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2話、怒りの朝倉

 梅雨明け近くの6月末。

 今日は雨も降らずに空を見上げれば太陽が輝き、もうすぐそこに夏が訪れることを予感させる、そんなある日の放課後。


「せんぱ~い、ここが良く分からないので、教えてくださいっ♡」


 俺たちは、こんなに良い天気だというのに、この間の中間テストと同じメンバーで期末テストの勉強会を行っていた。


 駅近くのファミレスのボックス席で隣に座る少女、池冬華は甘えた声で俺に問いかけた。


「ん、おう。ここは……」


 あざとく問いかけてきた冬華は、入試と中間テストで学年一位を獲得した才女だが、学年は俺よりも一つ下。

 俺自身そこそこの成績であるため、一年の内容であれば、こうして教えることもできる。


「あは、なるほど! 分かりましたっ、やっぱり先輩、教えるの上手ですよねっ!」


 俺が要点を解説すると、すぐに理解した冬華。

 俺の教え方というよりも、彼女の素の理解力が桁外れなのだろう。


「流石私のカレピ、素敵です♡」


 と、ウィンクをしてくるのは、彼女が俺の『ニセモノ』の恋人であり、それを周囲にアピールするため。

 ……そしてもう一つ、とある理由により俺を惚れさせようとしている。

 そのため、以前よりもあざといアピールが露骨になっていた。



「ねぇねぇ、優児君。私も分からないところがあったんだけど、教えてくれるかな?」



 俺の太ももの上に手を置いて、冬華とは反対側の隣に座る女子、葉咲夏奈が声をかけてきた。


「ん、どこだ?」


「えっと、ここなんだけど……」


 夏奈が躓いた問題を俺は説明する。

 冬華程すぐには理解できなかったようだが、ひっかっかたところを押さえて説明すると……。


「分かった! そっかー、そういうことだったんだー。ありがとっ、優児君!」


「ああ、気にするな。自分がどの程度理解できているかも、教えていれば分かるから自分のためになる」


 夏奈のお礼の言葉に、俺はそう返す。

 彼女の問いに答えられない場合は、自動的にその質問を外注することになる。


 俺は対面に座る、外注先の池春馬へと視線を向ける。

 彼は俺の視線に気が付いたのか、爽やかに微笑んだ。

 ……嫉妬する気も失せるほどのイケメンだった。


「えへ、優児君って頭良いし、カッコいいし、優しいし、頼りになるし。……惚れなおしちゃった」


 そう言って、俺にしなだれかかる夏奈。

 ……そう、これが冬華が俺を惚れさせようとする理由。


 葉咲夏奈は、俺にどうしたわけか惚れている。

 そのため、冬華は俺が夏奈に絆されて『ニセモノ』の恋人関係を解消されないようにと、アピールを重ねているのだ。


 俺は一度夏奈の告白をはっきりと断っている。

 ……のだが、彼女には勘違いから『成功するか、諦めきれるまで何度も告白をしたら良い』と言ってしまった過去がある。

 だからどうしても、今のようなアピールを強く断れないでいた。



「……ちょっと葉咲先輩? 私のカレピに色目使うのやめてくれません? ていうか、それは中間テストのときに私が言ったこととまんまなので、やめてもらえません?」


 そのことが、冬華にとっては非常に不愉快らしい。


「えー、冬華ちゃんこわーい。ていうか、束縛するタイプなんだね、もうちょっとカジュアルにお付き合いをするタイプだと思ってたんだけど……結構重いんだね」


「はぁっ? 私が重い!? あんたにだけは言われたくないんだけど! この……ナツオ!」


「た、確かに前は男の子に良く間違われたけど……今は、冬華ちゃんにだって、負けてないからっ」


 そう、夏奈は以前男の子に良く間違われていて、実際俺も彼女を男だと思っていた。

 それが、俺のかつての親友である『ナツオ』だ。


 しかし、栗色の髪の毛をサイドテールに纏め、顔も中性的な雰囲気が薄れたアイドル級の美少女になっていた。

 そして……かなりの巨乳の持ち主で、誰も今の夏奈を男と間違えるものはいないだろう。


「この肉まんお化け……っ!」


 こめかみに青筋を浮かべて、冬華は悔しそうに呟いた。


「肉まんお化けって何!?」


 困惑する夏奈の胸元を見て、俺はなんとなく察した。

  

