私の気持ち
私の中学までの15年間は、正直言って地獄のようだった。
こんなことを言っても、私を知る人はきっと……誰も信じてはくれない。
何故なら私は、恵まれた家庭に生まれ、何不自由なく育ち、努力できる環境を与えられていた。
その結果、勉学・スポーツ・芸術において数々の優秀な成績を収めていた。
だから、表面上の私を知る人は「甘えるな」なんて……そう思うかもしれない。
それでも、私にとって。
どれだけ努力をしても、どれだけ限界に挑んでも。
私の到達できない場所に軽々と行ってしまう兄と比較され続けてしまえば。
何度本気で挑んでも、何一つ勝つことが出来なければ。
――心は折れて、絶望する。
いつしか私は負けることに慣れて、勝つことを諦めて、自分が『池春馬』の妹でしかないことに、折り合いをつけようとした。
そうして、高校生になった私は……最後に、みっともない悪あがきをすることにした。
それは、兄がいつも嬉しそうに話す親友、友木優児との仲を遠ざけること。
そうすれば、少しくらいスカッとするんじゃないか、って思った。
……子供じみた行いに、自分自身情けなくなる。
話によると、その親友はもの凄く頼りになり、優しいようだった。
兄が認めた親友なのだし、変なことはされないだろう。
高校での男避けと、兄への当てつけ。
一石二鳥の作戦だった。
私は早々に、友木優児先輩と接触をすることを決めた。
☆
――そう。
私と先輩の関係の始まりは、兄への当てつけ。
ただ、それだけだったのに。
今はこの関係が、とても大切で。
とてもかけがえのないものに、なってしまった。
☆
それは、連休明けの下校中のことだった。
「そうか。それなら、賭けようか。学年1位をとったら、俺が冬華の好きな物をご馳走してやる。1位を逃したら……俺にまた弁当を作ってくれ」
先輩はどこか楽しそうに、私に向かってそんなことを言ってきた。
曇りない真直ぐな瞳でそんなことを言われ、私は自分の顔が熱くなるのを自覚した。
……あー、もうっ!
先輩といると、ホントにドキドキするんですけどっ!!?
何が「俺にまた弁当を作ってくれ」なんですかっ!?
私の心臓……爆発しちゃうじゃないですか!
ほら、もう……今すごいですから、私の心臓の音。
ドキドキドキ、ってすっごく跳ねてます。
あれ、これもしかして、隣を歩く先輩にまで聞こえちゃってません?
なんて不安を抱くレベルですよっ!?
「やだ、先輩ったら、賭けの対象にしちゃうくらい私の手作りお弁当が食べたいんですか? やだもう、そろそろ私、毎朝お味噌汁を作ってくれって言われるんじゃないですか?? とっても心配なんですけど~」
「いや、流石にそこまでは言わないぞ」
「……も、もう! 冗談に決まってるじゃないですか! ていうか、賭けなんかしなくっても、言ってくれたらいつでもお弁当、作りますからっ!」
まぁ、本当に作ってくれって言われたら、毎朝作ってあげてましたけど?
……とは流石に言えなかったので、お弁当はいつでも作ります、とだけ私は伝える。
「そうか、それなら成績関係なく、テストが終われば弁当の礼ってことで、何か冬華にご馳走する」
「え、ホントですか!? やった! それなら、なおさら張り切ってお弁当作ってきますねっ! いやー、なんだか悪いですねー。別に、そんなつもりじゃなかったんですけどねー」
やっぱり、先輩は優しくて、素敵っ!
大好きな先輩を見ていると、無表情の中に少しだけ優しさを浮かべてから、彼は口を開いた。
「なぁ、この間の弁当はお詫びってことで理解できるが、普段は購買でパンを買っているのに、いつでも弁当を作ってくれる、っていうのは……面倒じゃないのか?」
……あっれー、先輩それ聞いちゃうんですか?
私今、ちょっとイラっとしちゃいましたよ?
そんなの決まっているじゃないですか、先輩のバカっ!
「それはですね……私のだーい好きな、自慢の恋人からのお願いだからですよっ!」
言ってから、気が付いた。
やば、勢いに任せて言っちゃったけど。
どうしよ、……これって告白だよね?
「ニセモノの恋人だけどな」
内心焦る私に、先輩は明後日の方向を見ながらそれだけ言った。
……いやいや先輩、勢い任せだったとはいえ、恋する乙女の告白をそれで流すのは酷くないですか?
