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25、宣戦布告


 葉咲から告白を受けた翌日。

 俺は、考え事をしながらいつものように登校をする。

 いつも通りの登校風景。


「うわっ、友木だ……」


「なんか今日、いつにもまして不機嫌じゃね?」


「やっば、目合わせたら殺されるぞ……」


 周囲の生徒たちは、俺を見ながら囁き、早足に立ち去っていく。

 残念なことに、これが俺にとってのいつも通りの登校風景だ。


 しかし、思案しながら歩いていただけなのに、いつもより不機嫌そうと言われるとは……。

 俺は考え事すら許されないのか、と一人嘆きそうになる。


 だが、そのおかげで今は周囲に生徒がいなくなった。これで遠慮なく考え事ができる。

 とんでもないマッチポンプだった。


 それにしてもまさか、葉咲夏奈とナツオが同一人物だったとは、驚いた。

 その上……その夏奈が俺に告白をするなんて、思いもしなかった。


 告白を断ったこと、改めて考えると……心苦しい。

 特に、俺は彼女に冬華との『ニセモノ』の恋人関係について何も話さないまま答えたのだ。

 彼女が正面からぶつかってきてくれたのに、俺は冬華との関係で嘘を吐いたまま。

 ……罪悪感を抱かずにはいられなかった。


「おっはよーございます、センパーイ♡」


 と、俺の思案をぶった切って背後から甘ったるい声をかけてきたのは、その『ニセモノ』の恋人である冬華だった。

 軽快な足取りで、俺の隣に歩み寄ってきた。


「おう、おはよう」


「今日はいい天気ですねー。あれ、なんかいつもより顔怖くないですか? どうしましたぁ?」


 挨拶を返した俺の顔を覗き込みながら、冬華はそう言った。

 俺の顔、冬華からみても、やっぱり怖かったのか……。

 ただ、怖いと思っているのに、こうして逃げることなく隣にいてくれることが嬉しかった。

 

 冬華の心配そうな表情を見ながら、俺は思う。


 今の俺には、夏奈だけじゃなく、他の誰とも恋人になることは考えられない。

 俺は、冬華とのこの関係を心底気に入っているからだ。


 だから俺は、夏奈の告白を断り。

 冬華との関係を優先させたことを、俺は後悔はしない。


「考え事をしていたんだ」


 俺が言うと、冬華は上目遣いで尋ねた。


「ナツオ君のことですか?」


 彼女の言葉に、俺は少し驚いた。

 だが、そもそも冬華はナツオの正体に気が付いていた節がある。

 それと……昨日駅で別れてからの俺の行動に彼女が気が付いていたとしても不思議ではなかった。


「ああ、そうだ」


「……会えましたか?」


「ああ、会えた」


 俺の言葉に、冬華は優しく笑う。


「驚きましたか?」


「ああ、驚いた」


「嬉しかったですか?」


「ああ、嬉しかった。……ありがとな、冬華」


 次々と尋ねてくる冬華の言葉に応えてから、俺は彼女にお礼の言葉を告げた。

 多分、夏奈が俺にナツオのことを言ってくれたのは、勢いもあったのだろうが……冬華が背中を押したからなんだと思う。


「……え、何か言いましたかぁ?」


 そっぽを向いた冬華は、アニメの難聴系主人公のように、白々しいことを言った。


「いいや、何も」


 ――礼は不要、気にするな。

 きっとそう言いたいのだ。

 つくづく、冬華は良い奴だと思った。

 だったら、俺もこれ以上は何も言わない。


 そう思いつつ、俺と冬華が歩いていると……。 


「あ、おっはよー!」

 

 背後から、元気な声で挨拶をされた。

 振り返ると、こちらに向かって手を振っている夏奈が見えた。


「おはよーございます」


 柔らかな笑みを浮かべて、冬華は夏奈に挨拶を返した。


「……おう、おはよう」


 俺も、彼女に向かって挨拶を返す。

 夏奈の顔を見ると、昨日のことを思い出し、少しだけ気恥ずかしかった。

 しかし、俺たちはこれから改めて友達関係を築いていくのだ。

 こうして夏奈は、歩み寄ってくれている。


 それは、嬉しいことだった。


 夏奈は、そのまま隣に並んだ。


「昨日は、二人とも応援ありがとねー!」


 一言俺たちに礼を告げて――















「今日もカッコいいね、優児君♡!」
















 ぎゅ、と。

 俺の腕に自分の腕を絡ませた夏奈。


「……は?」


「……はあぁぁ!?」


 俺と冬華は、一瞬呆けた後、同時に驚きの声を上げた。


「何してんだ、夏奈?」


「何って……スキンシップだよ?」


 俺の言葉に、首を傾げながら当然のように言う。

 スキンシップって……友達なら男女で会ってもこのくらいは普通なのか?

