3、ラスボス攻略冬華②
「そう、かもしれないですけど……」
告白を絶対に受けてもらえる、とは思っていなかったけど……。
私の言葉を聞いた竹取先輩は、優しい声音で、諭すように言った。
「冬華のことを好きか嫌いかで答えを出す前に。優児の性格上、夏奈との関係を放って、冬華と付き合うなんて選択肢はないだろ」
「……優児先輩は、葉咲先輩のことが好き、ってことですか?」
「そんな単純な話でもなさそうだけどな」
他人事のように答える竹取先輩。
竹取先輩の話を聞いても、何が言いたいのか私には分からなかった。
「……結局、どういう意味ですか? 竹取先輩は、何が言いたいんですか?」
「冬華に言ってもしょうがないとは思うけどな。優児は――」
そう前置きをしてから、
「――だろ」
竹取先輩の口から放たれた言葉に、
「そんなことないです!」
と、私は咄嗟に叫ぶように答えていた。
私の言葉を聞いても気にした様子のない竹取先輩は、冷静に言う。
「少なくとも、冬華が望んでいるような考え方はしてないだろ、優児は」
「……竹取先輩は、何なんですか? 私と優児先輩のニセモノの関係を見抜いたり、優児先輩のことを知った風に語ったり。……もしかして」
私の頭に浮かんだ疑問に、理屈の通る回答があった。
「好きなんですか、優児先輩のこと……?」
私はまさかと思い、問いかけると、竹取先輩は動揺したそぶりも見せずに答える。
「好きだよ」
その言葉を聞いて、竹取先輩はなんて卑怯な人なんだ、と思った。
私と優児先輩の関係が邪魔だから、関係をリセットさせて、告白も邪魔をしたんだ。
「卑怯ですね、竹取先輩。……でも、私も人のこと言えないですね」
葉咲先輩の恋を、同じように邪魔をしていた私が言えることではないと思い、自嘲気味に言うと、
「なんか勘違いしてそうだけど。あたしは冬華のことも大好きだぞ」
と、平然とした様子で竹取先輩は言った。
「……え゛っ!?」
真剣な眼差しで私を見る竹取先輩。
私は身の危険を感じて、一歩後ずさる。
まさか竹取先輩、傷心の私に付け込んで――
「またなんか勘違いしてんな……」
はぁ、と溜め息を吐いてから、竹取先輩は言う。
「先輩として、素直じゃないし手はかかるし何かと面倒だけど、それでも可愛い後輩たちが好きだって。そんだけの話だよ」
「竹取先輩も大概手のかかる先輩だと思うんですけど……」
見慣れた、普段のいい加減な竹取先輩だった。
ふふ、と恥ずかしそうな表情をしている場合じゃないですよ、竹取先輩。
また訳が分からなくなった私は、ストレートに問いかける。
「つまり、竹取先輩は、何をするつもりなんですか?」
「あたしがニセモノの関係だ、って指摘しなかったら。冬華はいつまでもこの関係を続けようとしただろ?」
私の質問には答えずに、竹取先輩は私に問いかける。
鋭い視線に、逃げるように顔を背けてから……、
「そんなことないです……って、自信を持っては言えません」
言葉に詰まりながら、私は答える。
竹取先輩は、キツイ視線を向けながら、言う。
「優児の方は聞くまでもなく、絶対にニセモノの恋人関係を続けようとしただろうし。中途半端なまま関係で、優児と冬華と、そんで夏奈の青春を浪費させたくなかったんだよ。春馬も気づいてなかっただろうし、他の連中が違和感に気づくこともないだろうし。あたしが言ってやるしかなかったろ?」
「優児先輩は、ずっと関係を続けようとしたかは分からないですけど。……竹取先輩が言う通り、他の誰も指摘出来なかったとは思います」
私の言葉に、竹取先輩は何かを言いかけ、やめた。
それから、はぁ、と溜め息を吐いてから、
「その結果、優児が冬華じゃなく、夏奈や他の女子と付き合うことになっても。あたしは知らねーけどな」
と、軽い調子で彼女は言った。
その態度に、私はムッとして言う。
「……そうなったら、恨みますから」
「お前は恨まれる覚悟はできてるのか?」
鋭い視線を向けられる。
力強い。真剣な言葉。
葉咲先輩のことを言っているのだろう。
「色恋沙汰にクソも卑怯もないとは思う。だけどお前はズルして優児の隣にいたんだ。だから、しばらく夏奈が優児にイチャイチャするのを見るのも、良い薬になるかもな」
竹取先輩のその言葉に、私はその光景を想像し、「うぅ……」と小さく呻く。
これまではニセモノとはいえ『恋人』の立場で抵抗出来ていたけど、これからはどんな対応をしていいのか……。
私の暗い表情を見て、しょうがないなといった様子で、竹取先輩は声を掛けてくる。
「まぁ、安心しろよ。ここまで引っ掻き回して、何のフォローも無しに引っ込んだりしねーから」
「竹取先輩に関する信頼と実績がなさ過ぎて、全然安心できないのはどうしたら良いですか?」
「それはまぁ、あたしも反省している……」
ふふ、と恥ずかしそうに鼻頭を指先でこする竹取先輩。
だから、恥ずかしがってる場合じゃないですよ!?
私の不満気な視線に気づいたのか、竹取先輩は快活に笑ってから、言った。
「あたしはただ、生徒会長として。優児が卒業する時に、楽しい学校生活だったって思ってもらいたいだけだよ」
「竹取先輩が生徒会長だったのは、二期前のことじゃないですか?」
またこの人はいい加減なことを……と思っていると、意外にも彼女は真剣な表情で続けていった。
「ああ、二期前からのやり残しだよ」
いつにないその真剣な表情に、私も詳しいことを聞けなかった。
ただ、いい加減ではないことだけは、ちゃんと伝わってきた。
「竹取先輩の目的は、いまいちよく分からないですけど。それでも、一応は……頼りにしてますから」
私の言葉に、竹取先輩は大きく頷き、
「あんまり期待はするなよな!」
と、元気いっぱい応えた。
「えぇ……」
私の口からはそんな情けない呻き声が漏れていたけど、事情を知る唯一の竹取先輩の頼りなさを考えると、仕方ないことだと思うのでした。






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