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16話、友木先生

 生徒会メンバーと冬華と俺を乗せた車内は、和やかな雰囲気だ。

 特に、竜宮はとても楽しそうに池と冬華に話しかけていた。

 池はそれに笑顔で答え、冬華は塩対応をする。

 それでもめげずに、竜宮は冬華に話しかける。

 彼女は中々強靭なメンタルの持ち主らしい。

 

 俺はというと、真桐先生に時折気晴らしに話を振り、彼女と軽く言葉を交わしていた。


 そんな感じで二時間ほどが経ち、車は高速を降りて、山道を登っていく。


「そろそろね……みんな、お疲れ様。もうすぐ目的地に着くわよ」


 真桐先生の言葉に、俺たちは窓から外を見る。

 今回の目的地は、某県の山中にある、廃校となった小学校をリノベーションした宿泊施設だ。

 

 以前は校庭であった駐車場に、ミニバンを停車させる。

 車から降り、各々荷物を持って校舎へと向かう。


「すっごい田舎……てゆーか、山ですねー」


「そうだな。一番近くのコンビニまで、車で30分らしいぞ」


「うっわー、やばー」


 隣を歩く冬華とそんな話をしていると、校舎に辿り着いた。

 そこには、人のよさそうなおっさんがいた。おそらくここのスタッフなのだろう。


「ようこそ、この『自然学校三倉』のスタッフの山本です。何人かスタッフはいるけど、君たちとメインで関わるのは僕になるので、よろしく。……おや、生徒だけかい? 引率の先生は?」


 と、おっさん改め山本さんが困惑を浮かべて。

 それから、俺を見てぎょっとした。


「お、おお。女性の先生が引率をすると聞いていましたが、急用で生活指導の先生が来られたんでしょうか? いえ、それでも問題があるわけではないので、よろしくお願いします」


 怯えた表情を浮かべながら、俺に向かって山本さんは言ってきた。


 その言葉に、真桐先生以外の全員が、噴き出していた。

 山本さんが動揺を浮かべるのを見て、俺は言う。


「いや、俺先生じゃないすけど」


「え?」


 キョトンとした表情を浮かべた山本さんに、


「私が、この生徒たちの引率をしている真桐です。よろしくお願いします」


 と、笑顔を浮かべてはいるものの、固い声音で真桐先生が言う。

 きっと、生徒と間違われたのがショックだったのだろう。


「……いや、確かに先生にしては若いかと思っていたけど、真桐先生もとても若々しくて。おじさんになると大学卒業したての先生と高校生の違いって言うのは、中々分からなくってね。失礼しました」


 あはは、と悪びれた様子をみせず、笑いながら、山本さんは続けて言う。


「それじゃ、施設内の簡易な地図を渡すから、各自の部屋に荷物を置いてきてね」


 ほい、と渡される一枚の紙。

 男子は一階にある旧1-1の教室で、女子3人は2階にある旧2-1、真桐先生は旧2-2の教室という部屋割りだった。


「……それでは、各自の部屋に荷物を置き、お手洗いを済ませてから15分後にここに再集合をしましょう」


 と、生徒扱いされたことが未だに不満な様子の真桐先生がそう言った。

 俺たちはその言葉の通りに、各自の部屋に、荷物を置いた。

 ちなみに、俺が先生と思われたことに対しては、特に言及はなかった。

 完全にいつも通りの池と、優しい眼差しをこちらに向ける田中先輩。

 ……ネタにして揶揄うようなメンバーでないことは分かっているのだが、何も言われないとそれはそれで気恥ずかしい。

 

