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21、糾弾

 そして、勉強会前日である、金曜日の放課後。

 明日からはゴールデンウィークで連休ということで、勉強会が関係ない二、三年はどこか気が緩んだ雰囲気だった。


 しかし、生徒会の池は明日も勉強会というイベントがあるため、そんな空気とは関係がない。


「優児、今日も良いか?」


「ああ、当たり前だろ」


 池の誘いに俺は頷く。

 二人で今日も、生徒会室へと向かった。



 生徒会室には、まだ誰も来ていなかった。


「さて、昨日で過去問のコピーは終わったけど、今日は何を手伝えばいい?」


「今日は、明日の打ち合わせをするだけだ」


 昨日で過去問のコピーは取り終えたため、どうやら今日は雑用は無しらしい。


「明日は、13時まで体育館は運動部が使うことになっている。そこから、設営をして、16時からイベントを開始する」


「設営をするメンバーは? 生徒会役員は新入生に対して授業をするんだろ? 流石に、一人では無理だぞ」


「当日、運動部が手伝いをしてくれる。特に、バレー部はやる気満々だ」


「へー、そうか」


「ああ。優児は13時位に、体育館へ行ってくれ。そこで、設営の手伝いを頼む。……頼りにしてるぞ」


 運動部が設営を手伝ってくれるなら、俺が行っても邪魔にならないだろうか? と思いつつも、それを口には出さなかった。


「……ああ、任せておけ」


 池に頼りにされるというのが、俺にとってはとても嬉しいことだったから。


「一応、そんなところだ。詳細はメッセージでも送ろうと思うが、説明を聞いて分からないことは無かったか?」


「大丈夫だ」


「そうか。……それじゃ、今日はここまでだ。今日まで手伝いありがとな。それと、明日もよろしく頼む」


 池がの言葉に、俺は頷く。

 そして、俺は生徒会室を後にした。


 廊下に出てから、そういえば今日は冬華と放課後会わなかったなと、ふと思い出した。

 昨日で雑用は終わっていたため、今日は早々に帰ったのかもしれないな。


 そう結論付けてから、次の電車の時間を確認するために俺はスマホを取り出す。

 そこで、数分前に冬華からメッセージが届いていたことに、初めて気が付いた。


 通知画面から、俺はそのメッセージを見る。


『めんどくさいのに絡まれてしまったので、屋上に来て助けてください』 



 冬華のメッセージの通り、俺は屋上まで来ていた。

 人の話し声が、扉越しに聞こえる。

 目の前の扉を開けば、そこには冬華と……おそらく、この声からして甲斐の二人がいるだろう。


 会話の詳細までは分からないが、おそらくは告白だろう。

 この後、俺が彼氏面をして現れたら良いんだろう。

 これが、そもそも冬華に求められていた俺の役割だ。


 すまんな、甲斐。

 本当に冬華のことが好きで、告白までしようとしているのに、俺が邪魔をしてしまって。


 心中で後輩に謝罪をしてから、俺は屋上へと続く扉を開いた。


「だから、友木とは別れてくれ! 冬華!」


 そして、早速甲斐が冬華に告白をしている場面に出くわしてしまった。

 

「……そういう告白は、ちょーっと引くかなー。ごめんねー、甲斐君」


 固い声音で冬華が言うと、甲斐は首を横に振る。


「冬華! 俺はただ君を……っ!? 友木優児、先輩……!? どうして、ここに?」


 俺に先に気が付いたのは、甲斐だった。

 唖然とした表情を浮かべたのは、一瞬。

 すぐに憎しみに染まった表情を俺へと向けてきた。


「やーん先輩! どうして私が屋上にいるって分かったんですか? あは、もしかしてこれが愛の力、ってやつですか?」


 甲斐の視線を追い、俺の姿に気が付いた冬華は、白々しいセリフを吐く。

 お前が来いって言ったんだろうが、とは思うものの、俺は空気を読んで発言する。


「……そんなところだ」


「やーん、先輩素敵―♡」


 と言いながら俺の隣に駆け寄る冬華。

 そしてボソッと「来るの遅いんですけど」と、甲斐には気づかれないように不機嫌そうな表情を浮かべながら言った。


「……それで、甲斐。冬華にどういった用件があったんだ?」


 これ以上冬華の機嫌が悪くなる前に、俺は自分の役割を果たさなければいけない。

 甲斐は俺の言葉に、無言で応じる。


「甲斐君がー、優児先輩の悪口ばっかり言ってきてー。それで、私に先輩と別れろって言ってくるんですー。こんな告白、男らしくないですよねー。ダサいですよねー」


 何も答えない甲斐の代わりに、冬華が指先で俺の裾をつまみながら、つまらなさそうにそう言ってくる。


「違う、そうじゃないんだ! 俺は、本当に冬華のことが心配なんだ……っ!」


「心配されることなんてないしー? 私と先輩は、超ラブラブなんだから、ごめんねー甲斐君? ……いこ、先輩」


 さっさとここから離れたいのだろう。

 冬華は言うだけ言って、屋上から帰ろうとする。


 しかし――。


「その人の恐ろしさを、冬華は知らないんだっ!」


 甲斐がそう叫んだことにより、冬華は足を止めた。


「……へぇ、甲斐君は先輩のこと良く知ってるんだ。それなら、教えてよ?」


 冬華は、無表情でそう言った。


「その人は、本当に暴力的で、残忍な人でなしだ。俺は去年の夏ごろ、その人が暴れまわって多くの人を傷つけているところを見た。……本当に恐ろしかったよ、なんでこんな最低最悪の人間が今もこの学校にいるのか、正直理解ができない」


