24話、覚悟
池と竜宮の二人と別れて帰宅し、部屋に戻った。
二人との会話で出てきた花火大会のことについて、俺は冬華にメッセージを送る。
『今度の花火大会一緒に行けるか?』
俺はメッセージを送信してから、スマホを机の上に放り出すと……。
「うぉっ」
途端、机上でスマホが震えて着信を告げた。
通知を見れば、冬華からだった。
さっきの返信ってことだろうか?
……早いな。
そう思いつつ、俺は電話に出る。
『せ、先輩ですか? 私です!』
「おう、俺だ。どうした?」
少し上ずった声の冬華に、俺は問いかける。
『ど、どうしたもこうしたも! いきなり花火大会に誘われたから、びっくりしちゃったと言うか、なんというか……正気ですよね?』
「正気だ。いきなり悪かったな。もう、予定が入っていたか?」
正気とまで言うか?
……もしかしたら既に予定を入れていたのかもしれないな。
そうだとしたら、気を使わせてしまったな。
『いえ、予定は空けていたんですが……』
やはり冬華も、『ニセモノ』の恋人同士とはいえ、やはり夏祭りは一緒に行くべきだ! と思っていたのかもしれない。
「それなら、良かった」
『そ、そうですか。……それにしても、花火大会にまで誘っちゃうなんて、ホント先輩私のこと大好きですよね~。いえ、別に迷惑とかそう言うのじゃなくて、ただウキウキで私を花火大会に誘う先輩は結構可愛いというか、私もそう言うところは嫌いじゃないというか』
冬華が早口で言う。
機嫌よく、俺のことをからかっているらしい。
このご機嫌な様子であれば、池と竜宮も誘っていることを言っても、もしかしたらあっさり承諾されるかもな。
「池と竜宮も一緒に誘ってるけど、良いか?」
俺がそう言うと、
『むしろ、結構す――え? ……え? ……ごめんなさい先輩、今なんて言いましたか?』
話している途中で割り込んでしまったため、聞き逃したらしい。
俺はもう一度言う。
「池と竜宮も一緒に花火大会に行こうって誘ってるけど、問題ないか?」
『……は? ……え?』
聞こえなかったのだろうか?
いや、それにしては動揺しているのが、声から伝わる。
一体どうしたのだろうか、そう思っていると、『はぁ~』というでかいため息が、電話口から聞こえた。
「……まずかったか?」
『当たり前じゃないですか!? ロマンチックに恋人同士で花火を見ようってお誘いだと思っていたのに……先輩も、分かってるなーって、思ってたのに!! ……どうしてそうなったんですか!?』
俺が思っていた以上に不満な様子の冬華。
……竜宮と一緒、というのが良くなかったのかもしれないな。
どうしてそうなったか、と問われると、それは竜宮を見かねてということと、もう一つ。
「友人グループで花火大会って、割と憧れがあったんだよ」
そう、池に言ったことは、本心からの言葉だった。
それを聞いた冬華は、しばし電話の向こうで無言となり、
『……あざとい』
ボソッと呟いた。
それから、続けて言う。
『先輩、あざとすぎるんですけど!? そういうこと言われたら……私、反対できないじゃないですか』
もう、と不満気に冬華は呟いた。
俺の気持ちを知って、尊重してくれたのだ。
やはり、冬華は良い奴だ。
『悪い。……ありがとな』
俺が礼を言うと、
『良いですよ、べっつにー。先輩はそういう人ですもんねー、知ってましたし、私』
と、いじけたような言葉の後、『その代わり』と、続けて言う。
『当日は私のわがまま、たーっくさん聞いてもらいますからねっ!』
楽しそうな声で、冬華が俺に向かって告げた。
『ああ。……ただ、お手柔らかに頼む』
『嫌でーす、たーっくさんわがまま聞いてもらいまーす♡』
くすくすと、可笑しそうに笑いながら、冬華は言う。
一体どんなわがままを言われるのだろうかとヒヤヒヤするが、それでも。
俺は当日のことを、楽しみに思うのだった。
☆
「あ」
そして翌日、近所のコンビニに行くと、真桐先生と偶然出会った。
「友木君……。こんにちは」
「こんちはっす」
以前真桐先生に会ったのは、数日前の温泉でだったからか……気恥ずかしい。
「……元気にしていたかしら?」
おそらく、それは真桐先生も同じだろう。
どこか気恥ずかしそうに、俺に向かってそう問いかけた。
「ええ。真桐先生も元気でしたか?」
俺は問いかける。
それにしても、たった数日会わなかっただけの会話とは思えないな……。
「……ええ、もちろんよ」
と、言葉に反してどこか暗い表情で真桐先生は言った。
一体どうしたのだろうか?
「それじゃあ、私はこれで」
そう言って、買い物を終えていた真桐先生は、コンビニを後にした。
「うす」
一言応じつつ、彼女の背中を目で追う。
そして昨日の池と竜宮の言葉を思い出す。
『最近真桐先生に元気がないように見えてな』
『真桐先生は落ち込んでいるようでした』
……俺はてっきり、真桐先生が二人のラブコメを目撃して闇堕ちしかけているのだと思ていたが、もしかして、他にも何かあるのか?
不安になった俺は、真桐先生の後を追う。
そして、先を行く彼女に、すぐに追いついた。
「真桐先生!」
背後から呼びかけると、ゆっくりと振り返った。
首を傾げて、
「何かしら?」
と、真桐先生は問いかけてきた。
俺は真直ぐに彼女を見る。
何かあったのか聞こうと思ったのだが……果たして立ち話で済むようなことなのだろうか?
もしも本当に何かあったのなら、あまり他人には聞かれたくないと思うだろう。
なら、他人が来られない場所で話をした方が良いな。
「大事な話があるんで、今から先生の家にお邪魔しても良いすか?」
そう思い、俺は真桐先生に向かって言った。
「…え?」
聞こえなかったのだろうか?
そう思い、俺はもう一度言う。
「大事な話があるんで、今から先生の家にお邪魔しても良いすか?」
「ま、待ちなさい、友木君! あなた、何を言っているのか分かっているの!? 生徒が教師の部屋に入るだなんて、ダメに決まっているじゃない! 非常識よ!?」
慌てた様子の真桐先生。
やはり、怪しい。動揺が激しすぎる。
生徒を教師の部屋に呼び出したことがある張本人である非常識な真桐先生の支離滅裂な発言を聞いて、俺は彼女に何かがあったことを確信した。
「いえ、引けないす。俺は……先生の気持ちが知りたい!」
どんな気持ちを抱えてしまったのか。
俺に何ができるかは分からない。
だけど、真桐先生の異変に気付いてしまった今。
余計なお節介に過ぎないのだとしても、見て見ぬふりは……できない。
俺の言葉を聞いた真桐先生は、ポカンとした表情を浮かべた後、手に持っていたレジ袋を道路に落とした。
それから、両手で顔を覆ってから「え、え?」と、真っ赤になった顔を俺に見られないようにした。
……生徒に悩みを察知されるなんて、ショックだったのかもしれない。
そう思いつつ、俺は真桐先生の言葉を待つ。
「……分かったわ。ついてきなさい」
真桐先生は、目尻に涙を浮かべて、上目遣いに俺に向かって言った。
俺は頷き、落ちたレジ袋を拾う。
それから、何が起こっても彼女の力になれる様にしなければ、と俺は覚悟を決め。
――未だ顔を真っ赤にしたままの真桐先生の隣を並んで歩くのだった。






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