表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/221

13話、デュエット

 ボウリングも終わり、今度はフロアを移動して、ドリンクバーで飲み物を取ってからカラオケルームに入る。


「はいっ、先輩は私の隣! 兄貴は正面に座って。葉咲先輩は部屋の外で筋トレでもしてたら良いんじゃないですかぁ?」


 部屋に入ると、早速冬華がてきぱきと指示を出すが……葉咲の扱いが酷い。


「じゃー、私は優児君の膝の上だね!」


「え、何言ってんの? ……流石に引くんですけど?」


 白熱する二人を放っておいて、俺は池の隣に座る。


「俺の隣で良いのか、色男?」


 揶揄うように池は言う。

 随分と様になる横顔で、それをお前が言うなと突っ込みそうになる俺。


「ところで、これってどう操作するんだ?」


 タッチパネル式のリモコンの操作方法を池から教えてもらっていると……。

 

「優児先輩は、私の隣! ですからねっ!?」


「優児君の膝の上には私、だよね!?」


 と同時に夏奈と冬華が問いかけてきた。


「俺は池の隣に座っとくし、膝の上に夏奈を乗せる気もない。二人はそっち側に並んで座れば良いだろ」


 反対側のソファを指さす俺。

 冬華と夏奈は、俺の言葉と隣にいる池を見て、絶望の表情を浮かべる。


 それから言われた通りに反対側のソファに座り、シュンとうな垂れる二人。


「俺の言うことは全然聞いてくれないが、やっぱり好きな男の言うことなら、二人とも素直に聞くんだな」


 またしても、揶揄うように池は言う。

 こいつはこいつで、楽しんでいるな。

 

「とりあえず、曲入れるからな」


 そう言って、池が曲を入れる。

 カラオケマシンから音楽が流れ、歌詞が画面に現れる。


 流行のシンガーソングライターの曲だ。俺でも知っている。

 選曲に迷っていたが、みんなが楽しめる歌を入れておけば良いのだろう。

 そう思い、俺も同じように、みんなが知っているような曲を入れておいた。


 それから、歌い始める池。

 透き通るような声。音程やリズム感も完璧。

 完璧超人の池は、カラオケもパーフェクトだった。


 おそらく、竜宮をはじめとする池のファンの連中が聞いたらあまりのイケメンっぷりに卒倒するのだろう。


 しかし、この場にいる女子は……。


「この曲歌っている人、たまにテレビで見るけどナルシストっぽいよねー」


 幼馴染の夏奈は呑気にそんなことを言い、冬華に至っては無言でスマホを弄っていた。


 二人とも、竜宮と変わってやれよ、そのポジション……っ!

 俺は悔しくなって、心中で嘆いた。


「流石は池。すげえ上手いな」


 歌い終えた池に俺が言うと、


「あっちの二人には、お気に召してもらえなかったみたいだけどな」


 そう答えてから、俺にマイクを手渡した。

 それを受け取ると、すぐに曲が流れた。

 

「あっ、私この曲すっごく好き!」


「先輩センス良い! 素敵~♡」


 そして、唐突に冬華と夏奈が全力で俺をほめそやした。


 普通に気まずかった。

 

 俺が歌い始めてからも、合いの手を入れたりして、盛り上げてくれる。


 ……すげぇ恥ずかしい。


 その羞恥を堪えて歌い終えると、


「わー、優児君上手~!」


「先輩、素敵です! 惚れなおしちゃいました♡」


 俺を自分に惚れさせようとする二人が、そんなことを言ってくる。

 

「お、おう」


 そう答えると、また曲が流れ始める。

 