 当たり前のように言う夏奈に、俺は戸惑いつつもそう思ったのが。


「……優児君? 夏奈?」


 冬華の鋭い声音が耳に届く。


「そ、私たち、昨日からお互いに名前で呼び合うことにしたんだよ。ね、優児君?」


 冬華の呟きに、夏奈が応じ、俺に同意を求めた。


「あ、ああ。そうだ」


「はあっ!? なんでそうなったんですか!!? ナツオとして会っただけじゃ……」


 困惑した様子の冬華がそう言った。

 俺が事情を説明しようと口を開きかけたところ……


「冬華ちゃんにはまだ言ってなかったの? 私、昨日優児君に告白をしたんだよ?」


 と、夏奈が言う。


「え? ……え?」


 呆然とした表情で、冬華が呟く。


「断られちゃったけどねー」


 と、恨めし気に俺を見ながら、夏奈は言う。


「そ、そうだったんですね。……そ、そりゃ優児先輩には? 私という彼女がいるんで? 葉咲先輩の気持ちに応えられないのは当然でしょうけど?」


 得意げな表情を浮かべて、冬華は言う。


「……あれ? それならなんであんたは私の彼氏にちょっかいをかけてるんですか!? マジありえないんですけど!? 今すぐ、速攻離れてくんない!?」


 それから怒ったように冬華は続けて言った。

 俺たちを力づくで引き離そうとしたのだが、夏奈は意地悪な表情を浮かべて、冬華に耳打ちする。


「告白は断られちゃったけど。『無理に諦める必要はない。成功するか、諦められるまで何度でも告白したら良い』って、言われたんだよねー。つまりこれは、優児君に許可を得てアプローチをしているわけなんだよ?」


「は? 先輩がそんな酷いこと言うわけないし。嘘を吐くんだったら、もう少しましな嘘を吐いた方が良いんじゃないの? ねーっ、先輩?」


 冬華があほらしいとでも言いたげにそう切り捨ててから、俺に向かって尋ねた。

 彼女の言葉に、俺は頷いた。


 俺は昨日、夏奈からの告白を、きっぱりと断ったのだ。


「そうそう、流石にそんなことは……あっ!?」


 しかし、俺は言いながら、気がついた。


 そういえば、そんなことも言っていたな……と。


 もちろん、夏奈からの告白の返事として言っていたわけではない。

 それでも俺は、池に振られて落ち込んでいたと思いこんでいた夏奈に対して、間違いなくそう言った。


「……え、なんですかその反応? 言ったんですか? そんなキープ宣言を堂々としちゃったんですか、先輩は?」


 絶望した表情で、冬華が再び尋ねる。

 これは、俺を軽蔑したな……。


「……確かに、言った」


「は、はぁっ!?」


 涙目を浮かべながら、俺を睨む冬華。

 俺は、言い訳にしかならないことは分かっていたが、冬華に説明しようとしたところで……。


「そういうことー! だから、キープから本命にしてもらえるように、こうして頑張っているんだよー♡」


 と、嬉しそうに笑う夏奈が、俺の腕に絡ませている自分の腕に、ギュッと力を込めた。


「え? 何それ……何それ?」


 ぼそぼそと呟く、瞳から輝きが失せている冬華に向かって、夏奈は続けて言う。


「私はこれから優児君に対する告白が成功するまで、ガンガンアピールしていこうと思っているんだよね。だから、冬華ちゃん――」



 片目を閉じて、両手を合わせつつ、夏奈は続ける。



「優児君のこと、取っちゃったらごめんね?」


 その言葉を聞いて、冬華は生気の失った表情で、夏奈を睨む。


「いや、夏奈! 俺はそういうつもりで言ったわけじゃ……!」


 言い訳がましく俺は口を開いたが、


「あの時私は念押しして、言質まで取ったんだから。今更知らんぷりなんて、絶対聞かないからねっ!」


 と、夏奈がぴしゃりとはねつけた。


 情けないが、俺はそのまま彼女に対して何も言い返すことができなかった。

 ……完全に、身から出た錆だった。


 追い詰められた俺と、彼女の視線がバッチリと合う。

 夏奈は少しだけ照れくさそうに頬を赤くしてから、それでも真直ぐに宣言した。



「そういうことだから、二人とも。……これから、覚悟していてね?」



 晴れやかで、蠱惑的な笑みを浮かべる彼女に、俺の視線は思わず釘付けになり――。


 不覚にも、彼女のその笑みに、俺はドキリとさせられたのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白くなってきましたね なんとなく展開的に夏奈は負けヒロイン臭するけど 個人的には夏奈推しでっす! [気になる点] ちっちゃな嘘やタッチの速さで負けてた夏奈だけど 「偽恋人」のままにしてお…
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