 面と向かってここまで言われたことはないので、俺は流石に驚いた。

 いや、陰口や噂でなら、もっと酷いことを言われたことが何度もある。


 それに、去年の夏ごろの話というと……、正直言って身に覚えがある。

 あの時の俺を見ているにもかかわらず、逃げずにまっすぐ向かってくるこいつは、結構度胸があると思う。


「だから、その人はやめた方が良い。今に、後悔する……」


 真剣な表情で、冬華に伝える甲斐。

 しかし、俺の隣にいる冬華は、拳を握って、無表情を浮かべていた。


 そして、彼女は静かに告げる。


「あんたに、優児先輩の何が分かるっていうの? 人の外見だけで判断して、中身を全く見ようともしないのが、丸わかりなんだけど。去年の夏のことなんて、私は知らないけど。どうせ先輩が無関係な面倒ごとに首を突っ込んで、誤解を与えちゃっただけでしょ? 先輩が理由もなく暴力を振るう人じゃないのは、私は良く知っているし」


 ……去年、俺がどれだけ説明しても池と真桐先生以外信じてくれなかったことを、冬華は事情を聞きもせずに分かってくれた。

 そのことが、すげー嬉しい。


「それで甲斐君は、自分の勝手な都合を押し付けて、先輩を悪者扱い。自分はか弱い女の子を助けようとする正義の味方気取り? 何それ……超ムカつく。超ウザい。超ダサい。超キモイ」


「俺は別に、そんなつもりじゃ……っ!」


 淡々と告げる冬華の様子に、甲斐はあからさまに狼狽をする。


「黙って」


 甲斐の言葉を、静かに遮った後。


「私の恋人を……これ以上悪く言うな」


 冬華は、静かに、だけど力強くそう言った。


 甲斐は、これまで見たこともないような冬華のその迫力に押され、口を噤んだ。


「……ていうか、本当に私と先輩を別れさせたければ、私に言うんじゃなくてまずは先輩に言うべきじゃん? 結局、甲斐君はさ。私のことを考えているふりして、自分のことしか考えてないだけだよね。気づいてないのかもだけど、甲斐君ってただの自己陶酔ナルシスト野郎じゃない? ……そういうの、マジ無理だから」


 割と辛辣なことを甲斐に向かって言う冬華。

 当の本人は、その言葉にハッとした表情を浮かべた。


 そして、決意をした表情を浮かべて、告げる。


「君の気持ちは、分かった、冬華。これまで、気づけなくってごめん。そうか、君は最初から自分の気持ちを正直に言っていたんだな……」


「わかったなら、さっさと……」


 はぁ、と呆れた表情を浮かべながら言う冬華の言葉を遮り、甲斐は続けて言う。


「俺が危険に巻き込まれないように、あえて遠ざけるようなことを言ったんだな」


 その言葉に、冬華は嫌悪感丸出しの表情をして、冷たい声音で言う。


「はぁ? ……マジでその思い込み、どうにかした方が良いと思うよ」


「分かっている、ここは退くよ。君の気遣いも思いも、無駄にはしない。……絶対、俺は君を助けるから、もう少しだけ待っててくれ」


 悟ったような顔をして、甲斐は俺たちの後ろにある出口へと向かって歩く。


 冬華は、あからさまに不愉快そうに、舌打ちをしていた。


 甲斐は、もう冬華を見てはいなかった。

 真直ぐに、俺に憎しみの視線を向けながら、一歩ずつ近づいてくる。


 そして、すれ違いざま。


「明日、この時間にこの場所で。絶対に逃げるなよ……」


 冬華に気づかれないよう、俺の耳元で囁いてくるのだった。


 甲斐はその後すぐに、扉を開いて屋上を後にした。


「最っ低……」


 扉が閉まってから、冬華は忌々しそうにそう呟いた。

 明らかに気分が悪そうだ。甲斐が俺に悪口を言ったのが、そんなに癇に障ったのだろうか。

 だとすると、結構嬉しいかもしれない。


「……庇ってくれて、俺のために怒ってくれて。ありがとな、冬華」


 少し気恥ずかしくもあったが、俺は冬華へとお礼を告げた。

 すると、冬華は無表情を浮かべて、俺を見る。


「……は? ……先輩、私があいつに言ったこと全部、先輩のために言ったって思ってるんですか?」


「全部かどうかは分からないが……俺のために怒ってくれたのかなとは、思っている」


 俺の答えに冬華は唖然とする。

 彼女はしばらく無言だったが、彼女はようやく口を開いた。



なんなんですか、それ……。



 冬華は、かすれた声を振り絞り、独り言のようにそう言った。


 まるで救いを求めるような表情を浮かべる冬華に、俺はなんと声をかければいいのか、分からなかった――。


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