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15勉強会(下)

 テスト期間中、変な話だが、俺の放課後は充実したものになった。


 毎日のように池や朝倉、冬華と共に勉強会を行っていた。

 池から苦手科目を教わることができ、今回の定期テストは過去最高の状態で臨めそうだった。


 ……一方で、葉咲はあの日以来、あれこれ理由をつけて勉強会に参加しなくなった。

 そんなわけで、冬華と仲直りのきっかけ作りができず、俺は困っていた。


 そんな日々が過ぎた、休日のこと。

 

「お待たせしました、優児先輩っ!」


 改札付近で待っていた俺の顔を見て、笑顔を綻ばせた冬華が、大きく手を振って駆け寄ってきた。


「おう」

 

 俺は笑顔を浮かべる彼女に、一つ頷いてから返事をした。

 普段よりも明るめのメイクをし、短めの丈のスカートからはすらりと長い綺麗な足が伸びている、休日モードの冬華が俺の隣に立つ。


「それじゃ、早速カフェに行って、お勉強でもしましょっか」


 その言葉の後、俺と冬華は並んで歩き始めた。



 冬華に案内されて辿り着いたのは、俺には場違いなくらいお洒落なカフェだった。

 店内を見てみると、女子高生・女子大生と思われる若い女性客や、なんというか意識の高そうなイケメンばかりで、俺は回れ右をして店を出たくなった。


「……ファミレスとかで良かったんじゃないか?」

 

 朝倉に教えてもらった、ドリンクバーでジュースをミックスしてオリジナルドリンクを作るのとか、すごいと思った。

 そんなことがたった数百円できるファミレスはすごいし、朝倉は天才だ。

 つまり、ファミレスで勉強をするのが一番良いということだ。


 おしゃれな雰囲気に呑み込まれ、テンパっている俺はそう思った。


 俺の問いかけに、冬華は唇に指を添え、「うーん」と口にしてから、

 