「あ、私の入れた曲ですっ!」


 冬華の入れた曲は、人気女性歌手の明るいラブソングだった。

 可愛らしい声音、歌唱テクニックも完璧。

 俺は冬華の歌声に、聞き入った。


「……どうでしたか、先輩?」


 歌い終えた冬華が、俺に問いかける。


「すげえ上手いな。聞き入ってた」


 俺が言うと、冬華が照れくさそうに


「良かったです」


 と、ホッとした表情で言った。


「冬華ちゃんは選曲があざとすぎるよねー」


 と、笑顔を浮かべたまま、夏奈が言うと、「はぁ?うっざー」と、冬華も笑顔を浮かべながら返す。怖い。


「次は私歌うねっ、優児君に聞いてもらいたいなっ!」


 と、めちゃくちゃあざといことを言ってから、夏奈は歌い始める。

 女性アイドルグループのバラード曲。しっとりと歌うラブソングだ。


 冬華ほど上手ではないのだが、普段明るい夏奈がこういったバラードを歌うのは……ありかもしれないと思った。


「どうだったかな、優児君? ……ドキッとしてくれた?」


 歌い終えた夏奈は、俺に向かって問いかける。

 ……正直、歌う夏奈に普段とのギャップを感じて、ドキッとしていた。 


「ああ、良かった」


 俺が答えると、夏奈は照れくさそうに笑顔を浮かべる。


「嬉しい、な……」


 それを聞いた冬華が、


「葉咲先輩にぴったりの曲でしたねー」


 と、意外にも好意的に言った。


「そ、そうかな?」


「ええ、歌詞と同じように重い系女子の葉咲先輩には、ぴったりですよー」


 冬華の言葉に、イラっとする夏奈。

 バチバチと火花を散らす二人に、


「ドリンクバー行ってくるけど、二人は何か飲むか?」


 きさくにそう問いかける池。


「「紅茶注いできて!」」


 と同時に応える二人。

 一人で三人分のドリンクを運ぶのは、無理じゃないとは思うが、少し大変そうだな。


「俺も手伝う」


「そうか? 助かる」


 そう思い俺は池と一緒に部屋を出て行った。


 ドリンクバーのカウンターは、他に人がいなかった。

 

 俺がマシンにカップをセットし、コーヒーの抽出を待っていると、


「ありがとな、優児」


 と、池が言った。


「気にするな。二人だったらすぐだしな」


 俺が言うと、池がおかしそうに笑った。


「……なんか俺、変なこと言ったか?」


 そう問いかけると、こちらを向いた池が穏やかな表情を浮かべた。


「ああ。そのことを言ったわけじゃなくてな」


「なら、何のことを言ったんだ? 礼を言われる筋合いなんてないぞ」


「冬華と、夏奈のことだよ」


「は?」


 俺は池の言葉に、呆けたように答える。

 何のことを言っているのか、よくわからなかった。


「……あんな風に底抜けに明るく笑う冬華は、ずいぶん長い間見ていなかった。あいつはこれまで、表面を取り繕っただけの、冷たい顔で笑ってばかりだった。……冬華が変わったのは、優児。お前と付き合ってからだ」


 そう言ってから、ニコリと微笑む池。

 俺は池のまっすぐな言葉に、上手く返事をすることができなかった。


「夏奈も、そうだ。あいつは明るく振る舞い続けていたけれど、胸の内には俺にも相談できないこと思いを抱えていた。今の状態は開き直りに過ぎないのかもしれないが。それでも心の底から笑っているように思える」


 一呼吸置いてから、池は続ける。


「中学に上がるまではな、三人でよく遊んでたんだよ。でもな、冬華は苦悩して、夏奈は想いを拗らせて。いつしか自然と、三人で集まることはなくなっていた。……それに気が付いても、俺には何もできなかった。冬華に至っては……俺はあいつを追い詰めることしかできなかった。……そんなんだったから、きっとあの頃みたいな関係には、もう戻れないんだろうと、俺は勝手に諦めていた」


でもな――


 と、池は遠い目をして、言う。


「二人が仲良く一緒にいて、俺はただ揶揄われ続ける。それが、あの頃のやり取りを思い出して……。嬉しくなった」


 池がひどい扱いを受けていてショックだった俺だが、彼にとってはそれこそが望んでいたものだったらしい。


「……勉強会の日、俺とお前と冬華の三人で出かけようって、言ってくれただろ? 俺は、それが本当に嬉しかったんだ。優児なら俺にできなかったことも、叶えてくれるかもしれないと、そう思ってな。蓋を開ければ、夏奈も入れて四人で一緒にいられるんだからな。……だから、本当にありがとな、優児」


 優しく、穏やかに笑みを浮かべた池が、俺に向かってそう言った。

 いつの間にか抽出の終わり、カップに満たされたコーヒーに、視線を落とす。


「……やっぱ、礼を言われる筋合いはないな」


 確かに、俺は池と冬華の仲を改善する役に立てたのかもしれない。

 しかし、夏奈のことについては、俺は何もしていない。

 俺は、ただきっかけになったに過ぎない。

 それでどうして、池からの感謝を受け入れられることができる?


