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23話、ノーコメント

 とある日の朝。

 自室でラブコメマンガを読みながら、ヒロインに男装させてデートするなんて攻めてるよな……まぁ、アリなんだけど。なんて感想を抱いていると、唐突にスマホにメッセージが届いた。


 差出人は池。

 通知画面からメッセージを開く。


『合宿の時の写真で、簡単なアルバムを作ったんだが、もし暇なら今日の午後から学校に来てもらえないか?』


 あの時、写真とか撮ってたんだ。

 全然気が付かなかった……。

 しかし、そんなものがあるなら、ぜひ欲しい。


『ああ、生徒会室に向かえばいいか?』


 暇だったので、俺は学校に向かうことにした。



 そして午後。

 生徒会室の扉をノックすると、中から「はい」と池の声で返事が聞こえた。

 俺は扉を開いて中に入る。

 室内には、池と竜宮の二人がいた。


「よう、優児。呼びつけて、悪かったな」


 爽やかな笑顔を浮かべつつ、池が言う。

 俺は短く返事をする。


「おう、気にするな。どうせ暇だ」


「暇なら、優児から冬華をデートに誘ってやってくれ。喜ぶだろうから」


 夏休み期間中は定期的に冬華とは会っている。

 なにかと忙しそうな冬華を俺から遊びに誘ったら、逆に迷惑な気もするが。

 流石に、俺と付き合っていると思っている池には言えない。


「ごきげんよう、友木さん」


 今度は、固い笑顔を浮かべながら竜宮が言った。

 彼女はあまり冬華と会う機会がないのかもしれない。

 嫉妬されているのだろう。


「おう。……今日は、二人だけなのか?」


「今日は、というよりも。最近はやることも特にないし、基本的には二人だけだな。竹取先輩と田中先輩は受験勉強。鈴木も、夏期講習を受けているみたいだな」


「やることないのに来ているのは、なんでだ?」


「アルバム制作と、引継資料の作成だ。二学期に入ったら、忙しくて中々手が回らないからな。それを、竜宮と二人でやっている」


 俺は、その言葉に衝撃を受ける。


「え? 引継資料を作っているってことは、池は次回の生徒会に立候補しないのか?」


「……どうだろうな。まだ決めていないんだ」


 曖昧に笑い、誤魔化す池に違和感を覚えていると……。


「それでは、友木さん。これがアルバムですので」


 通常よりも小さめのフォトアルバムを竜宮から手渡された。


「ありがとう」


 俺は礼を言ってから、それを開いて簡単に内容を見ていった。

 皆楽しそうに笑っていたが、一人だけ常に不機嫌そうな表情でいる人間がいた。

 何か嫌なことでもあったのだろうか? と思ってよく見たらそれは俺だった。

 すこし凹んでいると、山本さんが笑顔で料理を作っている写真を見つけた。

 俺は癒された。


「さて、これで友木さんのご用件はおしまいですね。それでは、どうぞお帰り下さい」


 恭しく頭を下げながら、扉を開いて帰宅を促す竜宮。

 池と二人きりだったのを邪魔されたのが、そんなに気にさわったのか?

 そう思っていると、


「優児、昼飯は食ってきたか?」


 池が問いかけてきた。


「いや、まだだ」


「それなら、一緒に軽く飯でも食っていこう」


「おう、そうだな」


 池の誘いに俺が答えると、


「え!?」


 竜宮が、慌てた表情でそう言った。


「どうした、竜宮?」


「い、いえ。……なんでもありません」


 とても気落ちした表情。

 おそらく、竜宮自身がこの後池を昼食に誘おうと思っていたのだろう。

 俺は思いっきり竜宮に蔑まれた。

 ……ホントに分かりやすいわ、こいつ。


「竜宮も、一緒にどうだ?」


 その後、池が竜宮にも声をかけると……。


「あ、あら。会長? 私とお昼を食べたいとおっしゃるのですね。し、仕方がありませんね、私も暇ではないのですが、折角ですのでご一緒させていただきます」


「あ、いや。忙しいのなら無理にとは言わないぞ」


「ご一緒、させていただきますので」


「おお、そうか」


 何が何だか分からないと言いたげに、首を傾げる池。

 池に見られないように顔を背け、満足そうに、嬉しそうな表情を浮かべる竜宮。


 ……なにこれ、ラブコメ?