「却下です。カフェ巡りって、デートっぽいじゃないですか♡」


 と、可愛らしくあざとく笑みを浮かべた。


「……ものは言いようだよな」


 俺は呆れつつも、仕方ないかと諦めることにした。


 それから案内された席でメニューを確認し、店員さんに注文をする。

 俺はアイスコーヒーを頼み、冬華はなんだかよく分からない名前の紅茶を頼んでいた。


 俺と冬華は勉強道具を机の上に広げる。

 準備ができたタイミングで、ちょうど飲み物が運ばれた。

 満足そうに頷いてから、冬華は告げる。


「さて、それじゃ先輩! テストまでもう少しです、頑張りましょっか!」


「そうだな」


 俺が頷き答えると、彼女はにこりと笑ってから、筆記具を持って手元のノートに視線を落とした。



 しばらく、互いに勉強に集中していた。

 氷が解け、薄くなったアイスコーヒーを飲んでいると、冬華がおもむろに顔を上げ、メニューを開いた。


 そして、「うーん」と悩まし気に呻いた。


「どうした?」


 俺が問いかけると、彼女は上目遣いにこちらを見てくる。


「先輩って、甘いもの大丈夫ですか? ちょっと気分転換にこのパンケーキを食べたいんですけど、全部食べちゃったら太りそうだなぁって、思って……半分こしませんか?」


「ちょっとくらい太っても良いんじゃないか? 冬華、スタイル良いし」


「これでも私、体型維持のために有酸素運動とか、軽い筋トレとか頑張ってるんですよ! それもこれも、すべては先輩の自慢の彼女でいるためですっ」


 ドヤ顔で言う冬華。

 ニセの恋人に、自慢もへったくれもないだろう、とは思ったが、それよりもやはり体型維持に運動をしているんだなと感心した。

 冬華は確かに細くて、スタイルが良い。

 細いと言っても、不健康でガリガリ、というわけではなく健康的に引き締まっているという印象を受ける。

 流石は努力家の冬華、スタイル維持にも抜かりない。


「その理屈は良く分からないが、俺もちょうど甘い物が食べたくなったところだ。いいぞ」


 俺は冬華に答える。

 彼女の食べ過ぎを防ぐためにも、そして脳の等分補給のためにも、断る理由がなかった。


「つまり、甘くて可愛い女の子である私を、食べちゃいたいってことですか? ……いやらしい先輩ですねっ」


 しかし、俺の言葉を曲解した冬華は、チラチラと俺の表情を盗み見ながら、そんな戯言をほざいた。


「何言ってんの?」


 俺は真顔で答える。


「……むーっ」


 そんな俺の様子を見て、冬華は頬を膨らませ、俺を睨んできた。


 それから、冬華は俺の脛をつま先で蹴ってきた。


「何してんの?」

 

 ……結構勢いよく蹴ってくる冬華。この蹴り、地味に痛い。


「蹴るなよ……」


 俺は不満を隠さずに冬華に告げる。


「先輩が悪いのにっ。……でも、そこまで言うのなら、蹴るのはやめますー」


 と言って、俺の脛を蹴るのをやめた冬華。

 ……しかし、今度は俺の足を両足で挟んだり、絡ませてきたりしてきた。


「くすぐったいんだけど」


 俺の抗議の言葉に、冬華はからかうように言う。


「えー、そんなに嫌なら、自分で私の足を払いのけたら良いじゃないですかー?」


 挑戦的なその言葉に、俺は少しイラっとした。

 そして、言われた通り、冬華の足に触れて、払いのけようとすると……。


「ひゃっ!?」


 冬華は驚いた声を出し、顔を真っ赤にした。

 そして、俺がどかすまでもなく、素早く俺の脚に絡めていた両足をひっこめた。


 それから、少しの間。俺と冬華の間に気まずい沈黙が流れた。


「……変態先輩は、私の自慢の生足をお触りしておいて何も言葉もなしですか、そうですか」


 プイっと視線を逸らしながら、冬華は不満そうに言った。


「細いのに、なぜか柔らかい。それと……もちもちというか、スベスベしているというか。男女差があるから当然とはいえ、俺とは全く違うんだな」


 冬華の脚に触れた感想を、彼女のリクエスト通りに応えた。

 俺の言葉を聞いた冬華は、驚きを浮かべ、そして顔を真っ赤にして涙を目尻にためながら、言った。


「そういうことじゃないですからっ! なんかもっとこう、焦ったり、恥ずかしがったり……そういうのが欲しかったんですけど!? ていうか今の発言は……普通にセクハラですからっ!」


 と言われても、どんな発言を期待していたか分からない俺。

 しかし、確かに今の発言は、考えるまでもなくセクハラだった。


「冬華の言う通りだな。すまない」


 俺はそう言ってから、頭を下げる。

 不愉快な思いをさせてしまった。

 やはり冬華は恥ずかしかったのだろう。

 無言のまま唇をきゅっと引き結び、顔を真っ赤にして涙目を向けてくる。


「……本当に悪かった。もう二度と、馴れ馴れしく触れたりはしない」


 俺がもう一度謝ると、慌てて冬華は告げる。


「そ、そういうことじゃないですから! ただ、ちょっと恥ず……驚いただけですから! ……別に、先輩に触られて嫌だったとか、そういうわけじゃないので、安心してください」


