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24、クラスメイト

 魅力的な笑顔を浮かべる冬華。

 俺は彼女のその表情を見て、……そこまで俺とのニセ恋人関係をずっと続けるのは嫌なのか、と少し凹む。


「あ、そうだ、先輩! お昼は食べてきましたか?」


 そんな凹んでいる俺に、冬華はそう尋ねてきた。


「食べていない」


 冬華の急な呼び出しに応じたため、俺は昼飯を食っていない。

 あとでコンビニに買いに行けば良いだろう、なんて思っていると、冬華はホッとしたように胸を撫でおろす。


「良かった。メッセージで伝えていなかったから、無駄になるかと心配してまして」


 そう言って、冬華はカバンから包みを一つ取り出し、それを俺に手渡してきた。


「何、これ?」


「お弁当ですよ。ちなみに、私の手作りです」


「……マジ? なんで?」


 今このタイミングで冬華にお弁当を渡されるとは、流石に予想できなかった。


「マジです。先輩には迷惑をかけっぱなしだなと思ったので、そのお詫びです。ほら、私って超女子力高いじゃないですか? 嬉しいんじゃないですか、男子としては女子の手作りお弁当は!」


「ああ、女子力とか男子としてとかはよく分からないが。もちろん、嬉しい」


 俺が素直にそう言うと、冬華は面食らったような表情になった。


「……よ、良かったですね、私みたいな超絶美少女の手作り弁当が食べられて! 先輩程の幸せ者はこの広い世界を見渡しても、そうそういないんですからねっ!」


 照れくさそうに、冬華は早口に言った。


「そうだな、ありがとう」


 俺がそう言うと、冬華は顔を真っ赤にした。

 俺があんまり素直だったから、面食らったのかもしれない。


「……ふん! それじゃ、私は教室に戻ります! 本当は一緒にお昼を食べて、何だったら食べさせ合いとかしたいんでしょうけど、そこまではまだ、流石にできませんので! 残念でしたね!」