 駅近くのチェーンのハンバーガー店に、俺たちは入った。

 カウンターで注文を済ませてから、四人掛けの席に座る。

 俺がまず奥に座り……隣に、池が座った。

 そして池の正面に竜宮が座る。


 竜宮の刺すような視線を感じ、俺は彼女の方を見る。

 ……絶望の表情を浮かべ、虫を見るような目で俺を見ている竜宮。

 こわっ。


 しかし池は気にも留めず、いただきますと呟いてからハンバーガーの包みを開いて、口をつけた。

 俺も、同じようにする。


 はぁ、とため息を吐いてから、竜宮は、特に何か言ってきはしなかった。


 それから他愛のない話をしながら、食べ進める。


「……どうした、竜宮?」


 しかし、ふとした拍子に、竜宮が黙り込んだ。

 それを気にした池が、問いかけた。


「いえ。……会長、食べるのが早くて、やはり男の人なのだな、と思いまして」


 照れくさそうな表情で言う竜宮。

 確かに、竜宮はまだ半分ほどしか食べ進めていないのに、俺たちは既に食べ終えている。

 ちなみに同じように食べ終えている俺のことは眼中にないようだ。


 恋する乙女は盲目とか……ラブコメ?


「おお、すまない。竜宮はゆっくり食べてくれ」


「……そうさせていただきます」


 にっこりと微笑みを浮かべ、ゆっくりと食べ進める竜宮。


「お、優児。パンくずが口元についているぞ」


「ん、マジか。どこらへんだ?」


 俺は口元を触ったが、取れた様子はない。


「そこから左……ああ、逆だ。いや、俺がとった方が早いな」


 そう言ってから、池は俺の口元のパンくずを指先でひょいと取った。


「お、取れたぞ」


 池は爽やかに笑みを浮かべてから、そのパンくずをペーパーナプキンでくるんだ。

 俺は、その行動に思わずドキリとした。



 ――竜宮の禍々しい視線を感じて。

 


 ……ラブコメじゃん。

 友人キャラまで攻略対象にするのやめてくれる?


 俺が池の行動に戦々恐々としていると、


「そういえば優児。今度の花火大会。冬華と行く予定なんだよな?」


 池は唐突に問いかけてきた。

 花火大会とは、市内で毎年行われており、結構な規模の花火が打ちあがる。

 ……恋人同士なら一緒に行くのが普通だろうが、冬華は果たして俺と行こうと思ってくれるだろうか?

 そうは思いつつも、俺は答える。


「まだ約束はしていないが、声はかけるつもりだ」


「そうだったんだな。そうしてやってくれ」


 その言葉に、俺は頷いてから、竜宮を見た。

 彼女は、何か言いたそうにしていたが、口を開こうとするたびに俯いて、何も言えないずにいた。

 ……竜宮は池を誘いたいんだろうな。しょうがない、こうして一緒に昼飯を食った縁もあるし、手助けをしようか。


「なぁ、池。良かったらその日、竜宮と池も一緒に来ないか? 友達グループで行く夏祭りって、結構憧れているんだよ」


「……ふぇっ?」


 俺の言葉に、竜宮が動揺を隠すこともできずに呟いた。


「俺は別に構わないが、冬華が怒るんじゃないか?」


「確かに、少し怒られるかもな」


 勝手に予定を埋めてしまうのだから、冬華に小言の一つや二つは言われるかもしれないな。


「か、会長! 私もその日はちょうど予定がなく、その誘いに乗ってあげなくもないのですが、会長はどうでしょう?」


 期待したような眼差しで池を見つめながら、興奮した竜宮は言う。


「そうか。俺も特に予定はないし、冬華が嫌がらなかったら、一緒に行くことにしよう」

 

 池の言葉に、竜宮は笑顔を浮かべて応える。


「はい、よろしくお願いいたします」


 そう言ってから、ニコニコとしながら飲み物に口をつける竜宮。

 

「ああ、それと優児。真面目な話があるんだが……」


 今度は、真剣なトーンで池が話しかけてきた。


「真面目な話?」


「いや……最近真桐先生に元気がないように見えてな。竜宮も、同意見だろう?」 


「そうですね。……今日も生徒会室に来られた際にアルバムをお渡ししましたが、その際真桐先生は落ち込んでいるようでした」


 心配そうに言う二人。


「少し心配でな。優児、何か心当たりはないか?」


 心当たりならあった。

 ……多分それ、お前たちがイチャイチャしてるせいだぞ。

 そう思ったものの、俺は真桐先生の名誉のために、


「うーん、全く心当たりがないな」


 無表情のまま、ノーコメントを貫くのだった――。


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