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11話、こんなの絶対おかしいよ

 開けた窓から、爽やかな風が入り込む。

 耳にはセミのけたたましい鳴き声が届き、部屋の中にいても今が夏なのだと思い知る。


 今日は、いよいよ始まった夏休みの初日だ。


 ……とはいっても、特に予定はない。

 普段の休日のように、漫画やラノベを読むか、勉強をするか、身体を鍛えるか。

 することはそれくらいだ。


 と、思っていると。


 机の上に置いていたスマホが震え、着信を告げた。

 俺はそれを手に取り、通知画面を確認する。

 差出人は、池だ。

 内容を見ると、


『今日、暇なら遊ばないか?』


 と書かれていた。

 ……ありがたい。

 当たり前のように暇な俺は、そう思い、すぐに返信をした。


『もちろん、良いぞ』


 送ると、またすぐに池からの返信が来た。


『それなら、14時に飯を食ってから駅のパチ公前で集合で』


 パチ公とは、ここら辺の高校生が頻繁に使う繁華街の最寄駅にある、パチもの臭い犬の銅像のことだ。

 地元では、割と有名な待ち合わせスポットである。 


『了解』


 池に返信をする。

 まだまだ、待ち合わせには時間がある。

 せっかくいい天気なので、外でも走ろう。



 軽く走り終えてからシャワーを浴び、自室に戻る。

 それからスマホを見ると、新たにメッセージを二つほど受信していた。


『先輩、今日は暇ですよね? デートしましょ♡」


 俺のことを暇だと決めつけたのは、冬華だ。

 誘ってくれたのは、本当にありがたいのだが、あいにく先約がいる。


『池と先に約束をしていた。それでも良いなら、14時にパチ公前で』 


 池も冬華と出かけるのが嫌とは言わないだろう。

 そう思い、俺は冬華を誘ってみた。


 そして、次のメッセージを見る。


『あんまり会えないみたいなこと言ったばっかりだけど…今日、練習が午前で終わるから、午後から一緒に、遊びに付き合ってほしいな!』


 差出人は夏奈だった。

 誘ってくれて、有難い。

 そう思い、俺は彼女にも冬華と同じように、


『池が先約だったんだが、一緒でも良いなら14時にパチ公前で』


 と、返信を送った。


 それからすぐにスマホが振動し、着信した。

 メッセージは、冬華からだった。


『二人っきりが良かったのに!』

 

 というメッセージの後、腹立たしいデザインのキャラクターが怒っているスタンプが送られ、


『……わがまま言ってもしょうがないですし、別に良いですけど!」


 というメッセージの後に、ムカつくドヤ顔をしたキャラクターか『おけまる!』と言っているスタンプが送られる。


『それじゃ、よろしく』


 俺は冬華のメッセージに、一言で返信をした。



 夏奈からメッセージが返ってきたのは、冬華よりもだいぶ後だった。

 時刻は正午を過ぎており、これまでテニスの練習をしていたんだろうなと思った。


『春馬も? 私は、優児君と二人っきりでイチャイチャしたかったんだよ?』


 これまたムカつくデザインのキャラクターが泣きべそをかいているスタンプを送ってくる夏奈。流行ってるのか……?


