1話、友人キャラの俺がモテるわけないだろ?
俺のこれまでの人生は、紛れもなく最悪だった。
「顔が怖い」という身体的な特徴と、生来の口下手から怖がられ、他人から好意を持たれるということがほとんどなかった。
そんな中で初めてできた友人と呼べる者も、いつの間にか俺の前からいなくなっていった。
そんな状況が、ずいぶんと長く続いたからだろう。
俺は、他人から好意を持たれることなんてありえないのだと、半ば悟った風に諦めていた。
……しかし、今は違う。
俺の進学した高校には、この世界の主人公である池春馬がいたのだ。
容姿端麗、文武両道。その上人望に厚い、非の打ちどころのない男。
この完璧超人である池の「友人キャラ」ポジションになったおかげで、誇張ではなく俺の人間関係と人生は大きく変わっていった。
池の妹であるがゆえにコンプレックスを抱いていた、池冬華。
自らも優秀であるが、「特別」である兄の隣で育ち続けたことで、苦悩していた冬華。
そんな彼女と出会い、本音をぶつけ、絆を深め。
ニセモノの恋人、という関係ではあるが、今ではお互いに信頼できるパートナーである。
……と、俺は冬華のことをそう思っている。
そして、俺の前から立ち去ったと思っていた友人・ナツオ……改め、葉咲夏奈。
男だと思っていた友人が実は女だった。
まさかこんなベタなイベントが俺の身に降りかかるとは思わず、驚いたのだが、それ以上に――。
彼女が、俺に告白をしてきたことに俺は驚いた。
結局、その想いに応えることはなかったが、それでも俺なんかのことを好きだと言ってくれたことが、嬉しかった。
嫌われてばかりの俺に好意を抱いてくれたのは、この三人だけではなかった。
池の伝手で色々と手伝いをするうちに、俺のことを認めてくれた生徒会役員の田中先輩と鈴木。
生徒会の手伝いをしていた俺と会話をし、誤解が解けて友人となったクラスメイトの朝倉善人。
そして、互いに殴り合って分かり合った、後輩の甲斐烈火。
――そして、池とは別にもう一人。
俺の人生を変えてくれたと言える人がいる。
どん底にいた時に救いの手を差し伸べてくれた、彼と並ぶ恩人、真桐千秋先生。
時に厳しく、時に暖かく見守ってくれる――俺がこれまで出会えなかった恩師。
彼ら彼女らのおかげで、俺は『青春』というやつを……悪くないと言える程には、送れているのだと。
俺は今――胸を張って言えるのだった。
☆
それは、二年の期末テストが無事に終わり、もうすぐ夏休みに入るという、とある暑い夜のこと。
「……の、何が……?」
いつもはスーツをビシッと着ている真桐先生だが、この時はボタンが外れ、胸がはだけていた。
必死にそれから視線を逸らす俺の耳に、真桐先生の呟き声が、途切れ途切れに届いた。
「すんません、なんて言ったんすか?」
俺の問いかけに、真桐先生は上気し、頬を紅く染めた。
そして、潤んだ瞳で俺を見つめる。
……なんだこれは? まさか教師と生徒の、禁断の愛の告白なのか?
いや、夏奈からの告白が異常事態だっただけで、本来は「友人キャラ」である俺にはありえないことだし、そもそも真桐先生がそんなことを言うわけがない。
では一体、何を言おうとしているんだ?
俺は緊張をしながら、真桐先生の視線に応じる。
蕩けた表情の真桐先生は、鮮やかな朱色を差した唇を、大きく開いて――
「だからっ! 23で処女の、何が悪いって言うのよぉっ!?!!?」
と叫んだ。
――友人キャラの俺がモテるわけがない。
それは、当然なのだが……。
「えぇっと。なんと言うか。……えぇー?」
流石に真桐先生の発言は想定外すぎて、俺は呆けたように呟くことしかできないのだった――。
 






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