表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
206/221

7、ラスボス攻略夏奈①

今回は夏奈ちゃん視点です(*'ω'*)

 今日の昼休みは、いつもと様子が違った。


 普段なら、お昼休みになったらすぐに冬華ちゃんが教室に来て、そのまま優児君を連れ去ってしまう。

 でも今日は、優児君が自席から立ち上がって、春馬に声をかけていた。

 珍しいと、春馬はちょっと驚いていたけど、優児君が冬華ちゃんと別れたことを知っている私は、『本当に二人は別れたんだな』って、そんな気分になった。


 私も優児君と一緒にご飯を食べられたら、と思って声を掛けようと思ったけど。

 嫌な予感がして、私は教室から出る。

 それから階段の踊り場に、一人の女の子がいることを見つけて……声を掛けた。


「そんなところで、何をしてるのかな。……冬華ちゃん?」


 私の言葉に、名前を呼ばれた冬華ちゃんビクッと肩を震わせた。

 彼女は、一人分には見えない量のお弁当を手に持って、階段の踊り場で思い悩んだ様子だった。


「あー、その……、ちょっと優児先輩に用事があって。教室にいますか?」


 冬華ちゃんは私とは目を合わせずに、そう尋ねてきた。

 私はその質問に答えずに、冬華ちゃんに問いかける。


「聞いたよ、冬華ちゃん。優児君のこと、振ったんだよね?」


「そ、それは……っ!」


 冬華ちゃんは動揺していた。

 でも、待っていても続く言葉は無かった。


「ねぇ、冬華ちゃん。……ちょっと、お話しようよ」


 私の言葉に、冬華ちゃんはゆっくりと頷いた。

 階段の踊り場だと、周囲に人がいて話がしにくいと思い、私と冬華ちゃんは、普段人が立ち入らない、非常階段に移動する。


 さっきから黙りっぱなしの冬華ちゃんに、私はもう一度問いかけた。


「二人は、もう別れたんだよね?」


「そう……だけど。でも」


 冬華ちゃんは俯きながら、続けて言う。


「だからって、一緒にいちゃダメって訳じゃないでしょ……」


 冬華ちゃんは、どうしてかすごく苦しそうに、そう言った。

 私はその言葉を聞いて……自分でも驚くくらい、苛立ちを覚えた。


「ダメに決まってるでしょ! ……そんな中途半端な気持ちで優児君と会うつもりなの? それとも、別れたいって言ったのは冗談でしたって言って、何食わない顔でやり直そうとしてるの……?」


 私の言葉に、冬華ちゃんは俯いて、唇を端を噛む。


「……そんなんじゃ、ない」


 冬華ちゃんのその表情は、自分の方が傷ついている、とでも言いたそうな顔だった。

 ……もう私は、我慢が出来そうになかった。


 私は冬華ちゃんの両頬に手を添えて、顔を上げさせる。

 暗く沈んだ眼差しを見ると、冬華ちゃんはそっと視線を外した。


「辛いのは、優児君の方なのに! ……冬華ちゃんに、そんな表情をする権利なんてないんだよ!?」


 私は怒鳴りそうになるのを堪えて、ゆっくりと言った。

 冬華ちゃんは顔を上げて私を見る。

 てっきり、睨まれるかと思っていたけど……意外なことに、冬華ちゃんはただ、辛そうな表情をしているだけだった。


「……ごめんなさい」


 冬華ちゃんは、私に向かって、小さな声で謝った。


「……いいよ、謝られたい訳じゃないから」


 俯き続ける冬華ちゃんに。私は続けて言う。


「でも、そんな中途半端な気持ちでこれから先、優児君と接しようとしてるなら……絶対に許さないから」


 私の言葉を聞いた冬華ちゃんは、


「……違う、私は、あんたに対しても、謝らないといけないの」


 と、どうしてか、そんなことを言った。

 一体、何を謝るって言うんだろう?


「それって……、どういうこと?」


「私と、優児先輩は……」


 冬華ちゃんは深刻そうな表情で、口を開いたけど。

 それ以上のことは聞けなかった。

 何故なら――。


「ストップ! そこまでだ、冬華!!」


 急に背後の扉が開いて、飛び出してきた女の子に話を遮られたからだった。

 私は狼狽えつつ、目の前の女の子を見る。

 見覚えがある。

 

「な、なんでここに竹取先輩がいるんですか!?」


 慌てた様子で冬華ちゃんが言った。

 そう、前期の生徒会役員で、この間も選挙管理委員長をしていた、竹取先輩だ。


「冬華の様子を見に来たんだが、案の定トラブルだな! 様子を見てて良かった。……ちなみに、ToLOVEるの匂いはしないな!」


 ……何を言っているんだろう? 