 そう思いつつ、三人で先ほどの場所に戻る。そこには山本さんがいて、俺の顔を見て一度びくりとしてから、あははと愛想笑いを浮かべていた。

 あからさまに嫌な顔をしない辺り、この人適当だけど普通に良い人だな、と思った。

 女子と真桐先生は、俺たちの到着から少し遅れて、集合場所に来た。


「さて、みんな揃ったわね。それでは早速だけど、これからウォークラリーを行います」


 全員が揃ったことを確認してから、真桐先生が言う。

 それから、山本さんが俺たちに、またしても一枚の紙を手渡してきた。

 彼はそのまま、説明を始める。


「二チームに分かれて、今みんなに渡された地図に記載されたチェックポイントごとに、課題が用意されています。その課題を解き、もう一度この場所に戻ってきてもらいます。ちなみに、設定時間は1時間半。これは制限時間ではないので、どれだけ1時間半に近い時間で帰ってこれたかが、ポイントになります。もちろん、課題にも配点があるので、張り切って解いてくださいね」


 この辺は、あらかじめもらっていた資料に記載があった通りだ。

 時間は分からないように、あとで真桐先生がスマホや時計などの時間を確認できるものを預かることになっている。


「それじゃ、組み分けだけど。生徒会の四人は一緒の方が良いね。君たちの連携力を高めるのが、この合宿の主たる目的であるわけだし」


「あ、それじゃ私と先輩は二人っきりってことですかー?」


 と、山本さんに問いかけたのは冬華だ。

 

「いえ、あなたたちには、私が同行します」


 そう言ったのは、なんと真桐先生だった。


「……そうなんですかー」


 どこかつまらなさそうに言ったのは、冬華だった。


「それじゃ、何か質問はないかしら? なければ、私にスマホや時計を預けてもらえるかしら?」


 真桐先生の言葉に全員が頷き、そして彼女の用意したポーチの中にいれた。


「そしたら、学校を中心に、時計回りにスタートするのが生徒会チーム。反時計回りに、真桐先生チームがスタート。一分後に僕が合図をするから、出発してください」


 そう言ってから、山本さんは左手に持ったストップウォッチに視線を落とした。

 

「よろしくお願いしますねー、先輩、真桐センセ?」


「おう」


「こちらこそ、よろしくね」


 冬華の言葉に、俺と真桐先生が答えてから……。


「よし、それじゃ、スタート!」


 山本さんが宣言したことで、ウォークラリーはスタートした。


「それじゃ、またあとで」


 池が俺たちに向かってそう言い、俺も首肯して応じた。

 親睦や連携力を強めるための、ちょっとしたゲームだ。

 リラックスして臨もう。

 冬華もそう思っているのか、朗らかに笑いながら俺の隣を歩いている。

 そして、真桐先生に向かって声をかけた。


「真桐先生、やっぱいつものスーツ姿じゃないし、メイクもいつもよりナチュラルだから、若く見えますよー! セーラー服、着てもセーフっぽーい」


 真桐先生のセーラ服姿……。

 少し、見てみたいな。

 俺がそう思っていると、真桐先生は深くため息を吐いてから言う。


「先生に向かって、失礼じゃないかしら池さん?」


「えー、若く見られた方が嬉しくないですかー?」


「社会に出ると、若く見られること=良いこと、とは限らないのよ。中には若いというだけで侮ってくるような人もいるのだから」


 ……だから、真桐先生は普段は大人っぽい化粧をして、スーツ姿でバッチリ決めているのだろうか? そんな風に、俺は思った。


「嫉妬してるんじゃないですかー、その人?」


 呑気な冬華の言葉に、真桐先生は意外にも優しい眼差しを向けてから、言った。


「いえ、あなたたちにはまだ早い話だったわ。気にしないでちょうだい」


 冬華は、「はーい」と返事をした。

 そんなことをしているうちに、最初のチェックポイントに到着した。

 場所は神社。階段を昇った鳥居の前に看板があり、そこに課題があるらしい。

 俺たちは階段を昇り、看板の内容をチェックする。


『今昇った階段は、何段あったでしょうか?』


 課題自体は簡単なものだった。

 俺たちは降りながら段数を数え、それを紙の空白に書き込んだ。

 こういった課題が続くのだろうか?

