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16、テスト明け

 人生初の勉強会を終え、とうとうテスト本番を迎えた。


 一週間で各科目のテストを受けていくのだが、池から勉強を教わっていた俺は、かなりの手ごたえがあった。


『あ、ここ! 池に教わったところだ!』

 

 といった感じで、問題を解いていき、ほとんど苦戦することなくテストを終えた。


 そして、テスト期間最終日の放課後。

 テストから解放されたクラスメイト達が、ワイワイと騒ぐ教室でのこと。


「なぁ、春馬君、答え合わせしようぜ!」

「ウチ、春馬と答え合わせしたーい!」


 前方の教卓近くで、複数の男女が池を囲みながら、そんなことを言っていた。

 それを俺は、自席に座り帰り支度を進めながら見る。


「答え合わせと言ってもだな、別に俺の答えが正しいわけではないぞ」

 

 池は困惑したように言った。

 しかし、そんな池に対して周囲の人間は、


「そんな謙遜するなって!」


「池の答えが間違っているわけがない」


「そうそう。それにもしも、春馬の答えが不正解となっていたら、それはテストを作成した先生の方が間違っているから」


 などと言う。


 池はそんな周囲に呆れたように苦笑しつつ、それでも求められるがままに、答え合わせを行った。

 池が各教科の、己の答えを発表するたびに、周囲のクラスメイトは一喜一憂する。


「現国の大問3の問2は、③が正解!? ……なるほど、そういうことか。裏の裏を読み切るそのクレバーな思考、やはり天才か……」


「数学の最後の問題、そういうことかぁ……。こんな高度な計算をミスなくするなんて、なかなかできることじゃないよ」


「今回の歴史は授業でもほとんど触れられていないマニアックな問題も出ていたけど、パーフェクトかよ……。なかなかできることじゃないよ」


 クラスメイト達は真剣な声音で、池の解答と自分の解答を照らし合わし、そして口々にほめそやした。

 お手本のような級友たちのセリフに、俺は笑いをこぼしそうになっていた。


「大したことじゃない。今回のテストの難問は、大学受験に役立つかは分からない、評価されにくい項目だからな」


 苦笑しつつ、池は周囲に告げた。

 どこか謙遜したその池の言葉に、クラスメイト達はまた騒がしくなっていた。


 流石は池、クラスメイトからの人望や信頼があつい。

 そう思いつつ、彼に視線を向けていると、不意に声が掛けられた。


「凄いね、春馬は、モテモテだ。……友木君は、テストどうだった?」


 俺に問いかけてきたのは、葉咲だった。

 テストが終わるまで、ほとんど話ができなかったのを不安に思っていた俺は、ホッと一息を吐いた。


「過去最高の出来だった。池に勉強を教わったおかげだ」


「ふーん、そうなんだ。良かったね」


 俺のことばに、彼女は答えた。


 それから俺は、教室の前方にいる池たちを視線に収めてから、葉咲に問いかける。


「葉咲は、池に答えを聞いたりしないのか?」


 俺の問いかけに、葉咲はおかしそうに笑う。


「答え合わせというより、春馬の解答って答えみたいなものでしょ?」


 葉咲は、いつも平均的な成績のはずだ。

 苦笑を浮かべる葉咲に、俺は問いかける。

 

「……葉咲のテスト結果は、そんなに手応え良くなかったのか?」


 視線を逸らしつつも、彼女も応えた。


「私は、全然ダメだったかな。……今回のテストにはあんまり集中できなくって、良い結果にはならなさそう」


 肩を竦めつつ、葉咲は言った。

「そうか」と俺が彼女の言葉に苦笑していると、


「せんぱーい、帰りましょー!」


 と、教室の出入り口付近から、俺の名が呼ばれた。

 俺は手を上げ、その言葉に応える。


 彼女……冬華は俺を見つけて、教室内に入ってから、すぐに隣にまで近寄ってきた。


「テストお疲れさまでしたー♡……あ、葉咲先輩もお疲れ様ですー」

 

 にこやかに微笑みを浮かべながら、冬華は言った。

 

「うん、お疲れ様」


 葉咲は冬華の言葉に返してから、


「……それじゃ私、そろそろテニススクールに向かわなくちゃ」


 と続けた。

 冬華は葉咲のその言葉に、「はぁ?」と強い語気で呟いた。


 なんだその反応は、と俺は不思議に思ったのだが、葉咲はと言えば、申し訳なさそうに頬を指先で掻いていた。


 一体どうしたのだろうか?

 そう思い葉咲を見ていると、彼女は一度深呼吸をしてから、俺と冬華に向かって告げた。


「あのさ、私今度テニスの試合があってさ。……良かったら二人で、応援に来てくれないかな?」


 どこか躊躇うように言った葉咲。

 冬華は絶対断るだろうな……そう思っていると。


「良いですよ、分かりました。優児先輩と応援に行きますねー」


 驚いたことに、冬華はそう答えていた。 

 

「……ありがと。二人が応援をしてくれたら、すっごく心強いかなー」


 と、葉咲は言った。

 俺の勘違いかもしれないが、その表情にはどこか諦観が見え隠れしていた。


「それじゃ、私今日は帰るね。二人とも、バイバイっ!」


 葉咲は俺と冬華に向かって手を振ってから、急いで教室を出て行った。

 俺はその背中に「気をつけてな」と一言声をかけた。 


「……いいのか、軽々しく応援に行くなんて言って?」


 葉咲が帰った後、俺は冬華に問いかけた。

 二人は、現在仲たがいをしている最中のはずなのに、一体どういうつもりなのだろうか?

 そう疑問に思って、俺は問いかけたのだが。


「良いんですよ、これでっ」


 と、冬華は頬を膨らませつつ、俺とは視線を合わせないままにそう言った。


 仲直りする気になったのだろうか……?

 彼女の表情を伺っても、それは分からなかった。

 

「……いつまでも教室にいても仕方ないですよ、帰りましょ、先輩?」


 優しい微笑みを浮かべながらそう問いかける冬華。

 彼女の真意を測ることは、俺にはできない。


「ああ、帰るか」


 と、俺は冬華と共に、騒々しい教室を後にし、帰路につくのだった。

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