 冬華はそう言うと、カバンを手にして早足に出口へと向かった。


「ああ、冬華。勉強頑張れよ」


 俺は、彼女の背中に声をかける。

 すると、彼女は扉の前でぴたりと足を止め、振り返った。


「先輩も、お手伝い頑張ってくださいねっ!」


 笑顔を浮かべ、俺に向かって勢いよく手を振ってから、冬華は扉を開けて屋上を後にした。



 それを見届けてから、俺は適当なところに腰を下ろした。

 そして、早速弁当箱を開ける。

 彩の豊かな、可愛らしい弁当だった。

 自分で言うだけあって、冬華の女子力は案外高いのかもしれない。


 俺はお箸を手にして、おかずの唐揚げを口にした。


「ん、……美味いな」





 屋上で冬華の弁当を食べてから、しばらくして。

 設営の時間となったため、俺は体育館へと向かった。


 到着すると、既に複数の運動部が設営を始めていた。 

 ステージ前にいる、バレー部男子がてきぱきと指示を出し、作業を進めている。

 おそらく、彼が池の言っていた、やる気満々のバレー部部長なのだろう。


 それにしても。……俺いなくても済みそうだな。

 そうは思うものの、ここまで来たのだ。

 俺はバレー部部長のところに歩み寄る。


「池に言われて、俺も手伝いに来たんすけど、何を手伝えばいいっすかね?」


 俺の言葉に、バレー部部長は手元の配置図を見ながら、顔を上げないまま答える。


「ん? ああ……手伝いか。地下倉庫から椅子と机を出すんだが、そっちに人手が足りねぇから行ってくれ。指示は、その場にいるバレー部が出す」


「うす」


 俺が返事をすると、彼はようやく顔を上げた。

 そして、目が合うと。


「おう、頼ん……うぇ、と、とととと、友木、君か? ……え、あ。地下倉庫は……ええと、だね」


 バレー部部長は挙動不審になった。


「ん? なんすか?」


「……な、何でもない。ヨロシクタノムヨ」


「はぁ」


 俺は、バレー部部長の指示に従い、地下倉庫に行く。

 ……彼がなぜ挙動不審になったかは、理解できる。俺の顔が怖いから。

 そして、おそらくこの先に待つバレー部員に申し訳がなかったから。


 しかし、俺が体育館のフロアで作業をしていても、周囲の人間を無意味に緊張させるだけだろう。

 犠牲は地下倉庫の最小限に留めるに限る。


 俺は地下倉庫に移動する。


 そこにいたのは、同じクラスのバレー部である朝倉善人あさくらよしとだった。

 一人だけしかいない。……確かに、人手が足りないようだ。


「バレー部部長に言われて、加勢に来た。指示をくれ」


 俺の言葉に、黙々と作業していた朝倉が声を上げた。


「お、マジか! 助かるわ! それじゃ、ここにあるパイプ椅子を運び出すのを手伝ってくれ!」


 と、顔を上げて俺を見ると、


「うおっ、と、とと友木君!?」


「ああ。パイプ椅子だな、手伝う」


 狼狽える朝倉。仕方ないだろう、俺の顔怖いもんな、ごめんな。

 この地下室は薄暗いから、なおさら怖いよな、ホントごめんな。


 しかし、言葉にはしない。

 いらぬ誤解を与える可能性もあるしな。


 俺は、驚いた様子の朝倉をあえて無視し、黙々と指示通りにパイプ椅子を体育館へと運び出していく。


 最初の内は、戸惑っていた朝倉だが、俺に害意がないことを分かってくれたのだろう。

 彼も黙々と作業を進めていった。


 この配置での手伝いができるのは、僥倖だった。

 体育館内での士気低下につながらず、その上俺もちゃんと手伝うことができるのだ。

 グッジョブ、部長。

 俺は心中で親指を立てた。


「……あのさ、友木くん」


 俺がそんな考え事をしていると、朝倉から声が掛けられた、


「ん、なんだ?」


 言葉を選ぶように、朝倉は言う。


「ええと、池から聞いたんだけどさ。友木君って、別に強制されたわけでもないのに、ずっと生徒会の手伝いとして、勉強会の準備をしてきてたんだよな?」


「ああ、そうだ」


「……あの、怒らないで聞いてほしいんだけど」


「内容による」


 俺の言葉に、頬を引き攣らせた朝倉。

 一瞬ためらう様子を見せたものの、それでも彼は、口を開いた。


「友木君てさ、マジでヤンキーじゃないの?」


「……そのつもりだ」


 俺が怒らなかったことに安心したのか、朝倉はホッと一つ息を吐いてから、続ける。


「やっぱ、そっか。……俺ずっと友木君のこと、やべぇヤンキーって思ってたんだよね。でも、生徒会の手伝いを自主的にしているのを聞いたり、今も真面目に手伝ってくれているのを見たりするとさ。俺が……っていうか、俺たちが勝手にビビってただけなんだな、って。そう思った」


「つまり。……俺のこと、怖くないってことか?」


「いや、怖いよ。顔とかめっちゃこえーじゃん、友木君」


「やっぱ怖いのかよ……」


「わ、悪い。怒った?」


「いや、怒ってねぇけど」


 ショックを受けただけだ、とは言わない。


「その、さ。やっぱ友木君マジで顔は怖いけどさ。ヤンキーじゃないってのは、分かったし、無意味にビビる必要はないのかな、とは思ってる」


 フォローをするように、朝倉は言った。


「……朝倉は、良い奴だな」


「いやぁ、自分には関係ない生徒会の手伝いをこんなに熱心にやる友木君ほどじゃ……いや、関係、あるのか?」


 朝倉は、そう言って首を傾げた。

 確かに関係ない。

 そう言おうとしたところで、


「なぁ、友木君。聞きたいんだけどさ」


 と、俺に向かって問いかける。

 無言で応じ、先を促す。


「池の妹と、マジで付き合ってんだよね?」


「……ああ」


 真剣な表情で問いかける朝倉に、俺は少しだけ躊躇ってから頷いた。

 なんというか、やっぱり少し恥ずかしいもんだな。


「っく、っかー! やっぱかー、くっそー! そりゃあんな可愛い彼女がいたら、勉強会の手伝いするよー! あー、ちくしょー、羨ましいー!! 俺もあんな可愛い彼女欲しいっ! 『朝倉先輩、一緒にお昼食べましょ♡』って言われてぇぇぇよぉぉ!!!」


 俺の答えを聞いて、急にテンションがおかしくなった朝倉。


「……彼女、いないのか?」


 俺が問いかけると、


「いねぇよ!」


 と、迫真の表情で朝倉は言った。


「そうなのか? 結構モテそうなのにな」


 俺が言うと、


「え? ……マジで?」


 ポカンとした表情で、俺に問いかける。


「ああ。コミュ力高いし、度胸もあるし。スポーツマンだし」


 ちなみに、俺と普通にしゃべれるということが、コミュ力と度胸があるに該当する。


「い、良い奴だな、友木君は。俺、そんなこと言われたの初めてだわ」


 照れくさそうに鼻の頭をこする朝倉。


「俺も。良い奴とは、中々言ってもらえないな。……あと、友木で良いぞ」


 俺が朝倉にそう言うと、彼はキョトン、とした表情でこちらを見た。

 ……流石に、馴れ馴れしかっただろうか?

 それとも、いきなりで気持ち悪かっただろうか?


 俺は内心、気が気でなかったのだが……。


「っと。そうだ、友木・・。同じクラスになって一か月近く経つし、今更かもだけど。これからよろしくなっ!」


 爽やかな笑みを浮かべながら、朝倉は俺に向かって手を差し伸べた。

 差し出された手に視線を落としながら、俺は思う。


 ……真桐先生の言った通り、ちゃんと見てくれている奴はいるもんだな。


 なんだか俺は、嬉しくなって。思わず笑みが零れ落ちそうになる。

 しかし、デレデレ笑って気味悪がられても嫌だ。


 緩みそうになる表情を引き締めてから、俺は朝倉の差し出した手を力強く握り返から、言う。


「ああ、こちらこそよろしくな」


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