 そしてすぐ後に、


『……でも、しょうがないかな。二人っきりでイチャイチャは、次の機会に取っておきます!』


 と、返事が来た。


『二人っきりでもイチャイチャはしないからな。それじゃ、よろしく」


 俺は夏奈にそう返信してから、


「池にも言っとかないとな」


 そう思い、彼にもメッセージを送った。

 池からは、すぐに返信が届いた。


『夏奈からも冬華からも何故か急に罵倒の言葉が送られてきたのは、そういうことだったのか…』


 という、哀愁漂う文面に対し、俺はなんだか非常に申し訳ない気分になった。




 待ち合わせ場所に行くと、早速池を見つけた。


「ねぇ、君一人?」


「凄く綺麗な顔してるねー。お姉さんたちと、良いことしない?」


 ……待ち合わせ場所には人気が多いにもかかわらず、女子大生と思しき派手目な二人に逆ナンをされている、爽やかイケメンな池春馬さんを。


「すみません、人を待っているもので」


「えー、それってカノジョとか?」


「いえ、友人です」 


「なら、その子もいっしょに遊べばよくなーい?」


 中々ガッツのある相手のようだ。

 池が丁寧に拒否をしても、二人の女性に引き下がる様子がない。

 愛想笑いを浮かべ、お断りの言葉を繰り返す池に近づき、俺は声をかける。


「待たせたな」


 俺の声に、ホッとした表情を浮かべた池が振り返る。


「おお、優児か」


 俺の登場に安心した池とは反対に、女性2人は俺の顔を見て恐怖の表情を浮かべた。


「あっ、折角友達と遊ぶのに邪魔しちゃ悪いねー、やっぱ」


「これ、ウチのアドレスだから、ゼッタイ連絡しなよー?」


 と、先ほどまで熱心に池を口説いていた二人は、自分のアドレスを書いた紙をさっさと握りこませ、俺の顔をまともに見ないまま、颯爽と逃げて行った。


 彼女らの背中が見えなくなってから、困惑を浮かべながら池は言う。


「助かった、優児。どうにも、ああいうのは苦手でな」


 年上のお姉さんに逆ナンをされてからのセリフが、これだ。

 朝倉が聞いたら卒倒しそうな言葉だった。


「流石は池。……敗北感を覚える」


 逆ナンどころか見知らぬ他人から声をかけられることすらない俺も、衝撃を受けていた。


「へー、それじゃ優児君は、逆ナンされたいのかな?」


 と、落ち込む俺に声をかけてきたのは、夏奈だった。

 振り向くと、夏奈がおり、俺の腕に自分の腕を唐突に固く絡ませてきた。


「じゃ、私が優児君を逆ナンしちゃおっかな? 彼氏、カッコいいねー。私と、良いことしなーい?」


 そして、夏奈は悪戯っぽく笑いつつ、言った。


「いや、別にナンパされたいわけではないからな」


 俺が言うと、


「その通りですよ、葉咲先輩。ていうか、そこは私のポジションなので、どいてくださーい」


 間髪入れず、今度は冬華が現れる。

 夏奈と組んでいる腕を無理やり引き離して、彼女は間に割って入ってきた。


 ムッとした表情を浮かべる夏奈と、冷たい視線を彼女に送り続ける冬華に対して、俺は言う。


「冬華も来たから、とりあえずはこれでみんな揃ったな」


 俺の言葉に、怪訝な表情を冬華と夏奈が浮かべた。


 どうしたのだろうか?

 そう思っていると、二人は俺に向かって問いかけた。


「え、先輩? この泥棒猫も参加する流れなんですか? 私、聞いてないんですけど?? ちょー意味わかんらい系なんですけど?? 私、先輩がこの人にストーカーされてるのかなって、心配したんですからねっ!? どう言うことか、説明してくださいよっ」


「ス、ストーカーなんてしないよっ! 私だって、冬華ちゃんがいるなんて、聞いてないもん! 冬華ちゃんこそ、優児君と遊ぶことになった春馬の後をついて来ただけでしょ!? 冬華ちゃんの方が、ストーカーだよっ!! ね、そうだよね? 優児君!?」


 白熱する二人に、俺は問い詰められる。

 そして、二人を見てから、思い出す。


「ああ、そういえば言い忘れてた。すまん」


 たしかに、参加者が増えることは池にしか報告していなかった。

 悪いことをしたな、そう思い俺が謝罪すると……。


「え、それだけ……!?」


「こんなの絶対おかしいよ……」


 絶望の表情を浮かべる二人に、池が声をかける。


「まぁ、良いじゃないか、たまには」


 池がそう言ったものの、


「兄貴はちょっと黙ってて」


「春馬はどっちの味方なの!?」


 と、二人から攻められる羽目になった。

 肩を竦めて俺の肩に手を置いてから、池は引き下がった。

 ……俺が蒔いた種とはいえ、出来れば引き下がらないで欲しかった。


 冬華と夏奈は、お互いに睨み合う。

 それから、冬華が猫撫で声を作って、俺にしなだれかかって言った。


「ま、いいでしょう。今日はあくまでも私と先輩のラブラブデートがメインですし? 他の2人は気にせず、いつもみたいにイチャイチャしましょーね?」


 と、上目遣いで冬華が問いかけてくる。

 別にいつもイチャイチャしているわけではないが、徹底的に夏奈をブロックしたいらしい。


「そんなのズルイっ! 私だって……優児君とイチャイチャしたいのにっ!」


 非難めいた視線を俺と冬華に向ける夏奈。

 あーだこーだ言い合う二人に、どう対処しようかと考えていると……。



「なぁ、優児……敗北感が、何だって?」



 呆れたような表情を浮かべ、池はそう問いかけてきた。


 確かに、今の状況を朝倉には決して見せられないな……。

 そう思った俺は、池の問いかけに何も答えられなかったのだった――

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