 真っ赤な顔のまま、冬華はそう呟いた。


「いや、だが……」


 納得することができず、俺は呟くのだが。


「はい、それじゃパンケーキ頼みますからっ! 半分こですからねっ」


 俺の言葉を無視して、冬華は店員を呼び、注文をした。


「……ほんとに、驚いただけで、別に嫌だったわけじゃないので。気にしないでください」


 店員さんがテーブルから離れたタイミングで、冬華は恥ずかしそうにそう言った。

 そこまで言ってくれるのなら、俺もあまり神経質になるのはやめよう。


 それから、


「……恋人らしく、お互いに食べさせ合いでもしちゃいます?」


 と、恥ずかしそうに視線を伏せながら冬華は言った。

 さきほどまでの空気をかえる、冗談のつもりなのだろう。

 そんな冬華の健気さが、なんだか可愛らしかった。


「遠慮しておく」


 俺は苦笑を浮かべてそう言った。


「……え、遠慮しないでくださいよ! 前みたいに、『二人の恋人っぽいところが見てみたい』とか誰かに言われた時に、先輩はちゃんと恋人っぽいことが私と自然にできると思っているんですか!?」


 そして、なぜかテンションが爆発する冬華。

 何言ってんだこいつ、とまたしても思う俺。


「しなくていいだろ。別に、見せびらかすことでもないし」


「何を甘いことを言っているんですか!? 私たちの食べさせ合いっこを見るまでは、絶対に恋人と認めない! そんなことを言う人が、これから現れるかもしれないというのに! その時に自然に食べさせ合いができるように、今のうちから練習をするべきなんです!」


「……そんなこと言う奴がいるわけないだろ、と思ったけど。葉咲には以前似たようなこと言われてるしな」


 俺はそういえばと思い出し、そう呟いた。

 葉咲の名前が出た瞬間、なぜだか冬華の表情が一瞬固まり、そして気まずそうに俯いた。


「……どうした?」


 気になって、俺は声をかけた。


「その、先輩が言っていた『ナツオ』の話を思い出しまして」


 そういえば、ナツオの話をして以来か、葉咲が勉強会にも顔を出さないのは。

 それにしても、葉咲の話を聞いてナツオのことを思い出すなんて、よく分からない連想の仕方だな。


「先輩は……その。ナツオに会いたいんですよね?」


「ああ、もちろんだ」


「……ナツオが、変わっていたとしても?」


 深刻そうな声音で、冬華は言った。

 俺はその言葉に、無言のまま力強く頷く。


「そうですか。分かりました。……お気づきでしょうが、そのナツオには心当たりがあるので、ちょっと話をしてみます」


 どこか寂しそうな表情を浮かべて、冬華は言った。

 

「……それって。またナツオと会えるかも、ってことだよな?」


 この間の池と冬華の様子から訳があって会えないものとばかり思っていたが。

 そうでもないらしく、俺は驚きを隠せなかった。


「そうです。……友達だったら、また会いたくなるのも仕方ないですよね」


 どこか自分に言い聞かせるような冬華の口調に疑問を感じないでもなかったが、それ以上にまたナツオと会えるかもしれないと思うと、俺は嬉しくなってしまう。


「ただし! 約束してほしいことがあります!」


「約束?」


「はい。先輩に友達ができるのは何も悪くないですし、私も嬉しいと思いますけど。……恋人は、私だけですからねっ! 他の女の子を口説くのがダメなのはもちろん、口説かれないように注意してくださいよ!?」


 冬華は涙を目尻にためながら、俺をキッと睨む。

 女っ気のなかった俺に、葉咲という女友達ができたことで、もしかしたら冬華は『ニセモノ』の恋人関係に悪影響があると危惧したのかもしれない。

 だから、俺に本物の恋人ができたら困る冬華は、ナツオに会わせるということを条件に、こんなことを言ったのだろう。


 ……それにしても、中々きわどいセリフじゃないだろうか?

 そう思いつつも、俺は冬華に答える。


「安心しろ。俺の恋人は、冬華だけだ」

 

「わっ、……分かっていれば、良いんですよ、全く」


 驚いたような表情を浮かべてから、視線を伏せて冬華は答える。

 そして、俺の言葉に安心して、自分の発言の恥ずかしさに今頃気づいたのか。


 冬華は、耳まで真っ赤になって、俺の視線から逃げる様に、顔を背けていた。


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