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12話、300点満点

 冬華と夏奈が言い争うのをなだめて、俺たちはパチ公前から移動する。

 今日のことはノープランだったため、これから何をしようかと、道を歩きながら話すことに。


「何かしたいことはあるか?」


 池が問いかけると、まず冬華が反応した。


「私は先輩と二人きりでカラオケにでも行こうと思うので、二人はどうぞご自由に。それじゃっ!」


 そう言って、俺の腕をガシッと掴んで二人から離れようとするが、


「私と優児君が良い雰囲気になれる映画を観に行くから、冬華ちゃんと春馬は兄妹水入らずでゆっくりすれば良いんじゃないかなー?」


 と、夏奈が固い声音で言ってから、冬華が掴む方とは逆の腕を引っ張ってくる。


「残念、映画は既に私と優児先輩で一緒に行きましたー。ちょー良い雰囲気になりましたね? でもぉ、別に今日は映画の気分じゃないですよね?」


「ああ、そうだな」


 あの世紀末な映画を観て良い雰囲気になっていたかは分からないが、確かに映画を観ようというテンションでもないため、俺は冬華の言葉に頷く。

 すると、シュンとうな垂れる夏奈。


「……映画は、また今度な」


 流石に申し訳ない気分になって、俺が夏奈にそう言うと、彼女は表情をぱぁっと明るくさせた。

 それから、


「うん、約束だよっ?」


 と、満面に笑みを浮かべて言ったので、俺は首肯した。


「……先輩? 彼女のいる前で、他の女の子をデートに誘うとか、サイテーなんですけどー」


 顔を真っ赤にして、不服そうな表情を浮かべながら、冬華は言った。


「次の機会に、みんなで行こうってことだ」


 今の俺にとって、夏奈は大切な友人だ。

 彼女との関係も、冬華との『ニセモノ』の恋人関係同様、大切にしたいと、俺は思っている。

 

「それでも、良いよ。……今はまだ、だけどね?」


 穏やかな笑みを浮かべる夏奈。


 きっと俺は、知らずに彼女を傷つけているのだろう。

 俺が彼女の気持ちに応えない限り、こうして傷つけてしまうのだろう。

 そのことを、申し訳ないと思う。


 だけど――。


「ああ」


 今ここで謝るべきではないとも思った。

 だから、俺は一言答えた。 

 

「……先輩のバカッ、女たらし」


 不満そうに呟いたのは、冬華だった。


「人聞きの悪いことを言うな。俺は女たらしではない」


「……そうでしたね。先輩は別に女の子だけ誑し込んでいるわけじゃないですもんねー」


 所謂ジト目という奴で、冬華は俺を責める。


「……どういう意味だ?」


 彼女の言っている意味が全く分からなかった俺は、素直にそう問いかける。


「知らぬが仏。昔の人は良いことを言いますよね……」


 どこか覚悟を決めた表情を浮かべながら、冬華は呟いた。


「……それで、結局どうする?」


 俺たちの会話を見守っていた池が、苦笑を浮かべてそう問いかけた。

 ……全く話が進んでいなかったことに、気がつく。

 そう考え、俺は周囲を見て、一つの建物が目に留まった。


「あそこに入って考えないか?」


 俺が指さしたのは、大型の総合アミューズメント施設だ。 

 あそこなら、さっき冬華が言っていたカラオケもあるし、それ以外にもゲームセンターやボウリング、各種スポーツ施設なども取り揃えている。


「良ーんじゃないですか?」


「私も良いと思う」


「決まりだな」


 というわけで、かなりあっさりと目的地が決まるのだった。



 そして、受付を済ませてから何をするか話すのだが……。


「そういえば俺、ボウリングをしたことがないな」


「えっ!? そうなんですか?」


「ああ。これまで、一緒に行く相手がいなかったし、一人でしようとも思わなかったからな」


 俺の言葉に、冬華は池と夏奈を見た。


「そういえば、一度もしたことがなかったな」


「私と遊んでいた時は、大体外で遊んでたよね」


 池は申し訳なさそうに言い、夏奈は懐かしむように言った。


「ちなみに、カラオケでも遊んだことがない。理由は同じだ」


 俺が言うと、三人は優しく笑顔を浮かべてから、言う。


「それじゃ、折角だしボウリングとカラオケをして遊びましょうか」


「うん、そうだね。きっと、みんなでやったら楽しいよ?」


「ああ、丁度いいな」


 ……あまりにも温かい言葉に、流石に気恥ずかしくなる俺だったが、


「おう、そうしよう」


 と、素直に頷いた。

 


