15、予定
修学旅行前日となったが、俺は未だに、冬華と会話をすることがなかった。
同じ学校に通っているはずだが、意識しないとここまで会えないものだとは思いもしなかった。
朝倉や夏奈をはじめ、クラスメイトは俺が冬華に振られたことに、わざわざ触れるようなことはなかった。気を使って、そっとしていてくれているのだろう。
しかし、意外なことに。
池とは少し、気まずい雰囲気になることがあった。
俺と会話をするときに、彼は目を泳がせたり、苦笑を浮かべたりすることも多かった。
冬華は池の妹だから、多少は影響があったのかもしれない。
池の態度を見て、俺は彼に冬華との関係について、説明することが出来なくなっていた。
修学旅行中では、同じ部屋で寝泊まりをする。
……どこかのタイミングで話をしたいと、俺は考えていた。
☆
「優児さん……いえ、ユウえもーん!」
教室にいた俺を、同意なく生徒会室に連行した竜宮に泣きつかれた。
「あの……何?」
俺は竜宮のテンションに引きつつ、そう問いかける。
「恥ずかしながら、ご相談したいことがありまして」
「恥ずかしながら……? 今さらだな、竜宮の醜態の一つ二つ、俺は気にしないぞ」
「優児さん……?」
俺の言葉に、竜宮は苛立ちを隠そうともせず睨みつけてきた。
俺は視線を逸らしつつ、
「それで、相談っていうのは?」
と、先を促した。
竜宮は、「はぁ」とため息を吐いてから、言う。
「やはり、自由行動時に、会長と行動を共にできるように協力していただきたいと思いまして」
もじもじと照れ臭そうに、竜宮は言った。
「悪い。この間も言ったけど、修学旅行最終日は夏奈との約束があるから、協力が出来そうになくて……」
この間相談を受けた時と同様、俺は竜宮にそう説明を行った。
しかし、彼女は平然とした様子で答える。
「ええ、よく存じています。私も、優児さんと葉咲さんの邪魔をしようとは考えていません」
「……? どういうことだ?」
竜宮が何を言いたいのかわからなかった俺は、そう問いかけていた。
彼女は、胸を張ってから言う。
「葉咲さんにも、私に協力をしていただくようお願いをいたしました」
「は? ……本当に?」
竜宮の言葉に、俺が驚くと、
「その話、本当だよ!」
と、背後から声がかけられた。
振り向くとそこには、扉の前でトランクスを未来へと見送った時のベジータみたいなポーズで壁にもたれかかっている夏奈がいた。
「夏奈! いつの間に!?」
「こっそり後をつけさせてもらったよ、優児君!」
そう言って夏奈は、指先をびしっと立ててきた。
俺は(にこ…)と笑うことしかできない。
「というか竜宮、良かったのか? 池への気持ちを夏奈に伝えて、協力を求めたのは?」
竜宮は、彼女が池のことを好きだと暴露した俺以外に協力を求めることはなかった。
てっきり、できる限り自分だけの力で池を口説こうと考えているものだと思っていたのだが……。
「私も、なりふり構っていられないということです」
竜宮は、苦笑を浮かべながらそう言った。
「竜宮がそう決めたのなら、俺から言うことはないな」
俺は彼女に向かって言った。
竜宮は、その言葉を聞いて、照れ臭そうに微笑んだ。
「私と優児君で、春馬を自由行動に誘うから。竜宮さんには連絡を取り合って、良いタイミングで合流しよう。その後、私が優児君と抜け出すから、竜宮さんは春馬とデートを楽しんで!」
生徒会室に踏み入った夏奈が、得意げに言う。
「……池は人気者だから、他の連中に声を掛けられるだろ」
俺と池が微妙な雰囲気になっていることに気付いていないから、夏奈はそう判断したのだろうが、普通に断られる可能性も考えられた。
「自由行動は、私と優児君と一緒に行動しようって春馬に話したら、『良いよ』だってさ」
すでに話を通していたらしい夏奈。
池も、快諾してくれたようだ。
「さすがは葉咲さん、頼りになります。……いえ、優児さんが頼りにならないとうわけでは、決してないですから!」
夏奈に笑みを向けた後、すぐに俺をフォローする竜宮。
逆にいたたまれない気持ちになる……。
「当日はなるべくこまめに連絡するからね、竜宮さん!」
「はい、よろしくお願いします!」
夏奈の言葉に、竜宮は満面の笑みで答えた。
それから、夏奈は俺に向かって耳打ちをする。
「優児君は……ちゃんと自分から、春馬に冬華ちゃんとのことを話してあげてね」
俺の懸念は、夏奈にお見通しだったようだ。
「手間ばっかり掛けさせて、悪い。……ありがとうな、夏奈」
彼女に向かって、俺は感謝を告げる。
「その代わり、二人きりのデート中は――たくさん甘えさせてね?」
とても可愛らしく、優しい夏奈の微笑み。
そんな笑みを向けられ俺は――。
自分の情けなさが、どうしようもなく、恥ずかしくなるのだった。






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