7、ラスボス攻略夏奈①
今回は夏奈ちゃん視点です(*'ω'*)
今日の昼休みは、いつもと様子が違った。
普段なら、お昼休みになったらすぐに冬華ちゃんが教室に来て、そのまま優児君を連れ去ってしまう。
でも今日は、優児君が自席から立ち上がって、春馬に声をかけていた。
珍しいと、春馬はちょっと驚いていたけど、優児君が冬華ちゃんと別れたことを知っている私は、『本当に二人は別れたんだな』って、そんな気分になった。
私も優児君と一緒にご飯を食べられたら、と思って声を掛けようと思ったけど。
嫌な予感がして、私は教室から出る。
それから階段の踊り場に、一人の女の子がいることを見つけて……声を掛けた。
「そんなところで、何をしてるのかな。……冬華ちゃん?」
私の言葉に、名前を呼ばれた冬華ちゃんビクッと肩を震わせた。
彼女は、一人分には見えない量のお弁当を手に持って、階段の踊り場で思い悩んだ様子だった。
「あー、その……、ちょっと優児先輩に用事があって。教室にいますか?」
冬華ちゃんは私とは目を合わせずに、そう尋ねてきた。
私はその質問に答えずに、冬華ちゃんに問いかける。
「聞いたよ、冬華ちゃん。優児君のこと、振ったんだよね?」
「そ、それは……っ!」
冬華ちゃんは動揺していた。
でも、待っていても続く言葉は無かった。
「ねぇ、冬華ちゃん。……ちょっと、お話しようよ」
私の言葉に、冬華ちゃんはゆっくりと頷いた。
階段の踊り場だと、周囲に人がいて話がしにくいと思い、私と冬華ちゃんは、普段人が立ち入らない、非常階段に移動する。
さっきから黙りっぱなしの冬華ちゃんに、私はもう一度問いかけた。
「二人は、もう別れたんだよね?」
「そう……だけど。でも」
冬華ちゃんは俯きながら、続けて言う。
「だからって、一緒にいちゃダメって訳じゃないでしょ……」
冬華ちゃんは、どうしてかすごく苦しそうに、そう言った。
私はその言葉を聞いて……自分でも驚くくらい、苛立ちを覚えた。
「ダメに決まってるでしょ! ……そんな中途半端な気持ちで優児君と会うつもりなの? それとも、別れたいって言ったのは冗談でしたって言って、何食わない顔でやり直そうとしてるの……?」
私の言葉に、冬華ちゃんは俯いて、唇を端を噛む。
「……そんなんじゃ、ない」
冬華ちゃんのその表情は、自分の方が傷ついている、とでも言いたそうな顔だった。
……もう私は、我慢が出来そうになかった。
私は冬華ちゃんの両頬に手を添えて、顔を上げさせる。
暗く沈んだ眼差しを見ると、冬華ちゃんはそっと視線を外した。
「辛いのは、優児君の方なのに! ……冬華ちゃんに、そんな表情をする権利なんてないんだよ!?」
私は怒鳴りそうになるのを堪えて、ゆっくりと言った。
冬華ちゃんは顔を上げて私を見る。
てっきり、睨まれるかと思っていたけど……意外なことに、冬華ちゃんはただ、辛そうな表情をしているだけだった。
「……ごめんなさい」
冬華ちゃんは、私に向かって、小さな声で謝った。
「……いいよ、謝られたい訳じゃないから」
俯き続ける冬華ちゃんに。私は続けて言う。
「でも、そんな中途半端な気持ちでこれから先、優児君と接しようとしてるなら……絶対に許さないから」
私の言葉を聞いた冬華ちゃんは、
「……違う、私は、あんたに対しても、謝らないといけないの」
と、どうしてか、そんなことを言った。
一体、何を謝るって言うんだろう?
「それって……、どういうこと?」
「私と、優児先輩は……」
冬華ちゃんは深刻そうな表情で、口を開いたけど。
それ以上のことは聞けなかった。
何故なら――。
「ストップ! そこまでだ、冬華!!」
急に背後の扉が開いて、飛び出してきた女の子に話を遮られたからだった。
私は狼狽えつつ、目の前の女の子を見る。
見覚えがある。
「な、なんでここに竹取先輩がいるんですか!?」
慌てた様子で冬華ちゃんが言った。
そう、前期の生徒会役員で、この間も選挙管理委員長をしていた、竹取先輩だ。
「冬華の様子を見に来たんだが、案の定トラブルだな! 様子を見てて良かった。……ちなみに、ToLOVEるの匂いはしないな!」
……何を言っているんだろう?
私と冬華ちゃんは、無表情で竹取先輩を見た。
すると、彼女はコホン、とわざとらしく咳ばらいをしてから、
「とりあえず、私のウィットに富んだジョークのおかげで、さっきまでの険悪な雰囲気はなくなったようで良かった」
と、頬を赤く染めつつ言った。
……恥ずかしかったんだろうなぁ。
「夏奈。今、冬華が言いそうになったのは、こいつからじゃなく、優児から聞け」
竹取先輩が私に向かって言った。
「優児君に聞け、って。一体、何のことなんです?」
私の問いかけに、竹取先輩は答える。
「優児が夏奈に吐き続けた、嘘のことだ」
竹取先輩の無表情からは、感情を読み取れなかった。
「優児君が、私に嘘を……?」
「その反応。まだそのことについては優児から聞いてなかったんだな。……今はあいつも混乱してるだろうし、少しの間待ってやれ」
「……ごめんなさい、意味が分からないです」
私の言葉に竹取先輩が、今度は真剣な表情で言う。
「一か月くらい待って、何も話してもらえなかったら……その時は、お前から聞いてみろ。流石にそこで答えをはぐらかすような奴ではないから、答えてくれるだろうよ」
それから、冬華ちゃんに向かって続けて言う。
「そう言うことだ、分かったか、冬華?」
冬華ちゃんは竹取先輩には答えずに、私に視線を向けて口を開いた。
「優児先輩の説明のあと、私からもちゃんと謝るから……」
竹取先輩の言うことも、冬華ちゃんの言うことも、私にはよくわからなかった。
「全然、ピンときてないけど……うん、分かったよ」
私の言葉に、竹取先輩は「よし、そんじゃ話は終わりだ!」と言って、冬華ちゃんの手を引いた。
「あたしたちは立ち去るから、夏奈は優児とのランチタイムを楽しんでくれ! じゃーな」
そう言って、二人は立ち去った。
訳が分からないままだけど……少しだけ、考える。
冬華ちゃんのおかしな様子。
そして、竹取先輩の言った、「優児君が私に吐いた嘘」。
――分からないことだらけだけど。
優児君なら、きっとちゃんと話をしてくれる。
とりあえず。
今は何も考えずに、優児君とお昼を食べたいな。
私はそう思って、教室へと戻ることにした。






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