 そんなわけで、まずはボウリングをすることに。

 ボウリング専用の受付でシューズを借りてから、レーンに案内される。


 各々がボールを借りて、ゲームはスタートした。

 第一投の池は、こなれたフォームでボールを投げる。

 見事にカーブさせたボールは、そのままピンをすべてなぎ倒した。


 一投目からのストライク、流石はスター池だ。


「おー、すごいねー」


「今日は調子がよさそうだ」


 夏奈がそう言って、笑顔を浮かべる池とハイタッチをする。

 ちなみに、冬華は池を完全にスルーしていた。


「すごいな」


「ありがとな」


 俺は夏奈に倣い、池とハイタッチ。

 すると……なぜか、こちらを見ていた夏奈が、目の色を変えた。


「優児君、次、私投げるから! 見ててよねっ!?」


「お、おう」


 テンションの高い夏奈が、ボールを投げる。

 一投目は綺麗に右半分を倒し、残り5本。

 二投目、残ったピンにまっすぐにボールは進み……見事全ピンを倒した。

 夏奈はスペアを記録した。


「わっ、見てた、優児君!?」


 夏奈がこちらを振り向き、嬉しそうに言う。


「ああ、すごいな」


 俺が頷いて応えると、笑顔のまま手を上げてこちらに向かってくる夏奈。


「わーい、ハイタッチ、ハイタッチ!!」


 嬉しそうに言う夏奈に、俺は苦笑を浮かべて手を合わせて……彼女はそのまま、俺の手を握り締めてきた。

 それを見て、冬華が「ちょ、何してるんですか!?」と、慌てて言う。

 それは、俺も聞きたいことなのだが。


「夏奈、これは俺の知ってるハイタッチと違うんだが」


 俺がそう言うと、


「……ドキッとしてくれた?」


 上目遣いに俺を覗き込みながら、夏奈が訪ねてくる。

 ……正直、ドキッとしていた。


「はーい、私のカレピに馴れ馴れしく触らないでくださーい。セクハラで訴えますよー?」


 不満を浮かべた冬華が、俺と夏奈の手を何度もチョップしてくる。


「……嫉妬は見苦しいかなー、冬華ちゃん?」


 冬華にチョップされた腕をさすりながら、夏奈は意地悪に言う。

 カチンときた様子の冬華は、


「……先輩? 私が投げるところもちゃんと見ていてくださいねっ♡」


 夏奈と似たような言葉を俺に告げてから、ボールを投げる。

 真直ぐにボールは進み、中央からピンが倒れていった。

 冬華は池と同じように、ストライクを取った。


「やった~、ストライクですよ、先輩♡は~い、ハイタッチ!」


 俺に駆け寄る冬華が、両手を上げて駆け寄る。

 何だったら抱擁を求めているようにも見えたが、俺は彼女を迎え入れようとして……。


「わ~、冬華ちゃんストライクだ! 凄いすごーい♡」


 と言って、間に割り込んだ夏奈が、冬華と強制ハイタッチをした。

 そして、俺の時と同じように、手を掴んだ。


「……わー、ありがとーございまーす。とりあえず一刻も早く手を離してもらえますぅ?」


 固い声音で言う冬華。


「えー、だって冬華ちゃん、私の真似して優児君の手を握りしめるつもりでしょ? 次は優児君の番なんだから、邪魔しちゃだめだよ?」


「はー? 超意味わかんないんですけど? そんなはしたない真似、あんたと違って私がするわけないんですけど? ……ただ? 先輩が私の手を離さないときは、別だけど~?」


「実はさっきのあれ、優児君が私の手を離さなかったんだよ?」


「はぁー? 妄想癖があるとか、カワイソー」


 互いに言い合い、プロレスのようにいわゆる「手四つ」の状態で硬直する冬華と夏奈。


 ……よし。次は、俺の番だな。


 二人を放置し、俺は池から簡単なアドバイスをもらい、ボールを投げる。

 二投で合計8本を倒すものの、中々池のように思った通りには投げられなかった。


 まぁ、まだ始まったばかり。

 このゲームで一度くらい、ストライクをとってみたいな。

 

 ……と、冬華と夏奈の諍いを放置する横で、俺はそう思うのだった。


 

 そして、1ゲームが終わった。

 あのあと俺は、なんとなくコツを掴んで、ストライクやスペアを結構取れた。

 最終的なスコアは150程度だった。


「初めてなのに150なんてすごいよ!」


「先輩、カッコよかったですよ♡」


 平均的なスコアだとは思うが、それでも夏奈と冬華からは大絶賛された。


 そして、10フレーム全てでストライクを取り、俺の倍の得点である300点を記録した池はというと……。


「ねぇ、春馬? 一人だけ12回しか投げられなくって、損した気にならない?」


 夏奈に心配され――、


「わぁ、テクニカルすぎてキモー」


 冬華に嘲笑されていた。


「……すごいじゃん、俺の倍の得点だ」


 俺がそう言うと、池は黙って寂しそうに笑顔を浮かべて言う。


「優児が楽しんでくれたのなら、俺はそれで良いさ」



 冬華と夏奈からひどい(?)ことを言われたにもかかわらず、俺のことを気にしてくれる池は、聖人君子か何かなのか?


 哀愁を漂わせながら言った友人の姿を見て、俺は割と真剣にそう思うのだった――。

 

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