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17、2日目

 修学旅行、二日目。

 朝早くに起きて朝食を食べた後は、揃って貸し切りバスで奈良に移動。

 そして、京都に引き続き、歴史ある文化財を見て回る。

 代り映えがしない、と思いつつも、なんだかんだ楽しむ俺。


 その後、奈良公園で野生のシカを目の当たりにする。

 夏奈や朝倉をはじめとしたクラスメイト達と一緒に、鹿せんべいを差し出すと、慣れた様子で食べる。

 

 それを見た女子陣は、「なんかウケルー」と、揃って爆笑していた。

 笑えはしないだろうが……旅先でテンションが上がっているのは十分に理解できた。

 俺は鹿をスマホで撮影し、とりあえず満足するのだった。



「修学旅行も折り返しだけど、代り映えしないな……」


 本日の宿泊先の旅館にて、同室の男子同士でババ抜きをしていた際、朝倉がそう呟いた。


「確かに、二日連続で寺と神社ばっかり見てたな」


 野球部野口はそう言ってから、


「なんか、修学旅行らしいことしたいよな……」


 と、しみじみとした様子でそう呟いた。


「女風呂を覗くのは犯罪だぞ」


 朝倉が言うと、


「そんなことは一言も言ってないだろ!」


 野口は声を強くしていった。


「枕投げは、修学旅行っぽいんじゃないか?」


 俺が思い付きを口にすると、


「修学旅行っぽいけど、あれっていまいちルールが分からないよな。修学旅行っぽいというか、修学旅行以外じゃあのテンションではしゃげないってのはあると思うんだよ」


 と、剣道部袴田が冷静な意見を口にした。

 俺は枕投げに興じたことがないので、「へー」と感心した。


「やっぱあれしかないな」


 朝倉は自信たっぷりな表情で前置きをする。


「恋バナだ。修学旅行の夜と言えば、これしかねぇ」


 周囲の男子は、


「まぁ、そうだな」


「恋バナはな……外せないな」


 と、照れ臭そうにしつつ、同意をしていた。

 これまた同意が出来なかった俺は「へー」と応じていると、その様子を見ていた朝倉が、『しまった』といった表情を見せた。


「……っあ、悪い、友木」


 客観的に、俺は冬華に振られたばかりなのだ。

 朝倉としては、配慮に欠けた発言だったと省みたのだろう。

 しかし、気を遣われた方がいたたまれなくなる。


「いい、気にしないでくれ」


 俺が言うと、他の男子も気づいたのか、微妙な笑みで応じていた。

 その反応に苦笑する。

 妙な空気にしてしまったなと思いつつ、俺は立ち上がってから言う。


「自販機で飲み物買ってくる」


「そうか、気をつけてな」


 朝倉が、優しい声音でそう言った。

 それから、他の男子も俺に優しい目を向けていた。

 彼らの視線を受けながら、俺は小銭をもって部屋を出た。


 宿泊しているフロアにも自販機は設置されていたが、すぐに部屋に戻るのは気まずかったため、ホテルのフロント近くの自販機まで移動した。

 そこでペットボトルのお茶を購入した俺は、出入り口近くのソファに、ジャージ姿の真桐先生がいることに気が付いた。


 声を掛けようと思い、俺は彼女の近くに歩み寄る。

 途中、真桐先生がこちらに気付いたようで、一瞬冷たいまなざしで睨まれたのだが、すぐに柔和な表情になった。


「友木君、こんばんは。こんな時間に、どうしたのかしら?」


「自販機で飲み物を買いに来たんです」


「わざわざここまで?」


「まぁ……散歩がてらに。ちなみに、真桐先生はどうしてここに?」


「宿を抜け出す生徒がいないか、ここで見張りをしているのよ。まさか、第一号が友木君だとは、思わなかったけれど」


 真桐先生は、揶揄うように笑いながら、俺に向かってそう言った。


「抜け出そうとたくらんでる生徒が来たと思って、それでさっき、俺のことを睨んだわけですね」


「そういうことよ。驚かせてごめんなさい。少し気を張りすぎていたわね」


「気にしてませんよ。先生も大変ですね」


「羽目を外してしまう生徒もいるけど、安全のためにはちゃんと見張っていないといけないから、仕方ないわ。……座る?」


 そう言って真桐先生は、ソファの端に寄る。

 3人は楽に掛けられるようなサイズだった。

 ここで一人、見張りをしているのも退屈だろう。

 しばらく話し相手になろう。


「失礼します」


 俺はそう言って、彼女の隣に座った。


「え、ええ」


 どうしてか、頬を赤らめた真桐先生。


「どうしました?」


「いえ、まさか本当に座ってくれ……座るとは思わなかったから。クラスメイトと一緒にいないで良いのかしら?」


「大丈夫そうです。……いや、一緒にいるのがつらいとか、そういうわけではないので心配はしないでくださいね?」


 俺の言葉に、真桐先生は、クスリと微笑んだ。


「ええ、もちろん。もうそんな心配は、していないわ」


 以前の俺からしたら、大した成長だろう。

 真桐先生も、同じことを考えているに違いない。


「俺は、心配です。真桐先生が気を緩めてアルコールを飲まないか……すみません、冗談です」


 俺が言うと、彼女は顔を真っ赤にし、唇を尖らせ俺を見ていた。

 

「真桐先生のことを色々知りましたけど。俺にとってはやっぱり一番頼れる大人です。……だからさっきの冗談は笑って聞き流してもらっても良いですか?」


 未だに視線で不満を訴える真桐先生に、俺はそう言った。

 彼女は大きくため息を吐いてから、


「そうね、今回は特別に聞き流してあげる」


 と言ってから、瞼を伏せながら、頬をわずかに赤く染め、彼女は続けて言った。


「もう少しだけ、話に付き合ってもらっても良いかしら?」


 やはり、一人で見張りをするのは退屈だったのだろう。

 真桐先生は照れ臭ささを押し殺しつつ、俺にそうお願いをしてきた。

 俺の答えは、決まっていた。


「もちろん、俺ももう少し、真桐先生と話がしたいです」


 ――そして。

 結局俺は、消灯時間が近くなるまで、真桐先生と話をすることになるのだった。

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