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18話、別れ

 翌日。

 午前7時に起床。

 中庭に集合し、全員が揃ったところでラジオ体操をしてから、朝食をとる。


 献立はおにぎりと豚汁、卵焼きという素朴なメニュー。

 おにぎりは塩むすびというシンプルさだったが、卵焼きと豚汁と組み合わせることを考えれば、これが正解だと俺は思う。

 実際、とても美味い。

 男子陣が朝から勢いよく食を進めていると、


「あっはっは、男子は美味しそうに食べてくれるねぇ! 僕も作った甲斐があったよ。お代わりあるから、どんどん食べてね」


 快活に笑いながら、山本さんは言う。

 なるほど、この朝食は山本さんが作ったのか……。


 俺の中で山本さん株が急上昇した瞬間だった。


 朝食の片づけを済ませてから、俺たちは場所を移動する。

 今日は昼まで教室を一つ使い、会議を行う予定になっている。

 議題は「学校生活について関する問題点と、それらの改善について」だ。


 池が司会を務めながら、生徒会役員の間で、活発な議論が行われる。

 時折、一般生徒としての意見を求められることがあったが、正直言って学校生活に不便を感じる以前の俺は、「それな」と答えることしかできなかった。


 隣に座る冬華はといえば、発言を求められるたびに的確な発言をし、それをきっかけにして議論を白熱させていた。

 やっぱすごいな、冬華は。

 そう思い、横顔を見ていると、冬華が少しムスッとした表情を浮かべてから言う。


「あの、先輩。こっち見すぎなんですけど……」


「ああ、悪い」


 俺は素直に謝り、視線を外す。

 確かに、じろじろと見すぎだったかもしれないと、反省をする。

 しかし、冬華はなおも面白くなさそうな声で、ボソッと呟いた。


「や。別に、嫌じゃないけど、恥ずかしいんで……」


 その言葉に、俺はまた彼女を見た。

 綺麗な茶髪の毛先を指先で弄りながら、視線は俺と合わせないように、そっぽを向いている。

 まぁ、昨日のことを思い出すと、確かに恥ずかしかったりするかもな。

 

 そう思うと、なんだか俺も照れくさくなってきた。

 俺は「そうだな」とただ一言だけ、答えるのだった。



 そして、なんだか良い感じに議論は終了した。

 正直俺にとっては訳が分からなかったが、全員が満足そうな表情を浮かべていたので、きっと良い結果になったのだろう。


 昼時になり、教室を移動すると、既に昼ご飯の準備が出来ていた。

 献立は、川魚の塩焼きと、山菜の天ぷら。そしてそうめんだ。

 川魚の火入れや、山菜の揚げ加減は、文句のつけようがなかった。


「あはは、まだまだあるからね。どんどん食べてよー」


 調理をしたのは、もちろん山本さんだ。

 この瞬間、俺の中で山本さん株がストップ高となっていた。



 そうして、合宿の全工程が終了した。

 後は、真桐先生の運転する車で学校に戻るまでだ。


「みんな、お疲れさまでした。帰るまでが、合宿だからね、気を付けるんだよ」


 お決まりの言葉を告げる山本さんに、俺たちは別れの挨拶をする。

 さらば、山本さん。

 俺はきっとあなたとあなたが作ってくれた料理のことを忘れはしないだろう……。


 山本さんとの別れの挨拶を済ませてから、今度は車に荷物を載せ、乗り込む。

 車内の配席は、行きと同じだった。

 俺は真桐先生の隣である助手席に座っていた。


 行きと違うのは、合宿の疲れからか、車が走りだしてからしばらくしてから、全員が寝息を立て始めた。

 竜宮なんか、隣にいる冬華に身体を傾けながら幸せそうな寝顔を浮かべている。


「……お疲れ様、友木君。あなたも、眠っていて良いのよ?」


 運転中のため、前を見ながら、真桐先生が俺に向かって言った。


「俺は別に疲れてないんで」


 正直、少し眠たかったが、それでも真桐先生の気晴らし相手くらいにはなっていたいと思った。


「そう」


 真桐先生はそれだけ呟いた。

 そして、しばらくしてから、再び口を開く。


「……今回の合宿は、どうだったかしら?」


「ご飯も美味かったし、何より。楽しかったすよ。いい経験になりました」


 慣れないことも多かったが、それも新鮮な経験ができてよかったと、今は思う。

 昨日冬華に話した通り、疲れてしまった部分もあったが、やはり今回の合宿は楽しかった。


「そう。それなら良かったわ」


 俺の言葉を受けて、穏やかな声音で、真桐先生がそう言った。

 冬華といい、真桐先生といい、こうして気にかけてくれるのは、非常にむず痒いが。


 ――やはり、嬉しいものだ。





 合宿から帰った日の夜。

 自室でゆっくりしながらスマホでラブコメマンガを読みつつ、やっぱりこのヒロインお可愛いな……と思っていると、画面が切り替わった。

 真桐先生からの着信だ。

 どうしたのだろうか? そう思いつつ通話ボタンをタップし、電話に出ると……。


「友木君? 真桐です」


 と、どこか悲壮感のある声で彼女が問いかけてきた。


「はい。どうしたんすか?」


「……集合! これから集合です!」


 震える声で宣言した真桐先生。


「はい?」


「愚痴、聞いてくれるんでしょう?」


 と、真桐先生が震えた声で俺に問いかけてきた。

 そして、思い至る。

 ……あ、これ酒入ってるな、真桐先生。


「分かりました、今から行くんで」


「待ってるわ」


 という真桐先生の言葉を受けてから通話をきる。

 そして俺は、部屋着であるジャージのまま、真桐先生の部屋に向かった。



「……待っていたわ」


 俺を出迎えたのは、例の告白をした時より少しだけましな状態の真桐先生だった。

 部屋に入ると、俺はテーブルの前に座る。

 真桐先生はベッドの上でちょこんと女の子座りをして、可愛らしいキャラクターのぬいぐるみを抱きしめた。


 開幕から強すぎる挙動に、俺は何からツッコめばいいのか分からず、困惑する。

 

 ……とりあえず、どうして俺が呼ばれてしまったのか、事情を聞くことにした。


「まずは……愚痴ってなんですか?」


「……分からないかしら?」


 顔を赤らめて、非難がましい視線をこちらに向ける真桐先生。

 少し考えてみたが……心当たりがなかった。


「私も、……したかった」


 ぼそり、と俯きながら真桐先生は呟く。


「……何をしたかったんすか?」


 俺が問いかけると、彼女は顔を上げ、俺の目をまっすぐに見てから言った。


「私も、あなたたちみたいな青春したかったのっ!」


 涙目で訴えかける真桐先生。


 俺は思わず、呆けた表情を晒しながら、あの穏やかな表情で『そう。それなら良かったわ』と言ってくれた素敵な真桐先生はどこに行ってしまったのだろうか……、と割と真剣に考えるのであった――。


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