 私と冬華ちゃんは、無表情で竹取先輩を見た。


 すると、彼女はコホン、とわざとらしく咳ばらいをしてから、


「とりあえず、私のウィットに富んだジョークのおかげで、さっきまでの険悪な雰囲気はなくなったようで良かった」


 と、頬を赤く染めつつ言った。

 ……恥ずかしかったんだろうなぁ。


「夏奈。今、冬華が言いそうになったのは、こいつからじゃなく、優児から聞け」


 竹取先輩が私に向かって言った。


「優児君に聞け、って。一体、何のことなんです?」


 私の問いかけに、竹取先輩は答える。


「優児が夏奈に吐き続けた、嘘のことだ」


 竹取先輩の無表情からは、感情を読み取れなかった。

 

「優児君が、私に嘘を……?」


「その反応。まだそのことについては優児から聞いてなかったんだな。……今はあいつも混乱してるだろうし、少しの間待ってやれ」

 

「……ごめんなさい、意味が分からないです」


 私の言葉に竹取先輩が、今度は真剣な表情で言う。


「一か月くらい待って、何も話してもらえなかったら……その時は、お前から聞いてみろ。流石にそこで答えをはぐらかすような奴ではないから、答えてくれるだろうよ」


 それから、冬華ちゃんに向かって続けて言う。


「そう言うことだ、分かったか、冬華?」


 冬華ちゃんは竹取先輩には答えずに、私に視線を向けて口を開いた。


「優児先輩の説明のあと、私からもちゃんと謝るから……」


 竹取先輩の言うことも、冬華ちゃんの言うことも、私にはよくわからなかった。


「全然、ピンときてないけど……うん、分かったよ」


 私の言葉に、竹取先輩は「よし、そんじゃ話は終わりだ!」と言って、冬華ちゃんの手を引いた。


「あたしたちは立ち去るから、夏奈は優児とのランチタイムを楽しんでくれ! じゃーな」


 そう言って、二人は立ち去った。

 訳が分からないままだけど……少しだけ、考える。


 冬華ちゃんのおかしな様子。

 そして、竹取先輩の言った、「優児君が私に吐いた嘘」。


 ――分からないことだらけだけど。

 優児君なら、きっとちゃんと話をしてくれる。

 

 とりあえず。

 今は何も考えずに、優児君とお昼を食べたいな。


 私はそう思って、教室へと戻ることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説大賞入賞作、TO文庫より2025年11月1日発売!
もう二度と繰り返さないように。もう一度、君と死ぬ。
タイトルクリックで公式サイトへ、予約もできます。思い入れのある自信作です、書店で見かけた際はぜひご購入を検討してみてください!

12dliqz126i5koh37ao9dsvfg0uv_mvi_jg_rs_ddji.jpg





オーバーラップ文庫7月25日刊!
友人キャラの俺がモテまくるわけがないだろ?
タイトルクリックで公式サイトへ!書店での目印は、冬服姿の冬華ちゃん&優児くん!今回はコミカライズ1巻もほぼ同時発売です\(^_^)/!ぜひチェックをしてくださいね(*'ω'*)

12dliqz126i5koh37ao9dsvfg0uv_mvi_jg_rs_ddji.jpg4コマKINGSぱれっとコミックスさんより7月20日発売!
コミカライズ版「友人キャラの俺がモテまくるわけがないだろ?」
タイトルクリックで公式サイトへ!書店での目印は、とってもかわいい冬華ちゃんです!

12dliqz126i5koh37ao9dsvfg0uv_mvi_jg_rs_ddji.jpg

― 新着の感想 ―
[一言] 書籍も出たので続きをお願いいたします。
[良い点] 面白かったので一気見してしまいました。 冬華とのニセモノの関係が解消されて これから物語が大きく動き出しそうな感じ、 すごくいいですね! [気になる点] 真桐先生派なのでもっと先生との 逢…
[良い点] 最近読み始めて、ここまで追いつきました。 軽妙なやりとりに、読んでてついニヤニヤしてしまいます。登場人物の軽いウザさと捌き具合の描写がなんだか気持ちいいです。 [気になる点] 竹取先輩の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