9、告白
修学旅行の班分けはすみ、無事ロングホームルームを終え、放課後となった。
下校時。
これまでなら冬華が迎えに来てくれることが多かったが、既に『ニセモノ』の恋人関係が終わった今、彼女が迎えに来ることはない。
寂しさを覚えつつ、俺はカバンを持って席を立つ。
そのまま教室を出ていこうとしたが、待ち構えていた様子の夏奈に、声を掛けられた。
「優児君、今から帰りだよね。駅まで一緒に帰っても、良いかな?」
「……ああ、問題ない」
断る理由もなかった俺は、夏奈にそう返事をする。
「良かった。それじゃ、一緒にかえろっか!」
嬉しそうに、夏奈が答える。
俺は頷いてから、彼女と一緒に教室を出ていき、廊下を並んで歩いた。
そのまま校舎を出て、駅まで向かう。
「修学旅行、楽しみだね」
「そうだな」
「今年は関西に行くみたいだけど、優児君はいったことある?」
「いや、ないな」
「私は大会で関西に行くこともあるけど、観光するのは初めてだから、楽しみだなぁ」
「そうだな」
歩きながら、俺たちは修学旅行の話をする。
「……やっぱり、迷惑だった?」
唐突に、夏奈が俺に向かって問いかけた。
夏奈の言う『迷惑』の意味が分からず、俺は困惑する。
「迷惑って、何がだ?」
俺の言葉に、夏奈は苦笑を浮かべつつ答える。
「急に一緒に帰ろうって、誘っちゃったから」
「そんなことないが…どうしてそう思った?」
「優児君、冬華ちゃんに振られたばっかりだから」
夏奈はまっすぐに俺を見つめてそう言った。
俺は彼女の視線をまっすぐに受け止められず、視線を逸らして答えた。
「……ああ、気にしないでもらって大丈夫だ」
俺の言葉を聞いた夏奈は、唇を固く結んだ。
それから、少しだけ迷ったそぶりを見せてから、ゆっくりと口を開く。
「あのさ……私、優児君に聞きたいことがあるんだよね」
「聞きたいこと……っていうのは、なんのことだ?」
俺がそう答えると、夏奈はその場に立ち止った。
どうしたのだろうかと、俺も足を止め、そして夏奈を見た。
彼女は真剣な表情を浮かべて、俺に向かって問いかける。
「優児君って、私に何か隠し事してるんじゃない?」
その質問に、俺はすぐに答えることができなかった。
夏奈に対して隠し事を……冬華との関係を告げていなかったのは、明白であるにもかかわらず。
冬華との『ニセモノ』の恋人関係が終わった今、俺が夏奈に嘘を吐いていたことを話さないといけない。……そう思っていたはずなのに、いざ夏奈から問いかけられて俺は狼狽えている。
今さら正直に話しても、夏奈のことを無意味に傷つけるだけだ。
だから、このまま本当のことは言わなくても良いんじゃないか――?
一瞬、俺はそんなことを考えた。
しかし、無言のまま俺の答えを待つ、夏奈の真剣な表情を見て、気づく。
俺が今、夏奈の言葉に答えられなかったのは、決して彼女の気持ちを考えたからではない。
……ただ俺が、本当のことを話して、夏奈に嘘をつき続けたことに幻滅されるのが怖かったからだ。
夏奈は、冬華と俺が別れたと思って、心配をしてくれているに違いない。
それなのに俺は、自分のことばかり考えている。
夏奈には嫌われたくない。
だけど……これ以上嘘を重ねる訳にはいかない。
「してる」
俺は、口を開きそう呟いた。
夏奈は無言のまま、続く俺の言葉を待っている。
冬華との関係は、むやみに口外しないと約束をしていた。
だけど、彼女との関係が終わった今、その約束を言い訳に、好意を伝えてくれる夏奈を騙し続けていいはずがない。
俺は覚悟を決めて、口を開いた。
「ずっと夏奈には言えなかったんだけどな。俺と冬華は……本当は付き合っていなかったんだ」
「……え?」
夏奈は、訳が分からないといった様子で、ポカンと口を開いている。
そんな彼女に、俺はもう一度伝えた。
「俺と冬華は『ニセモノ』の恋人だったんだ」






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