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30、まだ秘密

「あのホモハゲ坊主、私の恋人に手を出すなって言ったのに……」


「いや、流石にそれは酷い誤解だろ」


 そして、放課後。

 俺と冬華は並んで下校をしていた。

 話は、昼休みの甲斐のことだ。

 もうすぐ駅に着くというのに、冬華はずっと甲斐の文句を言っている。


 ……結局、俺は謝罪を受け入れた。

 舎弟やアニキ呼びというのは、俺の評判が悪くなるだけのような気がしたので辞退していただき、普通に先輩後輩として仲良くできないかと提案。

 

 なぜだか残念そうにしていた甲斐に、その条件を呑んでもらった。


 それにしても、冬華は機嫌が悪い。

 もっと手痛い制裁を、甲斐には食らわせるべきと考えているのだろうが……。

 そんな死体蹴りのようなことまではしたくなかった。


「誤解じゃないですから! 先輩は、あの時のあいつの表情をちゃんと見ていなかったんですか? 完全に『メスの顔』をしていましたからっ! 完堕ちですよっ!? 先輩の貞操の危機なんですけどっ!」


「気のせいだろ」


 俺が答えると、冬華は大きくため息を吐いた。


「はぁ、言っても無駄なようですね。こうなったら、私があのヤンホモから先輩を守らなくっちゃ……」


 覚悟を決めた表情で、冬華は呟いた。

 ……確実に気にしすぎだ。

 惚れたとは確かに言っていたが、どう考えても『同性として憧れる』という意味だ。

 嬉しいことを言ってくれたな、とは思うものの、貞操の危険など微塵も感じない。


「そういえば、もうすぐ中間テストだな。勉強会の成果は、発揮できそうか?」


 とりあえず、俺は話題を変えるためにそう言った。


「そうですね、勉強会なんてなくっても、きっと学年1位取れましたけど。あの大量の過去問もあるんで、間違いなく学年1位とっちゃいますね、私」


 けろりとした表情で、冬華は言った。


「すごい自信だな。……それでもし1位とれなかったら、めっちゃ恥ずかしいぞ」


「いやいや、だって私、元々優秀な上結構勉強してますし。賭けても良いくらい、自信ありますから!」


 冬華の言葉に、俺は少し口元を緩めた。


 軽口で簡単な賭け事をするなんてこれまでしたことがなかったから、実は少し憧れがあった。

 何を賭けようか、俺は考える。

 後輩相手に金銭的な負担を強いたくはないからな……。

 と考え、いい案を思いついた。


「そうか。それなら、賭けようか。学年1位をとったら、俺が冬華の好きな物をご馳走してやる。1位を逃したら……俺にまた弁当を作ってくれ」


 俺が言うと、冬華は頬をわずかに赤く染めてから言う。


「やだ、先輩ったら、賭けの対象にしちゃうくらい私の手作りお弁当が食べたいんですか? やだもう、そろそろ私、毎朝お味噌汁を作ってくれって言われるんじゃないですか?? とっても心配なんですけど~」


「いや、流石にそこまでは言わないぞ」


「……も、もう! 冗談に決まってるじゃないですか! ていうか、賭けなんかしなくっても、言ってくれたらいつでもお弁当、作りますからっ!」


 バツが悪そうに唇を尖らせてから冬華は言った。


「そうか、それなら成績関係なく、テストが終われば弁当の礼ってことで、何か冬華にご馳走する」


「え、ホントですか!? やった! それなら、なおさら張り切ってお弁当作ってきますねっ! いやー、なんだか悪いですねー。別に、そんなつもりじゃなかったんですけどねー」


 にやけ笑いを浮かべる冬華に、少し気になったことを尋ねてみる。


「なぁ、この間の弁当はお詫びってことで理解できるが、普段は購買でパンを買っているのに、いつでも弁当を作ってくれる、っていうのは……面倒じゃないのか?」


 俺の問いかけに悪戯っぽい笑顔を浮かべる冬華。

 彼女は、俺の瞳を覗き込みながら言った。



「それはですね……私のだーい好きな、自慢の恋人からのお願いだからですよっ!」



「……ニセモノの恋人だけどな」



 冗談とは分かっていたが、それでも彼女の言葉に照れ臭くなった俺は、冬華から視線を逸らしながらそう言った。


 すると、彼女は一瞬ぽかんとした表情を浮かべる。

 一体どうしたのだろうか?

 そう思い、声をかけようとしたところ。


 彼女は急に、俺を置いて早足になって歩いた。

 どうしたのだろうか、そう思いついて行くと、遮断機が下りた踏切前で彼女は止まり、くるりと振り返った。


カンカンカンカン


 ドンピシャのタイミングで、電車が近づいていた。

 すぐ後ろの踏切を電車が通過する、その時に。


 冬華は、優しく笑いながら、口を開いた。




この―――けど。―――とっくに―――ですよ?




 電車が通り過ぎ、背後の遮断機が上がった。

 俺は、彼女の浮かべる笑顔を見ながら――。




「え、ごめん。聞こえなかったんだけど」




 電車が通過した音に遮られて、冬華が何を言っているのかほとんど聞き取れなかった。

 なんて間の悪いことだろうか、と思いつつ、彼女の答えを待つのだが。


「ダメです、やっぱりまだ秘密ですからっ!」


 と、晴れ晴れとした表情で冬華は言った。


 ……いや、結局何だったんだよ?

 そう思いつつも、冬華がいつの間にか機嫌が良くなったみたいなので、深く考えないことにする俺だった。

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