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5話、相談

「これで今日の授業は終わりです」


 授業終了のチャイムが鳴り、教壇に立つ女教師――真桐先生が、クラス委員に号令を促した。

 挨拶が済むと、彼女は教室から出て行った。

 

 俺も一度教室を出ようと席を立つ。

 そして廊下に出ると、先に教室から出ていた真桐先生と対面した。


 彼女は俺の顔を見て、思い出したように言った。


「ちょうど良かったわ、友木君。これから用事がないのなら、生徒指導室に来てくれる」


 真桐先生の言葉に「うす」と一言応じる。

 特に用事はない。

 それに、正直そろそろ真桐先生には呼び出される頃合いじゃないだろうかと、俺自身考えていた。


 真桐先生は満足そうに頷いた。

 そんな彼女の後をついて廊下を歩き、すぐに生徒指導室に到着した。


「どうぞ、かけなさい」


 真桐先生の言葉通りに、俺はパイプ椅子に腰掛けた。

 彼女は、思案するそぶりをしてから、口を開いた。


「時間もないことだし、早々に本題に入るべきなんでしょうけど……。期末テスト、頑張ったのね。学年二位なんて、すごいじゃない。おめでとう、友木君」


 そう言って、真桐先生は柔らかく笑った。

 俺は少々面食らう。

 褒められるのは正直嬉しいが、なんだかむず痒い。


「あざっす。……ただ、俺が二位になれたのは実力じゃなくって、池から勉強を教えてもらったからっすよ。やっぱ、あいつはすごいっすよね」


 これまでの全ての学力テストで校内一位を獲り続けている友人の名を出すと、真桐先生はゆっくりと首を振った。


「いくら優秀な人間から教わったところで、それを受ける側に聞く気がなければ意味がないわ。友木君、あなたが二位になったのは、他の誰でもなくあなた自身が努力したからよ。胸を張りなさい」


「教えてくれる友人がいたってのは、絶対に大きかったんと思うんすけどね。……ただ、確かにやる気を出して急に成績が伸びた朝倉みたいな例もあるんで、本人次第っていう面もあるんすよね」


 急に学年五位になった朝倉の話を出すと、真桐先生は珍しく気まずそうな表情を浮かべた。


「朝倉君、ね。……あそこまで伸びると、流石に普段の授業が酷いんじゃなかったかって、反省をするわ」


 ……あれはテスト期間中の本人のモチベーションが異常だったことと、池の的確な指導があったからであって、真桐先生に責任はない、はず。


「……それで、本題だけど」


 真剣な表情を浮かべた真桐先生は、そう前置きをした。

 俺は、思わず姿勢を正して、続く言葉を待った。


「友木君と、葉咲さん。最近妙に仲が良い、というか。それ以上の関係にも見えるのだけど……何かあったのかしら?」


 真桐先生は、俺と夏奈との関係を問いかけた。

 

