった。本来なら止めるべきだったんだが、どうにも断り切れなくてな」
池は頬を掻きながらそう言った。
俺は頷く。
朝倉のあの縋るような眼差しを受けて断れる奴がいるのなら、俺たちの前に連れてきて欲しいくらいだ。
「……良いでしょう。今回は大きな過ちもなかったようですし、このくらいで。ただし、今後はこのようなことがないように、自重するように、お願いします」
ふぅ、とため息を吐いた竜宮。
説教が終わったようだったので、俺は二人に声をかけることに。
「よう、竜宮」
俺が声をかけると、びくりと肩を弾ませてから、竜宮が振り返った。
「……友木さんですか。ごきげんよう」
俺を見てから、不機嫌そうに挨拶を返す竜宮。
彼女も、もちろん水着姿だ。
エレガントな印象を受けるビキニを身に着け、胸元にパレオを巻いている。
ほっそとした腰や、長い手足を見て、スタイルが良いなと思うと同時に、胸にはやはりコンプレックスがあるのだな……と失礼なことを考えてしまう。
「会長には先ほど言いましたが。友木さんも、冬華さんというあなたにはもったいない、素敵な彼女がいるのですから。彼女が悲しむようなことをするのはやめてください」
厳しい口調で俺を嗜める竜宮。
その言葉を聞いて、瞳を輝かせる冬華。
「乙女ちゃんの言う通りですよっ! 私が悲しむようなことは、もうだめですからね?」
どうやら冬華の竜宮に対する好感度が上がったようだ。
「ああ、気を付ける。それで、甲斐と朝倉がいないようだが、二人は?」
俺の問いかけに応えるのは、竜宮だ。
「皆さんが声をかけられていた女子大生グループから引き離した後、少々小言を申しました。それから、二人で泳ぎに行かれましたよ」
「そうか。二人で泳ぎに行ったか……」
現実に心砕かれた朝倉は、本当に泳いでいるかもしれない。
もしかしたら懲りずに、甲斐を餌にナンパをしているかもしれない。
だが、どちらにしても。
冬華と夏奈に挟まれている俺の現状を彼に見せるわけにはいかなかったので、少々ホッとするのだった。
【とある友人と後輩の会話】
「くそう、すまない甲斐……。お前一人だけなら、いくらでも相手してくれそうなギャルがいるってのに、俺が足を引っ張っちまって……」
一人の少年が、悔しそうな表情を浮かべながら、震える声で言った。
その言葉を聞いたもう一人の少年は、苦笑を浮かべてから応えた。
「俺には今、憧れている人がいるんです。……別に、ナンパで彼女を作ろうとは思ってないんで、いくらでも付き合うっすよ」
「……そうか、そういう奴がいるのに、ナンパに付き合わせちまって、やっぱり申し訳ないな。……そろそろ、次で最後にしよう」
覚悟を決め、晴れやかな表情を浮かべるその少年の言葉に、もう一人の少年は頷いた。
さて、次はだれに声をかけようか……。
少年が真剣な表情で周囲を見渡していると、彼の頭にボールがぶつかった。
「いてっ! ……なんだ、ボール?」
少年がそのボールを拾うと、
「ごめんなさーい」
「大丈夫ですかー?」
と、可愛らしい声が掛けられる。
そして、少年は天啓がひらめく。
――これを機に、自然に女の子とお近づきになれるのでは?
振り返り、満面に笑顔を浮かべてから、少年は告げる。
「大丈夫っすよー。ていうか、良かったら俺たちも一緒に遊んでいいすかー?」
「ふぇ?」
「これって、もしかして……ナンパってやつですか?」
戸惑いが滲む女の子の声。
それを聞いて、少年はここで初めて彼女らを正視した。
そして――しまった。
彼は声には出さずにそう思い、表情を強張らせた。
「えー、どうしよっか?」
「うーん、でも優しそうなお兄さんたちだし……良いんじゃない?」
――やってしまった。
一人の少年がそう嘆き。
――やっちゃたな、この人。
もう一人の少年が、他人事のようにそう思った。
しかし、この出会いが。
一人の少年の青春を大きく変えることになるのだった――。






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