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修羅場?

「よし、ターゲットはあの五人組の女子大生っぽいお姉さんグループだ」


 上機嫌となった朝倉が、前方を指さして言った。

 俺たちはその先を見る。


 そこには、派手目な髪色とビキニの、俺たちよりも少し年が上そうな女子グループがいた。

 全員、容姿が整っていて、正直言って俺たちのような高校生ガキは相手にされないのではと思うのだが。


「……行くぞ、野郎どもっ!」


 ウキウキして瞳を輝かせる朝倉に、そんなことは言えなかった。


 そして、俺たちは彼女たちの下に近づいていく。

 しかし、彼女らに声をかける前に、いかにも遊んでいそうな、チャラチャラした浅黒い肌の男二人組に声をかけられた。


「ああっ、くそ!」


 嘆く朝倉だが、次の瞬間には男二人はナンパを断られたようで、即座に帰っていった。

 それを見てガッツポーズをする朝倉に、俺は問いかけてしまう。


「……なぁ、朝倉。俺たちもああなる可能性が非常に高いんじゃないか?」


「何を言ってる、友木? ……こっちには、池先生がいるんだぞ?」


 それはそうかもしれないが、俺には一つ懸念があった。

 その懸念を言葉にしないまま、朝倉は女子グループに声をかける。

 

「こんちわっす、お姉さんたち、良かったら俺たちとお話してくれないっすかー?」


 自然な笑みを浮かべる朝倉。

 普段の学校生活でもこのくらい積極的に行動すれば、朝倉ならばすぐに彼女ができるだろうに。

 夏の海が彼を開放的にしているのかもしれない、と俺が分析していると、


「またナンパー?」


「いい加減ウザくなーい?」


「てか、今度の子たち若っ!」


「もしかして君たち高校生?」


 それぞれがかったるそうに呟く。


「そうっす、高校生っす。お姉さんたちは、大学生っすか?」


 反応されたのが嬉しかったのか、朝倉はそう問いかけた。


「そー、大学生デース」


「だから、お子様にはあんまり興味がないのでお帰りくださーい」


 と、先ほどの男二人組のように、即効お断りの言葉を頂くのだが。


「……あれ、ちょっと待って。後ろの二人……超良くない?」


 彼女らのうちの一人が、声を潜めて言ったのが、耳に届いた。

 それから、全員の視線が池と甲斐に向けられ……。


「いやー、私結構年下の男の子って、タイプなんだよねー」


「お姉さんたちと遊ぼっかー」


「やーん、君たち結構筋肉質! ステキー」


「何か部活やってるのー?」


 クルリと掌が返された。

 池と甲斐が女子大生二人ずつに囲まれ、両手に花の状態になる。


「一応、サッカーやってるんで」


「俺は特にはしてませんが」


 甲斐と池が、戸惑ったような表情を浮かべて応える。


「何々、照れてるのかなー? 結構可愛いジャン♡」


 それを見て、女子大生は大喜び。

 そして……それに反比例するように、絶望の表情を浮かべる朝倉。


 俺の懸念が当たってしまった。

 確かに、池や甲斐といったイケメンがナンパに加われば、女子受けは良いのだろうが……。

 好意をすべて持っていかれるというリスクがつきまとう。

 事実、俺と朝倉はこうして放置され、彼女たちの眼中にないのだから。


 俺は朝倉を慰めようとしたのだが――


「あたし、喉が渇いた。君、あっちの売店まで、ちょっと付き合ってくんない?」


 池と甲斐に絡みに行っていない、最後の一人が俺に声をかけてきた。

 そして、俺の手を引き歩き始めた。 


 想定外の事態に動揺する俺。

 まさか本当に、サングラス効果があるとは……。


 そう思い朝倉を見ると、失望の表情を俺に向けていた。

 ……すまん、朝倉。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

 そう思いつつ、俺は手をひかれながら彼女の隣を歩くのだった。





 池たちと少し離れてから。


「キミさ、ぶっちゃけナンパとか興味ないっしょ?」


 隣を歩く彼女が俺に、問いかけてきた。


「え。……まぁ、そうっすね」


 なんと答えようか迷ったのだったが、意外なほど平然としていた彼女を見て、俺は正直に答えた。


「実は、あたしも別にナンパとか興味ないんだよねー」


「そうなんすか」


 クールな表情で、彼女は言う。


「だから、あの場を抜け出せて助かった感じ?」


「あー、なるほど」


 道理で。

 ナンパする気満々の朝倉ではなく、強面の俺に声をかけてきたのは、ナンパに興味がないことを察されていたからか。

 それで、この人は俺をダシにして抜け出したのか。

  

「そ、だからありがとねー」


 そう言って俺に流し目を向けてきた。


「いや、俺の方こそ助かったんで」


 俺が答えると、彼女はぴたりと足を止めた。

 釣られて、俺も足を止める。


「どうしたんすか?」


 俺の言葉に、彼女は悩ましそうな表情で人差し指を唇に当ててから、言う。


「……ちょっとこっち来てもらえる?」


「そっちは売店じゃないと思うんすけど」


 俺が手を引っ張られながらも問いかけると、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべてから、答える。


