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再会

 小学校五年生の夏以降から、私の身体には大きな変化があった。

 私は成長期を迎えて、身体が大きくなっていた。


 それは、身長ももちろんそうだったけど、何より困ったことに。

 ――胸が、大きくなっていた。


 小5の夏まではほとんど平らだった胸が、この一年でブラが欠かせないくらい、大きくなっていた。


 身体つきも顔つきも、どんどん女の子っぽくなっていったから、私をナツオだと、男の子だと思っている彼に、どうしても会いに行く決心がつかなかった。


 だって、男の子だと思っていた友達が、実は女の子だったなんて……優しいゆう君だって、引いちゃうかもしれない。

 そんなことはないって信じたいけど、気持ち悪いって思われるかもしれない。

 ゆう君は、私に騙されたって思うかもしれない。


 ……それが、怖かった。

 初恋の相手に会いたいっていう気持ちと。

 会っても、受け入れてもらえないかもしれないっていう恐怖。


 私は正反対のその感情を胸に抱きながら、悩んだ。


 おばあちゃんのお家にいる間、悩みに悩んだ。

 そして、明日お家に帰るという話になったその日、私は彼に会いに行こうと決意した。


 いつもよりうんと可愛らしい服装を着て、この一年で伸ばした髪の毛をおしゃれにセットして、正直に女の子だと伝えよう。


 そう思って、勇気を出しておばあちゃんのお家を出て、いつも待ち合わせをしている公園に行く。


 ドキドキして、何度も途中で引き返そうと思って、それでも何とか公園に到着する。

 一年ぶりの公園、そこには少し寂しそうな表情を浮かべるゆう君がいた。


 待たせてしまって申し訳ないっていう気持ちと、待っていてくれて嬉しいっていう気持ちがあった。

 そして、一年ぶりにゆう君の姿を見て……すごく胸がドキドキした。


 私は本当にゆう君が好きなんだなって自覚して、恥ずかしくなって、照れくさくなった。

 でも、遠巻きに彼を見るだけで、中々声をかけることができなかった。


 ゆう君は、長い間待っていてくれていたみたいだけど、それでも私が……ナツオは来ないと諦めたのか、深くため息を吐いてから、公園を後にしようとした。


 ここで踏み出さなくちゃ。そう思って近づいてくるゆう君の前に私は――立てなかった。


 ここまで来たというのに。

 声をかければすぐに振り返ってもらえるはずなのに。


 最後の最後で、私は勇気が出なかった。


 嫌われたら、どうしよう。

 女の子のくせに、男の子のふりをしていたと気持ち悪がられたら、どうしよう。


 そんなことばかり考えてしまって。



 ――結局。


 

 小学校六年生の夏、私はゆう君との約束を破り。

 彼に会いに行くことができなかった。




 そして一年が経ち、中学生になった私。


 六年生の夏休みにゆう君に会いに行けなかったことを死ぬほど後悔した私は、次の夏休みは絶対にゆう君に会いに行こうと決意していた。


 会えない日々が彼に対する想いを日ごとに強くしていった。


 拒絶されることの恐怖よりも、会えなかった日々を二度と味わいたくないという気持ちのほうが勝っていた。


 かれこれ長いこと、男の子に間違われることなんてなくなった私。

 スカートをはいて、髪の毛をセットして、色付きのリップクリームを塗って。


 うんと可愛くなった私を見てもらおうと思った。


 男の子の『ナツオ』じゃなくて、女の子の『夏奈』として、彼に会うんだ。


 そう決意して、私は公園に向かった。


 ……だけどもう、彼はそこにいなかった。



 中学校の三年間。

 私は、彼と会えず終いだった。




 ――だからこそ。

 高校に入学してゆう君の姿を見つけた時は、運命だと思った。


 クラスメイト達が怖い怖いと噂をしていた男子生徒。

 それが、私の好きになったゆう君――友木優児君だった。


 鋭さの奥に優しさが秘められた眼差し。

 しばらく見ない内にずっと大きくなった、男らしくて筋肉質な身体つき。

 物静かな佇まいと、少し暗くなったように見えるその表情が、なんだか彼を大人びて見せている。


 そして、何より。

 私を庇ってできた目元の傷跡。 

 それが、私の心臓をぎゅっと鷲掴みにした。


 他の皆が怖いって言うのが、私には全く理解ができなかった。


 だって――。

 ゆう君、かっこよくなりすぎだよ。


 皆はどちらかというと、幼馴染の春馬のことをチヤホヤしていたけど……私にはあんまり理解できなかった。


 すごく、すっごく。

 ゆう君はかっこよくなっていた。


 何度か話しかけようとして、そのたびに緊張をして、全く言葉が出なくなるくらい。

 ……こんなにかっこよくなるなんて、卑怯!

 たくさんお話したいのに、前みたいに二人で過ごしたいのに。


 なのに……もうやだ、かっこよすぎ!

 全然話しかけられないよっ!


 それでも、毎日彼の姿を見られるだけでも、私は幸せだった。


 

 ――そこで満足したのが、きっと間違いだったんだと思う。


 小学校六年生から中学校に上がるまでに、あれだけ私は後悔したはずなのに。

 同じ高校に通っているから、また明日頑張れば大丈夫。

 今日は話しかけられなかったけど、きっと次は話しかけられる。


 一度話せばきっと、小学生だったあの頃みたいに、すぐに仲良くなれる。


 そんな風に考えているうちに、再会したゆう君に声をかけることができずに、いつの間にか一年が経っていた。

 私たちは、無事に高校二年生に進級し、そして――。


 

 ゆう君に、彼女ができた。



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