2、ラスボス攻略冬華①
今回のお話は、冬華ちゃん視点です(*'ω'*)
「『ニセモノ』の恋人は――今日でお終いにしましょう、優児先輩」
私は、これまで何度も言おうと思って、結局言えなかった言葉を、ようやく優児先輩に告げた。
私の言葉を聞いて、先輩は何かを言おうとして――やめた。
それから、苦しそうな表情を浮かべて、
「そうか」
と、一言だけ呟く。
……優児先輩は今、一体どんなことを思ったのだろう?
私の言葉は、彼を傷つけてしまったのだろうか?
大好きな人の辛そうな表情を見て、私はまた胸が苦しくなる。
この期に及んで私は――ほんの少しだけ、自分勝手な期待をしていた。
私の言葉を聞いた先輩が、「それなら。ニセモノじゃなくって、ホンモノの恋人になって欲しい」と。
そんな私にとって都合の良い、素敵な言葉を言ってくれることを。
分かっている、それは私の、自分勝手な妄想なのだと。
「ええ、と。それでですね……」
私は、これまで何度も彼に告げようとして、その度伝えきれなかった気持ちを……ちゃんと伝える。
そのために、私はニセモノの恋人関係を終わらせたのだから。
私は、自分の胸に手を置いて、ゆっくりと深呼吸する。
顔が熱い。心臓が飛び出そうなほど早く打っている。
今目を合わせてしまえば、きっと何も言えなくなってしまう。
それが分かっているから、私は先輩の顔をまっすぐに見ることが出来ず、俯いてしまう。
「……冬華?」
暗い声音で、優児先輩は私の名前を呼んだ。
その言葉に、びくりと肩が跳ねる。
呼び出して、別れを切り出して、その後に急に黙り込まれたのだから、優児先輩は不審に思ったことだろう。
私は顔を上げて、優児先輩を見る。
いつもの仏頂面に比べて、大分情けない表情をしている。
私の様子を見て、心配しているのかもしれない。
彼と私の視線が交わる。
私ははっとして視線をすぐに逸らしてしまう。
――やっぱり、好き。大好き。
だから、ちゃんと言わなくっちゃ、と思う。
だけど、今。私は凄く、怯えている。
この告白を断られたら、きっとこれまで通りの関係ではいられなくなる。
――今ならきっと、まだ冗談で済ませられる。
いつもみたいにお道化て「なーんちゃって、冗談ですよ。先輩は私の恋人なんですから、そんな簡単にお終いにはできないですよ。びっくりしました?」って言えば。
きっと苦笑をしつつ、優児先輩は許してくれる。
「大丈夫か?」
心配そうに、私に声を掛けてくれる優児先輩の声に、私は我に返る。
「大丈夫、です!」
私は首を左右に振って、しっかりと優児先輩を見て、答える。
後戻りが出来ないように、以前までの関係を終わらせたのだから。
私はちゃんと、優児先輩との関係を、前にすすめたい。
そう決意して、勇気を振り絞って、私は口を開く。
「私、先輩に――」
しかし、その後の言葉は、続けられなかった。
「お、優児と冬華じゃねーか! こんなところで何やってんだ? ……ははーん、風紀の乱れを感じるぞ?」
最悪のタイミングで、竹取先輩が声を掛けてきた。
「こんなところで油売ってないで、さっさと後夜祭にいけよ。特に友木は、クラスの連中からMVP扱いだろうしな」
私は、竹取先輩を思いっきり睨みつける。
お願いだから、邪魔をしないでください。
……そんな思いは通じず。
「今日くらい、恋人同士じゃなくって、一緒に頑張ったクラスの連中と一緒にいて良いんじゃねーの?」
竹取先輩は、軽口のようにそう言った。
その言葉を聞いた優児先輩は、苦笑を浮かべてから、
「あー、そうですね」
と、一言応えた。
それから、竹取先輩は笑顔を浮かべて、私に向かって言う。
「冬華も……」
「冬華は……。今日は、疲れてるから。もう帰るんだろう?」
竹取先輩の言葉を遮り、優児先輩が優しい声音で言った。
「え、あ、その……はい」
私はその言葉を否定できずに、頷いていた。
「気を付けて帰れよ。……またな、冬華」
優児先輩はそう言ってから振り返り、立ち去ろうとする。
私はその背に声を掛けようとして――、
「冬華、あたしとちょっと話そうか」
竹取先輩が邪魔をしてきた。
そのせいで優児先輩に声を掛けることが出来ず、彼の背はもう、見えなくなっていた。
私はもう一度、竹取先輩を睨みつける。
「なんで……邪魔するんですか? 『今の関係はもうやめろ』って、竹取先輩が言ったんじゃないですか!? 私は、『ニセモノの恋人』を止めて、ホンモノの恋人になりたかったのに……」
私の言葉を聞いた竹取先輩は、
「ま、あんまり気にするな」
そう言ってから、軽い調子で続けて言った。
「今告白しても、冬華はきっと振られてただろうしな」






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