「せっかくだし、誰もいないところで、二人きりで話さない?」


 しばらくあそこには戻りたくないのだろうか。

 そう思った俺は、まぁ少しくらい付き合っても良いかもなと思い、同意をしようとして――





「あ、先輩やっと見つけましたよー」


「優児君、探したんだからっ!」


 背後から、聞き覚えのある声が耳に届き、俺は振り返る。

 そこにいたのは、水着姿の夏奈と、水着の上からTシャツを着た冬華の二人だった。

 俺が海に行くことは知らなかったと思うから、偶然なのだろう。

 

 ……ん? でも、俺のことを探していたみたいなことも言っていたな。どういうことだろうか。


 そう思っていると、二人は俺が見知らぬ女子と繋いでいる手に視線を落とし、それから固い声音で言った。




「あれー、先輩? 私という超絶美少女な彼女がいるのに、ナンパとか、するわけないですよねー?」




「ねぇ、優児君。何度も言っているよね? 冬華ちゃんに飽きちゃったなら、私に声をかけてって?」





「ちなみに聞くけど……誰、この子たち?」


 突如現れた冬華と夏奈へ向けていた視線を外し、今度は俺に胡乱気な視線を向けながら、隣の彼女は問いかけてきた。

 俺が答える前に、


「ほとんど彼女です!」


 と夏奈が言ってから、


「こっちはただのストーカーですが、私は彼の彼女です。……そちらこそ、誰ですか?」


 冬華がひどく冷めた声音で言った。


 夏奈の言葉と夏奈に対する冬華の言葉はともかく。

 冬華が俺の彼女であるのは間違いない。

 俺はこちらを伺う彼女に対し、首肯して同意すると、

 

「……うっわー、サイテー」


 真顔になった彼女が、サッと俺の手を離してから、そそくさと歩いて離れていった。


 俺にナンパする意思がないのは知っていたはずだが、それでも彼女がいるにもかかわらず、友人のナンパに付き合うということは許せないことだったのだろう。

 

 彼女の背中が人ごみに消えたのを確認してから、俺は問いかける。


「ところで、なんで二人は海に来ているんだ?」


「そんなことより、先輩は、何か私に言うことがありませんか?」


 しかし、その答えを聞けないまま、冬華が口元に笑みを湛えたまま、冷たい視線を俺に送る。

『ニセモノ』の恋人だとしても、自分を放って他の女子に声をかけるのが、不愉快だったのだろう。

 俺は冬華の心情を察し、一言謝ろうとするのだが……。


「優児君は冬華ちゃんに飽きちゃったんだから、浮気をされたのも仕方ないんだよ?」


 と、夏奈が冬華を全力で煽った。

 カチンときた様子の冬華が、


「全く相手にもされないナツオちゃんに言われたくないんですけどー?」


 冬華の言葉に、こめかみに青筋を立てながらも、今日の夏奈は一味違った。

 深呼吸をしてからその言葉を無視してから、俺を上目遣いに伺ってきた。


「優児君、私にも、何か言うことあるよねっ?」


 はにかんだ様子で、手を後ろに組みながら夏奈は言う。

 冬華とは違い、もう怒っている様子はない。


 ……まぁ、何のことを聞きたいのかは分かる。

 自分の水着姿にコメントが欲しいのだろう。


 白いビキニ姿の夏奈。

 彼女のイメージにぴったりで、良く似合っている。

 それにしても……水着だと、余計に夏奈の胸元が凄いな。


「はい、葉咲先輩には言うことなんて何もないですよ、ね? 先輩?」


「水着、似合ってるな」


「もーー!!!」


 俺が夏奈の水着姿を褒めると、冬華が恨めしそうにこちらを睨みながら、怒った。

 

「……あ、ありがと。そんな風にストレートに褒めてもらえると思ってなかったから。すっごく……うれしい、かな」


 えへへ、と照れくさそうに笑いながら、夏奈は言った。


「先輩、このストーカーのことはもう放っておいて。……私に、言うこと。あ・り・ま・す・よ・ね!?」


 強い語調で言う冬華。

 ……素直に謝ろうとは思っていたが、ここまで強固な態度を取られると、俺もちょっとムキになる。


「そのTシャツ、似合ってるな」


「ふざけてるんですか?」


 本気で苛立っている表情を俺に向ける冬華。


「すまん。……別に、浮気をするつもりじゃなかった。ただ、朝倉に頼まれたから、ナンパに付き合うのを断れなかった。悪かった」


 俺はサングラスを外してからそう言って、冬華に頭を下げた。


「……私という美少女の彼女がいる先輩が、本気で他の女をナンパするとは思っていないですから、別にそれは良いんですけど」


 冬華がそう呟いた。

 俺の素直な謝罪を聞いて、苛立ちはだいぶ収まったようだった。


「ただ、海に行くんだったら……私のことも、ちゃんと誘ってくださいよ」


 プイッと顔を背けながら、冬華は寂しそうに、そう言った。

 きっと最初から、仲間外れをされたと思って、それで怒っていたのかもな。


「悪かった。……今度から、ちゃんと誘う」


「……分かれば良いんですよ」


 俺の言葉に、冬華はそう呟いてから、俺の手を握ってから言う。


「それじゃ、今から目いっぱい、遊びましょっか!」


 明るい表情を浮かべて、冬華が言うと、今度は夏奈も俺の腕に自分の腕を絡ませてから言った。


「あ、優児君! 私のことも、今度からはちゃんと誘ってね!」


 夏奈の言葉に冬華が反応をして、また二人が言い合っているのを聞き流しつつ、俺は決意した。




 ――ナンパが失敗してライフポイントが0の朝倉には、この状況は絶対に見られるわけにはいかないな、と。


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