18、三日目①
修学旅行三日目。
本日は、各自で奈良を出発し、あらかじめ班ごとに決めていたルートで時間内に今晩の宿にたどり着かなければならなかった。
とはいえ、スケジュールには余裕があるため、普通に観光気分だ。
「午前中に大阪城、道頓堀でグリコの看板写真に撮って、昼飯食ってから、海遊館だな」
「昼ごはん食べた後、やっぱ花月行かん? 生小峠見れるかもしれないし」
電車の座席に座りながら、朝倉と木下が話をしている。
「バイきんぐは吉本じゃないって」
話を聞いていた山上が、木下にツッコミを入れた。
「え、そうなの? 芸人ってみんな吉本じゃないの?」
山上の指摘に、木下は驚いたように質問をした。
「バイきんぐに関していえば、元吉本で、現在の所属はソニー・ミュージックアーティスツだな」
池が言うと、木下は「ソニーかぁ」と呟いた。
「プレステじゃん」
「プレステではねーよ」
楽しそうに笑いあう、木下と朝倉。
山上と池は、二人を呆れたように眺めている。
「そういえば優児君って、大阪で行ってみたいところってある?」
隣に座る夏奈が、上目遣いに俺を見ながら問いかける。
俺は、少し考えてから答える。
「スパワールドに行ってみたいな。キン肉マンの等身大オブジェが見てみたい」
「へー、そんなのあるんだ。でも、私キン肉マンは知らないなぁ……。面白い?」
俺は夏奈の質問に頷く。
「最初はコンビニコミックで悪魔将軍が出たあたりから読み始めたんだが、遡って一巻から読み始めたとき、テリーやロビンなど正義超人のキャラが結構違って驚いたな」
「それはキン肉マンの面白いエピソードなの……?」
首を傾げる夏奈に、俺は頷き、続けて言う。
「ちなみに俺がジョジョを読んだ時も、コンビニコミックだったんだが。いきなり3部のクライマックスからで、色々と衝撃的だったな……」
「優児君はとりあえず、コンビニコミックを読むのをやめた方がいいんじゃないかな……?」
唖然とした様子の夏奈が言った。
「安心してくれ。今は各社の漫画アプリで、冒頭数巻が期間限定無料になっていて、そういった冒険はしなくなった」
俺の言葉に、夏奈は無言のままにっこりと微笑んだ。
とんでもなくしょうもない話をしてしまったことを反省しながら、今度は俺が夏奈に尋ねる。
「夏奈は、大阪でどこか行きたい場所はあるのか?」
俺の質問に、「うーん」と悩んでから、彼女は答える。
「大阪と言えば、通天閣ってイメージもあるから、見てみたいかなぁ」
「そういえば、通天閣にも等身大キン肉マンがいるな……!」
俺の言葉に、夏奈は再び優しく微笑んだ。
非常に申し訳ない。
「新今宮なら難波から近いし、ふらっと寄ってみても良さそうだな。みんなに言ってみるか?」
時間も余裕がある。
ゆっくりと見て回ることはできないだろうが、周囲を軽く見て回ることは可能だろう。
そう考えていると、夏奈はゆっくりと首を振った。
「ううん、大丈夫だよ。優児君といつか、二人きりのデートで行こうね?」
夏奈はそう言って、俺の顔を上目づかいに覗き込んできた。
俺は思わず顔をそむけた。
油断していたところに、急に小細工なしの剛速球を投げ込んできたのだから、たまったもんじゃない。
「……デートかは分からないけど。いけたら楽しいだろうな」
俺の答えに、夏奈は可愛らしく、笑う。
その表情を見て、俺もわずかに、頬を緩めるのだった。






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