表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/221

8、ドキドキ

 葉咲と体育館裏で別れてから、俺は屋上へと向かった。

 扉を開けると、冬華がシートの上に座って、つまらなさそうにスマホを弄っているのを見つけた。


「悪い、待たせたな」


 そんな彼女の背に声をかける。

 俺の声に反応した冬華は、嬉しそうな表情を浮かべて振り返った。

 そして、目が合う。

 すると、ハッとしたような表情を浮かべてから、今度は拗ねたように唇を尖らせた。


「もうっ、遅いじゃないですか!」


 ふん、とそっぽを向いてから、そのまま冬華はシートの上を移動し、一人分のスペースを空けた。


 ぽんぽん、と手で自らの隣のスペースを叩いた。

 座れということだろう、俺は苦笑しつつ、それに従う。


「もー、お腹すきましたっ! 早く食べましょ!」


 傍らに置かれたビニール袋から、冬華はミックスサンドと紙パックの紅茶を取り出してから、言った。


「なんだ、待っていてくれたのか。先に食べてくれても良かったのに」


「……一人で食べると、二人で食べるよりも摂取カロリーが多くなるって、ネットで見ましたので!」


「ミックスサンドしか食べないんだったら、摂取カロリーが増えたりはしないだろ」


 冬華の言っているのは、外食などでは誰かと一緒に話しながら食べた方が、過食を防ぐ効果があるという記事のことのはずだ。

 食べる量が決まっていたら、摂取カロリーが増えるはずがない。

 そんなことは、冬華も知っているはずだ。


「ツッコミ待ちですからっ!」


 顔を赤くしながら、冬華はそう言った。

 その後、いじけたようにもぐもぐとサンドイッチを食べ始めた。


 俺も、コンビニで買ってきたパンを出して、食べ始める。


 一つ目のパンを食べ終えたタイミングで、冬華が俺に問いかけてきた。


「そういえば。先輩の用事って何だったんですか? 兄貴の手伝いとか、ですか?」


 ストローに口をつけ、紅茶を飲みつつそう問いかけてくる冬華。


「いや、違う。葉咲に呼び出されてな」


 俺がそう言うと、「ふーん」と、興味などなさそうに冬華は相槌を打ってから、


「……えっ!? なんで葉咲先輩に呼び出されたんですか!?」 

 

 驚きを浮かべつつ、俺に問いかけた。

 俺が葉咲に嫌われているのを知っているから、心配をしてくれたのかもしれない。


 説明をしようかと考えたが……彼女が冬華と仲直りをしたい、と考えていると正直に言って良いのだろうか?

 ……あまり、良くない気もする。


 俺がなんと返答しようか迷っていると、


「……もしかして、大事な話、だったんですか?」


 恐る恐る、といった様子で、冬華はそう問いかけてきた。


「……大事な話だな」


 俺は頷く。

 冬華がどう思うかは分からないが、葉咲は真剣に仲直りを考えているのだから、大事な話に決まっている。


「……それで、先輩はなんて答えたんですか?」


 暗い表情を浮かべながら、冬華は虚ろな目を俺に向けながら問いかけた。

 なんだ、このテンションは?

 

「よろしく、って」


 俺が答えると、冬華は目を見開いて、辛そうな表情を浮かべて勢いよく立ち上がった。


「せ、先輩はっ! ……私という彼女がいながら……葉咲先輩と、付き合っちゃったんですか?」


 震えるその声に、俺は……。


「は? いや、なんでそうなる? 付き合ってないぞ」


 冬華の言動が理解できなくて、やや混乱していた。

 俺の答えに、ポカンとした表情で「え?」と呟いた冬華。


「……どこまで言って良いか分からないが、葉咲から俺に相談があった。それだけなんだが」


 と、俺が答えると、冬華はまだ困惑をしているようだったが、それでもホッとしたようだった。


「な、なるほど。……先輩は別に告白されたというわけじゃなかったんですね」

 