 何より、俺が池から受けた恩は……到底返しきれないものだ。

 だから、その言葉は素直に嬉しく思うが。

 それでも、受け止めることは出来ないと。

 俺は、そう思った。  


「……カッコつけすぎじゃないか?」


「うるせ」


 池の揶揄うような言葉に、俺は照れくさくなりながらも、一言返す。

 ……ちょっとカッコつけるくらいじゃなければ友人キャラ()主人公()の隣には並べないんだよ。


 俺の言葉を受けて、クスリと笑う池。

 彼はそれから、真剣な表情を浮かべて、言う。


「……別に心配はしていないが、一つだけ。……冬華はもちろん、夏奈も俺にとっては妹みたいなもんなんだ。だから、優児と二人の関係が、これからどう関係が変わるかは分からない。……だけど、誠実でいてくれ」


 真っすぐなその眼差しを受けて、俺は頷く。 


「……ああ」


 俺にとっても、あの二人は大切な人であることに間違いはない。

 だから、傷つけたくない。


 俺の答えに満足したのか、池はいつもの明るく爽やかなイケメンスマイルを浮かべてから、言う。


「その言葉が聞けて、良かった。それじゃ、そろそろ部屋に戻るか」


 池の言葉に俺は無言で頷く。



 冬華の分の紅茶をサクッとグラスに注いでから、池と共に部屋に戻ると――。


「「あ」」


 そこには、中々衝撃的な光景が広がっていた。


 驚いたことに、冬華と夏奈が二人仲良くデュエットしていたのだ。

 俺と池は顔を合わせた。


「仲良いな、二人とも」


 俺が言うと、二人の顔は真っ赤になり、それから妙に気まずそうに俯いてから、


「これは、優児君とデュエットしたいって話になって!」


「どっちが優児先輩のパートナーに相応しいか、実際に歌って判断しようってことになってですね!?」


 慌てて説明をする二人。

 俺と池はテーブルにグラスを置いてから、とりあえずソファに腰をおろした。

 楽しそうに歌っていたように見えたけどなー。

 未だに説明を続ける二人の言葉を、そんな風に思いながら聞いていると、隣に座る池が肩を震わせながら言った。


「いや、二人とも。そういう理由なら、もうデュエットをする必要はないぞ」


 真意の測れない池の言葉に、


「は? 何言ってんの?」


「どゆこと、春馬?」


 怪訝な表情を浮かべる二人。


「簡単なことだ。……優児は、俺とデュエットをするからなっ!」


 そう言ってから、俺の肩を組んでくる池。

 それを見て、冬華と夏奈が憤る。


「はぁっ!? 意味ワカンナイんですけど!?」


「そうそう、ありえないよ、そんなのっ!」


「ありえないかどうかは、優児が決めることだと思うが?」


 俺に同意を求めてくる池。

 整った顔が間近に迫る。

 竜宮をはじめとする池のファンの連中に対してこれをしたら、あまりのイケメンっぷりに卒倒するのだろう。

 ……残念なことに、俺は男なのだが。


「おう、それじゃ一緒に歌うか」


 ときめくことなく卒倒することもない俺が池に対して答える。


「何それ、ちょーあり得ないんですけど!?」


「そんなのズルだよ、春馬のばかっ!」


 二人の抗議の声を、爽やかな笑みで受け流しつつ、男性グループのデュエットソングを選曲した池が、俺に向かってマイクを渡しながら、快活に笑って言った。


「そんなの知ったことではないよな、相棒?」


 俺は池からマイクを受け取り、


「ああ」


 と頷いて、恨めしそうな表情を浮かべる冬華と夏奈の前で、池と共に熱唱するのだった――。

 

 


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説大賞入賞作、TO文庫より2025年11月1日発売!
もう二度と繰り返さないように。もう一度、君と死ぬ。
タイトルクリックで公式サイトへ、予約もできます。思い入れのある自信作です、書店で見かけた際はぜひご購入を検討してみてください!

12dliqz126i5koh37ao9dsvfg0uv_mvi_jg_rs_ddji.jpg





オーバーラップ文庫7月25日刊!
友人キャラの俺がモテまくるわけがないだろ?
タイトルクリックで公式サイトへ!書店での目印は、冬服姿の冬華ちゃん&優児くん!今回はコミカライズ1巻もほぼ同時発売です\(^_^)/!ぜひチェックをしてくださいね(*'ω'*)

12dliqz126i5koh37ao9dsvfg0uv_mvi_jg_rs_ddji.jpg4コマKINGSぱれっとコミックスさんより7月20日発売!
コミカライズ版「友人キャラの俺がモテまくるわけがないだろ?」
タイトルクリックで公式サイトへ!書店での目印は、とってもかわいい冬華ちゃんです!

12dliqz126i5koh37ao9dsvfg0uv_mvi_jg_rs_ddji.jpg

― 新着の感想 ―
[良い点] 男女で歌う曲って少ないイメージ、自分の趣向範囲が狭くてヤバいtシャツ屋さんか凛として時雨ぐらいしか思いつかないのが難点なんだろうが、色々な意味で難しいイメージ
[一言] テクニカル過ぎてキモい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