「てか、葉咲先輩は兄貴に教えてもらった方が良いんじゃないですかぁ? 私のカレピの負担になることは、してもらいたくないんですけど?」


 冬華が自分のことを全力で棚上げしてそう告げると、夏奈は俯いた。

 俯いたまま夏奈は、ノートを抑える俺の手に、自らの手を重ねた。

 その手の温もりに、俺の肩が跳ねた。


「優児君が迷惑って言うのなら、私も無理に勉強を教えてもらったりしないよ? でもね、私優児君に教えてもらいたいの。……その、色々と」


 蠱惑的な視線を向けてくる夏奈が、ぎゅっと俺の手を握った。


「だから……そういうのも全部兄貴に教えてもらえばいいんじゃないですかぁ?」


 そして冬華は、ぺしっ、と俺の手に重ねる夏奈の手をはたいた。

 俺を挟んで冬華と夏奈が一触即発の状況となった。


 ……それを見て、池の隣に座る朝倉が顔を伏せ、プルプルと震えていた。

 ノリが良く優しい性格の朝倉だが……流石に我慢の限界なのだろう。

 こう騒がれていれば、勉強に集中できるはずもない。


 俺は一つ溜め息を吐いてから、


「冬華、夏奈」


 二人の名前を呼ぶ。


「何ですか、先輩?」


「どうしたのかな、優児君?」


 二人は嬉しそうに俺に返事をする。

 そんな彼女らの表情を見てから、俺ははっきりと言った。


「俺たちは何のためにここにいるんだ? 勉強の邪魔をするんだったら、二人とも帰れ」


 俺は、二人に向かって厳しめにそう言った。

 すると、冬華はやや不満そうな表情を浮かべたものの、


「はーい、反省してまーす」

 

 と、言った。


「うん、そうだね。邪魔をしないようにする」


 夏奈はというと、なぜだか嬉しそうな表情を浮かべていた。……ホント、なんで?


 しかし、これで勉強に集中できそうだ。きっと、朝倉もホッとしたにだろう。

 そう思って彼の方に視線を向けると、


「なんでだよっ……!」


 と、俯き、テーブルに拳を押し付けながら声を振り絞った朝倉。


 もう手遅れだったか?

 

 そう思いつつ、朝倉を伺うと、彼は俺をきっと睨みつけて――


「どうして……どうして俺だけがモテないんだっ!?」


 ……絶望した表情で嘆いた。


「池はいつも女子に囲まれてちやほやされているし! 友木は一年で最も可愛い冬華ちゃんと、みんなのアイドル葉咲を侍らせて……こんなの不公平だっ!」


 言い終わり、死んだ魚のような目で無表情になった朝倉。

 ……こういう時、なんて言えばいいのだろうか?


 朝倉はいつも場を盛り上げてくれるし、俺のような人間にも分け隔てなく接してくれるコミュニケーション能力もある。

 部活動だっていつも頑張っているし、そんなに落ち込まなくても、誰か朝倉を好きになる人は現れると思うのだが……。


 これを、冬華という彼女がいながら、夏奈という美少女を侍らせている(ように見える)俺がそのまま言っても、嫌味に聞こえないだろうか?

 少し考えて……俺は何も言うべきではないなと気が付いた。


「朝倉君は良い人だから、きっと素敵な彼女ができると思うよ」


「そうですね、朝倉先輩は人を見る目がありますから。」


 そして、すぐさまフォローの言葉を放ったのは、意外にも女子二人だった。

 かなり好感度の高いコメントに、朝倉はわかりやすく元気になる


「え、そう? ……参考までに、俺のどんなところ素敵なのか教えてもらえるか?」


 照れくさそうに鼻頭をこすりながら、二人に問いかける朝倉。


「優児君のこと怖がらないところが素敵だと思うよ!」


「優児先輩のお友達なところ、ですかね♡」


 そして、二人が楽しそうな表情を浮かべて、答えた。

 その答えに、朝倉はスッと無表情を浮かべた。


 そして、池の方へ顔を向けた。


「……池、俺に勉強を叩き込んでくれ。こんなモストリア充に勉強でまで負けるわけにはいかない……!」

 

 無表情のまま怨念の篭った目で俺を見ながら言う朝倉。怖っ……。


「……そうだな、やる気になることは良いことだ。だから、冬華も夏奈も、勉強の邪魔はするなよ」


 池は朝倉に向かって微笑んでから、冬華と夏奈に注意した。

 二人は注意を受けたことに不満そうな表情を浮かべてから、


「怒られちゃいましたね。もう、先輩が葉咲先輩のことをもっとはっきりと断れば、こんなことにはならなかったのにっ! 先輩、ちゃんと反省してくださいよ?」


「優児君が早く私に靡いてくれたら、朝倉君だってここまで怒らなかったと思うのに。優児君の意地悪っ!」


 両隣から耳打ちをしてきた。

 こそばゆくて俺は身じろぎし、その際に朝倉の姿が視界に入った。


 ……目の錯覚なのだろうが、朝倉の周囲に怨念染みた黒いオーラが見えた気がした。

 

 それから、頬を朱色に染めてこちらを上目遣いで伺う冬華と夏奈を見て、俺は一度溜め息を吐くのだった。


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