20、最終日①
修学旅行最終日。
「すっげ、テンション上がるなー!」
「初めてくるー」
今日は朝から、大阪にある有名なテーマパークに来ている。
クラスメイト達は、この最終日を楽しみにしていたようだ。
今日は夕方まで自由行動であり、その後は移動して帰るだけ。
教師から注意喚起があった後、解散してそれぞれの友達グループで、気になるアトラクションへと向かっていった。
俺は、一緒に回る約束をしていた夏奈と池に声を掛けた。
「ああ、よろしくな」
「どこから回ろっか?」
微笑む池と、どこに行くか尋ねてくる夏奈。
この後、偶然を装い竜宮と合流することにしているが、いきなりだと怪しまれる。
というわけで、合流まで少しだけ時間がある。
「優児と夏奈は、乗りたいアトラクションあるのか?」
池の問いかけに、俺は答える。
「BTFが気になるんだが、二人はどうだろうか?」
BTFは好きな映画で、よく見ている。
小さいころに見たテレビで、そのアトラクションがここにあることを知っていた。
実は、気になっていた俺は、池と夏奈に提案をした。
俺の言葉に、夏奈が首を傾げ、池は気まずそうな表情を浮かべた。
どうしたのだろうか、と思っていると、池はその理由を教えてくれた。
「優児、数年前に閉鎖されてるぞ」
池の言葉に、俺は驚く。
アトラクションって廃止されたりするんだな……。
テーマパークについて知らないことが多すぎる俺は、これで一つ賢くなった。
「そうだったんだ、残念だね優児君……」
夏奈の言葉に、俺は首を振る。
「なくなってることに気づかないくらいだったわけだし、気にしてない」
俺の言葉に、池と夏奈は微笑みを浮かべる。
「それじゃあ……本格的に混む前に、ジェットコースター乗らない?」
夏奈の言葉に、俺と池に異論はなかった。
☆
それから、あっという間に時間が過ぎた。
……というわけでもなかった。
待ち時間は長く、1時間経ったが、まだ2つしかアトラクションに乗れていなかった。
しかし、竜宮との予定の時間が近づいてきていた。
そろそろ時間か、と思いつつ竜宮と話していた合流スポットへ、自然な流れで向かう。
そして、予定していた場所には竜宮がいた。
……のだが。
「え、あれ!? あれ……竜宮さんじゃない!?」
慌てた声の夏奈。
見れば、困惑した様子の竜宮が大学生くらいの男性3人に絡まれていた。
竜宮の中身はヤバい奴だが、外見はとても可愛らしい、美少女だ。
テーマパーク内で一人うろついていれば、声を掛けられても不思議ではない。
俺は、竜宮を助けるため動こうとしたが……
「すみませんが、彼女に何か用ですか?」
いつの間にか、竜宮と男性たちの間に入った池が、堂々とした様子で問いかけた。
問われた男性たちは、怪訝そうに池を見る。
しかし、池の顔を見た瞬間、悔しさの滲む表情を浮かべた。
……顔面偏差値ではどうあがいても勝てない、と思ってしまったのだろう。
「男いるなら言えよー、お嬢さんさー」
不満そうにそう言い捨てた男性たちは、そそくさと立ち去った。
残された池と竜宮。
俺と夏奈は、二人に歩み寄った。
「あ、あの、会長……ありがとう、ございました」
背を向けていた池に、竜宮はそう告げた。
池は振り返り、「いや、気にするな」と言ってから、
「それにしても、一人でどうしたんだ?」
と竜宮に問いかける。
竜宮は、恥ずかしそうに前髪を弄りつつ、答える。
「一緒に行動していた子たちとは、離れてしまって……。一人でいた時に、先ほどの方々に、声を掛けられてしまいました」
実際のところ、一緒に行動していた奴らはいないのだろう。
一部アクシデントはあったが、ここで俺たちと竜宮が合流するのは、予定通りだったのだから。
「そうだったのか。合流するまで、一緒に行動するか?」
池は、爽やかに微笑みながらそう言いつつ、俺と夏奈にも同意を求めてきた。
「もちろんだよ!」
夏奈はそう言って答え、俺も頷いて同意を示した。
合流するまで、と池は言ったが、流れのまま一緒に行動し続けることもそこまで不自然ではないし、無事に合流できたな……。
そう安心していたのだが、竜宮の様子が少しおかしかった。
頬を赤く染め、池の顔を見ることもできなくなっていた。
……悪漢に絡まれていたところ、好きな人に助けられる。
そんなシチュエーション、竜宮は脳内で何百回と繰り返しただろうが、実際に起こると刺激が強すぎたのかもしれない。
「一緒に行動をしていた子たちには、連絡を取るので……今日は、ずっと一緒にいても、よろしいですか?」
竜宮は、必死の表情で池を何とか見つめ、そう言った。
池は苦笑をしながら俺と夏奈を見た。
夏奈はうんうん、と何度も頷き、俺も首肯し応じた。
「竜宮の友達がそれで良いのなら……良いんじゃないか?」
池の答えに、竜宮は満面の笑みを浮かべて、胸の前でギュッと手を組んで、
「はい、よろしくお願いします」
と答えた。
池の主人公っぷりは、やはりすさまじい。
笑顔を通り越して恍惚の表情を浮かべる竜宮を見ながら、俺はそう思うのだった。






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