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25話、お悩み相談

「……どうぞ」


「お邪魔します」


 数分程歩くと、すぐに真桐先生の部屋へと到着した。

 未だに頬を朱色に染めた真桐先生に促されて、俺は玄関で靴を脱ぎ、部屋に入る。

 

 相変わらず綺麗に片づけがされた部屋だ。

 その中で異彩を放つのは……やはり、ベッドの周辺に置かれている可愛らしいぬいぐるみたちだ。


 真桐先生は買い物したものを冷蔵庫に片づけてから、今度は無言のままベッドの周辺のぬいぐるみを、押し入れに片づけた。


「……何か?」


 その後、ツンとした表情を浮かべて、冷たい眼差しで問いかけてくる真桐先生。


「いえ、何も」


 俺は先ほどの行動を、見て見ぬふりをすることにした。

 真桐先生は大きく息を吐いてから、「そこに座りなさい」と言って、俺にローテーブルの前に座るように言った。

 俺がその言葉の通りに座ると、真桐先生はベッドの上に腰かけた。

 

 そして、枕を掴んでから、ハッとした表情を浮かべた。

 それから、バツが悪そうに視線を俯かせてから、掴んだ枕を膝の上に置いた。


 ……多分、真桐先生は普段から、家に帰ったらベッドの上に座ってぬいぐるみを抱きしめているのだろうな。

 その習慣が、今ここで思わず出てしまったのだろう。


「……それで、私の気持ちが知りたいというのは。どういうことかしら?」


 真桐先生は、静かに俺に問いかける。

 揺れる眼差し、上気した頬。

 緊張をしているのだろう。

 ……無理もない、生徒に自らの弱みを、晒そうとしているのだから。


「その言葉のままっす」


 俺は、ただ一言そう答える。

 真桐先生は顔を上げ、俺を見てから目を見開き、口を開いて何かを言おうとし……。

それから何も言わないまま目を逸らしてから。

もう一度、こちらを見て言った。


「私は! 友木君のことを、とても尊敬しているわ。年下とは思えないくらい頼りにしているし、生徒なのについつい甘えてしまって……それは、私の悪いところね」


 真桐先生は俯きつつ、枕の上でギュッと拳を握りながら言う。


「葉咲さんのような素敵な女の子があなたのことを好きになるのも理解できるし、池さんがあなたを頼りにするのも当然だと思うわ。私だって、あなたよりも頼りにしている男の人なんていないもの。だけど……私は教師で、あなたは生徒なのよ。いくらあなたが私にとって、先生みたいな人だとしても、よ」


 俺は真桐先生のその言葉を聞いて……嬉しかった。


「も、もちろんあなたの気持ちは嬉しいのよ。それは、本当よ。でも、もう少し考える時間が、絶対に必要と思うの」


 そして同時に、俺の力を借りないと言った真桐先生のフォローの言葉を聞いて、不甲斐ないと思った。


「俺のことを信頼してもらえて、嬉しいっす」

 

 俺が言うと、真桐先生は困惑を浮かべた。


「いえ、その……私の言いたいことが、ちゃんと伝わっていないようね……。確かに今のは少し遠回しな言い方だったとは思うけど」


「分かってます。俺のことを信頼してくれているとはいっても、あくまでも生徒に過ぎない俺には、相談が出来ないような悩みを抱えているんすよね?」


 たとえ俺を信頼していても、言えない。

 それだけ、思い悩みであれば、俺は首を突っ込むべきではないのだろう。

 

「ええ、そうよ。いくらあなたが……え?」


「真桐先生にとって俺は、信頼できる一生徒でしかないのかもしれない。……だけど、俺にとって真桐先生は……大切な、恩師なんだ。だから、力不足なのかもしれないけれど、俺は真桐先生の力になりたいんす」


 俺は、真直ぐに自分の思いをぶつけた。

 そう、俺はただのガキだ。

 真桐先生が頼りにするなんて、本来ありえない。


 だとしても。

 ……たとえ微力でも、彼女の力になりたいのだと、俺は思った。


 俺の言葉を聞いた真桐先生は、動揺を浮かべた。

 そして、その整った唇を開き――。


「……え?」


 と、不思議そうに首を傾げて一言呟いた。

 どうしたのだろうかと思い、続く言葉を待っていると。


「友木君」


「はい」


「……ごめんなさい、少し話を整理をさせてもらってもいいかしら?」


「え? もちろん、良いすけど」


 どこか腑に落ちない様子の真桐先生。

 一体どうしたのだろうか?

 疑問に思う俺に、真桐先生は問いかけてくる。


「えーと。あなたは、私の気持ちが知りたいのよね?」


「はい」


「それは、その……。私があなたをどう思っているかではなく、私がどんな悩みを抱えているか、ということで間違いないのね?」


「あたりまえじゃないすか。……それ以外に、何があるんすか?」


「……いえ、そうね。私は何も勘違いしていないわ」


 ぷい、と不機嫌そうに頬を膨らませてそっぽを向いた真桐先生。

 ……なんだというのだろうか?


「それで、あなたは。私に悩みがあるのなら、力になりたいと。……そう言ってくれているのよね?」


「そうです。……微力にすぎなくとも、俺は真桐先生の力になりたいんす」


 俺が真直ぐに彼女に告げると、深くため息を吐いた後に、なぜだか真桐先生はこちらを鋭い視線で睨んでくる。

 ……枕を抱きしめながらなので、全く怖くはなかったが、なぜ俺は睨まれているんだろうか?


「それで、真桐先生の様子が、最近おかしいって池と竜宮から聞いたんすけど。……何かあったんすか?」


 俺の問いかけに、真桐先生は恨めしそうにこちらを見てから、今度は小さくため息をこぼした。


「……友木君だけじゃなく、他の生徒にも気づかれていたなんて。本当に情けない先生ね、私は」


 自嘲するように、真桐先生は呟く。

 俺は「そんなこと……」と口を開くのだが、彼女の表情を見て口を噤んだ。

 諦観の宿るその瞳に、何も続けられなくなった俺を見ながら、彼女は口を開く。

 

「その通りよ。私は、今、悩みを抱えているの」


「……それは、一体どんな悩みなんすか?」


 俺の問いかけに、真桐先生は俯いた。

 それから、弱々しい表情を浮かべ、縋るような視線を俺に向けて口を開いた。



「来月、父の紹介でお見合いをしなくちゃいけなくなったの。――多分、私が結婚相手を見つけるまで、ずっとそれが続くことになりそうで。……それが、今の私の抱える悩みなの」



 諦観を色を滲ませて、真桐先生は俺にそう告げるのだった――。


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