23話、ノーコメント
とある日の朝。
自室でラブコメマンガを読みながら、ヒロインに男装させてデートするなんて攻めてるよな……まぁ、アリなんだけど。なんて感想を抱いていると、唐突にスマホにメッセージが届いた。
差出人は池。
通知画面からメッセージを開く。
『合宿の時の写真で、簡単なアルバムを作ったんだが、もし暇なら今日の午後から学校に来てもらえないか?』
あの時、写真とか撮ってたんだ。
全然気が付かなかった……。
しかし、そんなものがあるなら、ぜひ欲しい。
『ああ、生徒会室に向かえばいいか?』
暇だったので、俺は学校に向かうことにした。
☆
そして午後。
生徒会室の扉をノックすると、中から「はい」と池の声で返事が聞こえた。
俺は扉を開いて中に入る。
室内には、池と竜宮の二人がいた。
「よう、優児。呼びつけて、悪かったな」
爽やかな笑顔を浮かべつつ、池が言う。
俺は短く返事をする。
「おう、気にするな。どうせ暇だ」
「暇なら、優児から冬華をデートに誘ってやってくれ。喜ぶだろうから」
夏休み期間中は定期的に冬華とは会っている。
なにかと忙しそうな冬華を俺から遊びに誘ったら、逆に迷惑な気もするが。
流石に、俺と付き合っていると思っている池には言えない。
「ごきげんよう、友木さん」
今度は、固い笑顔を浮かべながら竜宮が言った。
彼女はあまり冬華と会う機会がないのかもしれない。
嫉妬されているのだろう。
「おう。……今日は、二人だけなのか?」
「今日は、というよりも。最近はやることも特にないし、基本的には二人だけだな。竹取先輩と田中先輩は受験勉強。鈴木も、夏期講習を受けているみたいだな」
「やることないのに来ているのは、なんでだ?」
「アルバム制作と、引継資料の作成だ。二学期に入ったら、忙しくて中々手が回らないからな。それを、竜宮と二人でやっている」
俺は、その言葉に衝撃を受ける。
「え? 引継資料を作っているってことは、池は次回の生徒会に立候補しないのか?」
「……どうだろうな。まだ決めていないんだ」
曖昧に笑い、誤魔化す池に違和感を覚えていると……。
「それでは、友木さん。これがアルバムですので」
通常よりも小さめのフォトアルバムを竜宮から手渡された。
「ありがとう」
俺は礼を言ってから、それを開いて簡単に内容を見ていった。
皆楽しそうに笑っていたが、一人だけ常に不機嫌そうな表情でいる人間がいた。
何か嫌なことでもあったのだろうか? と思ってよく見たらそれは俺だった。
すこし凹んでいると、山本さんが笑顔で料理を作っている写真を見つけた。
俺は癒された。
「さて、これで友木さんのご用件はおしまいですね。それでは、どうぞお帰り下さい」
恭しく頭を下げながら、扉を開いて帰宅を促す竜宮。
池と二人きりだったのを邪魔されたのが、そんなに気にさわったのか?
そう思っていると、
「優児、昼飯は食ってきたか?」
池が問いかけてきた。
「いや、まだだ」
「それなら、一緒に軽く飯でも食っていこう」
「おう、そうだな」
池の誘いに俺が答えると、
「え!?」
竜宮が、慌てた表情でそう言った。
「どうした、竜宮?」
「い、いえ。……なんでもありません」
とても気落ちした表情。
おそらく、竜宮自身がこの後池を昼食に誘おうと思っていたのだろう。
俺は思いっきり竜宮に蔑まれた。
……ホントに分かりやすいわ、こいつ。
「竜宮も、一緒にどうだ?」
その後、池が竜宮にも声をかけると……。
「あ、あら。会長? 私とお昼を食べたいとおっしゃるのですね。し、仕方がありませんね、私も暇ではないのですが、折角ですのでご一緒させていただきます」
「あ、いや。忙しいのなら無理にとは言わないぞ」
「ご一緒、させていただきますので」
「おお、そうか」
何が何だか分からないと言いたげに、首を傾げる池。
池に見られないように顔を背け、満足そうに、嬉しそうな表情を浮かべる竜宮。
……なにこれ、ラブコメ?
