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11、お義姉ちゃんじゃない

 夏奈に冬華との関係が嘘だったと伝えた翌日の昼休み。


「優児さん、お話をしたいのですが、お時間よろしいですか?」


 教室に竜宮が現れ、俺に声を掛けてきた。


「ああ、問題ない」


 俺が答えると、彼女は周囲を見てから、


「ここでは少し話しづらいことなので、移動しましょう」


 と、囁くようにそう言った。

 何の話をするのか、想像がついた俺は頷いてから、彼女の後をついて歩いた。

 それからしばらくして、到着したのは生徒会室だった。


 竜宮は鍵を取り出して、生徒会室の扉を開けた。

 中には、誰もいない。


「どうぞ、掛けてください」


 そう言って、竜宮に応接用のソファに座るように促された。

 俺は彼女の言葉に従い、座った。


「早速ですが……単刀直入に聞きます。冬華さんと別れたというのは、本当ですか?」


 竜宮は戸惑った様子で、そう問いかけてきた。

 予想通り、冬華とのことで話を聞こうとしたのか。

 

「ああ、そうだ」


 俺の答えに、竜宮はショックを受けた様子だ。

 彼女は全身を震わせてから、口を開く。


「ということはつまり……私はもう、優児さんのお義姉ちゃんではない――ということですか?」


 顔面蒼白の竜宮は、すがるように問いかけた。

 俺は彼女をまっすぐに見つめ、諭すように答える。


「竜宮……お前は一度だって、俺のお義姉ちゃんだったことは、ない」


 俺の言葉に、竜宮はため息を吐いて、気の毒なものを見るような目を向けてきた。


「とうとう。現実逃避をし始めましたね……お気の毒に」


 ……相変わらず訳の分からないことを言っているな、と思いつつも口にはしなかった。


「……あんなに仲が良かったのに。優児さんは、どうして冬華さんに振られてしまったんでしょうか?」


「俺が振られた前提で話を進めてきたな」


「だってそうでしょう? 優児さんが冬華さんを振るわけないですし」


「……その通りだな」


 竜宮の言う通り過ぎて、俺は反省した。


「理由は……俺にも分からない。だけど、そもそもこれまで俺が冬華と付き合えていたのがおかしいんだから、理由がなくても不思議ではない」


 竜宮にニセモノの恋人関係のことを言う必要はないだろうと思い、俺はそう答えた。

 たとえ真実を話したとしても、可哀そうな奴扱いを受けるのは目に見えていたことだし。


 俺の言葉を聞いた竜宮は、じっくりと考える様子を見せてから、答えた。


「それもそうですね」


 軽い調子で答える竜宮。

 本当に振られたわけでもないのに、少々イラっとする俺。

 不満を伝えるために、俺は彼女を軽くにらみつける。


「じょ、冗談ですから……怖い顔をするのはやめてください」


 竜宮が割と本気でおびえていたので、俺は再び反省して、睨むのをやめた。


「私は優児さんの良いところをそこそこ知っていますので、冬華さんとお付き合いをしていたこと、不思議ではないと思っていますよ。……こんなことを私に言われても、なんの慰めにもならないかもしれませんが」


 竜宮のその言葉に、俺は苦笑する。


「心配して声をかけてくれたんだろ? ありがとう」


「友人の心配をするのは、当然のことですよ」


 竜宮はそう言って、微笑んだ。


「俺のことは、心配しなくても大丈夫だ。……竜宮のほうこそ、どうなんだ?」

 

 分かりやすく話題を変えた俺に、竜宮は苦笑をしてから、コホンと咳払いをした。

 そして、


「会長とは、これまで通りです。彼も本心ではきっと、私のことを抱きしめ、愛の言葉を囁きに囁きたいと思ってるのでしょうが、どうも理性が邪魔をしているように見えます」


 と、照れ臭そうに言った。

 ……こいつには一体何が見えているんだろうか?


「しかし、もうすぐ勝負の修学旅行が行われます!」


「竜宮はイベントごとのたびに勝負勝負と言ってる気がするな……」


「良いのです! イベントに期待するのは、恋する女子高生の特権なのですから!」


 元気いっぱいに答える竜宮。

 いつも通りのこいつを見て、俺もなんだか元気が出てきた気がする。


「さて、その修学旅行ですが……クラスの違う私と会長が行動を共にできるのは、最終日の自由行動の時間だけです。そこで一つ、優児さんに提案があるのですが?」


 唐突な提案に戸惑いつつも、俺は彼女の次の言葉を待つ。


「優児さんに会長を誘導していただき、偶然を装って私と出会い、そこから行動を共にする。タイミングの良いところで、優児さんはフェードアウトし、二人っきりの甘い時間が始まるのです!」


「悪い竜宮。今回は協力できそうにない」


 俺の答えに、竜宮は鳩が豆鉄砲を食ったような表情で驚いた。


「ど、どどどどどうしてですか!?」


 分かりやすく狼狽える竜宮に、俺は答える。


「自由行動の時間は、夏奈と一緒にいるって約束をしたから」


 俺の言葉を聞いた竜宮は、俺を半眼で見てから、「はぁ」と溜め息を吐いた。


「……冬華さんに振られて早々、葉咲さんに乗り換えたというわけですね。優児さんがそんなことするとは思ってなかったので、少々失望しました」


「いや、そういうわけじゃ……」


 竜宮の考えているようなことは何もない、と告げようとしたが、客観的に見てそう思われることは不可避だ。

 事情を説明したり、苦し紛れに言い訳をしても、きちんと伝えられるようなコミュ力は俺にはない……。

 竜宮を失望させてしまったことを残念に思っていると、


「冗談ですよ」


 と、またしても竜宮はそう言った。


「優児さんがそんな軽率な方だとは思っていませんよ」


 俺が軽率な人間であることに、間違いはない。

 それでも、竜宮は俺に向かって言う。


「わざわざ私が言うことじゃないとは思います。だけど、優児さんはしっかりと考えてください。冬華さんに振られた今、彼女のことをどう思い、どんな関係になりたいのか。そのうえで、葉咲さんの好意をどう受け止めたいのかを」


 それから彼女は、俺に笑顔を向けた。


「優児さんが真剣に考えて決めたことなら、誰に憚る必要もありません。私は、友人としてあなたのことを応援します」


「……ありがとう、竜宮」


 俺の言葉に、彼女はクスリと笑った。


「こちらこそ、お時間いただきありがとうございました。……私は生徒会室の戸締りをしてから出ますので、優児さんは先に出てください」


 話したいことは終わったのだろう。

 竜宮は立ち上がって、そう言った。


「ああ、それじゃあまたな」


 俺の言葉に、竜宮はいつものすました顔で「ええ、また」と答えた。


 俺はそれから、生徒会室を後にする。


 そして、一人廊下を歩きながら、彼女に言われたことを思う。


 俺は、ニセモノの恋人だった冬華のことをどう思っているのか。

 そして、夏奈から向けられる好意に、どう応えようとしているのか。


 だが、考えても答えは出ない。

 ただ、いい加減な気持ちではいられない。


 それだけは確かだと、そう思った。

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