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11、指導

 とある日の休み時間。

 トイレから教室に戻ろうとしていたところ、真桐先生と会った。


 真桐先生は俺の顔を見るなり、


「友木君、丁度良かったわ」


 と、声をかけてきた。


「なんすか?」


 真桐先生の言葉に、俺は立ち止まって返答する。

 彼女は落ち着いた様子で、


「放課後、話があるの。生徒指導室に来てもらっても良いかしら?」


 と言った。


「はぁ、良いっすけど」


 俺が答えると、真桐先生は涼し気な顔のまま、口を開く。


「そう。それなら、放課後生徒指導室で待っているわ」


 そう言って、先生は再び歩き始めた。


 俺は教室に戻ってから、冬華に連絡をする。


『放課後、真桐先生に呼び出された』


 休み時間も残りわずかだというのに、冬華から即連絡が返ってくる。


『何したんですか?』


『何もしていないつもりだ』


 彼女のメッセージに、俺も即座に応答する。


『ま、真桐先生なら大丈夫ですよねー』


 とメッセージがきた後、ニヤリとした笑い顔を浮かべるムカつくキャラクターのスタンプが送られてきた。

 冬華も、ずいぶんと真桐先生を信頼するようになったな。


『それじゃ、放課後は終わったら連絡ください、待ってますねー♡』


 というメッセージが、すぐに届いた。

 それを見て、俺は温かな気持ちになる。


『悪いな。ありがとう』


 その一言を、俺は返信するのだった。




 そして、放課後。

 俺は生徒指導室の前にやってきていた。


 扉をノックすると、「どうぞ」という声が返ってくる。

 俺はそれから扉を開いて、中に入る。


「失礼します」


 生徒指導室に入ると、椅子に腰かけている真桐先生が、柔らかな笑みを浮かべる。


「待っていたわ。放課後に呼び出して、ごめんなさいね。どうぞ、かけて」


「良いっすよ、暇なんで」


 そう言ってから、俺にも着席を促した。

 俺はパイプ椅子を引いて、それに腰かけた。


「早速、本題に入るけど」


 雑談もなしに、真桐先生はそう言った。

 真直ぐに視線が向けられて、俺は思わず背筋が伸びた。


「……葉咲さんとあなたの関係について、教えてもらえるかしら?」


 固い声音。

 それに、俺はすぐに答える。


「葉咲とは、友人っす」


 俺が言うと、真桐先生は少しだけ躊躇うようなそぶりをしてから、言った。


「それは……その。ふしだらな友人関係、というわけではないわね?」


 ふしだらな友人関係?


 なんだそれ。

 よくわからなかったが、俺と葉咲は、普通……といえる範囲の友人のはずだ。

 彼女が冬華と仲直りをしようと、俺を利用していることを除けば、間違いない。


「もちろんっす。どうしたんですか?」


「……いえ。その……友木君を疑っているわけではないの。ただ、あなたが……葉咲さんと懇ろな関係に、なったという噂を耳にしたから。一応、確認をしようと思って」


 俺はその言葉を聞いて、唖然とした。

 ……懇ろて。

 そんな言葉使う人、中々いないだろ。

 そう思いつつ、俺は真桐先生に問いかける。


「それで。噂の火種が何なのか、確認をしておこうと思ったわけっすね」


 顔を赤くしたままの真桐先生は、ゆっくりと頷いた。

 それから、こほん、と咳ばらいを一つしてから、普段通りの凛々しい表情を浮かべた。


「そう。友木君が池さんとのニセモノの恋人関係を続けたまま、裏で葉咲さんとふしだらな関係になっているとしたら、私は教師としてあなたを指導しなくちゃと思っていたのだけど……」


 ふぅ、と大きく息を吐いてから、


「でも、噂は噂ね。友木君がそんな不誠実なことを、するわけがなかったわね」


 と、安心したように続けた。


 ……きっと、その噂は教師の間でも話題になっていたのだろう。

 そして、真桐先生は心配をして、話を聞いてくれた。

 誤解だと分かれば、きっと真桐先生は俺には見えないところで、力になってくれる。


「最近、葉咲とは友人になったんすよ。……そういえば、俺とあいつの話を聞いて、周りの連中が誤解をしている節があったっすね」


 俺が葉咲に無理矢理乱暴した、とかいう話だ。

 あれが、噂の発端になっているのかもしれない。バカバカしいが、十分考えられる。


 俺がそう分析していると、真桐先生は目を細めて、穏やかに笑みを浮かべる。


「そう。葉咲さんと友達になったのね。それは良いことだわ」


 暖かな声音に、俺はなんだか気恥ずかしくなった。


「池さんと葉咲さんは、二人とも綺麗だから。もしかしたら、彼女たちに好意を抱く誰かが、あなたに嫉妬をして、変な噂を流したのかもしれないわね」


 冗談めかして、真桐先生は言った。


「……ありえますね」


 俺も、苦笑して返答した。


「それじゃ、話は聞けたことだし、もう良いわ。……冬華さんを、待たせているのでしょう?」


「そうっすけど……なんで、分かったんすか?」


 俺の問いかけに、真桐先生はクスリと笑ってから、生徒指導室の窓から外を見た。

 そこからは、校門が見える。

 俺も先生の視線の先を見た。


 そこには、校門の前でスマホを弄りながら立っている冬華の姿があった。


「なるほど」


 俺は納得した。

 あれを見て、先生は冬華が俺のことを待っているんだと察したのだ。


「それじゃ、俺は帰ります」


 一言告げて、俺は立ち上がる。

 そして生徒指導室を出ようとするのだが……。


「あ、友木君。少し、待ちなさい」


「はい?」


 そう言われて、俺は立ち止まり、振り返った。

 先生は立ち上がって、俺の近くに歩み寄る。

 気づけば、目と鼻の先に、真桐先生の顔があった。


 俺は驚き、一歩後ずさるのだが、先生はすぐに距離を詰める。

 何事だ!?

 そう焦る俺に、先生は手を伸ばしてきた。

 そのまま、真桐先生の手は俺の頭頂部にまで伸びる。

 先生は、小柄ではないが、それでも俺とはそれなりに身長差があるため、背伸びをしていた。


 本当に、何をしているんだろう?

 そう思っていると、


「きゃっ!」

 

 と、短く悲鳴を上げる真桐先生。

 少しバランスを崩したみたいで、俺の肩に伸ばしていない方の手を置いた。


 それから、不意に視線がぶつかった。

 もう少しバランスが崩れれば、触れてしまいそうなほどの至近距離に、先生の顔があった。


 ……ここのところ、冬華という超美少女と行動することが多くなり、女子との関わりには結構な免疫ができていた俺なのだが。

 それでも、真桐先生のような綺麗な大人の女性に、ここまで接近をされてしまうと……どうしても、照れくさくなってしまう。


 俺は無言で視線を逸らす。

 すると、真桐先生は俺の肩に置いていた手を離してから、言う。


「ごめんなさい。……髪の毛に、埃がついていたわ。とっておいたから」


「……うす」


 俺は視線を逸らしつつ応える。

 恥ずかしさから、気まずくなっていた。

 真桐先生も、どこかいつもと様子が違い、僅かにだか頬を赤らめている様子だ。


「それじゃ、今度こそ帰ります」

 

 俺は真桐先生と視線を合わせられないまま、そう言って出口へと向かった。


「ええ、さようなら。……帰り道は、気を付けて」



 普段通りの、冷静で凛とした先生の声が耳に届いたが。

 


 ――俺は最後まで、先生の顔を見ることができないまま、生徒指導室を後にしたのだった。

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