 そう言われてから、俺もなるほど、と気が付いた。

 呼び出されて、大事な話をされたと言われたら、確かに告白を連想してもおかしくはないのかもしれない。

 それで俺が葉咲の告白を受けて、冬華はこの『ニセモノ』の恋人関係が破綻することを恐れた、ということか。


 冬華の勘違いは理解できたが……葉咲・・に呼び出されて告白をされる、と考えるのは心配しすぎだ。


「当たり前だ。俺みたいに誰からも怖がられるような男が、告白されるわけがないだろ?」


 悲しい話だが、俺に恋人ができるイメージがわかない。


 俺の言葉を聞いた冬華は、安心した表情を……浮かべることなく。


「今回は違ったみたいですけど。もしも今後、誰かから本気で告白をされたら。……先輩はどうしますか?」


 不安そうな表情を浮かべ、冬華はそう問いかけてきた。


「考えると虚しくなるな、ありえなさ過ぎて」


「ちゃんと、考えてくださいっ!」


 冬華は、縋るような視線で俺を見つめながら、そう告げた。


 ちゃんと考えろと言われても、そんな妄想をしても精神的につらくなるだけなのだが。

 しかし、冬華の刺すような視線は止まらない。

 俺はもう一度考えてみる。



「実際に告白をされるまで、想像もできないな」



 そして、俺は一言答えた。

 あまりにも現実味のないお題に、俺は答えを出せなかった。


「……先輩の、バカ」


 冬華は、一言呟いた。


「『本気で告白されても、断る』って言えなくて、悪いな」


「そういうことじゃないですしっ、もー!」


 冬華は不満を隠しもせずに、大声で言った。


「……つまり。どういうことなんだ?」


 俺が問いかけると、


「……私が、一番バカってことです!」


 なぜだか怒りに顔を赤くした冬華は、そう答えたのだった。


 俺にはその言葉の真意は不明だったが、涙目で残りのサンドイッチを頬張る冬華を見ると、どうにもツッコミを入れることができなかった。




 葉咲から呼び出しのあった翌朝。

 俺は普段通りに登校をしていた。

 しかし、普段通りではないことが、その日は起こった。


 それは――。


「おっはよー、友木君!」


 駅を降り、通学路を歩いていると、後ろから肩を叩かれ、声をかけられた。

 振り向いてみるとそこには、笑顔を浮かべる葉咲がいた。


「おう」


「な、なんか冷たくなーい? せっかく勇気を出して声をかけたっていうのに、私のドキドキを返してよー」


 苦笑を浮かべながら、葉咲は言った。

 ……クラスメイトと接する、いつも通りの葉咲夏奈だ。

 そう、俺以外の人間と接する葉咲は、このくらいフランクだ。

 問題は、なぜ俺にもこんな態度で接するのかだ。


 何を企んでいるんだ?


 ……と思ったが、俺を通して冬華との仲直りを企んでいるんだった。

 俺との関係を良好にするために、こうして朝から話しかけたりもするんだろうな、と考えたところで――。


 俺と葉咲の間に、一人の女子が強引に割り込んできた。

 そして、その女子は俺の手を、ギュッと握ってから言う。


「えー、なんですか、優児先輩? 面白そうな話をしていますね、私も混ぜてくださーい♡」


 俺たちの間に割り込み、手を握ってきた女子とは、もちろん冬華だ。



「ね、教えてくださいよ葉咲先輩。……ドキドキって、なんのことを言っているんですかー?」



 ニコニコとした表情を浮かべつつ、瞳から輝きが失せた眼差しを葉咲に向けながら。

 

 冬華は硬い声音で、葉咲へと問いかけるのだった――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説大賞入賞作、TO文庫より2025年11月1日発売!
もう二度と繰り返さないように。もう一度、君と死ぬ。
タイトルクリックで公式サイトへ、予約もできます。思い入れのある自信作です、書店で見かけた際はぜひご購入を検討してみてください!

12dliqz126i5koh37ao9dsvfg0uv_mvi_jg_rs_ddji.jpg





オーバーラップ文庫7月25日刊!
友人キャラの俺がモテまくるわけがないだろ?
タイトルクリックで公式サイトへ!書店での目印は、冬服姿の冬華ちゃん&優児くん!今回はコミカライズ1巻もほぼ同時発売です\(^_^)/!ぜひチェックをしてくださいね(*'ω'*)

12dliqz126i5koh37ao9dsvfg0uv_mvi_jg_rs_ddji.jpg4コマKINGSぱれっとコミックスさんより7月20日発売!
コミカライズ版「友人キャラの俺がモテまくるわけがないだろ?」
タイトルクリックで公式サイトへ!書店での目印は、とってもかわいい冬華ちゃんです!

12dliqz126i5koh37ao9dsvfg0uv_mvi_jg_rs_ddji.jpg

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