 それならば、連携力が高まるようなことでもないような……と思ったが、目的を持って1時間半も歩き続ければ、自然と連携力は高まるかもしれないな、とも思った。


 俺たちは次のチェックポイントに向かうことにした。


「そういえば、さっきの話の続きなんですけど。先輩が先生に間違われるのは、ちょっと分かりますねー」


 悪戯っぽく俺の表情を覗き込みながら、冬華が言う。


「……そんなに老けているだろうか?」


 顔が怖いことばかり気にしていたから、老け顔かどうかまで気にしたことはなかった。

 だから、俺は自分が思っている以上におっさん顔だったのかもしれないと震えていると、


「そういうんじゃなくって、先輩落ち着いて、大人っぽい雰囲気あるので。だから、顔自体は別に老けてないですけど、年上に見られちゃったんじゃないですかね?」


「……褒めてるのか?」


「ちょー褒めてます♡」


 あざとい笑みを浮かべてから、冬華は言った。



「ていうか、友木先生とか、想像しただけでウケるんですけどー」


「「え!?」」

 


 そして、続く冬華の言葉に、俺と真桐先生が同時に反応した。……してしまった。


「な、何をそんなに驚いてるんですか、二人して?」


 冬華が驚きつつ、そう問いかける、

 俺は動揺を浮かべる真桐先生と視線を合わせる。

 ……人のこと言えないけど、先生ちょっとはポーカーフェイスをしてくれません?

 そして、瞬間のアイコンタクト。

 

 とりあえず、内緒の方向で、様子見。


 冬華に真桐先生のことがバレても、彼女は言いふらすことはないので問題はないと思う。

 しかし、真実を話すのは、真桐先生の名誉を傷つけてしまう恐れがある。

 ていうか間違いなく傷つける。

 真桐先生がこれまで、先生として築いてきた信頼を崩さないために、俺は冬華に向かって言った。


「冬華は、俺が先生に向かないと思うのか? きっと、ウィットに富んだユーモアあふれる授業で、生徒の人気を勝ち得るに違いない」


「え? ……先輩、大丈夫ですか? 水分ちゃんと取ってくださいよ? きつい時は、休みましょうね?」


 ……なぜか冬華に心配される羽目になった。

 どうしてだろうか、今の論理武装は俺にコミュ力がないということに目を瞑れば完璧だったはずだが。

 動揺する俺に、すかさずフォローを入れてくれる真桐先生。


「そうね、友木君が先生になったら、きっと最初は怖がられて、授業にならないかもしれないわね」


「ですよね? 先輩ホント何言ってるんですか、大丈夫ですか?」


 と思ったら全くフォローじゃなかった。

 冬華が本気で心配そうに俺を伺ってきて、なんだか申し訳ない気持ちになる。

 真桐先生ェ……と心中で俺が絶望していると、


「……でも、友木先生は不器用ながらも一生懸命に生徒のことを考える、良い先生になってくれそうね」


 真桐先生がどこか恥ずかしそうに、続けて言った。

 いや、なんか俺も恥ずかしいんですけど……。

 

「確かに、友木先生はとっても生徒のこと考えてくれそうですね! でも、なんか……真桐先生、実感がこもってません?」


 そう言って、俺と真桐先生に疑うような視線を交互に向けてから、冬華は言った。

 籠ってるんだろうなぁ、と俺が思っていると、真桐先生が一つ溜め息を吐いてから、冬華に向かって答える。


「何を言っているの? 実感が籠っているに決まっているでしょう。あなたと、友木君の関係を見れば。彼が、誠実で、面倒見が良くて、優しいのは。……すぐに分かるわ」


 優しい眼差しを冬華に向ける真桐先生。

 そう言われた冬華は、頬を赤く染めてから、


「……その通り、なんでしょうね」


 と、恥ずかしそうに、視線を逸らしながら答えた。


 なんとか『友木先生』に反応したことは誤魔化せたようだった。

 流石は真桐先生、そう思い俺は彼女の横顔を伺う。

 

 冬華に気づかれないように、彼女は俺にサムズアップをしてきた。


 ――そういう隙は出来るだけ見せないようにしましょうよ、と俺は呆れ顔を浮かべながら、そう思うのだった。




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