 やはり、このことだったかと、俺は納得した。

 むしろこれまで聞かれなかったのは……期末テストがあったからだろうか。


 事情を知らない第三者が見れば、俺は二股をかける男に見えていることだろう。

 しかし……真桐先生には、俺と冬華が『ニセモノ』の恋人関係であることを話している。


 だからこそ、なおさら今の関係が歪に映るのかもしれない。


「夏奈とは、色々あったんすよ」


 なんと説明をしようか悩みつつも、俺がそう答えると、真桐先生は真剣な表情を浮かべて再度問いかける。


「可能な範囲で良いから、話をしてくれると助かるわ」


 俺は、真桐先生の言葉に頷いた。

 彼女は、俺が心底信頼できる、数少ない人だ。

 軽々しく誰かに口外することもなければ、悪いようにもしないだろう。


 俺の話を聞いて、力になろうとしてくれているのだ。

 彼女のまっすぐな眼差しを見れば、分かる。


 そう確信をして、俺は夏奈と幼馴染だったことに最近気が付いたことと、彼女から好意を告げられたことを話した。


 夏奈が『ナツオ』と呼ばれていたことや、具体的にあった事柄などは流石に言えなかったが、それでもどういうことがあったかは、真桐先生も分かってくれたようだ。


「……それで、友木君はなんと答えたのかしら?」


 真桐先生は、俺に尋ねる。


「断ったっす。夏奈とは、付き合えないって」


「どうして断ったのかしら? 葉咲さんは同性の私から見ても、素敵な女の子だと思うけど」


「『ニセモノ』だとしても、俺は冬華との関係が大切だと思ったんすよ。あと、恋愛感情を抱いているわけでもないのに付き合うのは、失礼だって思いましたし。……それに、その時は意識していなかったことなんすけど」


「何かしら?」


 葉咲から気持ちを伝えられた時は、嬉しさと、そして彼女を傷つける申し訳なさからそれ以外のことは考えられなかったが。


 最近、ふとした拍子に抱く感情。



「俺は――怖かったのかもしれないっす」

 

 

 夏奈を振った俺が、怖がることなんて何もないはずだ、と頭では理解できるのだが……。


 自分でも上手く言葉にすることができないが、俺は時折怖くなることがあるのだ。

 この感情の由来も正体も分からないことが、俺をなお不安にさせていた。



「……そう」


 真桐先生は、そう言ってから――。


「事情は分かったわ。つまり、葉咲さんはあなたのことが諦められず、今もアプローチをし続けているってことね。私は彼女の意思を尊重したいから、あまりうるさくは言えないけれど……決して、不誠実な対応をしてはダメよ? ……それじゃ、時間を取らせて悪かったわ。次の授業に遅れないように、そろそろ戻りなさい」


 と続けて言った。

 真桐先生としては、この話はこれでお終いのつもりのようだが――。


「え? いや。いやいや。真桐先生に相談して、俺は何かしらアドバイスをもらえるって思ってたんすけど?」


 俺は正直言って、この不安を誰かに相談をしたいと思っていた。


 本来ならば、真っ先に池に話をするところだが、あいつには冬華との関係の真実を伝えていないから、相談をすることは難しい。

 そして、『ニセモノ』の恋人関係を続けようとしている冬華に相談すれば、偏った意見が返ってくるはずだ。


 つまり、信頼できる人物かつ、俺と冬華の関係を知っている真桐先生にしか、相談できない。


 だというのに、頼みの綱である真桐先生が明確なアドバイスを返してくれないだなんて……。

 俺はそう思い軽く絶望をしていると、


「大丈夫よ、そう深刻に考えずとも」


 優しく、慈愛に満ちた表情を真桐先生は浮かべた。


「いずれ――あなたのことを大切に想う人が、その気持ちを受け止めてくれるわ。私が、保証する」


 面と向かって真っすぐに、真桐先生はそう言ってきた。

 ……ここまで断言されてしまえば、本当に深刻に考える必要はないのでは? と単純な俺は思った。

 

「分かったっすよ。真桐先生の言葉の通り、そのいずれ……が来るかは分かりませんが。今は、深く考えないようにします。……そんじゃ、教室に戻るんで」


 俺はそう言って、立ち上がり、真桐先生に背を向けて生徒指導室から出ようとする。

 扉に手をかけたところ、「あ、そうそう」と、声が掛けられた。


 どうしたのだろうか?

 そう思い、俺は振り返り真桐先生を見た。


 真桐先生も立ち上がり、それから彼女は口を開いた。


「私は、あなたを一人の生徒として大切に思っているわ。だから、相談事があれば、また話をしてくれると……嬉しいわ」


 そう言った真桐先生の表情は本当に嬉しそうで……なぜだか俺はこのタイミングで、前回この生徒指導室に

来た時に、彼女と至近距離で見つめ合ったことを思い出してしまい――


「……そん時は、頼んます」


 照れそうになるのを堪えつつ、一言だけ告げてから、俺は生徒指導室を立ち去った。


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