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出会い

 私が困った時に現れてくれるヒーロー。

 

 それが、私の好きになった人。


 出会った時も、も変わらず。

 彼は、困った私の前に現れてくれた。


 いつしか私は彼に憧れ、好意を自覚するようになった。


 ……そんな彼に、私はずっと嘘を吐き続けている。


 彼を想えば想うほど、胸が締め付けられて苦しく、切なくなってしまうのは。

 

 きっと、私が彼を騙し続けた報いなんだと、今はそう思う。





 彼との出会いは、小学校2年生の夏だった。


 お盆のころになると、私の家では、田舎の祖父母の下に親戚一同が集まる。

 私は、この集まりが嫌いだった。


 いつも、春馬や冬華ちゃんといった年の近い友達と一緒にいるのに、この時は大人たちが騒ぐだけ騒ぐ。私のような子供は一人で暇を持て余す。


 その日私は退屈のあまり、一人で家を出て、近くに公園があるのを見つけた。


 そこでは、同い年くらいの男の子が数人で遊んでいた。

 私はその子たちと一緒に遊びたくて、彼らに声をかけた。


「ねぇ、一緒に遊んでも良い?」


 私の声に反応して、一人の男の子が振り返った。 


「誰だ、お前?」


 怪訝な表情をして問いかけるその子に、私は自分がこの辺りの子じゃないと説明をしようとした。


「私は……」


 しかし、私が口を開くと、周囲の男の子たちがおかしそうに笑った。

 私はなんで笑われたのかが分からなくて、呆然とした。


 そんな私に、男の子たちは指をさして笑いながら言った。


「なんだよおまえ、男のくせに女みたいに『私』って言うんだな!」


「オカマだ、オカマやろうだ!」


 男の子たちの嘲笑を聞いて、私はとても悲しい気持ちになった。


 私は家の中で遊ぶよりも、外で遊ぶ方が好きだったから、いつも動きやすいような恰好をしていて、スカートなんてほとんど履いたことがなかった。

 それに当時は髪の毛を短くしていたから、男の子に間違われることも多かった。


 だから、クラスの皆からは名前をもじって「お前は夏奈じゃなくて、夏男ナツオだ」なんてからかわれてばかりだった。


 普段ならば、悲しくなることはあっても、泣いたりはしない。

 だけど、折角見つけた年の近い子たちに、そういう風に言われると、どうしても悲しくて、涙が出た。


 もう暇でも良いから、おばあちゃんちに帰りたい。

 ――そう思っていると、


「弱い者いじめとか、ダセー奴!」


 私の前に、一人の男の子が現れた。

 目つきの悪い、乱暴そうな男の子。


 その子が、私を笑った数人の男の子を前にして、私を庇うように立っていた。


「なんだとー!」

「誰だお前!?」

「生意気なやつ!」


 突然現れて挑発をした男の子に、当然憤る男の子グループ。

 一番体の大きな子が、「ぶっ飛ばしてやるー」と大声を上げながら目つきの悪い男の子を掴みあげようと、腕をまっすぐに突き出しながら向かってくる。


 目つきの悪い男の子は、ニヤリと笑ってそれをよけて、バランスを崩した体格の良い男の子のお腹を、勢いよく蹴飛ばした。


 体格の良い男の子は「うぎゃっ!」と呻き声を上げて地面に転んだ。


「どうした、全員でかかってこい!」


 目つきの悪い男の子は、威勢良く言った。

 相手の男の子たちは、倒れている体格の良い子を見て、自分たちでは敵わないと判断したのか、


「ふん、よそ者同士仲良くするのがお似合いだ!」


「お前たちとは絶対遊んでやらないからなっ!」


 捨て台詞を吐いて、全員で走り去っていった。


 それを見送ってから、「ダセー奴ら」と、ため息交じりに呟いた。


 それから、目つきの悪い男の子が私の方を見て、笑顔を浮かべた。

 意外にも、笑うと愛嬌があるようにも見える。

 

「実はお前があいつらに話かけるところを最初から見ていた。……あいつら、きっとお前が『イケメン』だから、僻んだんだぜ!」


 ニヤリと口元に笑みを浮かべたその男の子は、優しい声音で言った。

 男の子扱いをされたというのに……、不思議と不快感はなかった。


「おまえも、この辺の奴じゃないんだな。俺も、夏休みの間だけこっちに来てるから、全然知り合いがいないんだ。良かったら、俺と友達になって、遊んでくれよ!」


 その言葉を聞いて、私は嬉しかった。

 少し怖いけど、優しくて、カッコいい男の子が、私と友達になりたいと言ってくれたことが。

 

「俺は、優児。なぁ、お前の名前は?」


 ……でも、その問いかけに、私は言葉に詰まった。

 

 もしも今、本当のことを言ったら。

 私のことを男の子だと思っている優児君に、女の子だって言ったら。


 もしかしたら、やっぱり友達になろうっていうのを、撤回されるかもしれない。


「……ナツオ」


 だから、私は本当の名前じゃなくって、いつもクラスメイトから揶揄われているあだ名を名乗った。


「そうか、よろしくな、ナツオ」


 私の名前を呼び、笑顔を浮かべて手を差し伸べた優児くん。

 彼の笑顔に答えて、私はその手を握り返した。





 これが、私と彼の最初の出会いで――。


 私が最初に彼に吐いた、嘘だった。


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