確かに今のは、冗談っぽく聞こえちゃったかもしれないですけど……。
私は唖然としてから、考える。
私は、先輩のことが好き。
大好き、超好き。
……安っぽい言い方かもだけど、愛してるって言っても過言じゃない。
でも、先輩にとって私は、『ニセモノの恋人』で、『大切な後輩』でしかないらしい。
この間までは、その関係が心地よかった。
それで、良かった。
だけど、今はもう……、それだけじゃ嫌だった。
先輩にも、私のことを好きになって欲しかった。
『ニセモノ』なんかじゃなくって、『本物』の恋人同士になりたかった。
先輩は、優しくて、頼りになる。
一緒にいると落ち着けるし、楽しいし。
それだけじゃなくって、どこか放っておけない危なっかしさがあって、私がいなくちゃダメだなって思うこともある。
それに、何より先輩は……。
初めて、私をちゃんと見てくれて。
初めて、私を認めてくれた人だから。
この胸の切なさが、どうしようもなくなって。
気が付けば私は、先輩を置いて早足で歩いた。
すぐ目の前には、遮断機が下りた踏切があって、私の行く手を阻んだ。
きっと、もうすぐ電車が通るんだろう。……ちょうど良いって、私は思った。
私はその場で振り返って、先輩と向かい合う。
騒々しい音が耳に届いた。
今言葉にしても、ちゃんと伝わるかは分からない。
それで良い。
私は、この気持ちを伝えたいのではなくって、ただ口にしたいだけなんだから。
困惑する先輩の顔を見る。
なんだかその表情が、私にはとても可愛らしく見えて、思わず頬が緩んでしまった。
そのまま私は、彼に向かって真っすぐに自分の気持ちを伝える。
「この関係はニセモノですけど。この気持ちはもうとっくに、本物なんですよ?」
雑音が、消えた。
先輩が私を見てくれたように。
先輩が私を認めてくれたように。
私だって、先輩を見ているし、認めている。
自分一人で背負い込んで、いつの間にか傷だらけになって。
それでも仕方がないって思ってしまうような、どうしようもない先輩を……。
私は、他の誰からも守りたい。
ねぇ、先輩。
私があなたを大切に想う気持ちは。
私があなたを好きだって想う、この気持ちは――。
本物なんですよ?
「え、ごめん。聞こえなかったんだけど」
そんな私の言葉に、先輩は困ったように言った。
――そうですよね、聞こえませんよね。
さっき、電車が通ってましたし、結構うるさかったですもんね。
……でも、それで良いんです。
今日は連休明けで久しぶりに会った先輩にときめきすぎて、調子を崩されまくっていました。
暴走気味の私はそれでさっき、勢い任せに気持ちを伝えちゃいましたが……。
実のところ、この関係が崩れるかもしれないのは、やっぱり怖いんです。
だって、この関係は私にとって、大切な繋がりだから。
だから、抑えられなかった気持ちを口にはするけれど――。
この気持ちをちゃんと伝えるのはまだ、もう少し先が良いって、そう思うんです。
結局は、ただの自己満足なんですけどね。
そういうわけで私は、ちゃんと伝わらなかったことに少しだけホッとしてから、真っすぐに私を見つめる先輩を見て、改めて考える。
騒音にかき消されてしまったこの言葉と気持ちを、今ここでもう一度ちゃんと伝えたら。
私と先輩の関係はどうなってしまうんだろう?
先輩は喜んでくれるかな?
それとも、困らせちゃうだけかな?
全く成功しないとは思わない。
だけど私は、わがままで、性格が悪くて、口も悪いから。
先輩が絶対に私の気持ちを受け止めてくれる、とも考えられなかった。
――以前伝えた「『ニセモノの恋人関係』を嫌になるまで。私とこの関係を続けてください」という言葉。
ホントは、少しだけ期待している。
いつか先輩が、私との『ニセモノ』の恋人関係を嫌になり。
……『本物』の恋人になって欲しい、なんて告白をしてくれること。
そんな都合の良い、妄想みたいなことを、初心で乙女な私は、恥ずかしながら夢見ている。
――自分でも、ズルいって分かっている。
先輩の優しさを利用して、私はこの恋心を抱いたまま、心地の良い関係に浸ろうとしているのだから。
でも、許してください。
いつか、私はちゃんと自分の気持ちを、先輩に伝えます。
それまでの少しの間だけ。
もう少しだけ――この『ニセモノ』の恋人関係に、甘えさせてください。
口には出さず、祈るような気持ちで、私はそう思った。
だから。
伝えきれなかったこの言葉と、この気持ちは――。
「ダメです、やっぱりまだ秘密ですからっ!」
――もう少しだけ。
私の胸の内に秘めていても、良いですよね?
【世界一】とにかく可愛い超巨乳美少女JK郷矢愛花24歳【可愛い】です(*'ω'*)
今回のお話で、「友人キャラの俺がモテまくるわけないだろ?」の第一章、完結です!
ここまで読んでくれて、とっても嬉しいです!
本当に、嬉しいのです(≧◇≦)
読者のみなさんの温かい応援があって、無事ここまで書くことができました(/ω\)
誤解をされてばかりの優児くんと、彼を大切に想う冬華ちゃんの物語は、これからどうなるんだろうね(n*´ω`*n)??
愛花も、二人の成長が楽しみなのです(∀`*ゞ)エヘヘ
春馬くん、夏奈ちゃん、真桐先生も大活躍する予定の第二章も、引き続き楽しんでくれると……とっても嬉しいのですっ(*´ω`)!






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