☆
駅近くのチェーンのハンバーガー店に、俺たちは入った。
カウンターで注文を済ませてから、四人掛けの席に座る。
俺がまず奥に座り……隣に、池が座った。
そして池の正面に竜宮が座る。
竜宮の刺すような視線を感じ、俺は彼女の方を見る。
……絶望の表情を浮かべ、虫を見るような目で俺を見ている竜宮。
こわっ。
しかし池は気にも留めず、いただきますと呟いてからハンバーガーの包みを開いて、口をつけた。
俺も、同じようにする。
はぁ、とため息を吐いてから、竜宮は、特に何か言ってきはしなかった。
それから他愛のない話をしながら、食べ進める。
「……どうした、竜宮?」
しかし、ふとした拍子に、竜宮が黙り込んだ。
それを気にした池が、問いかけた。
「いえ。……会長、食べるのが早くて、やはり男の人なのだな、と思いまして」
照れくさそうな表情で言う竜宮。
確かに、竜宮はまだ半分ほどしか食べ進めていないのに、俺たちは既に食べ終えている。
ちなみに同じように食べ終えている俺のことは眼中にないようだ。
恋する乙女は盲目とか……ラブコメ?
「おお、すまない。竜宮はゆっくり食べてくれ」
「……そうさせていただきます」
にっこりと微笑みを浮かべ、ゆっくりと食べ進める竜宮。
「お、優児。パンくずが口元についているぞ」
「ん、マジか。どこらへんだ?」
俺は口元を触ったが、取れた様子はない。
「そこから左……ああ、逆だ。いや、俺がとった方が早いな」
そう言ってから、池は俺の口元のパンくずを指先でひょいと取った。
「お、取れたぞ」
池は爽やかに笑みを浮かべてから、そのパンくずをペーパーナプキンでくるんだ。
俺は、その行動に思わずドキリとした。
――竜宮の禍々しい視線を感じて。
……ラブコメじゃん。
友人キャラまで攻略対象にするのやめてくれる?
俺が池の行動に戦々恐々としていると、
「そういえば優児。今度の花火大会。冬華と行く予定なんだよな?」
池は唐突に問いかけてきた。
花火大会とは、市内で毎年行われており、結構な規模の花火が打ちあがる。
……恋人同士なら一緒に行くのが普通だろうが、冬華は果たして俺と行こうと思ってくれるだろうか?
そうは思いつつも、俺は答える。
「まだ約束はしていないが、声はかけるつもりだ」
「そうだったんだな。そうしてやってくれ」
その言葉に、俺は頷いてから、竜宮を見た。
彼女は、何か言いたそうにしていたが、口を開こうとするたびに俯いて、何も言えないずにいた。
……竜宮は池を誘いたいんだろうな。しょうがない、こうして一緒に昼飯を食った縁もあるし、手助けをしようか。
「なぁ、池。良かったらその日、竜宮と池も一緒に来ないか? 友達グループで行く夏祭りって、結構憧れているんだよ」
「……ふぇっ?」
俺の言葉に、竜宮が動揺を隠すこともできずに呟いた。
「俺は別に構わないが、冬華が怒るんじゃないか?」
「確かに、少し怒られるかもな」
勝手に予定を埋めてしまうのだから、冬華に小言の一つや二つは言われるかもしれないな。
「か、会長! 私もその日はちょうど予定がなく、その誘いに乗ってあげなくもないのですが、会長はどうでしょう?」
期待したような眼差しで池を見つめながら、興奮した竜宮は言う。
「そうか。俺も特に予定はないし、冬華が嫌がらなかったら、一緒に行くことにしよう」
池の言葉に、竜宮は笑顔を浮かべて応える。
「はい、よろしくお願いいたします」
そう言ってから、ニコニコとしながら飲み物に口をつける竜宮。
「ああ、それと優児。真面目な話があるんだが……」
今度は、真剣なトーンで池が話しかけてきた。
「真面目な話?」
「いや……最近真桐先生に元気がないように見えてな。竜宮も、同意見だろう?」
「そうですね。……今日も生徒会室に来られた際にアルバムをお渡ししましたが、その際真桐先生は落ち込んでいるようでした」
心配そうに言う二人。
「少し心配でな。優児、何か心当たりはないか?」
心当たりならあった。
……多分それ、お前たちがイチャイチャしてるせいだぞ。
そう思ったものの、俺は真桐先生の名誉のために、
「うーん、全く心当たりがないな」
無表情のまま、ノーコメントを貫くのだった――。






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