16,ライトノベル先生
修学旅行、当日。
朝早くに出発し、飛行機を利用して到着した場所は、古都・京都。
初日の今日は、京都の文化財を、ガイドさんの説明を受けながら見て回る。
歴史的な建造物のスケールに圧倒され、興味深く見ていた。
今は清水の舞台で有名な、清水寺に来ていた。
よくわからないが、なんとなくオーラを感じる……そんな風に考えていると、
「……なんか、こう立て続けに似たような神社だかお寺だかを見て回っていると、飽きてくるな」
退屈そうな朝倉に、声を掛けられた。
確かに、誰が見ても面白い、というものでもないだろう。
「修学旅行は学習の一環だし、仕方ないんじゃないか」
俺の言葉に、不満そうな表情の朝倉。
「ここでクイズです!」
いきなりクイズを始めたのは、同じクラスの山上だ。
いつもは一緒にいる木下は、夏奈と熱心に清水寺を見て回っている。
「え、クイズ? 何?」
狼狽える様子の朝倉を、楽しそうに見ながら、彼女は言う。
「思い切って大きな決断をすることを、『清水の舞台から飛び降りる』といいますが、江戸時代には実際に、清水の舞台から飛び降りた人が結構いました」
「……へー」
反応に困っている朝倉がそう呟いていた。
俺も反応が出来ずに困っていた。
「さて、問題です。江戸時代に多くの人が清水の舞台から飛び降りた理由は、何でしょう?」
その問題を聞いて、俺と朝倉は清水の舞台から、下を見下ろした。
木々もまばらに、硬そうな土が見える。ここから飛び降りろと言われても……絶対にごめんだ。
それから、俺と朝倉は顔を見合わせてから、同時に山上に答える。
「「自殺」」
「正解は……」
どぅるるるる、と下手糞なドラムロールをお披露目する山上。
俺と朝倉は「テンション高いな」「どうしたんだろうな」と、二人でささやきあっていた。
「願掛け、でしたー」
ハイテンションに答えた山上に、俺は問いかける。
「どういうことだ?」
「観音様に命を預けて飛び降りれば、命が助かり願いが叶うと思われてたんだって。ちなみに、200人以上が飛び降りて、生存率は大体85パーセントくらいだったらしいよ」
「「へー」」
俺と朝倉は、同時に感心したように唸った。
☆
そして、その日の夕方、宿泊先の旅館にて。
大浴場で温泉に入り、布団を敷いて寝転んでいるときに、俺はふと思い至った。
昼間、山上と朝倉を二人にしておいた方が良かったんじゃないか……? と。
山上と木下の二人が、朝倉に対して好意的なのは、はたから見ていてわかる。
その好意が恋愛感情によるものであったとするならば、突然のクイズ乱入をしてきた理由にもなる。
であれば、あの後も山上の出題する問題に、ひたすら間抜けに感心していた俺は……中々空気の読めない奴だったのではないだろうか?
実際のところがどうなのかは、分からない。
しかし俺は、なんだか無性に気恥ずかしくなり、枕に頭を埋めて悶絶した。
「……と、友木。どうした?」
そんな俺の様子を見て、心配したのか引いたのか、もしくはその両方か。
恐る恐るといった様子で、朝倉に声を掛けられた。
「い、いや。たまにこうなってしまうんだ」
「……大変だな、友木。いつでも相談乗るぞ?」
優し気に声を掛けられる。
しかし、ここで山上のことを聞くのは、あまりにも野暮だ。
「ありがとう。その時は、よろしく頼む」
とだけ答え、俺はスマホを手にして、一度部屋から出た。
それから、スマホを操作し、メッセージアプリから電話を掛ける。
『あれ、友木君? 珍しいね、どうした?』
電話に出たのは、山上だ。
今後、同じことがあった場合俺はどう行動をするべきか確認したかったため、彼女に直接連絡することにしたのだ。
「悪い、今少し良いか?」
『え、うん。大丈夫』
少々戸惑ったような声音。
俺は彼女に、単刀直入に問いかけた。
「今日の昼、朝倉と三人で話をしていた時。もしかして俺……、外していた方が良かったか?」
『え、なんで?』
俺の言葉に、山上はそう即答してから、
『え、あ、え? あ、そういうこと!?』
と、慌てたように言った。
「ああ、そういうことなんだが……」
俺がそう答えると、山上が電話口で深呼吸をしたのが分かった。
『いや、そんなに気を遣われると、逆に困るから。……ていうか、あいつのこと確かに好きだけど、それが恋愛感情なのかどうか、ちょっと微妙というか……』
恥ずかしいのかところどころ言い淀んでいる山上。
なんだそれ、甘酸っぱ……。
『あいつも友木君も、話を振るたび感心してくれて、私としては面白かったから。気にしないで』
山上の言葉に照れ臭くなった俺は
「ライトノベル先生の話は、相変わらず興味深かったぞ」
と、照れ隠しに、揶揄いまじりにそう言った。
山上にぶち殺すぞ、と言われる覚悟をしていたのだが……。
『来年の今頃は……アニメ化作家先生になってる予定だから』
意外にも、彼女は落ち着いたような声音で、あほみたいなことを言った。
「あの……?」
俺が戸惑いつつ言うと、彼女は自信に満ちた声で言う。
『私の書いた小説が、新人賞に通ったの』
「マジか! 凄いな、山上!」
俺が思わず興奮気味にそう言うと、『ふふ、落ち着いて友木君』と、微笑んでから、山上は続けて言う。
『だってまだ二次選考を通っただけだし』
「まんまと叙述トリックに引っかかってしまった……」
俺がそう呟くと、山上は楽しそうに笑っていた。
まんまと俺が引っかかったものだから、楽しかったのだろう。
『それじゃ、そろそろ切るね。また明日、お休み友木君』
「ああ、また明日。お休み、山上」
そう言ってから、通話を切った。
それから、彼女の言葉を思い出し。
……二次通過も凄いんじゃないか? と思い。
『二次通過おめでとう』
と、メッセージを送ってから、部屋へと戻ったのだった。






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